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ヌビナイ川

(砂防ダム下 〜 カムイコタンキャンプ場)

 歴舟川のダウンリバーキャンプを予定していたところ、カヌークラブのサダ吉さんが同じ日に上流のヌビナイ川を下るという。
 以前からヌビナイ川に憬れていたかみさんは、その話を聞いただけで舞い上がってしまい、ダウンリバーキャンプのことは忘れ去ってしまった様子である。
合流地点 そこで、当初はキャンプ場前から下りはじめる予定をヌビナイ川からのスタートに変更したが、果たしてヌビナイを下り終えた後、我が家のアリーがそのままツーリングを続けられる状態を保っているかどうか、それだけが不安だった。
 歴舟川の上流部分は我が家にとって未体験ゾーン、人の話と写真から想像する限りは、とても美しい流れだが岩なども多くて下るのにはかなり苦労しそうである。
 地形図を見てみると、歴舟川の上流はヌビナイ川、歴舟中の川、そして歴舟川の3本の川に分かれていて、キャンプ場の直ぐ上流でその三つが合流している。
 その中でもヌビナイ川はもっとも美しい川だと聞いていた。

 今回の参加者は、サダ吉さん・きらerさん夫婦がカナディアン、なかやまさん夫婦がカヤック、masaさん・麻理ちゃんペアがOC-1(一人乗りカナディアン)と何時ものメンバーである。
 麻理ちゃんはつい先日、千歳川で初の川下りに挑戦して、見事ノー沈で漕ぎ通したばかり。そして次がいきなりヌビナイ川である。その度胸には恐れ入ってしまう。
 スタート地点は砂防ダムの下から。河原まで降りられる道が付いているが、その手前に2台分程度の駐車スペースがあるだけである。道路の端ギリギリに車を停めなければならない。
 そこからカヌーを河原まで降ろす。そこはちょうど小さな淵になっていて、その水の透明さに思わず歓声を上げてしまった。
 それにしても周りの玉石がやたらにでかい。これから下る先もこんな玉石がゴロゴロしているようである。ゴツゴツとした岩と違って、これならアリーの底を擦っても穴が開く心配は無い。
 そうは言っても、水量も少なく、これから先結構苦労させられる川下りになりそうだ。

砂防ダム   スタート地点
上流に見える砂防ダム   出発準備中

 サダ吉艇が先頭でスタート、我が家がその後に続いた。
 直ぐに玉石ゴロゴロの浅い流れとなる。それでも、水面に顔を出した石を避けながら何とか下ることができる。
 水面に出ている石は簡単に避けられるが、問題はギリギリで水面に沈んでいる石である。そんな石は、微妙な波の立ち方で発見しなければならないので、前方への注意を怠ることができない。
 リジット型の舟ならば、そんな石にぶつけたところで殆ど問題もなく、その上をゴリゴリと通過することができる。一方、我が家のアリーはそんな石にぶつかったら、ゴリゴリじゃなくてペタッて感じでその石を抱え込んでしまうのである。
 何時もそんな感じで下っているので、隠れた石の見つけ方や避け方だけは、人より少しは上手になっているような気はする。
アリー潰しの落ち込み それでも、前を行くサダ吉艇がゴンゴンゴンと派手な音を立てながら右へ左へ激しく揺られる様を見ると、パドルを握る手に思わず力が入ってしまう。
 そして、そんな風にサダ吉艇が下った落ち込みが近づいてきた。
 「ゲゲッ、何処を通れば良いんだ!」
 普通なら一カ所程度は通り抜けられそうな場所があるものだが、ここは何処を通っても同じ結果が待ち受けていそうだ。案の定、アリーは玉石に引っかかってしまった。
 ここで無理をするとフレームが曲がってしまうので、こうなった時は直ぐに舟から下りるようにしている。その時の状況によって、私だけ降りるか、かみさんも降りるかの二者択一を迫られる。
 以前なら、二人とも舟を下りると言うことは、殆ど危機的な状況に陥った時と相場が決まっていたが、最近はかみさんも無理せずに直ぐに舟を下りる癖ができたみたいでかなり楽になった気がする。
 急な流れの中での再上艇も慣れたものである。二人で舟から下りて、カヌーを流れの中に出す。そして私はカヌーが流されないように後ろから支え、その間にかみさんが乗り込み、そして最後に私が一気に飛び乗るのである。
 たまに、私が乗り込む前にかみさんがパドリングを始めたりするものだから、焦ってしまうこともある。
 「あっ、ま、まだだって!」

 そこからも玉石混じりの瀬ととろ場が交互に続く。
 その中の一カ所でmasa艇が岩に引っかかって沈、いわるゆ岩沈である。そのまま、先に下っていた麻理ちゃんのところへ流れ着いた。masaさん面目丸つぶれの図である。
 そんな様子に笑わせてもらいながら、楽しいダウンリバーが続く。

