北海道キャンプ場見聞録
中岳温泉・安足間岳(2017/05/04~05)
大人のままごと雪山キャンプ
カヌークラブバックカントリー部会の極一部のメンバーの間で密かに練られていた、ゴールデンウィーク中岳温泉スキーツアー計画。
中岳温泉にテントを張って、温泉に浸かって、夜は皆で鍋をつついて、周りの山を滑り尽くそう!
如何にも素晴らしい計画のように聞こえるが、問題が一つあった。
それは、その計画を考えた3人が、誰も雪の上でのキャンプの経験がないと言う事である。
私だって、雪中キャンプは何度もやっているけれど、山スキーで山に登ってのテント泊なんて経験がない。
その話しを聞いた時、なるべく関わらないようにしようと思っていたのだが、いつの間にかメンバーに加えられていたようだ。
4月になって夫婦で四国の旅を楽しんでいる時、I山さんから「相談したいことがあるので早く帰ってきて下さい」とのメールが入る。
何かと思ったら、「宴会用の大きなテントが有った方が良いので、一人一万円ずつ出し合ってテントを買いませんか?」って話しだった。
頭がクラクラしてきた
「やっぱり関わらない方が良かったかも」
荷物を背負ってはしゃぐ大人達
「あの~、そんなテントを買っても一度しか使う機会が無いだろうし、それよりも雪洞を掘るかイグルーを作った方が現実的だと思いますけど。穴だけ掘って上にシートを被せるだけでも良いし」
それでようやくテントを買うのは諦めてくれたようだ。
私達が四国の旅を続けている間にも計画は着々と進んでいたようで、イグルーを作って屋根部分は小さいタープを被せて間に合わせるとの結論になったようだ。
小さいタープについては、Oはしさんが私のブログを調べ上げて「ヒデさんが小さいのを持っているはずだからそれを借りる」何てことまで勝手に決められていたのである。
そうして前泊地の旭川モンゴル村屯田兵屋で、食材等の共有装備を皆で振り分ける。
山スキーの装備に、冬キャンプの装備に、食材に、ビールに。
私の75リットルのザックでも、パンクしそうなくらいの荷物になってしまった。
旭岳ロープウェイの駐車場で
そうして旭岳のロープウェイで標高1600mまで一気に登る。
昨日の黒岳に続いて今日も快晴、気温も高い。
メンバーは6名。
最初にこの計画を考えた3人と私達夫婦、それに5年ぶりに北海道に帰ってきたばかりのF本さん。
共有装備の大きなアルマイト鍋はF本さんのザックにくくりつける。
メンバーの中では一番若くて体力もあるF本さんは、缶ビールを6本も担いでいるのだ。
旭岳を横目にしながら、広大な雪原を歩いていく。
久しぶりに担ぐ重たいザックが、肩に食い込む。
皆から徐々に離されていく。
ロープウェイの姿見駅から中岳温泉までは距離で約4キロ弱、標高差で200m弱である。
これならば平地を歩くのと大して変わらず、重たい荷物を背負っていても何とかなるだろうと考えていた。
旭岳の裾野を巻くように登っていく
しかし、前を歩いているメンバーは旭岳の長く伸びる裾野をどんどん登っていくのである。
そんなに登らなくても裾野を巻くように歩いていけば良いはずなのだ。
無駄に登っていると考えると、余計に足取りが重たくなってくる。
昨日の黒岳では、皆から離されても私の後ろにT津さんがいてくれたのでまだ気楽だった。
それが今日は私一人だけが大きく離されてしまっていた。
そこを登りきったところで休憩していた皆にようやく追い付く。
途中の沢を避けるためにこのルートで登らなければならないとのことだったが、沢は埋まっていたのでやっぱり少し登りすぎになっていた。
大雪原の中を歩いていく
そこからは殆ど平坦というか、アップダウンを繰り返しながら中岳温泉を目指して歩いていく。
その中岳温泉には先客のテントが一つだけ張られていた。
周りのスペースが狭いので、そこにテントを張るのは諦める。
中岳温泉に拘らなければ、周りには広大な雪原が広がっているので何処にでもテントを張ることができるのだ。
ただ、風が結構強いので風を避けられる場所の方が良い。
設計ミスで天井に隙間が
吹きだまりの風下側にちょうど良い場所があったので、そこをベースキャンプに決める。
そしてまずは宴会スペースのイグルー作りだ。
