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霧のち夕焼けクッチャロ湖キャンプ

クッチャロ湖畔キャンプ場(7月1日〜2日)

 ウスタイベ千畳岩キャンプ場を出た後は、徳志別川をカヌーで下る時の上陸地点を下見するために、今日の目的地とは逆の南に向かって車を走らせる。
 途中ではまなす交流広場キャンプ場にも寄ってみたが、ここにも道外ナンバーの車が沢山停まっていて、ウスタイベと同じで老夫婦達がそこで暮らしていた。
 どちらも無料のキャンプ場なので、リタイアキャンパーが集まってくるのだろう。
 彼らの姿を見ていると、キャンプをしていると言うよりもそこで暮らしていると言った方が正確な表現のような気がする。何ヶ月も車で旅をしていると、その生活スタイルは路上生活者と大して変わりは無くなってくるのである。
河原へ向かう道はワイルドフラワーが咲いていた 徳志別川沿いの砂利道を上流に向かって走る。「のんびり下れる川の本」によると付近に車で入れる川原があることになっているが、それがどの辺なのかは全く見当も付かない。
 途中で川の方に向かう怪しげな道を見つけて、直ぐにハンドルを切った。
 すると、途中から追い付いてきた車が同じ道に入ってきた。
 何だか後をつけられているようで気味が悪い。普通の人なら絶対に入ってこないような、道とは言えない道なのである。
 でも、川で遊んでいると、こんな道の先には楽しい場所があることが臭いで分かってくるのだ。
 ワイルドフラワーの咲く広場を抜けると、徳志別川の川原へと出てきた。後ろから付いて来た車も、そこが目的地だったようだ。
 ここまでの道は、カヌーイストよりも釣り人達が付けた道なのだろう。
 車から降りて釣りの準備をしているおじさんに川の様子を聞いてみる。
 最初は私達を同じ釣り人だと思って話していたのが、途中で車の上に積んであるカヌーに気が付いた様で「あっ!それは無理だよ」と一笑に付されてしまった。
 道北に多い湿原の様な川と勘違いしてやって来た人間だと思われたみたいだが、そもそもこの川で釣りをしていてカヌーイストに出会ったことなど無いのかもしれない。

神威岬の灯台に登る 車のタイヤ泥まみれにして、再び北を目指す。
 朝の様子から、この後は次第に青空が広がってくるのかと思っていたが、現実はそう甘くはなかった。
 神威岬の灯台に登っても灰色の空と海が広がっているだけ。
 道路まで降りてくるとその灯台まで霧に隠されようとしていた。
 今の季節、道路沿いは何処も原生花園のように花が咲き乱れている。
 他の季節ならば交通量の少ない直線道路、ついついアクセルペダルを踏み込んでしまうところだが、そんな花の風景を眺めながらゆっくりと車を走らせる。
 花の間からキョトンとした表情でこちらを見ているエゾシカがとても可愛らしい。


原生花園のエゾシカ

 浜頓別町に入る手前で内陸へと向きを変えた。「なまら蝦夷」に載っていた「夕子のチーズ小屋」へと向かうのである。
 今回の旅は道東へ出かけるつもりでいたので、道北方面のリサーチは何もしないままに札幌を出てきてしまった。一般的な観光地はほとんど回り尽くしているので、我が家が目指すのはひたすらマイナーな場所ばかり。
 そんな我が家にとって「なまら蝦夷」は、とても役に立つ旅行ガイドブックなのである。
 途中、今年の冬に泊まったファームイン「ぶんちゃんの里」の看板を見つけた。
 随分昔の出来事にも思えるけれど、あれからまだ半年しか経っていない。ちょっと寄ろうかとも思ったが、一番牧草の収穫時期で忙しいだろうから、そのまま通り過ぎる。
閉店だった夕子のチーズ小屋 「なまら蝦夷」の大まかな地図だけを頼りにして、ようやくたどり着いた「夕子のチーズ小屋」。
 そのドアには、clozeのプレートが下げられていた。
 金土日だけ営業している店だったのである。
 そしてその横の張り紙には「牧草収穫期間中はお休みさせていただきます。」と書かれていて、これですっきりと諦めが付いた。
 しかし、まだ諦めていないかみさんは、「なまら蝦夷」に載っているもう一件のチーズ屋さん「高橋チーズ工房ルーシュ」に行くと言う。
 「そこだって休みに決まっている」と思いながら、頼りない地図を見ながら更に先へと進んだ。
 草に埋もれかけた道路際の看板を見つけてそこから曲がる。
 その先にも小さな看板が道路標識に取り付けられていたので、その看板の矢印の指す方向に車を走らせる。
 「本当にこんな場所にチーズ屋があるのか??」
牧草畑の奥にあるチーズ工房ルーシュ 周辺は牧草畑が広がっているだけ。
 その奥に、ごく普通の農家の家が見えている。
 そこまで行ってみると、チーズ工房と書かれた小さな建物を発見。
 オープンはしているようだけれど人の気配は無い。
 「やっぱりこんな場所で商売なんてしていないのだろうな」と思っていたら、近くの母屋から女性が出てきてくれた。
 クリームチーズのような「フロマージュブラン」の在庫しかなかったので、それを購入。
 何だか、宝探しゲームでようやくお宝をゲットできた気分である。
 中頓別の道の駅にここで作ったチーズを卸しているとのことだったが、今日の目的地とは逆方向になるので、来た道を戻って浜頓別へと向かうことにする。