去年の落ち込み   今年の落ち込み
masaさん、沈です!   恥ずかしそうに麻理ちゃんのところへ流れ着く

 快適な瀬が次々と現れる。
 川下り2回目の麻理ちゃんも、危なげなくそんな瀬の中を下り降りる。どちらかというと、瀬を降りた後の瀞場の方で難儀しているみたいだ。
 エディに上手く入れなくて、危うくそのまま流されていきそうになったりしている。
 そんな瀬ばかり続いているのかと思ったら、突然大きなプール状の場所に出てきて驚かされた。
 それまでは川底までハッキリと見える透明な水だったのが、ここのプールは濃い緑色に染まっている。
 その中を覗き込むと遡上してきたばかりの鮭の姿も見えた。
 プールの出口の大岩の上には太い流木が張り付いていた。ヌビナイ川を下った時の写真で時々登場しているのが、この岩と流木だったのだ。
 現在は別世界のような静かな世界だが、増水した時はどんな様子に変わるのだろう。想像しただけで恐ろしくなってしまった。

去年の落ち込み   今年の落ち込み

  2カ所ほど倒木が流れの上に倒れ込んできて、ポーテージを余儀なくされた。ちょうど楽しそうな流れだったので、皆不満タラタラで重たいカヌーを下流に引きずる。
ポーテージ風景 こんな時も、カヤックならひょいと肩に担げるし、リジット艇もゴリゴリと岩の上を引きずることが出来る。
 アリーの場合は、そんな風に大胆に引きずれば直ぐに穴が開いてしまうし、足場の悪いところで持ち上げて運ばなければならない。
 中に敷いてあるマットがたっぷりと水を含んだアリーは、やたらと重たいのである。
 その中の一カ所でmasaさんだけが、ポーテージしないで強引に下り降りた。
 岩をも砕くロックバイターmasaさんであるから、細い倒木くらいものともしないのだ。
 ヒヤヒヤしながら見ていると、その倒木を体当たりでへし折ることもなく枝の間をすり抜けて無事に通過した。

 次々と変化に富んだ流れが現れて、なかなかスリリングである。
岩に乗り上げ照れ笑いをするかみさん 岩壁に流れがぶつかって、左に向きを変えている場所があった。そこは上手く通過できたものの、その後直ぐに流れは右へ向きを変えていた。
 「あーっ、曲がらない!」
 そのまま正面の岩に乗り上げてしまった。
 今回の川下りで唯一舟のコントロールができなかった場所である。
 後でこの時の写真を見たら、かみさんがやけに楽しそうな顔をして岩に乗り上げていた。
 「笑ってる場合か!乗り上げる前にクロスドロー入れなきゃダメだろ!」

 気の抜けない瀬も多い。
 先行するサダ吉艇が、例によってゴンゴン言いながら派手に飛び跳ねている瀬があった。そして途中で岩に引っかかってしまったようである。
 そろそろ岩除けにも疲れてきていたので、「あ〜、あれじゃアリーでは無理だな。」
 早々にポーテージする決断を下してしまった。
 後ろから来たmasa艇が我が家の横を通り過ぎてその瀬の中に入っていったが、やっぱり岩に捕まって横向きに止まってしまった。
玉石だらけの瀬 そこへ続いてきた麻理艇、意外とすんなりと下っていく。
 その先でオタオタしているmasaさんに向かって「どけてーっ!!」の一言。
 慌ててカヌーを引っ張って横に避けるmasaさんの隣を華麗に下りおり、最後の岩の後ろの小さなエディにピタッと回り込んだのである。
 これには大笑いさせてもらった。
 masaさんの面目丸つぶれどころか、権威失墜の一瞬である。

 遠くに橋の姿が見えてくると、それまでの川の様相がガラリと変わった。
 岩壁に挟まれた狭い空間を、川が静かに流れる。
 信じられないほど水は透明で、川底の小砂利がハッキリと見える。
 ヌビナイ川でもっとも美しい場所だ。
 漕ぐのを止めて水の流れに舟を任せ、周りの風景にしばし見とれる。
 岩壁の途中には名も知らぬ赤い花が垂れ下がるように咲いていた。
 紅葉の時期ならばそれこそ別世界の美しさとなるだろう。
 ため息をついてその中を通り過ぎた。
 ここを過ぎても、まだ中間地点までは来ていないはずである。まだまだ楽しい瀬が、この先で待ち受けていそうである。

渓谷の中の清流   けいせき橋の眺め
素晴らしい渓谷の風景だ   けいせき橋

 瀬の下では先行したサダ吉さんが常にカメラを構えて待ち受けてくれる。人数も少ないので沢山写真を撮ってもらえた。
 その中の一枚に決定的な瞬間を発見。
 最近の我が家が写っているカヌーの写真では、やたらにかみさんだけが格好良く写っていて、私はその後ろでニヤニヤと締まらない顔をしているものばかりである。
 「私が一生懸命なのに、本当にまじめに漕いでいるの?」
 疑いの目を向けられるようになってしまった。
完全に何もしていないかみさん! そこに遂に、真実をハッキリと示す証拠写真が登場した。
 落ち込みの中で必死に舟の操作をする私。それなのに、かみさんときたら「キャーッ、怖〜い!」って感じで目を瞑り、おまけにパドルを離してガンネルにしがみついているのだ。
 フッフッ、これでしばらくは何を言われても反撃するネタができたのである。

