北海道キャンプ場見聞録
京都一周トレイル三日目 (2020/11/15)
蹴上~北白川
朝7時に宿を出て、地下鉄東西線二条城前駅から電車に乗り、昨日の終了地点である蹴上駅へと向かう。
そうして午前7時半、トレイルを歩き始めた。
そこから直ぐに「ねじりマンボ」を通り抜け、インクラインに出る。
奇妙な名前だけれど、マンボとはトンネルのことであり、強度を増すためにレンガが螺旋形に積まれているので、この様な名前になったらしい。
トンネル内のレンガを見れば捻れているのが分かる
その上のインクラインは、琵琶湖疏水を利用する船が台車に乗せられてケーブルカーで移動していた跡である。
直ぐ近くの南禅寺や水路閣には2度訪れているけれど、このインクラインを見るのは初めてだった。
廃線好きの私にとっては、錆たレールの上を歩けるだけで嬉しくなる。
このレールの上を船が運ばれていた
琵琶湖疏水の流れや、疎水の水を蹴上発電所へ送る太い導水管、ネオルネッサンス建築の旧九条山浄水場原水ポンプ室、どれも私の琴線に触れるものばかりである。
美しい建物の旧九条山浄水場原水ポンプ室
そんな明治遺産と隣り合わせの古びた建屋の中に、義経地蔵がある。
義経を怒らせた武士が義経に斬り殺され、その供養のために建てられたという地蔵。
様々な年代のものが入り混じって存在するのも京都らしいところだ。
ちょっと場違いな感じで存在する義経地蔵
疎水に架かる古い橋を渡って暫く行くと日向大神宮がある。
トレイルはここで、神宮境内を通り抜けるコースと迂回するコースに分かれるが、私達は当然境内の中を通るコースを選択する。
境内を通り過ぎたところに「天の岩戸くぐり」がある。
10m程の狭い岩穴だけれど、通り抜けることができる。
トレイル歩き中の楽しいミニイベントだ。
格調高い神明造の社殿の日向大神宮
杉の根が地表に露出している木の根道が現れた。
この先でもトレイルを歩いていて同じ様な木の根道が何度も現れたけれど、ここの木の根道が一番印象に残っている。
油断しているとつまづきそうになるだけれど、木の根が丁度良い階段代わりになってくれるので、意外と歩きやすい。
段差が一定な人工的な階段と比べて、この様な木の根の階段は段差も不揃いである。
しかし、それが良い刺激となるのか、登っていても人工的な階段より疲れが少ない気がする。
人工の階段よりも登りやすい木の根道
日向大神宮前で分岐したトレイルと、七福思案処で再び合流する。
ここで道が7つに分かれているので、その様な名前が付けられたのだろう。
標識は整備されているけれど、進む道を間違えないように何度も確認してから歩き始めた。
ここから大文字山に向かってひたすら登っていくことになる。
倒木が多くなってきて、所々で道が塞がれていた。
2018年の台風21号による倒木らしい。
この先トレイルを歩いている途中で、酷い倒木の様子を何度も目にすることになる。
台風21号については、関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突した映像が印象に残っているくらいだけれど、京都にも多くの爪痕を残していたのである。
2年前の台風から復旧は進んでいるけれど、まだこんな状態のところも多い
昨日の清水山で石を拾ったような、方形節理の岩も目に付くようになる。
そんな岩場を登ってふと後ろを振り返ると、思わず展望が開けていた。
京都市内ではなく、山科方面が見えているようだ。
トレイルを歩いているとこの様な岩盤が何度も目に付いた
トレイルは大文字山の山頂を経由しないので、手前の分岐でトレイルから外れ山頂を目指した。
そして、分岐から5分もかからず、午前9時10分大文字山山頂に到着。
山頂からは期待していた以上の展望が広がっていた。
京都盆地に山科盆地、その2つを分ける山の連なりは、昨日、一昨日と歩いてきたトレイルコースのある山並みだろう。
大文字山からの展望
私達が登ってきたのとは反対側から山頂に登ってくる人も結構いる。
そちら側には大文字送り火の火床があるはずだ。
火床までは20分程かかり、その先は銀閣寺に繋がっているようだ。
地元の方はそちらのコースを歩く人が多そうな様子だが、私はトレイルコースを忠実に辿ることを目的としていたので、山頂からの景色を楽しんだ後は、登ってきた道を引き返して京都一周トレイルへと戻った。
賑わう大文字山山頂
ここからは谷筋に沿った急な下りとなる。
昨日一昨日には使わなかったストックだけれど、今日は急な下りに備えてストックを取り出した。
痛めた膝には下りが一番辛いのである。