 いつの間にか、南の空には真っ黒な雲が広がってきていた。
 このまま天気が崩れそうな雰囲気なので、クッチャロ湖畔のキャンプ場でテントだけ先に張ってしまうことにした。
 ポツポツと霧雨の粒がフロントガラスを濡らすようになってきたが、本降りになる前にテントを張り終えることができた。
霧の中に見えた食事処やませ その後は昼食を食べに猿払へと向かう。
 猿払と言えばホタテ。
 目指すのは、そのホタテをたっぷりと食べられる「食事処やませ」である。
 ここは4年前に初めて入って、お気に入りになった店である。
 途中でとうとう濃い霧に包まれてしまった。
 やっぱり霧男の名前はこれからも付いて回るのかなと、気が滅入ってくる。
 霧の中に目的の店を発見。
 以前は定食を食べたので、今回はホタテ丼を注文。
 丼を埋めたホタテは期待通りである。
 満腹になって店を出た。
 相変わらず霧は濃く、当ても無いままに猿払周辺を車で走る。
 猿払公園のキャンプ場も覗いてみたが、相変わらずキャンパーの姿は見当たらない。道の駅と温泉が隣接しているのに、ここでキャンパーの姿を見たことは私は一度も無い。
 浜頓別まで戻るのに、猿払牧場の中の道を走ってみる。
 国道ばかりでなく、たまに脇道に入ってみるのも面白いものだ。そんなところでは時々、思いがけない風景に出会えたりするのである。
海岸の原生花園に到着 しかし、霧に包まれた牧場風景は退屈だった。かみさんは助手席でぐっすりと寝込んでしまう。
 今度は海に出て、海岸沿いのダート道へと入る。
 周辺は一面の花畑だった。
 ようやく目を覚ましたかみさんは、そんな風景がいきなり目の前に広がっていたのでかなり驚いたようである。
 霧の中では、牧場風景よりも原生花園の花を楽しむに限る。
 ダート道の探検を終えた後は、適当な場所に車を止めて周辺を歩いてみる。
 何処を歩いても花を踏みつけそうなので、車が走り抜けたような跡を見つけて、足もとに気を配りながらその中を歩く。
 この付近の原生花園には一応名前も付けられているが、観光バスが訪れるような場所ではない。
 駐車場も無ければ、木道も展望台も無い。
 でもこんな原生花園が私は大好きである。


エゾスカシユリが満開   ハマエンドウも満開

霧の原生花園

オホーツクの海岸で ひとしきり花を楽しんだ後はオホーツクの砂浜へと出る。
 ここでの楽しみはビーチコーミングだ。
 私は何気なく、小さな穴の開いた貝殻を拾い始めた。
 かみさんはかみさんで、コソコソと何かを拾っていた。
 その作品がホタテとカニ。枝幸かにまつりと猿払で食べたホタテを表現したそうである。
 ビーチコーミングの定番は空き瓶。
 ここは場所柄ウォッカの空き瓶が多い。その形も様々である。
 何故かハングル文字の書かれた空き瓶も見つけた。対馬海流に乗って北上し、宗谷海峡を通って、遥々とここまで流れ着いたのだろう。
  霧雨が降りだした時にはこの後どうやって時間を過ごそうかと悩んだが、その霧も次第に薄くなり、原生花園で楽しい時間を過ごし、満足してキャンプ場へ戻ることができる。
 でも、戻る途中に走った8キロの直線道路は霧の中では全然面白くなかった。
 この道だけは青空の下で走りたいものである。


