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屋久島龍神杉(2016/05/19)

猿のように駆け上る


海楽園キャンプ場のテントを撤収し、8時半にキャンプ場まで迎えに来てくれたレンタカー屋の車で店まで送ってもらう。
傷がないか入念な点検を受けた後、ようやく車を受け取り、龍神杉の登山口へと向かう。

屋久島総合自然公園までの道はまともな舗装道路だったが、そこから先、登山口まで約3.5キロの林道は酷い悪路だった。
所々で岩盤が剥き出しになっていて、尖った岩でタイヤがパンクしないか冷や冷やしながら、慎重に運転する。
岩が飛び出した所では、デフを擦らないように車を路肩側に寄せる。
そうすると木の枝がボディーを擦る嫌な音が聞こえた。

登山口に到着した時は、本当にホッとした。
そんな場所でも、既に車が一台停まっていた。
龍神杉を訪れる人は少ないと聞いていたし、しかも平日。道路状況も悪く、誰も居ないだろうと思っていたので、ちょっと驚いた。

舗装道の急登準備を整えて、登り始めたのは9時20分。
ガイドブックのコースタイムは7時間30分なので、もう少し早い時間に登り始めたかった。
しかし、その日にレンタカーを借りると、どうしてもこれくらいの時間になってしまうのだ。
今回利用した店は8時半からの営業で、これでも早いほうなのである。

いきなり舗装道路の急登が始まり、息切れがする。
その舗装道路が終わると、今度は荒れた路面の林道になる。

私が持っている2011年版の山と高原地図では、この林道の終点から登山道が始まっている。
と言う事は、この林道を車で入ってくるのだ。
絶対にあり得ないと思った。

そんな林道歩きを、満開のアブラギリの花が見守ってくれる。


荒れた林道 アブラギリの花
荒れ放題の林道 アブラギリがそこら中で咲いている

林道からの風景
林道を登ってくると後ろにはこんな風景が広がっていた

登山口から林道終点まで20分。
ここまでのコースタイムは35分なので、気を良くしてその先の登山道へと入っていく。

竜神水最初の方は草も茂っていて、やっぱり歩く人の少ない登山道なのかと心配したが、直ぐに石の敷かれた道へと変わる。
これが、とても登りやすい石段なのである。

その石段を気持ち良く登っていくと、苔生した岩の間に引かれたパイプから冷たい水が流れ落ちていた。
コケに覆われて消えかけていたが、近くの岩に竜神水の文字が刻まれている。
何となくありがたそうな水なので、水筒に入れてあった水を捨てて、そこに竜神水を満たした。

そこから先も延々と石段が続いている。
良くこれだけの石を並べたものだと感心してしまう。
人の手では簡単には動かせないような巨大な石も混ざっている。

歩きやすい石段沢を埋める巨大な岩もこの石段の石も、見事なくらいにコケに覆われている。
そこを歩いていると、苔生した熊野古道の石畳を思い出す。

コケに覆われた道を歩きながら、こんな道を作ってくれた昔の人達の努力に頭の下がる思いがした。
しかし、後で民宿に置いてあった雑誌で知ったのだが、この道は2000年頃から数年がかりで整備したものだという。

縄文杉への登山者を分散させる目的があったようだが、現在は利用者の少ない登山道となっている。
その歩きやすさは、屋久島の登山道の中でも群を抜いていると思うので、何とも勿体ない気がする。
まずは、登山口までの林道を整備するのが必要だろう。

沢にかかる石橋所々で小さな沢を渡るが、そこも石段の一部が石橋になっていて、足下を気にすることなく渡ることができる。

これだけの石をどうやって運んできたのだろうと感心してしまうが、周辺にはいくらでも転がっているので、それを並べ替えるだけで意外と簡単に石の道が作れるのかもしれない。

ガイドブックには、この登山道はヒルも多いと書かれていた。
永田歩道でヒルまみれになっていたので、「龍神杉を見に行く」と言った時、かみさんは最初は嫌がっていた。
でも、今日の天気ならば、ヒルの心配は全く無さそうだ。


苔生した風景と歩きやすい石段
これだけ苔生していると相当昔に作られた道だと思えてしまう

トロッコ道を歩く途中からトロッコ道へと出てきた。
こちらの方は、縄文杉へのトロッコ道と比べると、かなり歩きづらい。
枕木の間隔と歩幅が上手く合わないので、どうしてもぎこちない歩きになってしまうのだ。

