北海道キャンプ場見聞録
朱太川(2017/10/21)
サケと紅葉の川下り
黄葉したブナ林でも眺めながら、のんびりとした川下りを楽しもう。
そう思い立って企画した朱太川のダウンリバー。
朱太川は2年前の5月例会で下っていて、その時はクラブの会長が「俺の目の黒いうちは朱太川例会はやらない」と言うくらいに、ホワイトウォーター志向の強い人にとっては退屈な川なのである。
そんな事もあって、今は川を下るのが楽しくてしょうがないと言った様子のKさんを誘って、平日にこっそりと下ろうと考えていた。
スタート地点から歩いているSさん
しかし、天気が悪そうなので、日程を週末の土曜日に変更。
Kさんは仕事が入って参加できなくなったけれど、意外なことにカヤック乗りの方でも朱太川を下りたいと言う人がいて8名での川下りとなる。
普段カヤックに乗っているSさんは、来月に四国の仁淀川を下るので、その予行演習としてファルトでの参加である。
水量は2年前に下った時とほぼ同じ。
カヌーの底を擦らずにギリギリで下れる水量である。
と思っていたら、Sさんの乗っているカヌー界のロールスロイスとも言われるフェザークラフトにとって、この水量はちょっときつそうだった。
ロールスロイスで未整備の林道を走っているようなものである。
スタート地点からカヌーを引っ張って歩いている有様である。
倒木に突っ込んでいくSさん
浅瀬を過ぎてようやく下れるようになったかなと思って後ろを振り向いたら、ロールスロイスがひっくり返っていたのには驚かされた。
スタート前にMさんが「美々川や朱太川で沈したら伝説になってしまう」と冗談を言っていたが、Sさんはいきなり伝説の男になってしまったのである。
その後も所々に浅瀬があって、そんなところには大体倒木も絡んでいる。
浅瀬に乗り上げて自由の効かなくなったカヌーは、そのまま倒木の中へと突っ込んでいく。
他のカヤックは何の問題もなく下っているのだけれど、やっぱりロールスロイスは運転が難しいらしい。
途中に小さな落差の堰があった。
2年前の例会では、こんな場所でもサーフィンをしようとして、皆が群がり集まっていたものである。
さすがに今回の参加者の中には、そこまでガツガツと瀬に飢えたパドラーはいなかった。
純粋に紅葉の風景を楽しもうと思って集まってきたメンバーばかりなのである。
2年前には、こんなところでサーフィンをする人達が沢山いた
穏やかな流れが続いても、誰も文句を言うことなく、周りの風景を眺めながらのんびりと下っていく。
朱太川は先月の台風18号で、氾濫危険水位を超えるくらいに大増水し、国道も一部通行止めになっていた。
所々にその大増水の跡を確認できたが、その程度の増水はこの川にとって大したことではないようだ。
豊かな自然に囲まれた朱太川は、少々水が増えても、その水を自然の懐の中に抱え込んでしまうのだろう。
紅葉の風景を眺めながら下っていく
貝殻がビッシリと埋まっている露頭まで下ってきた。
今回はここで少し化石を採ろうと思ってピックハンマーを持ってくるつもりだったのだが、忘れてしまった。
脆い砂岩の露頭なので小さなシャベルでも掘り出せそうだが、道具がなければ取り出そうとした貝がバラバラに割れてしまう。
化石と言うより、貝がそのまま土の中に埋まっているような感じなのである。
100万年の年月は、貝を石に変えるのではなく、貝殻を脆くするだけのようだ。
貝の埋まる露頭
カヌーで川を下っていれば、こんな露頭にも簡単に近づくことができるが、陸上からここにアクセスしようとすればかなり大変なはずである。
化石採取を趣味にする人にとっては、とても羨ましい状況なのだろうが、私達はただ「すごいね~、沢山埋まってるね~」と眺めるだけで終わってしまうのだ。
サケが群がっているのは産卵しているのか
ヤナギタケが所々に生えている。
それ程美味しキノコでもないので、これも眺めるだけで終わってしまう。