吹きだまりの雪壁を利用できるので、残り3面に雪のブロックを積み上げていく。
スノーソーを持ってきた人もいるが、O橋さんは大工用の両刃のこぎりで雪を切り出している。
それでも、スノーソーの代用にはなるけれど、雪山に両刃のこぎりを持ってきた人はOはしさんくらいだろう。
しかし、雪のブロックは鋸で切り出すより、スコップで掘り出した方が早い気がした。
雪の壁が出来上がったところで、私の持ってきたタープを上にかける。
ここで若干の設計ミスが判明。
イグルーの床面積を広く取り過ぎたことにより、雪の壁とタープの屋根との間に隙間ができてしまったのである。
この時は大して気にしていなかったけれど、後になってこれが結構な問題となったのである。
ベースキャンプが出来たところで皆は熊ヶ岳へ出発
イグルーが完成したところで、それぞれのテントを設営。
雪中キャンプは初めてでも、アウトドア歴の長いメンバー揃いなので、手際は良い。
設営が終わると直ぐに、I上さんが「あそこを滑ろう」と言い始めた。
指さしているのは、熊ヶ岳の山頂から続くシュート気味の斜面。
周りに見えている斜面は春先特有の黄色い汚れが目立っているのに、そこだけ真っ白な雪なのである。
ただ、下から見てもかなり急な斜面で有ることが分かる。
私は疲れ切っていたので、直ぐに留守番を決め込む。
かみさんは当然留守番。
迷っていたO橋さんは結局一緒に登ることになった。
登山者がベースキャンプの下を通り過ぎていく
4人を見送って私達はベースキャンプで寛ぐ。
その後周辺を散歩。
中岳温泉近くではソロの男性がイグルーを作ってそこに泊まるみたいだ。
私達のなんちゃってイグルーとは違い、屋根まで雪ブロックを積み上げた本格派である。
安足間岳手前の小高い丘の上にも、男女ペアがテントを張っている。
私達のベースキャンプの下を何処かから縦走してきたのか、何組かが通り過ぎていく。
天気に恵まれたGWだけあって、沢山の登山者が山に入っているみたいだ。
熊ヶ岳に向かったメンバーが滑り始めたみたいだ。
人の姿は米粒程度にしか見えないが、真っ先に滑っているのは間違いなくI上さんだろう。
長大な斜面を一気に滑り降りていった。
熊ヶ岳を滑る人達
ベースキャンプで寛ぐ人達
私達がベースキャンプに戻ってビールを飲んでいると、熊ヶ岳メンバーが戻って来た。
山頂付近は狭い岩場になっていてかなり恐ろしかったらしい。
高所恐怖症気味の私達なので、一緒に行かなくて正解だった。
斜面の方も、I山さんもびびる程の急斜面だったとのこと。
そんなところに付いて行ったバックカントリー初心者のO橋さんは「初心者が行くような場所じゃなかった」と生きて帰ってこられたことが信じられない様子で話していた。
皆の留守中に雪壁上部にできていた雪庇が気温が上がって崩れ落ち、O橋さんのテントの直ぐ横まで迫っていた。
その後暫くして、かみさんのテント近くの雪庇も崩れて、大きな雪の塊がテント隣に転がっていた。
楽しみにしていた夕食
雪の塊とは言っても、重さは多分数十キロはありそうだ。
雪山経験者がこれを見たら、「何て場所にテントを張ったんだ」と怒られていただろう。
皆でイグルーの中で鍋をつつく。
これが楽しみで、わざわざ重たい荷物を背負ってここまで登ってきたのである。
日が落ちると急激に気温が下がってきた。
ビールはまだ残っているけれど、それを美味しく飲めるような気温ではない。
ここに到着してテントを張り終えた後にビールを飲んでいれば、多分一番美味しく飲めたような気がする。
余したビールをまた背負って降りる訳にもいかないので、ギンギンに冷えたビールを我慢して飲み干した。
ベースキャンプの夕暮れ
身体が冷えてきて、持ってきた衣類を全部着込んでも暖まらない。
皆も同じ様子だ。
暖房はロウソクの炎だけ
かみさんがクリスマスの時に燃え残ったロウソクを沢山持ってきていたので、それに火を灯す。
完全なイグルーならば、そのロウソクだけで中は暖まるはずなのに、屋根に大きな隙間のある不完全イグルーでは、ロウソクの火は何の役にも立たない。
そこから吹き込んでくる風がこの寒さの原因なのだろう。
皆が寒さに震えて身体を縮こませているのに、何故かI山さんだけが薄着で、しかもハイテンションだった。
