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地球が回る江差キャンプ

かもめ島キャンプ場(10月22日〜23日)

 太田神社を降りた後は、そのまえの道路を更に先まで行ってみたが、太田の港から先は工事中で通行止めだった。
 工事中と言うことは更にここから先、道路が伸びる計画でもあるのだろうか。
慰霊碑 集落の外れに草に埋もれた銅像らしきものが立っているのを見つけた。
 「お金をかけて整備しても結局はこうなるんだよな〜」と思いながら、何の像なのか確かめようと近くに行ってみると、それは南西沖地震で大成町で亡くなられた方10名の名前が刻まれた慰霊の像だった。
 辛い思いは早く風化させた方が良い事もある。
 この慰霊碑が草に埋もれているのも、本当は良い事なのかもしれない。

 この付近の海があまりにも美しいので、海岸に降りられる場所を探していると、ちょうど良い場所を見つけて岩場まで降りてみた。
 太田山の上から見下ろしていた美しい海が目の前に広がっている。
 予定していたよりもかなり時間が経っていて、既に12時を過ぎていた。
 近くに食事処も無さそうなので、コンビニ弁当を買って何処かの海岸でそれを食べる事にする。
 フウマがいた頃に良くやっていたパターンである。
海岸のレストラン 下手な店に入るよりは、この方がずーっと気持ちが良いのだ。
 追分ソーランラインの海岸には名前の付けられた奇岩が多い。
 その中で、下に降りられそうな場所を探しながら走っていると、マンモス岩の下にちょうど良さそうな場所を見つけた。
 ここが今日の我が家専用のレストランである。
 岩に腰掛けて海の中を覗きこむと、そこには大量のムラサキウニが転がっていた。
 手を伸ばせば届くような場所にも沢山張り付いている。
 磯の香りに包まれ、美味しそうなウニを目で食しながら食べるコンビニ弁当は、何となく豪華な味がした。


目の前にはウニが   マンモス岩

親子熊岩 食事を終えて再び奇岩巡りを続ける。
 名前の付けられた海岸の岩の中にはちょっと首を傾げたくなるようなものも存在するが、ここのマンモス岩や親子熊岩などはまさにそのネーミング通りの岩である。
 その二つの岩の中間にも変わった形の岩が有って、「これだって絶対に何かに似ているのに何で名前が無いんだ!」などと文句を言いながら、結構楽しんでいる自分だった。

 当初の観光予定には貝取澗渓谷も入れてあったが、時間が押していたのでそこは諦めることにして、平田内温泉へと向かう。
 そこでは国民宿舎ひらたない荘隣接のあわびの湯へ入った。
 太田神社参拝でたっぷりとかいた汗を洗い流し、今日の目的地である江差のかもめ島へと向かう。
 ひらたない荘の近くには熊石青少年旅行村と言うキャンプ場があるが、9月で既にクローズしていた。
 貝取澗渓谷にも大成野営場と国民宿舎あわび山荘があり、そちらのキャンプ場も9月でクローズ。
 このどちらかに泊まる事ができればかなり余裕を持って行動できるのに、全く残念である。
 しかし、これから向かうかもめ島キャンプ場も実は8月でクローズしているのだ。
といの水で湧き水を汲む それでも観光客用のトイレは開いているだろうとの読みで、半ば野宿覚悟の行動である。
 途中の乙部町は自然湧水に恵まれた土地で、その中の5箇所ほどを災害時の生活用水を確保する場所として整備している。
 その中の一つ「といの水」で野宿用の水を確保しておく。
 たとえ野宿でも、湧き水で入れた朝のコーヒーを飲めれば、気持ちだけは贅沢になれるのだ。
 乙部町には他に、巨木百選にも選ばれている「縁桂」もあり、これだけはどうしても見ておきたいので明日の予定に回すことにする。

