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知床縦走(2016/08/04〜05)

2〜3日目(第一火口キャンプ指定地〜岩尾別バス停)


第一火口のテン場で迎える縦走2日目。
夜中に一度、テントから顔を出して空の様子を窺ったが、星の姿は見えず。

霧に包まれる第一火口キャンプ指定地朝起きると、雲が多いものの青空も見えていた。
ただ、雪渓の上から流れてくる霧で地表面付近だけが霞んでいる。

その霧はヒンヤリと冷たいが、テントの周りを歩いていると、時々モワッと暖かな空気に包まれることもある。
何とも不思議な感覚だった。

かみさんが、その霧と一緒に獣臭が漂ってくると言っていた。
私は臭わないが、獣臭には敏感なかみさんなので、多分近くに熊がいるのかもしれない。
ここへ降りてくる道の途中にも熊の糞が転がっていたのは確かである。

でも、大人数のパーティーが先に出発しそうなので、それ程心配はしていなかった。
パーティーを見送り、熊との遭遇も無かったことを確認してから、私達も5時50分にテン場を出発した。

雪渓の上も水蒸気が立ちこめ、眼鏡やカメラのレンズが曇ってしまう程だ。
今日は気温も上がっているのかもしれない。


雪渓を登る 熊の糞
一部が凍った雪渓を登る 急登を登った先には熊の糞が

第一火口への分岐まで戻り、一旦下って後は知円別岳への細い稜線歩きとなる。
ここが今回の縦走中で一番心配していた部分である。

火山灰のザレ場の急登まずは、アオノツガザクラやエゾノツガザクラが花を咲かせる斜面を楽しく下っていく。

下った後には火山灰のザレ場の登り返し。
大雨が降った後、テン場で一緒だったパーティーや一緒に登った2組が既にそこを歩いていて、その後がはっきりと残っていたので助かった。
もしもそれが無かったら、所々に雨が流れた跡もあり、ルートを見失っていたかもしれない。

そこを登りきって、いよいよ細い稜線歩きとなる。
しかし、心配していた程細くはなく、先を歩いていたかみさんも臆することなく進んでいく。
細くなった場所も、下にハイマツが生えていたので、滑落の恐怖はあまり感じない。

しかし、その先の岩場からかみさんの表情が引き攣り始めた。
切れ落ちた崖の様な場所を、岩にしがみつきながら越えていかなければならないのだ。


痩せ尾根 切れ落ちた岩場
この程度ならまだ大丈夫 足を踏み外すと命はない

コケシ岩やっとそこを超えたと思ったら、その先にそそり立つ奇妙な形の岩。
コケシ岩とも呼ばれているらしい。

ネットの情報では、その岩の間をすり抜けたとの話しもあったが、すり抜けるだけの広さは無かった。

恐る恐るその岩を回り込むと、ハイマツ帯に入ってようやく人心地付いた。

そこで反対側からやって来たツアーの人達とすれ違う。
彼らはこの先の二ツ池キャンプ地に泊まっていたとのこと。
赤ちゃん連れの外人夫婦について訪ねると、やっぱり同じ場所に泊まっていたらしい。

恐怖の痩せ尾根知床連山を1泊で縦走する場合、大体はその中間地点である二ツ池キャンプ地を利用するのが一般的だ。
それが2泊になると、今朝一緒だったツアーのように、第一火口と三ツ峰のキャンプ地を利用するのがちょうど良いのである。

その先で待ち受けていた痩せ尾根は、さすがに怖かった。
何せ、二人とも高所恐怖症気味の夫婦なのである。
痩せ尾根から両側に見下ろせる荒涼とした風景は、余計に背筋を寒くさせる。
そこを渡り終えた後は心底ホッとした。


第一火口を望む
眼下には第一火口が見えている

風景が一変知円別岳を過ぎるとそれまでの風景が一変する。
赤茶けた火山地帯が緑に覆われた山へと変わるのである。
そして登山道沿いには沢山の花が咲いていた。
この辺りが知円別平らしい。

チングルマは既に綿毛に変わっていたけれど、アキノキリンソウ、ミヤマサワアザミ、ハイオトギリ、ハクサンチドリが登山道の周りに広がる。

小さなピークを越えると、その先には湿原が広がり、その真ん中に登山道が続いていた。
ヒグマの姿が見えないか、ついつい探してしまう。

ヒグマに行く手を遮られ、何時間も動けなくなるという話しがネットにも沢山アップされているのだ。
縦走する場合、引き返すこともできないのでヒグマが避けてくれるのをじっと待っているしかないのである。


