それは昔々のことでした。
赤い繭から一匹の蝶々が生まれました。
でもその蝶々さんは羽がまだ十分に伸びていなかったので、上手く飛ぶことができません。
早く繭に戻らないと、そのままでは蝶々さんは死んでしまいます。
でも、強い風が吹いてきて蝶々さんはどんどん飛ばされていきます。
それに気が付いた燕さんが空から舞い降りてきました。
燕さんは言いました。
「蝶々さん、ボクにつかまって!」
蝶々さんは必死になって燕さんにしがみつきますが、二人を引き離そうと風が更に強くなります。
蝶々さんは言いました。
「燕さん、ボクはもうダメです。この先には龍の門があるはず。そこでは竜巻が荒れ狂っています。
このままでは燕さんも一緒に龍の門に吸い込まれてしまいます。助けようとしてくれてありがとう。」
蝶々さんは燕さんにしがみついていた手を放して、そのまま龍の門に向かって飛ばされていきました。
ボクは、蝶々さんの入っていた赤い繭が崖の途中に引っ掛かっているのに気が付きました。
「あの繭が無いと蝶々さんは生きていられないはず」
そう思った僕は、トモちゃんと一緒に飛行船に乗って、その繭を取りに行きました。
もう少しで繭に手が届きそうになった時、繭は崖から離れてフワフワと飛び始めました。
慌てて繭を掴もうとしましたが、繭の表面はツルツルなので上手く掴めません。
それどころか、飛行船も風に煽られて傾いてしまいます。
「危ない!このままでは僕達も龍の門に吸い込まれてしまう。」
蝶々さんには気の毒ですが、繭のことは諦めることにしました。
「龍の門に吸い込まれた蝶々さんはどうなってしまったのだろう?」
山の上に登って様子を眺めると、龍の門の向こうにある岩の上に蝶々さんがとまっているのが見えました。
弱々しいけれど羽も動かしています。
生きているのが分かってホッとした瞬間、トモちゃんが叫びました。
「大変!あれを見て!」
トモちゃんの指さす方の空を見ると、羽の折れた燕さんがクルクルと回りながら墜落していくところでした。
きっと龍の門の竜巻に巻かれて羽が折れてしまったのでしょう。
墜落していく燕さんの近くでは、赤い繭も一緒に風に飛ばされています。
「大変だ、助けにいかなくちゃ」
でも、そこに行くためには鶏の門を通らなければなりません。
遠い昔、龍の門に恐れをなした旅人がもう一つの門を抜けようとしたことがありました。
するとそれを見ていた魔女が、「この弱虫め!」と怒り
旅人に魔法をかけてチキンの姿に変えてしまいました。
それ以来ここは、鶏の門と呼ばれるようになったのです。
その頃には簡単に通れた鶏の門も、今は大きな滝になっています。
蝶々さんや燕さんを助けにいくためには、そこを飛び降りるしかありません。
一緒にいたお魚君は、まだ上手に泳げません。
そこでボクは、蓮の葉に乗ったカエル君に言いました。
「君は燕さんを助けにいって!ボク達は蝶々さんを助けにいくから」
そうしてボクとトモちゃんは、二人で真っ先に滝に飛び込みました。
危うく足を挫くところでしたが、無事に滝を抜け出し、再び飛行船に乗って蝶々さんのところに向かいました。
蝶々さんはまだ生きていました。
ボクは言いました。
「ごめんね、君の赤い繭、持ってこられなかった」
すると蝶々さんは言いました。
「大丈夫、ボクの赤い繭は燕さんがつかまえてくれて、無事に森の中に舞い降りたみたいです」
良かった。
僕達は飛べなくなった蝶々さんを一緒に飛行船に乗せて、燕さんの舞い降りた森へと向かいました。
燕さんのところに行くと、後から駆け付けた熊さんが一緒でした。
蝶々さんと燕さんは感動の再会を果たしました。
「あれ?カエルさんはどうしたのかな?」
キョロキョロと辺りを見回すと、蓮の葉につかまったカエルさんが川の上から流れてくるところでした。
怖がって一番最後に滝から飛び降りたカエルさんは、蓮の葉から落ちてしまい、
魚君に助けられながらここまで流れてきたようです。
その後、赤い繭の中に入った蝶々さんは、羽が大きく広がってきました。
そうして再び、大空へと舞い上がっていったのでしたとさ。
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