釧路川を下り終え、屈斜路湖あたりで温泉に入って、今日のキャンプ予定地多和平へ。
当初の予定ではそうなるはずだったのに、何かしらトラブルが起こって予定どおりに事が進まないのが我が家のいつものパターンである。
今回も釧路川を下る直前にそのトラブルが発生した。
何と、下流に回した車の中にパドルを置き忘れてしまったのだ。
ところが、屈斜路湖キャンプから帰る途中だった「丸太小屋通信」のkageさんが、偶然その場に居合わせたものだから、無理を言ってパドルを貸してもらい、何とか無事に釧路川を下ることができたのである。
kageさんは北見に住んでいるので、下り終わった後は北見までパドルを返しに行かなくてはならない。さすがに北見から多和平まで戻ってくる気にもなれないので、北見方面のキャンプ場に泊まることにした。
翌日は札幌まで帰るだけなので、何処に泊まっても大して関係ないのである。釧路川を下って弟子屈へ到着したのが午後3時、急いで着替えをすませ3時半には北見へ向けて出発した。
雨も上がって、青空も雲のすき間から顔を出すようになってきた。ところが、美幌峠ではまた濃い霧に包まれてしまった。また天気が崩れるのかなと思っていたら、峠の頂上に近づくにつれて霧が次第に晴れてきた。そして、その霧の中を突き抜けた途端、雲海に沈んだ屈斜路湖の素晴らしい風景が目の前に現れたのだ。
「おお、すっげー!」
しかし、先を急いでいるので車を停めて写真を撮っている余裕もない。明日の朝は早起きして、また屈斜路湖まで戻って来ようという考えが頭の中に浮かんできた。
北見では富里湖森林公園キャンプ場に泊まるつもりだ。写真を見る限りではなかなか素晴らしそうなロケーションで、以前から気になっていたキャンプ場である。それでも、札幌からそこに泊まるためだけの目的で、わざわざ出かけてくることも考えられないので、今回がちょうど良いチャンスになったのだ。
ただ、到着時間が遅くなり、既に沢山テントが張られている中を空いているスペースを探して歩き回るというのはどうも好きではない。
そう思って道中を急いでいたが、買い物とかしていたら結局北見に着いたときには午後5時を過ぎてしまっていた。
kageさんに電話をして、市内のGEOという店の駐車場で待ち合わせる。先にそこについて待っていると、突然目の前に車が止まってその運転手の方が手を振っていた。
「あっ、おおぬまさん!」
見聞録からもリンクしている「北見の国から」のおおぬまさんだった。これが初対面になるのだが、ホームページの写真で顔を良く知っているので、全然そんな気がしない。
kageさんから話しを聞いて、わざわざ待ち合わせ場所まで駆けつけてくれたのだ。おまけに、自分で採ってきたボリボリやヒラタケをお土産に持ってきてくれたのである。
そしてkageさんも到着。奥さんと二人の娘さん、わざわざ家族全員で来てくれた。
パドル忘れ事件がきっかけで、思わぬ場所でこうして顔を合わせることができるなんて、何が幸いするか分からないものである。
もっとゆっくりと話しをしたかったが、既に空は暗くなってきているので、皆にお別れして富里湖キャンプ場へと向かった。
西の空には綺麗な夕焼けが広がっていた。
「この夕焼けをキャンプ場でゆっくりと眺めたかったな〜。」
何だかつい先日も、こんな事を考えながらキャンプ場へ急いでいた事があったばかりだ。
日が沈むのが早くなった今時期ならば、午後2時頃にはキャンプ場へ到着して、ゆったりとした一時を過ごしてから夕暮れの時間を楽しみたいところだ。それなのに最近は、あわただしいキャンプばかりが続いている気がする。
キャンプ場に到着した頃は、既に薄暗くなってきていた。
「空いてる!」
湖畔に広がる整備されたキャンプ場と静かな富里湖の佇まい、そこには小さなテントが一つポツンと張られているだけだった。先客のテントが立ち並ぶキャンプ場の様子を思い描いていたので、予想外の光景に思わず笑みがこぼれてしまう。
駐車場から階段を下りて湖岸のサイトに出る。低く刈り込まれた芝生、湖岸に沿って規則正しくベンチとサクラの木が並んでいる。先客のテントから十分な距離を取り、ベンチとサクラの木がちょうど良いバランスになっている場所があった。そんな気に入った場所が見つかった時は、テントの設営作業もとても楽しく感じられる。