 再び瀬の続く流れとなるが、山の中を抜けて川の周囲も少し開けてきた。
 前方に三段状の落ち込みが見えてきた。カヤックだとのその下のホールに填ってしまうこともあるみたいだが、大きなカナディアンなら問題なく通過できそうだ。
 すると、前を下っていた麻理ちゃんが落ち込みの下のホールでバランスを崩して、とうとう初めての沈をしてしまった。
 麻理ちゃんを轢きそうになりながら、かろうじてその側を通り過ぎる。
 この後、これまでの鬱憤が全て晴れたようにmasaさんは大喜びしてしまったのである。
 他人の沈はいくら笑っても良いけれど、身内の沈を笑ってしまうと、後々それが尾を引くことになると言うことを、masaさんは身をもって知ることになるはずだ。
 続いてなかやまさん夫婦が下ってきたので、岸に上がってカメラを構える。
 まずは奥さん、上手く下ったと思ったら、やっぱり最後にバランスを崩して沈。心配して見ていると、何とかカヤックから抜け出すことができた。
 しかし、人間は下流に出られたものの、カヤックはホールに捕まってしまい、落ち込みの下でグルグルと回り続けている。続いて下ってきたなかやまさんが体当たりを試みたが、舟の救出は失敗。
 さて、こんな時はどうやってカヤックをホールの中から引っ張り出せば良いんだろうと考えていたら、突然masaさんが流れの中を歩いて渡っていった。そしてホールに填っていたカヤックをひょいと片手で持ち上げる。
 時々、人間離れしたことを何食わぬ顔をしてやってしまうので、本当にmasaさんには驚かされる。
 そのカヤックを岸に引き上げるため、私がロープを投げたが失敗して届かない。
 袋に入ったままのレスキューロープなら上手く投げられるのに、一度そこから出してしまったロープを投げるのは初めてなのである。
 もう一度トライしたけど、やっぱり届かない。masaさんは私のもう一度のチャレンジを待ってくれず、そのままカヌーを下流に押し流して、それをなかやまさんが回収。
 レスキューロープの投げ方くらいもっと練習しておかなければダメだと痛感させられた。

初沈の真理ちゃんを轢いてしまいそう   妻のカヤックを助けようとするが・・・

 その後、最初の休憩をとる。
 初沈をした麻理ちゃんはかなり疲れ気味の様子である。順調に下っていれば殆ど疲れも感じないのに、一度沈をしてしまうと、一気に体力を消耗してしまうものだ。
 河原の前を流れるヌビナイ川は、川底の所々に埋まっている白い玉石のおかげで独特な景観となっている。
 途中の河原にもこの白い玉石が沢山転がっている。どうやってこの石が生成されるのかとっても興味がある。もっと上流まで探検しにでかければこの謎も解けそうだが、さすがに熊が怖くてその気にはなれない。
 その後も相変わらず玉石だらけの瀬ととろ場が交互に現れる。
 完全にスタミナが切れてしまった麻理ちゃんは、沈を繰り返すようになってしまった。岩沈ならぬ疲れ沈というやつだろう。
 途中で一度上陸して、甘いものを食べさせる。
 私も経験があるけれど、沈を繰り返すと、疲れと言うよりもエネルギーが切れてしまったような状態になってしまう。こんな時は、体を休めるよりエネルギーの補充の方が役に立つのだ。
 やがて広々とした河原が現れ、見覚えのある橋が遠くに見えてきた。三つの川が合流している場所である。
 ここでもサダ吉さんが写真を撮ってくれたが、皆本当に満足げな表情で写っていたのがとても印象的だった。
最後の落ち込みはちょっと格好悪い 後はキャンプ場手前の小さな落ち込みをクリアすればゴールである。
 再びサダ吉さんが先回りして、最後の雄姿を写してくれる。
 「格好良く決めてやるぞー!」
 「ウリャ〜ァ!!」
 何だか、とてもへっぴり腰に写ってしまっていた。スキーの時の後傾姿勢みたいだ。
 本人曰わく、「カヌーの底を擦りそうだったので、おしりを持ち上げているつもりなんですが・・・。」
 こうして楽しいヌビナイ川下りは終わった。
 我が家がこれまでに下った川の中で、文句なしで一番美しい川だった。
 さて、これから、本来の目的だったダウンリバーキャンプへ出発である。

一緒に下った皆さん 

この後のダウンリバーキャンプの様子へ 

川下り当日の歴舟川の水位
歴舟川尾田観測所データ  102.32m



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