傷だらけになったサケが泳いでいるのが見えた。
最初は「朱太川にもサケが遡上して来るんだ~」程度に思って眺めていたが、次第にその数が増えてくる。
一箇所に沢山のサケが群がっているのは、産卵するメスを取り囲むオスのサケだろうか。
小砂利の川底が続き、如何にも産卵するのに良さそうな場所である。
カヌーに驚いたサケが、浅瀬の中で水しぶきを上げながら逃げていく。
サケを眺めながら川を流されていく
サケの群れがカヌーにぶつかりそうになりながら、下を通り過ぎる。
川を下っていて、こんなに沢山のサケの姿を見るのは初めてだった。
皆は漕ぐのを止めて緩やかな流れに舟を任せ、そんなサケ達の姿を眺めながら流されていく。
ちょうど良い川原があったので、そこで昼の休憩。
周りの紅葉が美しい。
朱太川は、この辺りでは歌才ブナ林に沿って流れている。
ブナの木はまだ完全には色付いていなくて、緑の葉も少し混ざっている。
でも、これくらいの色付き具合の方が変化があって美しく見えるのだ。
紅葉に染まる川原で休憩
そんなブナ林の風景やサケの群れる様子を楽しみながら下っていく。
この季節の朱太川がこんなに素晴らしいとは、全くの予想外だった。
「もう20年は朱太川を下ることは無い」と言っていた人でも、この季節の朱太川を下ればもしかしたら気が変わるかもしれない。
しかし、その可能性は低そうだ。
紅葉に染まる朱太川
こんな流木の山が時々現れる
所々に流木の山が現れる。
2年前に下った時は何度かポーテージを強いられたが、今回は何とか通り抜けられるだけのスペースが開いていた。
先月の大増水が流木の山を少し整理してくれたのかもしれない。
増水は、新たな流木を運んでくることもあるし、邪魔な流木を片付けてくれることもある。
自然河川の新陳代謝である。
そんな流木の山に向かって、ロールスロイスがひっくり返ったまま流されていく。
ジュニアが直ぐに川に飛び込んで舟を捕まえる。
こんな時のジュニアの素早い動きには何時も感心させられる。
そのジュニアが今回は、大学の同期だった現役女子大生Mちゃんを連れてきていた。
カヌークラブでの川下りには、今回が初参加である。
Mちゃんのことを以前から聞いていたクラブのメンバーは、そのMちゃんが朱太川に来るらしいと知って色めき立っていた。
来年からクラブに入ってくれそうなMちゃん
Mちゃんがどんな子なのかは何も知らないくせに、現役女子大生という言葉だけで勝手に色々な妄想を掻き立てている困ったおじさん達なのだ。
私は、そのおじさん達から一つのミッションを与えられていた。
「Mちゃんを絶対にクラブに入会させること」
幾春別川でゲート練習ばかりやっていたMちゃんは、他に下ったことがある川は千歳川と天塩川だけ。
京都出身だけど、北海道が大好きで、もっと色々な川の風景を見ることを望んでいるMちゃんなので、今日の朱太川を下って、ますますその気持ちを強くしたのは間違いない。
ミッションは何とかクリアできたみたいだ。
黒松内の街が近付いてくると、次第に岩の絡んだ流れが多くなってくる。
流れも緩く、難しさはないのだが、如何せん水が少ない。
ルートを間違えるとカヌーは直ぐに座礁してしまう。
ここでも高級車のロールスロイスは悪戦苦闘していた。
市街地が近付くと岩の絡んだ瀬が多くなってくる
運転手のSさんは、仁淀川を下るために今回の朱太川で色々と教訓を得たと言っていたが、仁淀川はロールスロイスで下るための川みたいなものなので、無理して朱太川をフェザークラフトで下る必要もなかったような気がする。
こうして期待以上に楽しめた朱太川の川下りは無事終了。
スタート地点に停めてある車を取りに戻ると、途中から結構な強さの霧雨が降り始めた。
私達はこの後、長万部付近でキャンプをする予定だったけれど、太平洋岸は天気が悪そうなので倶知安方面のキャンプ場を目指す事にした。
(当日12:00朱太川水位 黒松内:20.98m)
サケを眺めながら下る朱太川の動画