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沙流川

(沙流川キャンプ場〜三岩橋下流)

 前日の下流部に続いて、いよいよ今日が例会本番で沙流川を下る。
 区間は、沙流川キャンプ場から三岩橋までの約9キロ。
 私の持っている北海道パドリングガイドを見ると沙流川の難易度は、鵡川と同じ☆四つとなっている。
 その本の中で☆四つの川は、他には知床の忠類川とか尻別川のニセコ付近とか。
 鵡川の赤岩青巌峡、忠類川の金山の滝、どの区間を指して☆四つとしているのか分からないが、相当のレベルの川であることだけは確かである。
 その川の、しかも雪解け水で増水しているところを下ろうと言うのだから恐ろしい話だ。
 クラブのBBSでも、その辺のことは事前にアナウンスされていたので、当日集まったメンバーは17名と、桜の咲く良い季節の例会にも係わらず、かなり少なかった。
 皆、それなりの覚悟で集まってきているのだろうけど、未だに覚悟ができていないのが我が家のかみさんだった。
 前日に下流部を下った後は、会長の奥さんと一緒に「明日はもう漕がない!」と宣言していたくせに、一晩寝ると少し気が変わってきたみたいだ。
 会長の奥さんは「楽しくないことはやらない」との信念があるので、一晩越してもその考えに変わりは無いが、かみさんはやっぱり、指を咥えて見ているだけなのが我慢できなく思えてきたのだろう。
 「途中で絶対に泣き言は言わないこと」と約束させて、一緒に漕ぐことにした。

 下流に車をデポしてキャンプ場まで戻る途中、この区間最大の難所と思われる三岡橋下の落ち込みを皆で下見する。
 すると通りかかったミニパトから、険しい表情のおまわりさんが降りてきた。
 橋の上に何台も車を停めていたので怒られるのかと思ったら、大勢で橋の下を覗き込んでいるものだから、何か事件でも起こったのかと勘違いされたらしい。
 この橋の下を流されて、また、このおまわりさんの世話になることにならないか、本気で心配になってきた。

 川下り前にこれだけ緊張するのは、空知川の国体コースを初めて下る時以来の気がする。
 カヤック11艇、OC1が4艇、大型のカナディアンで下るのは我が家だけ。
 沈するのは怖くないけれど、もしも沈した場合、どれだけの距離を流されることになるのか、それが心配だった。
 これだけ流れが速ければ、大型のカナディアンを引っ張って岸まで泳ぎ着くのは絶対に不可能で、他のカヤックの助けを受けたとしてもカヌーを誘導することは無理だろう。
 そうなると、カヌーは諦めて、人間だけを助けるしかない。カヌーが壊れる程度で済むなら、お金で解決できる話である。
 出発前の集合写真は、最後の舟の姿を記録してあげようとの会長の暖かい心遣いからか、我が家のフリーダムの前に皆が集まって撮影されたのである。

フリーダムの前で集合写真

最初の難関 今日のツアーリーダーのI上さんから、何時も以上の念入りな話があって、いよいよ川下りスタート。
 最初の瀬はすんなりと通過し、その先の岩に流れがぶつかるところの瀬。
 この瀬の近くまではキャンプ場の中を通って行くことができるので、早朝に場内を歩いたついでに、一人で下見を済ませていた。
 まともに飛び込めば酷い事になりそうなので、右岸側のチキンルートをしっかりと確認しておいたのである。
 ところが先行メンバーは、次々とその瀬に向かってまともに入っていく。
 かみさんが「皆、真っ直ぐ行ってるわよ」と不安そうにしているが、構わずに予定通りのチキンルートで無事にそこを通過することが出来た。
 しかし、やっぱりそこで事件は起きていた。あちらこちらでホイッスルの音が鳴り響き、カヤックが数艇流されているようだ。
 そのまま下り続けるわけにも行かず、慌ててエディを探してカヌーをそこに入れた。
 そこの対岸に体一つで立っているのはN野さん。N野さんのパドルはこちら側に回収してあった。カヤックはもっと下流まで流されていったようだが、多分それは先の方で何とかしてくれているだろう。
 まずはT山さんのOC1にN野さんを乗せて、こちら岸に渡ってくる。
 パドルの無いN野さんは、少しでもT山さんの助けになろうとして両手を使って水を掻いていた。
 何処かで見覚えのあるその姿・・・。
 思い出した!カヌー運動会でしゃもじリレーに参加した時のN野さんだ!