知円別平
知円別平の中に続く縦走路

イワギキョウ幸いヒグマの姿もなく、湿原を横断して次のピークに登ると、そこにはお花畑が広がっていた。
大雪と比べると規模は小さすぎるが、礫地の中にシレトコスミレやメアカンフスマが沢山自生している。

ただ、時期が遅かったせいか、シレトコスミレの花は一輪も見られなかった。
その代わりにイワギキョウが沢山咲いていたのは嬉しかった。

この辺りでは右にオホーツク海、左に根室海峡の海を見渡すことができて、晴れていれば知床半島を縦走していることを実感できるらしい。

しかし今日は、上空に雲が広がり、根室海峡は雲海に覆われ、オホーツク海も霞んでしまって、そんな気分にはなれない。

曇り空しかもその先、南岳のハイマツ地獄が待ち受けていた。
登山道を隠すように伸びているハイマツの枝をかき分けながら歩かなければならない。
時々、ハイマツがザックに引っ掛かって歩みを止められる。
赤ちゃんを抱っこした彼女もこのハイマツ地獄を歩いたとは、どうしても信じられなかった。

南岳の山頂を過ぎるとようやく眺めの良い場所に出てきた。
これまで歩いてきた硫黄山や知円別岳の稜線が真正面に見えている。

ここでようやくハイマツ地獄も終わりかと喜んだが、その先もまだ延々と続いていた。
ようやく二ツ池が見えてきたけれど、結局、ハイマツ地獄はその二ツ池直前まで続いていたのである。


南岳から硫黄山を望む
硫黄山を背景に

9時45分に二ツ池キャンプ地に到着。
第一火口を出てからここまで4時間近くかかったことになる。
第一火口からの登り返しにかかった時間を差し引いてもおよそ3時間。

二ツ池キャンプ指定地とオッカバケ岳昨日の内にここまで辿り着くのは、私達の体力では絶対無理だったと思う。
登山者としての自分の体力の無さを、ここで実感させられた。

二ツ池で20分程休んでから、再び先に進む。
その先のオッカバケ岳へは100m以上の登りとなるが、途中に花畑もあって、苦労せずに登ることができた。

しかし、その先に聳えているサシルイ岳の姿を見て心が折れそうになる。
せっかく登った分をそっくりそのまま降りて、更にそれ以上の高さまで登らなければならないのだ。

山をかわすような、もっと楽な縦走路にして欲しいと思ったが、山を越えながら進むのが山岳縦走なので、これは我慢するしかなかった。

サシルイ岳でも、一旦下ってからの登り返す標高差は200mちょっと。
見た目とは違って、数字的にはそれ程厳しいものではない。
登山道も細い沢の中に続いていて登りやすく、周りの花も多い。

楽にそこを登りきると、その先には次の山である三ツ峰が見えていた。
そしてその手前に今日の目的地である、キャンプ地らしき場所も確認できる。

元気を出して歩き始めるが、それにしても風が強かった。
南岳付近から吹き始めた風は、次第に強さを増し、上空の雲の動きも速くなってきている。


三ツ峰とキャンプ指定地
三ツ峰の麓に今日の野営地が見えてきた

12時45分、余力を残して三ツ峰キャンプ指定地に到着。
私達がテントを張っていると、三ツ峰の方から下ってきたソロの男性と、2人連れの男性がやって来た。

三ツ峰キャンプ指定地 彼らはいずれも二ツ池キャンプ地を目指すとのことで、ここで水を補給して直ぐにまた出発していった。
結局この後は、縦走者の姿を見ることは一度も無かった。

遠くからここを見た時は、周りに雪渓も見当たらず、8月には水場も涸れることがあると聞いていたので、ちょっと心配していたが、チョロチョロと流れる小さな沢水があり、ホッとする。
早速そこでビールを冷やす。

キャンプ地は窪地のような場所に有るので、上空を吹き抜ける強風は当たらないものの、それでも結構風が強い。
曇っていて日も当たらず、寒いくらいである。

早めにキャンプ地について、今日はゆっくりと寛ごうと思っていたのに、寛げる雰囲気ではなかった。
ビールを飲んでも、昨日の味とは雲泥の差である。
身体も冷えてきたので、それぞれのテントに潜り込む。

