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山上の聖域せたなキャンプ

真駒内ダム公園(10月21日〜22日)

 7月の道北、9月の道東、そして今回の道南キャンプ。
 何れも3泊4日の日程で、こうして道内を隈なく回る年も我が家にとっては珍しいことだ。
 毎年、キャンプシーズンが終わりに近づくと、まだ開いているキャンプ場が多い道南方面に足が向いてしまうのは自然の成り行きだが、今年は特に太田神社参拝という大きな目的があるので檜山方面に狙いを定めて日程を組み立てた。
 我が家の場合、予定を組んでも天気予報次第で直ぐに変わってしまうのが常だけれど、今回は珍しく我が家の日程に合わせてくれたように晴れの予報が続き、初日はまずせたな町に向かって追分ソーランラインを南下する。
茂津多岬灯台からの眺め 寿都町の道の駅「みなとま〜れ寿都」に寄り道し、生炊きしらす佃煮の食べ比べ3個セットを買い、その後は茂津多岬灯台へ向かう。
 ここには5年前にも一度立ち寄ったはずだが、その時の写真を見ても灯台の上から写した風景が一枚も無かった。
 「日本一高い場所にある灯台なのに、何で写真を撮らなかったんだろう?」
 そう思いながら灯台までやって来て、ようやくその理由を思い出した。
 その灯台からは眼下に広がる海しか見えないのである。
 海の写真は何処で撮影しても海でしかない。
 それでも、そこに登って来るまでの風景は十分に楽しむことができた。

海鮮丼 昼食はネットで調べておいた「漁師の直売店 浜の母ちゃん食事処」に入った。
 国道沿いのけばけばしい店の様子に驚いたが、普段は入らないような店でも、旅行者気分になっているのでためらい無く入ることが出来る。
 「イカ刺し定食のイカは新鮮なの?」って聞いてみたら、ちょっと恥ずかしそうに「冷凍です」って答えてくれたのは、正直な店で好感が持てる。
 海鮮丼を頼むと、生簀の中から材料のホタテを取り出してくれる。出来ればアワビも取って欲しかったけれど、生簀の中から出されたのはホタテだけだった。

 そうしてせたな町に到着。
 最初に向かったのが「こんどうチーズ牧場」。
 最近は地方に出かける度に、その地域のチーズ工房を訪ねるのがマイブームになっている。
こんどうチーズ牧場 何処のチーズ工房も牧場直営なので分かりづらい場所にあり、この「こんどうチーズ牧場」も例外ではなかったが、要所に看板が立っていたので迷わずにたどり着けた。
 そこは、店と言うよりもただのチーズ工房で、ショーケースなんて代物は何処にも無い無い。
 ご主人が工房の方から素のままのチーズを幾つか出してきて、試食させてくれる。
 その中から、キトビロの入ったデンマーク風ハバーチを買うことにした。
 値段も聞かずに決めてしまったので、ご主人がそのチーズの重さを量ってラップで包むのを見ながら、「その固まりって少し大きすぎるよな〜、半分くらいで良いんだけど・・・」とドキドキしながら待っていると、無難な値段だったのでホッとする。

立象山展望台から見下ろす瀬棚の街 その後は、道路地図に景勝地マークが付いていた狩場渓谷を目指したが、途中でゲートが閉まっていたために止む無く撤退。
 その後、立象山の青少年旅行村の様子を見ながらせたな町市街地へと戻る。
 このキャンプ場は16年前にも一度訪れているが、その時は風が強くてテント設営を断念し、その後放浪することとなった思い出が残っている場所だ。
 今回も条件が良ければここに泊まっても良いかなと考えていたが、やっぱり風が強かったので、予定通り真駒内ダム公園に向かうことにした。
 その前に甲田菓子店で賞味期限1時間の名物「岩シュー」を購入。
 今回のキャンプ旅行では事前にリサーチする余裕があったので、地元の名物店はチェック済みなのである。

真駒内ダム公園にテント設営 そうしてキャンプ場に到着。
 今時期の平日なので他のキャンパーの姿は無し。
 真駒内ダム下の園地がオートキャンプ場として整備されている。
 以前は、無料で泊まることができる穴場のキャンプ場として人気があったようだが、現在は有料となっている。
 オートサイトが1000円、フリーサイトがテント一張り500円の料金。
 両サイトの間は通路を挟んで隣接し、その違いは車の駐車スペースが有無だけである。
 他に利用者が来るとは思われず、当然フリーサイトにテントを張るところだけれど、500円の違いなので、何となくオートサイトを選んでしまった。
 テントを張り終えてまず最初にしなければならないのは、賞味期限が迫っている「岩シュー」を食することである。
 皮のサクサク感が売りなので1時間の賞味期限となっているらしく、その期限にはギリギリ間に合ったが、どうせならば買って直ぐに食べた方が良かったかもしれない。