N野さんを乗せたT山さん   本物のしゃもじリレー
この姿は?!   しゃもじリレー中です

 両手にしゃもじを持ってOC1を漕ぐ競技だけれど、そんなことでカヌーが進む訳は無い。
 ましてや、増水して流れの速い沙流川、N野さんのささやかな努力にもかかわらず、カヌーは流されてそのまま次の瀬に吸い込まれてしまいそうになる。
 「駄目だ〜、そのまま下って!」との指示も飛ぶが、際どいタイミングでこちらの岸まで漕ぎ着いた。
 今度はパドルを手にしてT山さんとのタンデムで下流の自艇を回収しに向かった。
 そこでの事件がひとまず解決し、私達も下流へと下ろうとすると、そこには持ち主の居ないOC1が1艇取り残されていた。
 それは会長のOC1で、先の状況を確認するため岸伝いに下流まで歩いていったらしい。
 そこから下って、大きな中州を挟んだ分流の手前左岸のエディに入った。
 分流の右側は、そこからストレートになっていて全体にかなりの白波が立っているのが見える。
 左側の分流は緩やかに右にカーブしながら、最後では右側の分流と合流し、岩にぶつかる感じで右へほぼ直角に流れを変えている。
 見た目は、左の分流の方が流れもやや緩やかで安全に下れそうだった。
 N島さんが先に左の分流の様子を確認しに下っていって、途中からOKサインを送っていた。

  さて、この時の状況である。
 私達の居るエディに4、5艇、その対岸に2艇、右の分流を途中まで下った右岸に数艇、他の流されたカヤックはそこでレスキューされたようだ。
 そして左の分流にN島さん1艇、中洲にI上さんなど2、3名、私達の上流に会長他数艇。
 会長以外のグループはお互いの姿は確認できるが、声は殆ど届かない距離だ。
 まさに生き別れ、離散家族状態で、こうなってしまうと、お互いの意思の確認も難しくなる。

生き別れの図

 流されたメンバーのレスキューは無事に済んでいるようなので、当面の問題は右と左のどちらのコースで下るかだ。
 大方の意見は左の分流を下ることに傾いていたが、最終的には右の分流と合流することになり、そこでは真横から強い流れを受けることになるはずで、それが心配だった。
 左を下るためには対岸のカヤックをこちら側に渡らせた方が良い。手で合図を送り、そこに居た例会初参加の女性カヤッカーがフェリーグライドで渡り始めた。
 パドリングに力が無く、見る見るうちに下流に流されて焦ったけれど、何とか渡りきることができた。
 こんな川を下る時は、フェリーグライドの技術ももっと身に付けた方が良いと実感させられる。
 その後、右の分流の右岸に上陸しているメンバーが何か伝えたいことがあるみたいだが、中州にいるI上さんを通しても、声が届かずに意味が分からない。
 たまたま、こちらで携帯電話を持っている方がいたので、それでようやく話が伝わり、その結果はやはり、左の分流を下ってしまうと最後の合流部分が危険とのことで、右岸に渡ってポーテージするのが最良とのことである。
やっと全員集合 そうして全員が右岸に渡りきり、ようやく体勢を立て直すことができた。
 数年前の余市川例会でも同じようなことがあったが、増水して流れの速い川で複数名が沈した場合、レスキューも大変で、流される距離も長く、入れるエディも数少なく、結果的にメンバーがバラバラになってしまう。
 クラブの例会なので参加者のスキルも様々。
 こんな時のための対応マニュアルなど作れる訳も無く、その都度皆で協力し合って解決するしかない。
 何事も無く下れるのがベストだけれど、こんなトラブルに対処しながら皆で川を下るのも、例会の楽しみの一つと言っても良いだろう。
 ほぼ全員が合流部の下までポーテージしたが、冷静な目で流れを見れば右岸ギリギリを下ればそれほど難しい流れだとも思えない。
 でも、このトラブルの後なので、誰も無理はしたくない気分なのだろう。


