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釧路川

(屈斜路湖 〜 摩周大橋)

 9月のカヌークラブ例会は釧路川の源流部、屈斜路湖から弟子屈市街まで下る予定だ。
 源流部については美留和橋までならこれまでに2回下っているが、そこから先弟子屈までは初めて下ることになる。
その区間に待ち構えているのが通称「土壁」の難所、ここさえなければ前回我が家が単独で釧路川を下った時も、一気に弟子屈まで下っていたはずである。
 しかしその時は、送迎をしてもらったツアー会社の方から「はっきり言って止めた方が良いですよ。」と言われ、あっさりと引き下がっていたのである。
 今回はクラブの頼りになるベテランメンバーも多いので、そんな難所も全く問題なく下れそうだ。
スタート前の集合写真 10時前にスタート地点の眺湖橋に付いた時は、昨夜からの雨が降り続いていた。
 大急ぎで荷物を降ろし、上陸地点の摩周大橋まで車を回送する。
 再びスタート地点に戻ってきた時はようやく雨も上がって、気分も盛り上がってきた。
 ここで偶然、「丸太小屋通信」のkageさんご一家と遭遇した。
 今朝まで屈斜路湖でキャンプやカヌーを楽しんで、これから北見まで帰るところだという。
 そんなkageさんに、ちゃっかりとクラブの集合写真まで撮してもらって、いよいよ準備完了、川下りのスタートである。
 はやる気持ちを押さえながら、岸辺に止めてあったアリーに片足を乗せようとしたその時である。

 かみさんが、「パドルは降ろしたの・・・。」

 「エッ、・・・

 「な、無い・・・、パドルが乗ってない!

 荷物を降ろす時にしっかりと確認したつもりだったのに、何故かパドルだけは降ろし忘れ、車と一緒に既にゴール地点まで行ってしまったのだ。
 既に他のメンバーは湖にカヌーを浮かべ楽しそうな顔をしている。
 ここまでやってきて釧路川を下らずに帰らなければならないのかと途方に暮れている時、眺湖橋の上でカメラを構えるkageさんの姿が目に入り、何故かその姿が神様のように見えてしまった。
 kageさんとはチミケップ湖で一度会ったことがあるだけで、それほど気心の知れた仲でもない。しかしこの際、初対面の見知らぬ相手でさえ無ければ、そんなことは全然関係なかった。
 「kageさん、すいません、パドル貸して下さい!」
 あまりにも突然、そして必死の形相でお願いする私の迫力に圧倒されて、優しいkageさんは快く、と言うか、訳も分からないまま「ハ、ハイ、良いですよ」と返事をしてくれたのだ。
 その後のことはキャンプ日記に書いてあるので、ここでは省くが、これで何とか晴れて釧路川を下ることができることになったのである。

眺湖橋をくぐる 出発間際のドタバタで心の準備も整わぬまま、眺湖橋下の狭い空間を身をかがめながら通過して、いよいよ釧路川の流れに乗ってカヌーが進み始めた。
 今回の例会では札内川で一緒に下ったアリー2艇も参加している。その中の1艇を今回はソロで漕ぐOさんは、ウィルダネスカヌークラブにも正式に入会したばかりだ。
 Oさんはアリーをソロで漕ぐのは2回目ということで、見ていてもかなり危なっかしい。
 それでも、ベテランメンバーがしっかりとサポートしてくれているので大丈夫そうだ。
 いつもならホワイトウォーター命って感じのメンバーも、今日は完全にリラックスして川を楽しんでいるようである。
 我が家もこの区間を下るのが3回目ともなると、さすがに緊張することもない。他のメンバーの写真を撮るのに良い場所がないだろうかとか、そちらの方に気をとられてしまっている。
 今回の川下りには、地元のカヌークラブ「釧路ラピッズ」からも2名の参加者があり、コースの説明などをしてくれるのでありがたい。
 この区間で一番の人気スポットである湧き水の流れ出している場所は「鏡の間」の名前が付いているそうだ。
 でも、この神秘的な「鏡の間」も、団体で下ってカヌーがひしめき合っていると感動も薄れてしまう。前回単独で下った時は、この「鏡の間」にしばらくカヌーを浮かべ、その雰囲気を満喫したものである。
 倒木は相変わらず多いものの、それも釧路川の楽しい障害物だ。
 最後に美留和橋手前の楽しい瀬を下って、そこで昼食をとった。