 岩シューを食べ終わったところで直ぐに腰を上げる。
 相変わらず忙しい我が家のキャンプである。
 狩場渓谷が駄目だったので、今度は真駒内ダム上流の熊戻り渓谷に向かうのである。
熊戻渓谷 私は紅葉に彩られた渓谷美が大好きなので、何々渓谷と聞けば黙っていられないのだ。
 この熊戻り渓谷の紅葉も期待通りに私を楽しませてくれた。
 渓谷沿いの林道は熊戻野営場で行き止まりとなり、そこから先はゲートを開けなければ進めない。
 以前、賀老高原野営場に泊まった時に林道をかなり奥まで進んだことがあったけれど、その先はここに通じているはずである。

 熊戻野営場は、その名前からかなり恐ろしげな場所を想像していたが、意外なほどに明るい雰囲気のサイトが広がっていた。
 もしも真駒内ダム公園にテントを張ってなければ、ここでも良かったかなと思えるくらいだ。
 でも、ここまでの道程と周囲の環境を考えれば、真っ暗闇の中で一晩を過ごすにはかなりの覚悟を必要としそうだ。


熊戻渓谷   熊戻野営場

 キャンプ場へ戻ると既に日は陰っていた。
 両側に山が迫るこの場所は、日の当たる時間も短いのである。
 特に太陽の高度が下がる今時期はなおさらである。
オツネントンボ トイレに入ろうとしたかみさんが「キャッ」っと悲鳴をあげた。
 建物の中に入り込んだテントウムシかカメムシの集団に驚いたのだろう。
 と思ったら、それは違う虫の集団だった。
 何と、トンボなのである。
 後で調べてみるとオツネントンボと言う種類らしく、成虫で越冬するためこの名前が付いたようだ。
 水生植物の多い場所で見られるようなので、この付近には沢山生息していて、そしてここではキャンプ場のトイレがちょうど良い越冬場所だったのだろう。
 それにしても昆虫の生態には時々驚かされることがある。

月明かりのキャンプ 夕食は白滝キャンプに引き続きキノコ鍋。
 出来れば現地調達のキノコを使いたいところだけれど、今回は余市のキノコ王国で買ってきたもので我慢するしかない。
 月が昇ってきた。
 土曜日が満月のはずなので、殆ど真ん丸の月である。
 月明かりの夜を楽しみたいところだけれど、それ以上に場内の照明が明るすぎて、そんなムードは無い。
 こんどう牧場の美味しいチーズでワインを1本空け、9時前には就寝。

 翌朝目覚めて時計を見ると既に5時を回っていたので驚いてしまう。
 たっぷりと8時間以上寝て、その間に一度も目覚めなかったことなんて、自宅でもキャンプでもしばらく無かったような気がする。
 まっ平らな芝生と、ちょうど良い冷え込み、そしてキャンプに出てこられた開放感のおかげで熟睡できたのだろう。
 テントに付いた水滴が所々で凍っていた。
 今シーズン初めて見る氷である。
 場内の水道で顔を洗うと、まるで温水が出ているように暖かく感じてしまう。
 朝のキャンプ場周辺を散策する。
 狩場山の山頂が一足早く朝日に照らし出される。
 朝の光はそのうちにダム園地周辺にも届いてきたが、その光はなかなかサイトまでは降りてきてくれない。
 そしてようやくサイトに光が届いたと思っても、それがなかなか我が家のテントの方に近づいてこないのだ。
 痺れを切らし、光の当たっている場所までイスとテーブルを移動してそこで朝食を食べる。
 テントの結露も激しく、少しでも早く撤収するためには一生懸命水滴を拭き取らなければならない。
 こんな時に日の当たるのが遅いのは本当に困りものである。
 ようやく撤収を終えてキャンプ場を出る頃には既に9時になっていた。
 結局その時間まで料金は集めに来なくて、結果的に無料で泊まってしまうことになる。
 別に踏み倒して逃げるつもりは無く、道東の「MO-TTOかぜて」の様に、何処かにお金を入れる場所があれば気持ち良く支払うところである。
 悪戯されたり、無視されることもあるだろうけど、これからのキャンプ場管理はもっと利用者の良心を信じてやった方が良いと私は思うのだ。


