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鵡川

(福山大橋〜富内)

8月11日午前10時の鵡川観測所の水位169.86m。これが台風11号の雨によって増水した鵡川の最高水位となった。
普段ならば気にもならないことなのだが、2日後にその鵡川を下らなければならないとなると話は別である。前日の夜から台風の接近により職場待機となり、その間ずーっと鵡川の水位ばかり気にしていたのである。
I山さんの「お盆の家族サービスに備えて13日に川を下っておきましょう」との訳の分からない誘いに乗ってしまったことを後悔していた。

増水した鵡川この誘いに乗った他のメンバーも、固唾を飲んで鵡川の水位の変化を見つめ続けていたらしい。
その中で一人だけ、水位のことなんか全く気にしていない人が存在した。
N島先輩にとって気になるのは、奥様から「行ってきなさい」と言ってもらえるかどうか、それしかないのである。

そうして川下りの当日、集合場所である福山の駐車場にやって来た。
この時の水位は169.06m。
5年前、今回と同じ福山から富内の区間を下り、私が大岩の瀬で流された時の水位は169.18m。
それを思えば、さほど心配することもなさそうだが、福山大橋の上から見下ろす鵡川は、灰色に濁り、流れもかなり速かった。

集まったメンバーは我が家を含めて7名だけ。
そろそろお盆休みの時期とは言え、家族サービスを放っておいて遊びに出かけられる様な家庭はそう多くはない、いや、極めて少ないのである。
ただ、直前まで迷いながら水の多さを見て参加を断念するという、しごく賢明な方もいたのは確かである。
鵡川沿いの道道占冠穂別線が通行止めなので、車の回送は穂別周りで片道40キロ近いと言うことが、この区間を下る時の難点だ。

福山大橋下流の瀬1時間半かけて車を上陸地点に回し、鵡川にようやくカヌーを浮かべることができた。
しかし、流れが速くてその場に留まっていることができず、流されるようにして鵡川大橋の下まで下っていく。
橋の上から見下ろした時、そこに良いウェーブができていたが、誰もそこで遊ぼうとはしない。
N島先輩だけがチャレンジするものの、あっさりと流されてしまう。

水が濁っていると隠れ岩が見えないので、それに注意しながら下っていく。
タケさんが「流れにパワーがあるというか、パドルが重く感じますね」と言っていた。
確かに増水した川でカヌーに乗ると、パドルを通して水の力が伝わってくるような気がする。
水に違いはないはずなのに、これはどういった理由によるものなのだろう。

kameshimaの瀬やがて川の真ん中に三角の大岩が見えてきた。
5年前、普段から慎重なK島さんが沈脱して以来、ここはkameshimaの瀬と呼ばれるようになった。
kameshimaの瀬は、真ん中を下っていけば何ともないはず。
そう思って瀬の中に突入したところ、隠れ岩が有ったり横波を受けたりと、予想外の激しい瀬に緊張する。
波に煽られてカヌーが大きく傾いた。
それと同時に、水が一気に流れ込んでくる。
もうダメだ。
久しぶりに味わう沈直前の感覚。
しかし、ギリギリで体勢を立て直すことができて、水舟になりながらも何とか岸までたどり着くことができた。

何時もならば、ヘルメットに付けてあるGoProの動画でその時の様子を確認できるのだが、今回は何と、充電忘れのため撮影ができず。
こんなに増水した川を下る機会は滅多にないのに、これは痛恨のミスだった。

しかし、5年前より10センチ以上水位が低いはずなのに、そんな感じが全くしない。
逆に今回の方が瀬の波も高い気がする。

次に現れた分流。
ここは、右へ行くと大変である。
荒々しい風景が広がる鵡川3年前の例会では、水が少なくて左の分流を下ることができず右へと進んだのだが、それでも大変だったことが記憶に残っている。
それが今日の水量ならばどんなことになっているのか、考えただけで恐ろしくなる。
先頭を下るI山さんは、ためらわずに左の分流を選んだ。

その後も大きな波の立つ瀬が次々と現れる。
皆がチキンルートに逃げながら下っている中で、N島先輩だけが平気な顔で瀬のど真ん中に突っ込んでいく。
「ウヒョーッ」と後ろから雄叫びが聞こえると思ったら、その声の主はN島さんだった。
皆が怯える中で、一人だけ嬉しそうなのがN島先輩なのである。


鵡川は山を縫うように流れる   瀬で遊ぶN島先輩
川は次第に山の中へと入っていく   瀬で遊ぶのはN島さんだけ

鵡川の河原で昼食午後1時過ぎ、遅めの昼食となる。
鵡川の核心部はまだこれからだと言うのに、皆の顔には疲れの表情が浮かんでいた。

今回の参加者はOC1がN島さん、タケさん。
カヤックがI山さん、O橋さん、K岡さんの3人。
最初に鵡川を下ろうと言い始めたのは、この3人だったらしい。

タケさん家は小さな子供がいるので、一人で遊びに出るためには奥様の許可が必要となる。
そんな夫婦の瀬を乗り越えての参加だけに、鵡川の瀬にびびりながらも、結構楽しんでいるように見える。

