原生花園の中とか山道を散歩していると、フウマには必ずダニが付いてしまう。犬用の虫除けスプレーも今回用意してきたけれど、ほとんど役に立たないような気がする。
車で移動中は、かみさんが時々フウマの体をチェックする。
フウマは毛が長いものだから、ダニも直ぐには喰い付くことができず、毛の薄い場所を探して体中を這い回っているのである。たまたま表面に出て来たところをかみさんに発見され、そのまま車の外へ捨てられる。
キャンプ場にいるときも注意深くチェックしているのだけれど、毛の中に隠れて見えないやつが必ずいるのである。今回のキャンプでも、一体何匹のダニをそうやって退治したことだろう。
運転中に何気なく首筋を触っていると、指先にかさぶたにでも触ったような感触が伝わってくる。あれっ?っと思いながらそのかさぶたを取ってみると、実はそれはダニだったのである。そんなことがこの旅行中に3回ほどあった。
フウマは車の中では私の後ろの席に乗っていて、時々「窓を開けてよ〜」って感じで私の頭の直ぐ横に鼻先を伸ばしてくる。多分その時に、フウマから私にダニが飛び移っていたのだろう。
フウマも私も、皮膚に喰い付かれる前にダニを退治できたのは良かったものの、自分の首筋にダニが付いているのに気が付いた時には、本当にゾ〜っとしたものである。
釧路市内に入り、ラーメン店「まるひら」を目指して幣舞橋を渡った先のロータリー交差点を無事に通過。私は未だにここの交差点での曲がり方が良く分からないので、通過するときは本当に恐怖を感じる。
何時も混雑していると言う「まるひら」だけれど、午後1時近くだったのですんなりと入ることができた。
4年前もここに入ろうとしたけれど、ちょうど定休日だったのでそのときは違うラーメン屋で釧路ラーメンを味わっている。
いよいよ味わう元祖釧路ラーメン、気合を込めて私は大盛りを注文。でも、これはちょっと失敗だった。
魚系だしのあっさりスープは好きなのだけれど、この極細麺は私の好みではない。その麺が大盛りなものだから、食べるのに苦労してしまった。
かみさんは、「スープを持って帰りたい」と言いだすくらいにここのラーメンが気に入ったようである。私達が店を出るころには、昼の混雑を避けて訪れる第二陣の客で混雑し始めていたので、ちょうど良いタイミングだったみたいだ。
腹が一杯になった後は、泊まる予定は無くてもその様子を一目見たくて、来止臥野営場へ行ってみることにした。
ところが道道からの入り口までやって来てビックリ、チェーンが張られていて中に入れないのだ。このキャンプ場がまだオープン前なのは知っていたけれど、車が入れない状況になっているのは想定外だった。
もしも泊まるつもりでここを訪れていたとしたら、途方に暮れているところである。
そこからキャンプ場までどれくらいの距離があるのか分からなかったけれど、森の中を抜ける道が気持ち良さそうだったので、そこに車を停めて歩いてみることにする。
爽やかな緑のトンネルの中を進んでいくと、突然その道の向こうから1台の車が走ってきたので驚いてしまった。こんなところに誰も来るわけが無いだろうと、入り口を塞ぐように我が家の車を停めてきてしまっていたのだ。
慌てて車を止めてその旨を話すと、「しばらくは外に出ないので大丈夫」とのことだった。車のドアに書かれたマークを見るとどうやら役所関係の人らしい。
しばらく行くとようやく森を抜けて見晴らしの良い海岸に出てきた。
どうやらそこが本来のキャンプ場らしい。入り口の横には、昔は売店として使われていたような建物が残っている。
そこが売店として機能していたのが信じられないくらいに、辺鄙で全く何も無い場所だった。
でも、そこから見える風景は、私の想像していたとおりの素晴らしいものである。
余計な装飾は一切無く、目の前にはただ太平洋の大海原が広がっているだけ。真っ青な海と空、満天の星空、天気が良ければここで至福の時を過ごすことができるだろう。
屋根のない質素な水場の蛇口からは水が出しっ放しになっていて、その横に水質検査キットのようなものが置かれていた。
先ほどの車の人は、キャンプ場のオープンに向けて作業をしているところだったらしい。
もしも入り口のチェーンさえ張られていなければ、再度予定を変更してこのままここにテントを張っていたと思われる。
次にここに来られるのは一体何時になるのだろう。ちょっと後ろ髪を引かれる思いでキトウシを後にした。
キャンプ地へ向かう途中、森の巨人達百選にも入っている標茶町のミズナラを見に行く。