なかなかテントに日が当たらない   今日も良い天気

 天気も良く、今日はいよいよ太田山神社にアタックである。
 その前に秘湯臼別温泉で汗を流すことにする。
 ところが現地へ到着すると、腰にバスタオルを巻いたおじさんが建物から出てきて、「お湯が抜かれていて今入れている最中だけれど、一杯になるのにはまだしばらくかかりそうだ」とのこと。
 温泉は太田神社参拝後に入ることにして、そのまま先に向かった。
 追分ソーランラインから離れて太田神社へと向かう道は、北海道の海岸線をぐるりと一周する道の中では唯一未踏破の区間だった。
太田神社のある海岸 尾花岬で道路が分断され、この反対側は5年前の北檜山自然休養林でのキャンプの時に行き止まりの場所まで到達しているので、これでとうとう完全制覇と言う事になる。
 なんて事にはそれ程こだわりは無く、目的はただ一つ太田神社本殿の参拝である。
 まずはその手前にある太田神社拝殿に立ち寄る。
 ここには復元された定燈篭などもあるが、私はそれよりも周囲の海の美しさの方に惹かれてしまった。
 透明な海水と真っ青なその色、同じ海のはずなのに、どうして場所によってこんなに違うのだろうと不思議に思えてしまう。
 奥尻島も直ぐ目の前に見える。
 かみさんは今回の日程全てを使って奥尻島に渡るもの良いと言っていたくらいなので、「奥尻!奥尻!]と騒いでいた。
 そんなかみさんを無視して、いよいよ太田神社へとやって来た。
 道路沿いに建つ鳥居の先には一直線の急な階段が続いている。
 ここで早くもかみさんが悲鳴を上げる。
いきなりの急階段 階段とは言っても半端な傾斜ではない。後ろを振り向くのさえ躊躇われる様な急傾斜で、掴んで登るためのロープまで垂らされているのだ。
 最初はそのロープを頼ろうとしたが反って安定が悪くなるので、階段横の鉄製の手すりを掴みながら登ることにした。
 それもかなり錆が浮いてきているような手すりなので、それに頼りきる気にもなれない。
 ようやく階段を登り終わってホッとするのも束の間、そこから先には険しい山道が続いている。
 登山道でも傾斜の急なところにはロープが張られていたりするが、ここはその全てがロープ場なのである。
 おまけにハシゴ場まであったりして、殆ど本格的な登山と変わりは無い。
 本当はここは本殿へと続く参道の筈なのだ。
 登山道ではなく参道である事を思い出させてくれるのは、所々に建つ地蔵である。女人堂まで登ってきて手を合わせる。
 建物の裏には苔生した石の間の所々にお札が立てられていて、ある種の神聖さをそこに感じてしまう。
 腕時計の高度計を見ると、既に200m以上登ってきていることになっていた。
 かみさんはロープを頼りに登っているが、私はそれよりもロッククライミングの要領で三点支持で登る方が楽である。


女人堂   急な上りが続く

太田神社への最後の橋 ようやく前方に空が見えてくる頃は、既に300mを越えていた。
 そそり立つ岩壁。そこに本殿の鳥居が立つ。
 鳥居を抜けるとその先には、目も眩むような断崖に沿うように鉄の橋が架かっている。
 先にそこを登ったかみさんが「もう駄目〜!」と悲鳴を上げていた。
 立っているのさえ怖くなるような断崖なのである。
 そしてそこから上の崖から鉄の鎖が何本も下がっていて、目指す太田神社本殿はそこを登った先の洞窟の中にあるのだ。
 それを見ただけで直ぐに私は本殿参拝を諦めてしまった。
 話しには聞いていたけれど、実物を見るとチャレンジする気も湧いてこない。
 足場がしっかりとした場所ならまだしも、立っているのさえ怖くなる様な場所から更に垂直な岩壁を鎖を頼りに登るなんて、経験を積んだ登山家の世界である。
 本殿参拝は断念してもそこから見下ろす景色は最高だった。
 真っ青な海、その沖に浮かぶ奥尻島の姿、そんな風景に参拝した。


急な鉄の橋   この鎖を登れば太田神社本殿

太田神社からの展望

 鉄の橋を降りてきてホッとしていると、崩れた岩が断崖を転がり落ちる音が後ろから聞こえてきた。
 下りではロープのありがたさが身に染みる。
 間違って石を蹴落としたりすると、そのまま下まで転がり落ちていくので、かみさんと十分な間隔を開けて慎重に降りる。
神聖な空間 女人堂の裏まで降りてくると、そこの雰囲気に圧倒され立ち竦んでしまった。
 かみさんも「登ってくる時は黙っていたけれど、ここには何かいるみたい」と言っている。
 霊感の全く無い私でも、この場が持つ霊気ははっきりと感じる事ができる。
 霊場としての太田神社はまさしく本物だった。

 次第に森の中の風景を楽しむ余裕も出てきた。
 周りはブナの巨木がそびえる美しい森である。
 ついついキノコも探してしまうがあまり見当たらない。
 木々の梢越しに見える海の色が素晴らしい。
 最後の急な階段も、横歩きで降りれば何とも無い。
 そうして登り始めてから1時間半後、再び道路際の鳥居をくぐったのである。
 本殿までは到達できなくても、心の中には大きな充実感が広がっていた。

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美しいブナ   太田神社鳥居


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