北海道キャンプ場見聞録
前十勝(2018/03/11)
ガリガリでもパウダー

二日前の大雨の後に雪は大して降っていなくて、その下はガリガリのアイスバーン。
    おまけに天気予報は曇り空で、これでは楽しく滑れそうにない。
    クラブの掲示板に「参加します」とさえ書いていなければ、この日は家でゴロゴロしていたはずだ。
    
    「私は行かないから」と言うかみさんを家に残して、午前6時前に家を出発。
    美しい朝日を眺め、すっかり雪が解けて走りやすくなった道を、大音量で音楽をかけながら、車を走らせる。
    
    富良野までやってくると、十勝岳連峰が姿を見せる。
    天気予報は外れて青空が広がっていた。
    
    

    午前9時前に白銀荘前に到着。
    富良野岳へ登ると思われる車は、既に駐車スペースから溢れていて、白銀荘前の駐車場も既に車で一杯である。
    
    パウダーを求める人たちは、標高の高い山まで来るしかないのだろう。
    しかし、そのパウダーも数センチしか積もっていなかった。
    
    それでも周りの木々は、その僅かな雪で白く染まり、噴煙を上げる前十勝が青空を背景にくっきりと浮かび上がっている。
    この風景を見られただけで、わざわざ遠くまでやって来た甲斐があるというものだ。
    
    

    ほとんどの人達は三段山を登っているようである。
    私たちは、三段山と前十勝のどちらに登るのかをはっきりと決めてはいなかったが、この状況を見れば三段山しか選択肢はない。
    
    

今回の参加者は7名。
    午前9時半に登り始める。
    
    まずは、雪化粧した美しい森の中を抜けていく。
    
    森を抜け、沢を越え、尾根に上がる。
    三段山の場合、山頂の姿が見えてくるまでは暫く登らなければならないが、前十勝では30分もしないでその全貌が姿を現す。
    尾根を進んで行くと、その前十勝の姿が次第に大きくなってくる。
    
    前十勝に登るのはこれが3回目だけれど、過去2回は天気が悪くて、登っている時も山の姿ははっきりと確認できなかった。
    それが今回は、隅から隅まで見事に見渡せるのである。
    斜面に描かれたトラックも、一本一本はっきりと確認できる。
    
    

 
    
昨日は三段山クラブの人達が千春沢を滑っていたはずである。
    沢の中には沢山のトラックが刻まれている。
    
    その千春沢の右側のカバワラ尾根を登るか、左側の広い斜面を登るかを決めなければならない。
    左側の斜面はまだ誰も滑っていなくて、1組のパーティーがそこを登っているのが見える。
    千春沢を滑るためにはカバワラ尾根を登らなければならないが、そちらにも登っている人影が見えていた。
    
    

右へ行くか、左へ行くか
    何時もならば、迷うことなく左の斜面に向かうところだが、下から眺めてもあまり良い雪ではなさそうだ。
    それに、雨水が流れたような筋も見えている。
    
    

カバワラ尾根を登る
私たちが登っている場所で、雨の後に新たに積もった雪は3センチ程度だ。
    その下はガリガリの雪面である。
    上の方でもそれ程積もっているようには見えないし、この条件ならば少しでも雪が集まっていそうな沢の中を滑るのが良いだろう。
    そんな意見がまとまって、カバワラ尾根を登ることになった。
    
    十勝岳の噴火によって立ち枯れたカバノキ。
    野付半島のトドワラに倣って、こちらはカバワラと呼ばれているのだろう。
    そんな立ち枯れた木の間を登りながらの会話。
    「カワバラ尾根だったっけ?」
    「何?カピバラ尾根?」
    訳が分からなくなっていた。
    
    ここにきて、急に雲が広がってきた。
    隣に見えていた三段山もその雲に隠れてしまう。
    

隣の三段山が雲に隠れてくる
    先行していたグループが、千春沢を滑り降りてきた。
    尾根の上からその様子を眺めていると、スキーを引っ掛けて転んだりして、かなり苦労しながら滑っているようだ。
    
    天気は悪くなるし、次第にテンションが下がってくる。
    
    カバワラ尾根を登ったところで一休み。
    下界の風景も霞んでしまっている。
    おまけに雪まで舞い始める。
    
    それでも再び登り始める頃には、雲も薄くなって日も射してきた。
    
    

    

ダケカンバの幼木が枝先まで樹氷に覆われて、重たそうにその枝を垂れている。
    そんな様子を眺めながら皆から離れて尾根の奥へと歩いていくと、その辺りの雪が意外に良かった。
    
    そして、その上に広がるノートラックの斜面。
    ギタギタに荒らされた狭い沢の底を滑るよりも、こちらを滑った方が楽しそうだ。
    
    「こっちの方が良いんじゃない?」
    提案してみたが、他のメンバーはあくまでも沢を滑ることに拘っているようだ。
    しょうがなく沢の上部をめがけて登っていく。
    
    雪面が固く、スキーが時々スリップする。
    途中でスキーアイゼンを付けようと思ったけれど、新雪が積もっている場所を登れば何んとかなる。
    障害物もないので、自分のスリップしない斜度で登っていけるのが良かった。
    
    

    それでも次第にガリガリの雪面が露出している所も増えてきて、それ以上登っても滑りを楽しめそうになく、今回は標高1500m付近で終わりにした。
    滑走準備をしていると、上からスノーボードを履いたK岡さんがズルズルと滑り落ちてきた。
    固い雪面で止まることができないらしい。
    10mほど滑落してようやく止まった。
    


沢の途中まで滑り降りて、皆が滑るのを撮影する。
    沢の中に積もっている雪も数センチ程度。
    

その下がガリガリなのは他と変わりはない。
    
    ガリガリと音を立てながら、皆も恐る恐る滑っている感じだ。
    I山さんだけが何時もの調子で何の躊躇いもなく滑り降りていく。
    
    私は、沢から少し外れて、ノートラックの雪面を滑ってみた。
    下がガリガリなことに変わりはないが、こちらの方がずーっと滑りやすい。
    
    他のメンバーはそのまま沢の底を滑るみたいだが、私は登ってくるときに気になっていた斜面の方を滑ることにした。
    そちらからも千春沢に滑り降りることができるので、最後には皆と合流できる。
    
    

沢から出た方が良い斜面が広がっていた
    その選択は大正解だった。
    ノートラックの広々とした斜面を思いっきり滑ることができた。
    
    

下がガリガリでも、この程度の硬さはスキー場のゲレンデでも良くある状態だ。
    そこに、僅かだけれどパウダーも乗っていて、スプレーが舞い上がる。
    marioさんも同じルートで滑ってきた。
    
    他のメンバーとも合流して、後は下まで滑り降りるだけ。
    そのまま沢を下りていく人もいたが、私は途中からカバワラ尾根の上へと出てみる。
    この選択も正解だったようで、尾根の上の雪は柔らかく、気持ち良くシュプールを描けた。
    
    そうして下まで滑り降りたところで昼の休憩をとる。
    春を感じる陽射しを浴びながら、滑ってきたばかりの山を眺める。
    最高の気分だった。
    
    

    もしも今回のツアーに参加していなかったとしたら、皆の楽しそうな動画を見ながらほぞを噛んでいたことだろう。
    たとえ結果に恵まれなかったとしても、まずはフィールドに出てみること。
    そんな気持ちが大切であることを改めて知ることとなる山行だった。