所々で崩れかけた箇所もあり、その上に架けられた腐りかけた枕木の橋を渡るのは、あまり良い気持ちではない。

トロッコ道から分かれると急な登りが始まった。
そんな場所にも石が並べられているので、急な階段を登るようなものである。
縦走の時のように重たい荷物を背負っているわけでも無いので、そんな急登も大して気にならない。

しかし、さすがに疲れてきた。
道は歩きやすいとは言っても、登山口から龍神杉までの標高差は1060mもあるのだ。
普段からそんなに山登りをしている訳ではないので、私にとってはかなりハードな登山の部類に入る。

増水すると徒渉に苦労ししそうな大きな沢を越える。
龍神杉まで後1キロの看板があった。
猿のように駆け上っていくかみさん腕時計の標高表示を見ると、まだ300m以上登らなければならない。
登山道での距離表示は殆ど役に立たず、ぬか喜びの元になるので止めて欲しい。

ここまで私が先頭で登ってきたが、次第に足が動かなくなってきたので、かみさんに前に出てもらう。
そうすると、凄い早さで急登の石段を駆け上っていく。
心の中で「あいつは猿か!」と、呟いていた。

途中で、先に停めてあった車の持ち主とすれ違う。
若い女性とガイドの男性との2人連れ。
こんな所に連れてきてもらえたら、お客さんも喜んでくれそうだ。

立派なくぐり杉先行者が先に下りていったので、龍神杉を私達だけで独占することができる。
疲れた身体に鞭打って最後の一登りだ。

まずは大きなくぐり杉が出迎えてくれた。
特に看板は付けられていないが、白谷雲水峡にあるくぐり杉よりも、こちらの方がずーっと立派である。

そうしてついに龍神杉がその姿を現した。
他の名だたる屋久杉と比べて特別に大きいわけでもない。
でも、この杉に会うことだけを目的に1000m以上を登ってきたのだ。
しかも、そこにいるのは私達だけ。
縄文杉に会うよりも感動は大きいかもしれない。

おまけに、その杉に直接触れられるのだ。人が増えてきたら、そうもいかなくなるのだろう。
今のうちにその幸せをかみしめておく。


龍神杉

龍神杉にご対面


龍神杉

龍神杉を見上げる


龍神杉 龍神杉
龍神杉と一緒に 根本に穴が開いているのが心配だ

龍神杉を眺めながらその龍神杉を眺められる場所に木製テラスがあった。
そこで龍神杉と一緒に昼食にする。
何とも贅沢な時間だった。

ここまでかかった時間は約3時間。
重たい荷物を背負っていないと、コースタイムより1時間以上早く登れるのである。

天気は良いのに、汗が冷えてくると寒いくらいなので、食事中は雨具を着ていた。
この辺りの標高は1240m。
さすがに島の植生の垂直分布が世界遺産登録の際にも評価されただけあって、山の上の空気は明らかに下界とは違っているのだ。

苔の風景を楽しみながら山を下りる午後1時、下山開始。
下山が苦手な私達だけど、永田歩道での1500mの下山を経験していたので、ここでの下山もそれ程、苦にはならない。
登っている時よりも、苔生した風景を楽しむ余裕が出てきた。

かみさんも、屋久島や北海道に似た形の切り株を見つけて写真に撮っていた。

下山にかかった時間は2時間20分。
登りは早くても、下りは大体コースタイムどおりなのが私達のパターン。
これが今回は下りでも、コースタイムより1時間以上早かった。
先月の小辺路縦走、そして今回の屋久島縦走で、山を下りる時の筋肉も鍛えられているのかもしれない。

レンタカーを返す前に買い出しを済ませて、今日の宿の「やくしま89」に荷物を下ろす。
車があると行動範囲も広がり、やっぱり便利である。
車の返却時もボディのこすり傷は殆どノーチェックでホッと一息。

民宿の天然温泉に入り、近くの魚屋で買った刺身を肴に冷えたビールを飲む。
この日の夜から雨が降り始めたが、今日も良い一日だった。

屋久島龍神杉のアルバム 

この後の青少年旅行村でのキャンプの様子へ 


苔生した風景

苔生した岩の上で瞑想中


屋久島の形の切り株 北海道の形の切り株
屋久島 北海道

登山口9:20 - 歩道入口9:40 - 大きな沢11:25 - 12:15龍神杉12:55 - 登山口15:15



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