鵡川を下るカヤック3人組にしても、家庭の事情は同じようなもので、この日のために家族サービスの限りを尽くしての参加である。
誰に気兼ねすることもなく参加しているのは我が家くらいのものだった。

そしていよいよ後半戦の開始。
最初に待ち構えているのは「擁壁の瀬」。
3年前でも大変だったのに、今日の水量ではどうすればいいのだろう。
その目印であるコンクリート擁壁が遠くに見えていた。
ところがI山さんが途中から左の分流へと下っていった。
「あれ、こんなところに分流ができているんだ!」
この時は本当に嬉しかった。
まずは一つ目の難関クリアである。

鵡川の核心部へ入っていくしかし、どうしても逃げることのできない鵡川の核心部へと入ってきた。
緑に覆われているはずの山肌が見事にえぐり取られ、川に向かって切れ落ちている。
何度見ても恐ろしい風景である。

その山肌にへばり付くように道道占冠穂別線の覆道が伸びていた。
その覆道の下の瀬はどうしても避けることができない。
少しでもチキンルートに逃げようとするが、そうはさせじと横からの波がカヌーの行く手を阻む。
次第に瀬の真ん中へと寄せられ、大波の中へと放り込まれた。
滑り台を滑り降りる感覚でカヌーが波の底へと向かっていく。
そして今度は逆に波の頂点へ向かってカヌーが浮かび上がると思った瞬間、突然頭の上から水が落ちてきて、あっと言う間に全身ずぶ濡れとなる。
カナディアンのバウを漕ぐかみさんは、しょっちゅうこんな目に遭っているようだが、スターンで漕いでいる私が頭の上から水を被ったのはこれが初めてだった。

そんな瀬の中でK岡さんが沈脱。
幸い、その下流の流れが緩く、何とか護岸のテトラの上に這い上がることができた。
恐るべし鵡川を実感する。


道道占冠穂別線の覆道
何度見てもこの風景には圧倒される

覆道下の瀬   テトラに上陸
遠くから見ると大したことはないのだが   テトラに這い上がったK岡さん

真の恐怖が目前にしかし、それは序の口の恐ろしさだった。
真の恐怖がその先で待ち受けていたのである。

※これから先のことは、真実を書くには忍びないので、挿話に変えさせていただきます。

 おとぎ話「赤い繭の物語」へ

途中の壊れた堰堤は、右側の開口部を下れない時は、左の方に楽に通過できる場所が有ったはずである。
ところが今回は、そこが結構な落差の落ち込みになっていた。
カナディアンならば何とか通過できるけれど、カヤックだと落ち込みの下で巻かれてしまうような感じだった。

壊れた堰堤のチキンルートここで確信した。
今回は5年前より確実に水が多い。

川の水位観測所の仕組みが良く分からないが、川底が洗掘されれば水位だって変わるはずである。
5年前の水位と比較すること自体が間違っているのかもしれない。

壊れた堰堤を越えてから上陸した岸辺では、ススキが穂を付けていた。
空は青く澄み、すっかり秋の気配である。

そんな穏やかな風景とは裏腹に、相変わらず厳しい流れが続く鵡川だった。


壊れた堰堤付近
壊れた堰堤付近の様子、見るからに恐ろしげだ

ススキの穂   鵡川の核心部はまだ続く
ススキの穂が秋を感じさせる   なおも続く鵡川の核心部


そしていよいよ大岩の瀬に近付いてきた。
5年前にここで沈して流されたことは忘れようがない。
その大岩が見えてきたので、何時でも上陸できるように左岸寄りに下っていく。5年前は左岸によるのが遅すぎて、そのまま大岩に向かって流されていき、最後は大岩にぶつかって沈したのである。

大岩の瀬当然下見するのだろうと思っていたら、先を下っていたメンバーは止まらずにそのまま次々に下っていく。
しょうがないので私も後に続く。
左岸ギリギリ、座礁もやむなしのチキンルートを下って、無事に大岩の瀬をクリア。

以前下った時の印象とは随分違っていた気がした。
岸を歩いてもう一度様子を確認しに戻ったが、以前の本流は大岩に向かって流れていたのが、現在は左岸に寄りに流れが変わったようである。
私が衝突した大岩は、ここの瀬のシンボル的な存在に成り下がったのである。

その後もしつこく現れるえげつない波の立つ瀬を、ことごとくチキンルートで逃げながら、ようやく車を置いてある場所まで辿り着いた。

前回の長流川でも、ゴールに着いた時は心底ホッとしたが、今回はその時以上にホッとする川下りだった。
下ったメンバーもほぼ同じ。
全く懲りない面々とは、今回参加したメンバー全員に言えることではある。

2014年8月13日 晴れ時々曇り
当日12:00鵡川水位(福山観測所) 169.06m


瀬はまだまだ続く
瀬でないところでも気を抜けない流れが続く

鵡川の瀬   鵡川の瀬
こんな場所ではチキンルートしか下れない   岩の迫力に圧倒されそうだ

鵡川の瀬   車まで戻って来た
ようやく山間部から抜け出してきた   車まで戻って来て生きている事を喜び合う


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