北海道キャンプ場見聞録
東ヌプカウシヌプリ(2018/02/11)
滅多にない好条件
十勝遠征バックカントリーツアー2日目は東ヌプカウシヌプリ。
十勝遠征ではオダッシュ山も候補に挙がっていたが、東ヌプカウシヌプリに行きたがっていた人が多かったのである。
特にI上さんは、十勝勤務時代にツアーに参加してでも滑りたいと言っていた山らしいので、そこを滑れるのが嬉しそうだった。
除雪終点に車を停める
東ヌプカウシヌプリの標高は1252mだが、車で670m付近まで登ってこられるのが嬉しい。
士幌高原ヌプカの里は冬季休業しているにも関わらず、そこまでの道は除雪されているのだ。
でも、除雪されていると言っても今日は吹き溜まりだらけで、天気の悪い時にはあまり走りたくない道である。
メンバーは少し入れ替わったけれど、参加者は前日と同じく12名。
薄日は少し射しているけれど雲は低く、山の姿も下の方しか見えない。
ここに登ったことがある人は誰もいなく、私とI山さんがヤマレコからダウンロードしたGPSデータが頼りである。
まずは緩やかな傾斜の放牧地の中を登って行く。
放牧地はバラ線で囲まれているため、それが雪に埋もれている場所を探して超えていかなければならない。
新しいトレースが1本あったので、それに従って上手く超えることができた。
清水町付近では昨日は10センチ以上の降雪があったのに、この辺りでは殆ど降らなかったようだ。
それでも森の中の雪は、新雪のように柔らかかった。
ストックを刺しても、固い層にぶつからずに地面まで届いてしまう。
おかげで、登る時にはストックはあまり役に立たない。
もともと十勝は雪が沢山降る地域ではないし、気温も低いので、何時も登っている山とは勝手が違う気がする。
この雪に、スノーシューのO橋さんとY川さんも苦労していた。
皆が歩いた後のトレースでも、雪が固まっていないのでスノーシューではズボズボと埋まってしまうのだ。
特に体重のあるY川さんは、時々腿まで埋まることもある。
時々ガスが湧いてきて、周りの風景が乳白色に包まれる。
遅れているY川さんを待っていると男性が一人追い付いてきた。
地元の方だったので、この山のことを色々と教えてもらう。
何年もここに登っているけれど良い雪に恵まれることは殆どないとのこと。
大体はアイスバーンかモナカ雪で、降りるのにさえ苦労することが多いらしい。
それに、笹薮の上に雪が乗っているので、スノーシューで登るのは苦労するだろうとのことだ。
私たちのツアーは何時も大勢なので、どこかの山岳会のツアーだと思われることが多い。
その男性に、カヌークラブのツアーだと話すと、彼も以前はカヤックに乗っていたとのことで驚かれた。
子供が生まれてからは、夏も冬も遊んでばかりはいられないので、カヤックは手放したとの話である。
家族があるのに夏も冬も毎週遊んでばかりのこのクラブの人達ってどうなの?と思ってしまった。
それから少し登ったところで、Y川さんには諦めてもらうことにした。
Y川さんは今年になってバックカントリーを始めたばかりで、クラブのツアーも昨日の労山熊見山が初参加だったのである。
本当は昨日だけ日帰りで参加してもらう予定だったのが、本人がやる気満々でここまでついて来てしまったのだ。
この山の経験者がいれば最初から止めていたかもしれない。
それがI山さんなどは、ヤマレコの情報を見て「1時間半くらいで登れる山ですから」と皆に話していたくらいである。
地元の方から山頂までは3時間くらいはかかりますよと言われて、初めてびっくりしている有様だ。
私もその情報は見ていたけれど、1時間半で登るのは余程の健脚の人だろうと思っていた。
地形図の等高線の混み具合を見れば、絶対に簡単に登れる山ではないのである。
車まで戻ったら連絡を入れてもらうことにして、Y川さん以外のメンバーはそのまま登り続ける。
Y川さんは運転手役をしてくれていたので皆が下山するまで待っていなければならないのだが、それはしょうがなかった。
そして地形図通りの急な登りが始まる。
先行者のトレースも急角度で登っていて、先頭のF本さんもそれに従って登って行く。
「もう少し緩く登れませんか」とお願いしたが、「その分、長く歩くことになってしまいますよ」と手加減してくれない。
今回のツアーにはもう一人、初参加の人がいた。
E藤さんである。
スキーは超上級者なので、彼のことは誰も心配していなかったが、登りの未熟さは全くの予想外だった。
急な登りではスリップして先に進めず、急斜面でのキックターンによる方向転換ができず、足を開いたまま固まってしまう。