杉木立の中に突然、大きな岩が現れた。
岩の表面には何本もの筋が刻まれている。
この大岩も、もっと風化が進めば方状節理で細かく砕けていくのだろう。
大岩の上に乗ってみた
更に下っていくと、高さ3mくらいはありそうな巨大な石が忽然と現れた。
先程の大岩とは違って、自然に存在するものではなさそうだ。
その石の反対側には「俊寛僧都忠誠之碑」と刻まれていた。
後で調べてみると、俊寛は平安時代後期の真言宗の僧で、ここにあった鹿谷山荘で平家に対する謀反を企み、それが発覚して平清盛に囚われ鬼界ヶ島に島流しになったのだとか。
そんなことよりも、こんな巨大な石をどうやってここまで運んできたのかに興味が湧いた。
最初は自然に立っている石かと思った俊寛僧都忠誠之碑
その疑問は直ぐに解決した。
その直ぐ下に楼門の滝と呼ばれる滝があり、その周辺には碑に使われているような巨大な石がゴロゴロと転がっていたのである。
沢の中には巨大な石がゴロゴロ転がっていた
滝そのものは、岩肌を水が伝い落ちるタイプの滝でそれ程の迫力はない。
しかし、その周りの風景は今にも崩れ落ちそうな巨大な岩が迫り、なかなかの迫力である。
楼門の滝
山道が終わってようやく舗装された道へと出てきてホッとする。
そこに小さな寺があったのでちょっと寄り道する。
鹿ヶ谷山瑞光院である。
奥の方まで入ってみると滝行場らしき場所があり、そこに祀られている不動明王が良い雰囲気だった。
鹿ヶ谷山瑞光院の滝行場に祀られた不動明王
街に出てくると、霊鑑寺、安楽寺、法然院と、紅葉で知られている寺が並んでいた。
この辺りも過去に2度ほど歩いた事がある。
中までは入らずに外から紅葉の色付き具合を確認するが、見頃にはまだ少し早いようだ。
街まで下りてきた
安楽寺の入り口、紅葉の見頃までは後少し
京都一周トレイルとも重なっている哲学の道を歩く。
午前11時を過ぎ、そろそろ昼飯の時間である。
観光地なので早めに店に入ろうと思ったが、人気店らしき店には既に長蛇の列ができている。
後で調べてみると、その店は「おめん 銀閣寺本店」だった。
うどんが美味しいらしく、食べログの点数も高い。
日曜日にそんな店に入るためには開店前から並ばないと駄目だろう。
哲学の道は桜の紅葉が散りかけていた
昼食難民にならないように、焦って食べログで適当な店を探す。
一昨日は蕎麦、昨日はうどんを食べていたので、今日はラーメンである。
かみさんは昼食にはごはん類を食べたがらないので、どうしても麺になってしまうのだ。
そうして入ったのは、銀閣寺からも離れた、地元の人が主に利用するようなラーメン店「中華そばますたに北白川本店」。
あっさり系のラーメンが好きな私達夫婦なので、背脂がたっぷりと浮かんだ運ばれてきたラーメンを見て愕然としたが、見た目とは違ったあっさりとした味に、珍しくかみさんも高評価を与えていた。
見た目と違ってあっさりとした味のラーメンは美味しかった
今日のゴールは、明日の出発点ともなる北白川仕伏町バス停である。
そこへ向かう途中、最後に白川天神にお参りする。
この神社の井戸の水が名水があると聞いていたので、その場所を探すが全然見つからない。
迷っていると、ポリタンクを抱えた母子が参道の階段を登ってきた。
どう見ても、そのポリタンクに水を汲みに来たとしか思えないので、名水を飲める場所を聞いてみる。
白川天神の参道
予想は当たっていたけれど、その女性も人から「名水がある」と聞いただけで、場所までは知らないとのこと。
ずっこけてしまった。
持っていた資料を確認したところ、入口にあった手水舎の水がその名水らしい。
その事を女性に伝えてから階段を下りて手水舎に向かう。
そこの水は確かに、横にある井戸から取水しているようだ。
身を清めるための手水舎の水を飲んでも良いのかなと思いながら、一口だけ口にしてみる。
それが名水かどうかは、私には判別できなかった。
この手水舎の水が名水だった
そうして午前12時過ぎに目的地のバス停に到着し、今日のトレイル歩きが終了。
行動時間は4時間半、歩いた距離は9.7キロと少しだけ楽できた一日だった。
もっとも、最初の計画では昨日と今日歩いたコースを一日で歩くつもりでいたのを、時間はたっぷりとあるのだから無理をすることはないと、二日間に変更したのである。
計画通り、一日で歩いていたとしたら、疲れ果てて翌日は休養日にしていたかも知れない。
何しろ、明日はいよいよ比叡山超えなのである。
北白川仕伏町バス停からの市営バス3系統は、泊まっている宿の直ぐ近くのバス停に止まるので、今日は帰ってからもゆっくりすることができた。