大人数での川下り   美留和橋手前の瀬

 そこから先はいよいよ未経験の区間に突入である。
 しばらくは直線区間が続く。美留和橋を過ぎると急に水の透明度も下がってくる。
 退屈な区間なので、「今時期に下るとヤナギダケが採れますよ」との人から聞いた話しを思い出し、岸辺のヤナギの木に注意しながら下ることにした。
 たまに一つ二つのヤナギタケが目に付く程度で、大量に発生しているような場所は見あたらなかった。
 それにしてもこの区間、川幅こそ全然違うものの、何となく美々川の直線区間を思い出させてくれる。
 そこが終わると、いよいよ釧路川の核心部だ。川は蛇行を繰り返し、両岸からも鬱蒼とした河畔林が覆い被さってくる。
 全く人間の手が入っている様子もなく、蛇行部分では川岸がえぐられ、そこに生えていた樹木が川の中へと倒れ込んでくる。
 大雨の時でもそれほど極端に増水するわけでも無さそうだが、増水するたびに岸が削られ続け、新しい倒木も次々に発生するのだろう。
 至る所で行く手を倒木で塞がれるが、何とか枝の隙間をくぐり抜けられるだけのスペースはある。
 タンデムで漕いでいると、前の人間が枝を押しのけながら倒木の中を通り抜けるので、後ろの人間はその枝が思いっきり跳ね返ってきそうで恐怖である。
 前を行くカヌーが水中の倒木に引っかかり、横向きになって行く手を塞いでいる。前後の間隔を開けないで下っていたので、我が家のアリーもそこに突っ込んでしまった。
 後からも次々に舟が押し寄せてくる。普通ならほとんどパニック状態であるが、流れも緩いのでそれほど慌てることもなく、ちょっとしたハプニング程度でそこを切り抜けた。

倒木の嵐1   倒木の嵐2

 そのうちに、川の中に沈んだ倒木が何本も絡まり合っているような難所が現れた。
 先に下ったメンバーがコースを指示してくれる。右か左、どちらからでも行けそうだが、我が家は流れの緩い左のコースに入った。そちらの方が障害物が多くて、最初の倒木を避けると直ぐまたその前が倒木で塞がっている。
 カヌーが上流に向くくらいに一気に方向転換してその倒木を避け、無事にそこを通過。
 我が家の後ろから下ってきたカヤックは右のコースを選択したみたいだが、倒木の間を上手く抜けられずに、枝を掴んでしまったようだ。
 「手を離して!」
 そんな指示が直ぐに飛んだが、そのままバランスを崩して敢えなく沈。その瞬間は見逃してしまったが、多分焦って枝にしがみついてしまったのが沈因、じゃなくて敗因だろう。
 その後をアリーのOさんが下ってきた。
 私と同じ左のコースに入ったが、早くも手前の倒木に引っかかってしまっている。何とかそこから抜け出したと思ったら、今度は次の倒木に。
 それでも慌てることなく、倒木と格闘しながら何とかそこを抜け出すことができた。多分、本人はかなり焦っていたのだろうけど、流れも緩いので落ち着いて行動したら沈することもないはずだ。
 これが千歳川程度の流れがあると、かなり危険な場所かも知れない。
 地元ラピッズの方も、これはちょっとひどいな〜と驚いていた。