激流の様子   合流部の様子
これなら下れそうな気も・・・   合流部はちょっと怖い

 その後もハードな瀬が続く。
 ただ、川幅が広がっているので、尻込みするような波が立っている場所でもその脇にチキンルートは用意されているので、何とか下ることはできる。
瀬の中 チキンルートと言っても、普通の川のそれとは違う。
 三角波に横波にと、あらゆる方向から次々と波が覆いかぶさってきて、エディに入る度にカヌーをひっくり返して水抜きをしなければならないような激しい流れなのである。
 そんなところばかり下っていると、波への対応にも次第に慣れてくる。
 これまでの波沈で一番記憶に残っているのが、やや増水気味の空知川、国体コースを過ぎてホッとしながら次の瀬に入ったところ、予想以上の波の高さに驚いた瞬間、あっと言う間にカヌーがひっくり返された時のことである。
 大きな波の中に入ると、常にその時のことが頭の中を過ぎる。
 バランスと、確実に波を捉えるパドリング、それさえ気をつけていれば、大きなカナディアンカヌーは、そう簡単にひっくり返るものではない。
 かみさんも、昨日遭遇した巨大な水壁を超えた経験があるので、それよりも小さな波には驚かなくなっているらしく、泣き言も言わずに漕ぎ続けている。


波に突っ込む   水を被った
突っ込む〜!   バウには乗りたくないです(^_^;

 メンバーの疲れも出始めたようなので、早めの昼食休憩となった。
 下っている間は緊張していて周りの風景に目をやる余裕も無かったけれど、川に落ち込む崖の斜面の所々で桜が花を咲かせていた。
休憩中 新緑の季節にはまだ少し早いけれど、それでも薄緑色に色づき始めている木々もあり、川の流れとは裏腹に、周囲には春の優しげな風景が広がっていた。
 休憩中に、そこから下流の瀬の様子を窺ってみる。
 遠すぎて良く見えないが、左カーブの右岸側は流れが集中して、かなりの激流となっている様子である。ここは左岸寄りがチキンルートと思われ、自分達が下るルートについて、かみさんと入念に打合せをする。
 川下りを再開すると、先頭メンバーは右岸よりのルートをそのまま下っていき、後続メンバーもそれに続いていく。
 「えっ?そこを下っちゃうの!」
 確かに、上流から見る限りでは、左岸寄りの方が白波が立っているのに比べて右岸側は比較的穏やかに見えるので、自然と右岸の方に寄って行くのだろう。
 落差があるので、下っている人の姿が途中で見えなくなり、かなり下流でようやくその姿を再確認できる。
 「大丈夫なのかな〜」と思って見ていると、そこを真っ赤なカヌーが裏返しになって流れていき、再び視界から消えてしまった。
 状況が分からないので、しばらく待機するしかない。
 すると、会長が左岸側に現れて、こちらに寄れと合図を送ってきた
 「やっぱりそうだよな〜」と自分の判断が正しかったことに気を良くして、颯爽と漕ぎ始めた。
 目の前の白波を恐れずに左岸寄りに下っていくと、会長はこちらに寄れとまだ合図を送ってくる。
 それ以上寄ると邪魔な岩が多くなるので、会長の合図は無視して自分達の決めたコースをそのまま下り続けることにする。
 やがて、その瀬の全貌があらわになった時、思わず顔が引き攣った。
 確かに、右岸側の巨大ウェーブの瀬と比べればチキンルートと言えるかもしれないけれど、白波が暴れ狂うその様子は半端な瀬ではなかった。
 しかし、そこまで来てしまったら後戻りもできず、覚悟を決めて突入するしかない。
 波間に漂う木の葉の様に揉みくちゃにされながらも、何とかそこをクリアすることができた。
 ホッとして上流を見ると、後続メンバーがカヤックを担いで左岸を歩いているのが見えた。会長の合図は「左に寄れ」ではなくて、「左岸に上がれ」だったらしい事にようやく気が付いたのである。
 まあ、結果的にはポーテージするよりはずっと楽しかったので、得した気分である。