カニとホタテ   直線道路

 キャンプ場に戻り、まずは隣の「はまとんべつ温泉ウイング」で汗を流す。
 その後、サイトに戻ってゆったりとした気分で飲むビールは最高に美味しい。
我が家のサイト 昨日はキャンプ場到着が遅くなってしまったのでバタバタしていたけれど、時間に余裕をも持ってキャンプ場入りできると、その分のんびりと寛げるのである。
 おまけにこのキャンプ場は我が家のお気に入りの場所でもあるのだ。
 礼文島で写したデジカメのデータを間違って全部消してしまったことも、息子にナイフの使い方を教えようとして自分の指を切ってしまったことも、今となってはこのキャンプ場での思い出の一つとなっている。
 このキャンプ場で一つだけやり残しているのが、クッチャロ湖にカヌーを浮かべる事だった。
 これまでも何度かカヌーを積んでここを訪れているはずなのに、何故か一度もカヌーに乗っていないのだ。
 今回は自宅を出る時に一度降ろしたカヌーを再び積み直してまで出てきたのだから、ここでカヌーに乗らない手はない。
 夕食前の僅かな時間、そそくさと車からカヌーを降ろして、一人でクッチャロ湖へ漕ぎ出す。ちょっとだけ沖に出ただけだが、これで一応クッチャロ湖でカヌーに乗ったと言う既成事実ができたのである。
夕焼けの湖に漕ぎ出す 湖を眺めながら夕食を済ませる。
 西の空の雲が次第に薄くなってきたようで、もしかしたら夕日が見られるかもしれないと嬉しくなってきた。
 何と言ってもこのキャンプ場は夕日の名所でもあるのだ。
 私がカメラを取り出すと、かみさんが「モデルになってあげるわ」と言って、一人で湖に漕ぎ出していった。
 やがて雲の下に太陽が姿を現してきた。日の入り前の逆さ日の出といった様子である。
 その太陽が湖面をキラキラと輝かせる。
 光のきらめきの中にかみさんとカヌーの姿が、黒いシルエットとなって浮かび上がる。
 モデルの質はともかくとして、ため息が漏れそうなくらいに美しい風景である。


雲の下に夕陽が現れる   光の海とカヌーのシルエット

 かみさんが戻ってきて、今度は二人でカヌーに乗り込む。
 太陽は再び雲の中に隠れてしまったが、周りの雲を赤く染めてその存在を誇示している。
 快晴の空よりも今日のように雲の多い空の方が、変化のある夕焼けを楽しむことができる。
再び雲に隠れる夕陽 10羽ほどのトンビの群れが、次々と湖面に舞い降りては飛び立っていく。魚でも採っているのだろうか。
 再び太陽が姿を現した。
 雲ばかりではなく、それを映した湖面も真っ赤に染まってくる。
 サイトに戻って今度は陸の上からその美しい夕日を楽しむ。
 キャンプで見た夕日の中では、今日の夕日は間違いなく3本の指に入るだろう。
 ふと後ろを振り返ると、そこには夕日に照らされた虹の姿があった。
 こんな虹を見るのも初めてである。
 完全に日が沈んでしまった後も、燃え上がった空の赤い炎はなかなか消えようとしなかった。
 青空が見られるかさえ覚束なかった今回のキャンプ旅行で、まさかこんなに美しい夕焼けが楽しめるなんて、これはもう完全に霧男返上と言っても良さそうだ。
 キャンプの夜は、早い時ならば8時に寝ることもあるけれど、今時期は8時だとまだ空に明るさも残っている。
 完全に暗くなるのは8時半を過ぎる頃だろう。
 結局この日も少しだけ夜更かしをして、9時をかなり過ぎた頃に就寝。


クッチャロ湖を染める夕陽

夕焼けと虹   夕陽の余韻

曇り空の朝 翌朝は再びどんよりとした雲に空が覆われていた。
 朝のカヌーも楽しもうと思っていたのに、湖面全体にさざ波が立っていて、これではカヌーを浮かべる気にもなれない。
 それでも、キャンプ場全体にはのんびりとした時間が流れている。
 ここもやっぱり、リタイアキャンパーばかりである。
 車の中でちょこんと正座して朝食の用意をしているおばさんの姿は、まさに年季の入った車上生活者の姿を思わせる。
 そんな車の1台に積んである荷物をチラリと見ると、醤油とか味噌とか書かれた箱がずらりと並んでいた。
 何十年も主婦業を続けていれば、米と調味料さえあれば食事の用意などささっと済ませられるのだろう。
リタイアキャンパーが多い ここのキャンプ場は車中泊でもキャンプ料金を徴収するようになっているが、良いシステムだと思う。
 そうでなければ、駐車場がリタイアキャンパーの車で埋め尽くされてしまうのは確実である。
 天気予報は相変わらずこの付近だけが曇りになっている。
 普通は曇りの天気予報ではガッカリしてしまうところだが、今回のキャンプ旅行は雨の予報が無いだけでありがたいのだ。
 このまま道北方面だけを回ることに決めてクッチャロ湖に別れを告げた。

兜沼キャンプ前編続く 

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