「え~?そんなに寒いですか?きっと入口が広すぎるんですよね!」と言って、一人で外に出ていって雪まみれになりながら雪ブロックを積み上げる。
「はい、これでぼくが入口に座れば風除けになりますよね、アハハハハ!」
人間が雪山で凍死する時、最後には気が狂って、「暑い、暑い」と言いながら着ているものを脱ぎ捨てて雪の中に飛び込んでいくらしい。
皆は、I山さんがそんな状態になっているのじゃないかと、心配しながら眺めていた。
旭岳の山頂に朝日が当たる
寒くて、早くそれぞれのテントに入って暖かなシュラフに潜り込みたいのに、ハイテンションが続くI山さんのために、きっかけが掴めずにいた。
そのI山さんが、「タイムラプスで星の写真を撮るので」と言って、カメラをセットしに行った隙を狙って、「それじゃそろそろ寝ましょうか」と、今日の宴会はお開きとなった。
テントを揺らし続ける風のために、ぐっすりとは寝られなかったが、明け方頃にはその風も治まってきていた。
シュラフから出ても、それ程寒さは感じない。
昨夜の異常なくらいの寒さは、恐らく風の影響が有ったのかもしれない。
昨日までよりも雲が増えていたけれど、今日も良い天気だ。
旭岳の山頂から朝日が当たりはじめる。
朝食のうどんを食べていると、私達のベースキャンプにもようやく朝の陽射しが届いてきた。
イグルーの屋根のタープを取り去ると、上空には清々しい青空が広がっていた。
タープを取り去るとイグルーの中に日が射し込む
これから登る安足間岳
丘の上にテントを張っていた男女ペアだろうか。
早くも安足間岳に向かって登り始めていた。
私達も朝食を終えて、その安足間岳に向かう。
どうせ私一人だけが置いて行かれるのは目に見えているので、準備ができたので私とかみさんは先に登り始める。
後ろにはベースキャンプが小さく見えている
旭岳と熊ヶ岳が後ろに見える
今回の山キャンプに備えて買ってあったスキーアイゼンを初めて装着。
でも、その頃には雪の表面も柔らかくなってきていて、アイゼンが無くても登れたかもしれない。
朝に広がっていた雲もいつの間にか消えて無くなり、今日も真っ青な青空となる。
後ろを振り返ると、私達のベースキャンプが小さく見えていた。
後から登り始めたメンバーも小さく見えていたのに、直ぐに大きくなって迫ってきた。
ほぼ直登気味に登っていたF本さんは、もう私達より上を進んでいる。
途中で休憩を挟んで、1時間半ほどで安足間岳山頂に到着。
結局、最後には私が一番後ろになっていた。
安足間岳山頂に到着
ここまで移動していったF本さん
山頂からの風景を楽しんだ後は東側の斜面を滑り降りる。
広大な斜面なので、何処からでも好きなように滑ることができる。
I上さん達は、少しでも良い斜面を狙って、比布岳方向に少し移動してから滑り降りる。
雪も程良く溶けていて、滑りやすい。
かみさんも今日は積極的な滑りを見せていた。
皆の口からは「最高!」の言葉しか出てこない。
ロープウェイからの日帰りでは、なかなかここまでは足を伸ばせないが、1泊すれば十分な余裕を持って滑ることできる。
午前10時20分にはベースキャンプまで戻って来た。
3日間、日焼け止めも塗らずに強烈な紫外線を浴び続けたOはしさんの顔は、日本人とは思えないくらいに真っ黒になっていた。
広大な斜面を自由に滑ることができる
1本だけ残っていた缶ビールを6人で分けて乾杯する。
かみさんに言わせると、この時のビールが一番美味しかったそうである。
ここからはゲレンデを滑り降りる
テントを撤収しザックにパッキングするが、食材や飲み物は減ったはずなのに、荷物が入りきらない。
何だか、登ってきた時よりも荷物が増えた気がする。
重さも、軽くなったような気が全然しない。
再び重たい荷物を背負って、午前11時40分にロープウェイ姿見駅を目指し出発。
今日は無駄な登り返しもなく、ほぼ平行移動で午後1時前に姿見駅に到着。
自販機で買って飲んだコーラがとても美味しかった。
そこからはスキー場のゲレンデを滑り降りる。
普通のスキー場と違って、ゲレンデは幅も狭くて雪がザクザク、おまけに登り返しまで有る。
そこを重たい荷物を背負って滑るのは一苦労だった。
精根尽き果てて車まで戻って来たが、目一杯遊び尽くした後の疲労感はとても気持ちが良いのである。