激流
先に下見をしていたら絶対にポーテージしていたかも(^_^;

落ち込みの瀬全景 その先がいよいよ三岡橋の落ち込みだ。
 橋の上から偵察した時、我が家はポーテージするしかないと決めていたので、一足先にカヌーを下ろすことにする。
 すると、G藤さんまでがカヤックを担いでポーテージしているので驚いてしまった。
 そう言えば、かなり前にクラブでここを下った時、脱臼や打撲など怪我人が続出したことがあったらしく、それ以来G藤さんはそこへのチャレンジを封印していたのである。
 G藤さんが下らなければ、他にチャレンジする人がいる訳もなく、結局全員がポーテージすることとなった。
 数週間前から、会長がネットにアップしてくれるここの写真を見ながら、何処をどうやって下ろうかと夜も眠られないくらいに緊張していたのに、実はポーテージルートだけを考えていれば良かったのである。
 三岡橋の落ち込みは落差3mと言われているが、今日は増水しているために落ち込みのイメージは無く、ただ猛烈な速さで水が流れているだけだ。
 その中から時々水しぶきが上がるのは、そこに岩が隠れている証拠である。
 さらに落ち込みの上流側も凄い波が立っていて、そこで沈してそのまま落ち込みまで流されることを考えると、誰もチャレンジする人がいないのは当然かもしれない。
 それでも、ここでの記念撮影の写真を見ると、皆「ここを征服したぞ〜!」って嬉しそうな顔で写っているのが可笑しかった。


三岡橋の落ち込み
何故か皆さん楽しそう!

 その落ち込みの下から再スタート。
 すると、今回の例会からクラブへ入会したばかりのS木さんがバランスを崩して沈。
 下流にエディがあるので直ぐにレスキューされたけれど、S木さんはスタート直後の沈事件にも関係していたので相当疲れているようだ。
やっとレスキュー 崖によじ登って行者ニンニクを収穫する人など、しばらくその付近でのんびりと佇んでいると、何故かS木さんが再び沈をして流され始めた。
 ホイッスルの音が川面に響いて初めてその事態に気が付いた人は、「どうしてここで?」と腑に落ちない表情をうかべながらも、どんどんと流されるS木さんを全員で追いかけ始めた。
 殆どストレートな流れのためエディも無く、おまけに本流の中を流されているので、手の出しようが無い。
 そのうちに瀬の中にまで巻き込まれたが、G藤さんなどの捨て身のレスキューで何とか岸に這い上がることができた。
 今回のS木さん、数回に分けて流されたけれど、その距離をトータルしたら新たな伝説となることは間違いないだろう。

 流れは函の中へと入ってきた。
 国道からも所々で見下ろせる、沙流川の美しい景観である。
 その景観を川の上から楽しむことができるのだから、カヌー冥利に尽きると言いたいところだが、そんな余裕は無い。
 それでもポーテージやチキンルートをたどりながら、この付近からは比較的楽に下れるようになってきた。
 行者ニンニク命で、川下りに来たのか崖登りに来たのか、分からないようなメンバーもいる。
 沢の流れ込み部分で小休止。
 その澄んだ沢水と比べて、沙流川本流の濁り具合を再認識させられた。
 それでも、GW期間中の茶色く濁った鵡川と比べれば、ずーっと快適である。
 函を抜けると目の前に新緑に染まった山肌が広がっていた。

 とうとう、二日間一度も沈しないで増水した沙流川を下りきることができた。
 体は疲労困憊だけれど、それも気にならいくらいの満足感が心の中に満ち溢れていたのである。

2009年5月10日 晴れ
当日12:00 沙流川水位(幌毛志橋観測所) 57.72m
写真提供 サダ吉さん


行者ニンニク収穫中   小休止
ネギ採り命!   流れ込む沢は澄んでいる

美しい函の風景
函の中でのんびり


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