どう考えても、このまま上まで登れるようには見えない。
そんなE藤さんを最後尾から登っていたジュニアに任せて、他のメンバーはお構いなく先へと登っていく。
多分、山岳会などのツアーではこんな冷たい扱いはしないのだろう。
ウィルダネスカヌークラブは、川でのツアーも同じだけれど、手厚い待遇は殆ど期待できない。
基本は自分たちが遊ぶために企画しているツアーなので、他の人の面倒をみている暇はないのである。
私だって必死だった。
スリップしやすい雪質なので、蟻地獄の中でもがいている気分になってくる。
細尾根の登りでは、皆のトレースに付いていけずに、自分でルートを開拓。
しかし、樹木が混んでいて、途中で方向転換ができなくなる。
しょうがないので谷を向いたままキックターンで向きを変えるが、バランスを崩して転倒、少し滑落。
雪が固くなって歩きやすくなったO橋さんにも抜かれてしまう。
途中から青空が広がり、遠くにウペペサンケ山の姿も見えてきたが、ゆっくりと写真を撮っている余裕もない。
滑り降りる予定の谷の斜面が見えてきた。
林間部分で再びズボズボと埋まるようになっていたO橋さんは、そこでとうとうギブアップ宣言。
遅れている人たちの姿が全く見えないので、T津さんと二人で追い付いてくるのを待つことにした。
休むのが嫌いなかみさんは、そのまま先に登っていく。
ようやく後続メンバーの姿が見えてきた。
その中にE藤さんも入っていたのには、ちょっと驚かされた。
途中の様子では絶対に無理だと思っていたのに、マラソンも走っているだけあって体力はあるようだ。
先に登っていたI山さんから「山頂に付いた」との電話が入った。
かみさんも既にそこにいるとのことで、既にそんなに山頂に近づいていたのだとビックリする。
急に元気が出てきて再び登り始めたら、直ぐにI山さん達の姿が見えてきた。
そこは山頂ではなく、オープン斜面の一番上のところだった。
ここまで登ってきたら、せっかくだから山頂からの景色も楽しみたいところだが、頂上を踏むことより、気持ちよく滑ることしか考えていない私たちのツアーなので、諦めるしかない。
それに再び雲が広がってきていたので、このまま登り続けても山頂に達するころには雲の中に入ってしまいそうだ。
やっと追いついたと思ったら、既にI上さんとF本さんが滑る気満々で構えているところだった。
I山さんが「ビデオの準備をするからちょっと待ってて」と言うのも聞こえないかのように、一気に滑り降りていった。
直ぐにでも走り出したくてゲートの中で暴れている競馬馬みたいなものである。
ここでは、その気になれば標高差400m以上を一気に滑り降りることができる。
I上さんとF本さんは勿論その気になっているので、今頃は下の放牧地まで降りていることだろう。
他のメンバーは、そこを少しずつ刻みながら滑り降りる。
予想外のパウダースノーである。
地元の方が、これまでに数えるしかないと話していた良い状態に巡り合えたのかもしれない。
ただ、東向きの谷なので、谷の北側と南側の斜面では雪質が完全に違っていた。
表面は全く同じに見えるけれど、北側は底までパウダースノー。
南側は、パウダースノーの下にサンクラストした斜面が隠れていた。
颯爽と滑ろうと思ったら、その雪にスキーをとられて頭から転倒。
一度転ぶと腰が引けてしまって、その後の滑りはボロボロ。
昨日の労山熊見山東斜面と同じく、ここもやっぱり私には急すぎるのである。
そんな雪も、他のメンバーは全く気にしないかのように滑っていく。
I山さんから「登りはショボくても滑りは凄い」とからかわれながら、E藤さんも豪快にターンを描く。
しかし、さすがに足が疲れているようで、転倒も豪快だった。
何時の間にか上空には雲が広がり、雪も舞い始めてきた。
これが心配で、最初の二人は急いで滑り降りたのだろう。
太陽の光がある時と無い時では、滑っていても爽快さが全く違うのである。
帰り道で振り返る東ヌプカウシヌプリ
谷筋にそって放牧地まで滑り降りることはできるけれど、その後に車まで楽に戻れるかどうかが分からないので、登ってきたルートの方に向かって途中からトラバース気味に滑っていく。
そうして放牧地まで戻ってきたら、遠くの方にトボトボと歩いている二人の姿が確認できた。
滑る快感のためには少々の苦労は全く厭わないと言う二人のポリシーが、その姿に良く表れている。
最終日のツアーは強風のために中止になったが、良い宿に美味しい食べ物、疲れを癒す温泉にパウダースノーも楽しめて、初の十勝遠征ツアーは成功裏に幕を閉じたのである。