ミニマム装備の時は、ベンチ一つがあるだけでとても助かる。速攻でテントを設営。今日は焚き火もできそうなので、札幌から持参してきた薪を車まで取りに戻る。2往復ほどで全ての荷物を運び終え、直ぐにご飯を炊きながら焚き火にも火を付けた。
時間は午後6時半、ここでようやくビールで乾杯することができた。
こうして落ち着いてみると、多和平に泊まるよりもずーっと快適だったような気がする。なかなか良いキャンプ場だ。
夕食は、炊き込みご飯とコンビニで買った味付きカルビ、それにインスタントみそ汁である。このみそ汁に、おおぬまさんからもらったキノコを入れたので、インスタントみそ汁が豪華なキノコ汁に変身した。
それにしても質素な夕食であることに変わりはないが、歴舟川の時のコンビニ弁当よりはずーっとましである。
唯一の先客の男女カップルは、食事を済ませると駐車場の車に戻ってしまったようで、結局サイトは我が家だけで独り占めの状態だ。
静かなサイトは虫の音に包まれ、湖の対岸の山からはフクロウの鳴き声も聞こえてきた。
食事をしている時に1台のバスがやって来て、我が家のサイトのずーっと上の方に駐車していた。
「あんな場所に、展望台でもあるのかな?それにしてもあのバスで何しに来たんだろう?」
その時は大して気にもしないでいたのだが。
やがて、そのバスの方から笑い声が聞こえてきた。どうやらそこでキャンプをするみたいだ。犬も一匹いるみたいで、時々鳴き声が聞こえてくる。
おじさん達の話し声が次第に大きくなってくる。それに混じっておばさん達の笑い声。こんな静かなキャンプ場で、何故それだけ大きな声でしゃべらなければならないのだろう?
それでも、話し声や笑い声は止めどなく大きくなり続け、周囲の山にこだまするようになってきた。犬も興奮し始めたのか、休みなく吠え続けている。
そこについに子供達の登場だ。キャンプへ来て思いっきりハイテンションになった子供達。甲高い声なので、大人達の大声の何倍もあたりに響き渡る。
我が家のこれまでのキャンプ歴でも、これだけうるさい団体キャンパーに出くわしたのは初めての経験だ。山の谷間の小さな湖と小さなキャンプ場、団体キャンパーの歓声だけがそこに響き渡っているのである。
当然、虫の音やフクロウの鳴き声など聞こえるはずもない。
何かの拍子でそれらの歓声が途切れたとき、突然のように真の静けさが戻ってくる。しかしそれもほんの一瞬だけだ。
「頼むから静かになってくれー。」
心の中で祈りながら、ついに我慢も限界に達しかけていた午後9時頃。
「おーい、子供達はそろそろ寝る時間だぞー。」との声。
その声がきっかけで、信じられないような大騒ぎは一気に終わりを告げたのである。まあ、何というか、これを良識的な宴会キャンパーとでも言うのだろうか。
一日遅れの満月が昇ってきた。薄い雲に包まれてしまっているものの、それでもあたりを明るく照らしてくれる。
月明かりに照らされる多和平キャンプ場、そのイメージはなかなか頭の中からぬぐい去れなかったが、ここの月明かりでも十分に満足である。
そして静かに燃える焚き火の炎、再び鳴き始めたフクロウの声、時々湖から聞こえてくる魚の跳ねる水音、釧路川下りの体の疲れをようやく癒すことができた。
前日の阿寒湖と違って、静かな夜をぐっすりと眠って過ごし、そして快適な朝を迎えた。
朝の焚き火とコーヒーを楽しむ。
改めてキャンプ場の中を歩いてみた。
サイトの後ろの傾斜地にずらりと並ぶバンガロー群。そこからの眺めもなかなか良さそうだ。
今回はその1棟だけに利用者がいたが、それらのバンガロー全てが埋まっていたとしたら、そこから見下ろされているような感じで、テントサイトの方では何となく落ち着かなく感じるかもしれない。
湖は本当にこぢんまりとしている。それでも周りを全て山に囲まれ、箱庭的な美しさだ。
かみさんも、「秋にもう一回来ても良いわね。」と言うくらい、ここのキャンプ場を気に入ったみたいである。
確かに、秋の紅葉もここならかなり美しいかもしれない。
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