 そうしてかもめ島の駐車場に到着した時には、既に午後3時半で日もかなり傾いてきていた。
 かもめ島のキャンプ場は北海道のキャンプ場の中でも荷物運びが一番大変なところでもある。
 海に突き出すような形のかもめ島は徒歩でしか渡ることができず、キャンプ場はその一番奥、距離にして約500m、そして高低差30m程の階段も登らなければならない。
荷物を背負ってサイトを目指す それでも、道東での日本の果てキャンプと比べれば楽なものである。
 ザックを背負って、ビールやワインの入ったクーラーバックまで持つ余裕があるのだ。
 島に渡って階段を登ったところで水飲み台があるのを発見。
 蛇口を開けて水が出るのを確認すると、自然と笑みがこぼれる。
 これでもう快適な野宿が約束されたようなものだ。
 水飲み台が使えるということは勿論トイレだって開いているということである。
 一番気がかりだったのはトイレが使えないことで、さすがにそうなると他のキャンプ場へ行くしかなかっただろう。
 キャンプ場の水場の方はブルーシートでしっかりと覆われていた。
我が家のサイト サイト付近は全体が緩やかに傾斜しているので、テントを張れる場所が限られている。
 そこから少し離れた海側に、良い場所を見つけた。
 海の眺めも良く、後ろが土盛りされているので、周りからは切り離された空間になっているのだ。
 キャンプ場の開放期間外にテントを張るのだから、なるべく目立たない場所の方が良いのである。
 そこにテントを張り終えた頃、太陽は既に水平線近くまで高度を下げてきていた。
 かみさんが「ちょっと行ってくるね」と言い残し、500ミリの缶ビール1本を手に持ってサイトを離れてしまった。
 海に突き出した岩の上でビールを飲みながら夕日を眺めようとの魂胆らしい。
 その場所は、松前藩が沿岸警備のためにかもめ島に設置した2箇所の砲台のうち1基が据え付けられていたところである。
ベストポジションで湯費を楽しむ そんな場所だけあって周りの展望は最高である。
 私もビールを持ってそこへ行くと、何処で買ってきたのかかみさんはたこ焼きを食べているところだった。
 眼下には千畳敷と呼ばれる平らな岩盤が広がり、その先端には竿を振る釣り人の姿も見える。
 今日は金曜日の夜なのでこれから夜釣りをするのだろうか。
 竿を抱えて千畳敷へと降りていく釣り人が多い。
 港から汽笛の音が聞こえてきた。
 これから奥尻島へ向けて出航するフェリーである。
 そのフェリーがかみさんの目の前を通り過ぎていく。
 またまた「奥尻島へ行きたい〜!」と騒ぎ始めた。
 西の空は既に赤く染まり、今の季節のこの時間のフェリーはサンセットクルージングを楽しめるようだ。
 かみさんではないけれど、私もそのフェリーに乗ってみたくなった。


日が沈む   奥尻行きのフェリーが出て行く

 水平線の上に赤く染まって浮かんでいるのは松前大島だろうか。
 素晴らしい夕日の眺めである。
 今年は、道北のクッチャロ湖、道東の日本の果て、そして道南のかもめ島で、それぞれ最高の夕日を楽しむ事ができた。
月も出た いつの間にか東の空には丸い月が浮かんでいた。
 月が昇り日が沈む、そんな風景が目の前に繰り広げられる。
 この場所だからこそ楽しめる風景である。
 真っ赤な太陽が水平線の下に姿を消した後も、かみさんはまだその場所を離れようとしない。
 考えてみれば、テントを張り終えた後はかみさんはこの場所にずーっと座りっぱなしである。
 放っておけば暗くなるまでそこに居そうなので、促してテントへと戻る。
 戻ってからもかみさんは残照に染まる空を眺め続けている。
 今日の夕日が格別に気に入った様子である。


美しい夕焼け

何時までも残照に染まる空を眺めるかみさん  

江差の夜景と満月 夕食は質素なフリーズドライの山食。
 考えてみれば、コンビニ弁当を買ってここまでぶら下げてくることも可能だったのである。
 かみさんはここへ来る前に「今日は焚き火もできないし夜は退屈ね」と言っていた。
 しかし実際には、月の明かり、沖に浮かぶ漁火、町の夜景、夜空に輝く星、同じサイクルでテントを照らす灯台の灯など、退屈するような事は全く無かった。
 しかし、次第に雲が広がり満月も漁火もその中に隠れてしまった。
 その雲は何処かから流れ来たものではなく、その場所に突然湧き上がってきたような雲なので、明日の朝にはまた消えているかもしれない。
 それを期待してテントの中にもぐり込んだ。