残念ながらこのミズナラのところへと続く林道入り口は、通行止めのゲートで塞がれてしまっていた。そのゲートからは歩いても30分ほどの距離みたいだけれど、そろそろキャンプ場でゆっくりしたくなってきたので、ここのミズナラはパスすることにした。
今日はどうもスムーズに移動できていない気がする。
4年前のほぼ同じルートで回った道東キャンプの時は、湧洞湖キャンプ場を出た後は長節湖原生花園、トイトッキ浜原生花園を回り、釧路の「まるひら」が休みだったので中心部にある「河むら」でラーメンを食べて、厚岸で牡蠣を仕入れて、あやめヶ原を訪問し、霧多布湿原を横目で見ながら一気に尾岱沼キャンプ場まで移動しているのだ。
まあ、ただ長い距離を移動すれば良い訳じゃないけれど、さすがにちょっと疲れ気味なのかもしれない。
そうして、達古武オートキャンプ場へ到着。
豊浦森林公園に続いてここも始めて泊まるキャンプ場だ。これまでは何となく「整備されたオートキャンプ場になんか泊まっていられるか」と言う意識があって、何時も塘路湖の元村キャンプ場にばかり泊まっていた。
今回はさすがに連日の移動となるので、こんな時はやっぱりオートキャンプ場の手軽さが魅力である。それにここは料金もリーズナブルで、オートサイトを利用しても二人で1,460円で済んでしまうのが嬉しい。
早速受付で「キャンプしたいんですけど」申し込む。すると奥のほうに座っていたおじさんが「テント張るのかい?」と聞いてきたので、「はい、テント張ります」と答えたところ、「それじゃあフリーサイトだね」と勝手に決められた。
せっかくオートサイトに泊まる気満々でやってきたのに、勝手にフリーサイトに決められても困ってしまう。「ち、ちょっとサイトを見てから決めても良いですか?」と、仮にオートサイトに泊まるとしても一番良い場所を自分で決めたいので、先に場内を見せてもらうことにする。
そして直ぐに、おじさんがフリーサイトを勧めてくれた理由を知ったのである。
場内に他のキャンパーの姿は何処にも見えない。場内は整然と区画されたオートサイトがあり、それに隣接して芝生のフリーサイト、そしてそのフリーサイトの前に達古武湖の湖面が広がっている。
誰がどう見ても、このキャンプ場の一等地はフリーサイトだと思うだろう。それに他の利用者がいないので、駐車場の直ぐ隣にテントを張ることができる。
わざわざ高いお金を払ってオートサイトにテントを張る理由など全く無いのである。
直ぐに受付に戻り、笑みを浮かべて「はい、フリーサイトでお願いします」と申し込んだ。
今日は午後4時にテント設営完了。景色を眺めながらゆっくりとビールを飲む余裕がある。
出発前は「荒野を目指して道東キャンプ」なんてテーマを考えながら3連続野宿キャンプの可能性さえあったのに、いざふたを開けてみれば、歴舟川の河原キャンプの後は二日連続でオートキャンプ場に宿泊しているような有様だ。
最初のテーマからは随分逸れてきてしまったなと思ったものの、他に誰もいないキャンプ場、どんよりとした空の下で見る達古武湖には荒涼とした雰囲気さえ感じてしまい、何だか本物の荒野にやって来たような気がする。
道東と言う土地は、一歩市街地を踏み出せば何処でも荒野の匂いがするのである。
湖畔にはカヌー用の桟橋も作られている。折角だからか達古武湖にもカヌーを浮かべてみようかなと思ったけれど、水面の上で乱舞する蚊の群れを見るとなかなかその気にはなれない。
テントの中で寛いでいると、メッシュの窓の外側には大量の蚊が張り付いて、中に入るチャンスを窺っていた。
こんな時には、このような前室付きのテントのありがたさをしみじみと感じてしまう。
夕食を済ませた後は、明日からの予定を考える。
最初の予定ではまず根室方面を目指すことにしていたけれど、今日で少し方向がずれてしまった。
今回のキャンプで泊まってみたいキャンプ場リストには、中標津の緑ヶ丘森林公園キャンプ場も入っていたので、このまま内陸方向に進むのも良いかもしれない。
それに旅行中のアクティビティの候補には西別岳登山と言うのもあって、明日は天気が良ければそれにチャレンジするのも良いかもしれない。
相変わらず空は雲に覆われているけれど、これまでの低く垂れ込める雲と違って、少しは希望が持てそうな様子に変わってきていた。
釧路の町の灯りなのだろうか、達古武湖の対岸の上空はほんのりと明るくなっている。
明日の天気を期待しながらテントへと潜り込んだ。
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