沈してる人もいます   Oさんが入り口で悪戦苦闘
倒木で塞がれた場所

 それほどひどくはなくても、倒木に塞がれた場所は次々に現れる。先の方を進みながら、後ろから来るアリー2艇は大丈夫だろうかと心配になるが、何とか沈もしないで下ってきた。
 そしていよいよ問題の土壁が近づいてきたようだ。
 少し間隔を開けて下って下さいとの指示が出る。
 カーブを曲がるたびに、その先に土壁が現れるのかとドキドキする。
 幾つかカーブを回って目の前の倒木を避けた途端、急に流れが速くなり目の前に浅瀬が現れた。釧路川でカヌーの底を擦りそうな浅瀬があるとはビックリである。
 その浅瀬の先は土手にぶつかって流れが左に向きを変えている。右岸よりを進んでいた我が家は、そのままでは座礁しそうなので浅瀬に入る前に慌てて左岸よりに方向を変えた。正面の土手には倒木が絡んでいるものの、いざとなればその浅瀬で舟を下りれば良いだけなのでそれほど危険は無い。
 左岸よりから入って、何とか底を擦らずに浅瀬をクリア、直ぐに左に向きを変える。
 その先は結構波の高い瀬になっていた。周りには倒木も一杯。
 そこで一旦上陸しようと思ったが、先に下っていた別のグループのレスキュー要員らしき人達がいたので、そのまま下り続けることにする。
 その瀬は正面の土壁にぶつかって、今度は右に流れを変えていた。その土壁には特に障害物もなく、同じような流れは何度も経験しているのでそれほど問題は無い。
 ただ、波が高いのでやや緊張しながらも、土壁にぶつかる寸前に右にカヌーを曲げる。曲がった先の右岸側には倒木が折り重なっていて、そこにはクラブのレスキュー部隊が待機していた。
 ここで沈したりすると、その倒木の山に突っ込むことになるのだろう。
 そこで終わりかと思ったら、まだその先まで瀬が続いている。しょうがないのでそのまま下り続ける。その流れは土壁にぶつかり今度は左へ向きを変える。
土壁最後の倒木 その流れがぶつかる部分には、倒木が待ち構えていている。これが多分、一般に紹介されている土壁の倒木ストレーナーなのだろう。
 その倒木にはダッキーの残骸が張り付いていて、如何にもそれらしい雰囲気だ。
 しかし、その倒木はかなり小さく切り込まれていたので、それほど危険な障害物ともなっていない。
 余裕を持ってその手前で左に曲がることができた。そして、その先は普通の釧路川の様相に戻っていた。
 「あっ、このままでは肝心の土壁の写真を一枚も撮らないままで通り過ぎてしまう。」
 そう思った時、ダッキーの張り付いている倒木の後ろがエディになっているのに気が付いた。
 「良し、右のエディに入るぞ!」
 突然そう言われて戸惑うかみさん。
 エディに入りきれず、下流に流される。
 「何してる・・・、もっと漕げよ・・・」と心の中で思いながら、これは二人の息が合っていないパターンである。
 突然、ガツンと水中の倒木にぶつかった感触がしたと思ったら、あっさりとカヌーは上流側に傾く。
 私は直ぐに諦めてカヌーから抜け出したが、かみさんは最後まで抵抗するものだから頭から水の中に落っこちてしまった。
 その後、恐ろしいほどの怒りの表情を顔に浮かべたまま、水の中から浮かび上がってきたのである。
 「こ、これはまずい!」と危機感を感じて、直ぐに謝る。
 「ごめん、ごめん。」
 その程度では、水を飲んで激しく咳き込むかみさんから怒りの表情は消えなかった。
 直ぐに川底に足が付いて岸に寄ることはできたが、土壁なので上陸することはできない。そのまま川の中でカヌーを持ち上げて水抜きをして、再び乗り込もうとしたが、かみさんが「これじゃ乗れないわよ!」
 「浅い方に回って乗りゃあ良いだろ!」と心の中で思いながら、これ以上怒らせるとまずいので「大丈夫、カヌーを押さえてるから反対側から乗ってごらん」とあくまでも優しく声をかけた。
 そうして何とか二人ともカヌーに乗り込み、流れの緩やかになったところで一息つく。
 いつの間にか我が家が先頭に出てしまい、まだ誰も下ってこない。最後の情けない沈は、Sさん、Mさんに目撃されてしまったが、その他のメンバーには見られていないはずだ。
 しばらくしてようやく下ってきたメンバーに何食わぬ顔で合流する。他のアリー2艇も無事に土壁をクリアしたようで、結局ここで沈したのは我が家だけだったみたいだ。
 無言でパドリングするかみさんの後ろ姿を眺めながら、しばらく気まずい川下りが続く。
 土壁を過ぎると、釧路川の激しい蛇行もようやくおさまり、単純な流れに変わった。もしもこのまま難所が続いていれば、この気まずい雰囲気では絶対に息のあったパドリングはできずに、次の倒木に引っかかっていたかも知れない。
 適当な撮影ポイントを見つけても、かみさんが怖くてエディに入ることもできない。
 次の川の分流地点で最後の休憩になった。その頃にはようやくかみさんの機嫌の直ったようで、ホッとする。
 後はゴール地点の摩周大橋まで川を一直線だ。
 漕ぐのを止め、川の流れに任せて流されていく。雨上がりの空に青空も見えるようになってきた。
 スタートしてから4時間、今回も色々と事件は起こったが、充実した釧路川源流部の川下りであった。

川下り当日の水位
釧路川弟子屈観測所 100.15m

遠くに摩周大橋が見えてきた   摩周大橋で上陸


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