 昨夜は朝までぐっすりと眠れたのに、今夜は真夜中に目が覚めてしまい、その後がなかなか寝付かれなかった。
 気温が高いのでシュラフの中が暑苦しく、漁船のエンジン音もやたらに耳に付くのだ。
星空と灯台の明かり テントの入り口を開けて空を見上げると、既に雲は無くなりオリオン座が目の前に輝いていた。
 かみさんも目を覚ましていたようで、テントから抜け出してきた。
 私も気分転換のために一度起きることにする。
 月は既に西の空に傾き、海の上に光の道を作っていた。
 海岸で小さな灯りが見え隠れしているのは、釣り人のヘッドランプの灯りのようだ。
 最近はキャンプでも寝る時間が早いので、その時間帯には白鳥座が一番目立っている。
 それなので、私が寝た後に高度を上げてくるくオリオン座の姿が随分と新鮮なものに見える。
 ちょうどオリオン座流星群が極大日を迎えているので、二人で流れ星の姿を探す。
 時々、目の錯覚かと思えるような僅かな光が流れたような気もするが、これだけ月の明かりがあると暗い流れ星は確認できない。
 それでもかみさんが二つ、私が一つの流れ星を見ることができて、再びテントにもぐり込んだ。

月が沈む 朝は5時過ぎに起き出す。
 日の出まではまだかなり時間があるけれど、まだ月明かりもあり、東の空も直ぐに白んでくるので、早起きし過ぎた気はしない。
 水飲み台で顔を洗ったり乙部の湧き水で入れたコーヒーを飲んでいると直ぐに朝が訪れる。
 今度は月が沈み太陽が登ってくる。
 かもめ島の上にいると、地球が回っている事を直接感じる事ができる。
 今日は太陽が直ぐにテントを照らしてくれた。
 テントが乾くまでの間、かもめ島を散歩する。
 4年前の道南キャンプの時にもかもめ島を一周しているけれど、その時は時間が無くて島の下に広がる岩盤部分は歩いていなかった。


朝日   朝の風景

ゼビウスの基地? まずは南側の岩盤に下りてみたが、鋭く切り立った岩の尾根が山脈のように岩盤の中を行く筋も横切り、何処か別世界に迷い込んでしまったような錯覚に囚われる。
 私がその世界の中を彷徨っている間に、かみさんはせっせと貝拾いをしていたようだ。
 一旦島に上がって、今度は北側に広がる岩盤を歩いてみる。
 昔の船着場の跡なのだろうか。そこには平たい円錐形の不思議な構造物が並んでいた。
 それを見て「何だかゼビウスを思い出さない?」と言うあたりは、かみさんもファミコン世代である。
 木柱を立てていた跡なのか、岩盤の中にぽっかりと開いた丸い穴。
 周りに伸びる岩盤の溝と合わさって、自然の風景の中には有り得ない様な幾何学模様を描き出している。
 その穴の中を覗くと、そこはまるで小さなアクアリウムだった。
穴の中は天然のアクアリウム 丸い縁には様々な種類の貝が付着している。
 その中の一つを指で突いてみると、全ての貝がワサワサと動き始めたのには驚いてしまった。
 それは全てヤドカリだったのである。
 千畳敷をぐるりと歩いてテントまで戻ってきた。
 途中にあった説明看板によると、江戸時代にはこの千畳敷に花の咲いた桜の木を持ち込んで花見をやっていたらしい。
 歴史を知って時々思うのだけれど、昔の人達は今の時代では考えられないくらいに人間としての力を持っていたような気がする。
 荷物を片付け、昨日よりは幾分軽くなったザックを背負い、駐車場へと戻ってきた。
 かもめ島でのキャンプは我が家にとってとても楽しい一時となったのである。

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