三ツ峰キャンプ指定地15時過ぎになってようやく日が射してきた。
そうして、あっと言う間に青空が広がる。
その空には風の強い時に現れるような独特の雲が浮かんでいた。

このまま天気が回復するのかと期待したが、オホーツク海の方から次々と雲が流れてくる。
晴れてさえいれば、ここも素晴らしい風景を楽しめるテン場である。
流れてくる雲が、直ぐにその風景を隠してしまう。

そんなことを繰り返しているうちに、とうとう周りは本格的なガスに包まれてしまった。
サッサと夕食を済ませて、再びそれぞれのテントに潜り込む。


三ツ峰キャンプ指定地
三ツ峰キャンプ指定地とサシルイ岳

疲れているので直ぐに眠れるかと思ったが、なかなか寝付けなかった。
かみさんも同じだったようで、ラジオで日ハムの負け試合を聞いて、腹が立って余計に眠れなくなったらしい。

明け方近くになると風も止んでいた。
もしかしたら一面の星空が広がっているかもしれないと、期待しながらテントの外を覗いたが、星の姿は全く確認できず。
ガッカリしてシュラフに潜り込むと、しばらくしてポツポツとテントを叩く雨音が聞こえてきた。
「霧がたまたま濃くなって霧雨が降ってきたのだろう」と思っていたが、次第に本格的な雨音に変わってくる。

ビックリして、繋がりづらいスマホを頭上に持ち上げたり向きを変えたりしながら、雨雲レーダーの画像を受信する。
そしてそれを見ると、雨雲は全道に広がっていたのである。
幸いなことに知床半島にかかっている雨雲はそれ程大きくはないので、この雨も長くは降り続きそうにない。

三ツ峰を目指すこの日は羅臼岳に登ってから岩尾別温泉まで下山する予定だったが、羅臼岳はパスして真っ直ぐに下山することに決めた。
とりあえず朝のコーヒーを飲み、朝食を済ませ、荷物を片付ける。
さすがに雨の中でテントを撤収する気にはならず、雨が止むのをテントの中で待つことにする。
羅臼岳に登らなければ、時間的にはかなり余裕があるので、そんなに急ぐ必要もないのだ。

そうして雨が止んだので行動開始。
最後にずぶ濡れのテントをゴミ袋の中に詰め込んでザックに収納。
6時10分にキャンプ地を出発した。

まずは三ツ峰を目指して100m程登る。
三ツ峰は、その名の通り三つのピークがあるが、登山道はその間の鞍部を通るので、登る標高差が少ないのが嬉しかった。
後ろを振り返ると、空は曇っているのにサシルイ岳が山頂までくっきりと見えていた。

羅臼岳はガスの中この様子だと、三ツ峰を登った先で初めて見えてくる羅臼岳の展望も良さそうだ。
そんな期待をしていたものの、羅臼岳の山頂はガスの中だった。
それでもそのガスが動いていたので、山頂が姿を現すまで少し待つことにする。

せっかく知床を縦走して、羅臼岳の姿も見ないまま下山してしまっては、縦走した意味が無いのである。
しかし、もう少しで山頂が見えそうになったのに、ガスが今度は反対方向に流れ出し、再び山頂を隠し始める。
そこで見切りを付けて、このまま下山することにした。

羅臼岳の登山道は、それまでの縦走路と比べると、整備のされ方が全く違っていた。
歩きやすくて、下りが苦手な私達でも楽に降りていける。

羅臼岳の登山道コースタイムどおりに歩けるとしたら、シャトルバスの空いている時間帯に間に合うかもしれない。
何しろ、身体が強烈な臭いを発しているので、混んでいるバスには乗りたくないのだ。
大雪山での3泊の縦走でもこれ程臭くはならなかったのに、やっぱり汗をかいた量が全然違うのだろう。

登山口で温泉に入ってからバスに乗る方法もあるが、温泉に入った後にバス停までの4キロの道程を歩く気にはなれないだろうと考えていたのだ。

天気が悪いのに、さすがに百名山の羅臼岳だけあって、次々と登山者とすれ違う。
こちらは雨具で完全武装しているのに、登ってくる人達は軽装の人が多い。
確かに今日も湿度は高く、登ってくる身にとっては、暑くて雨具など着ていられないのだろう。

こちらは、雨が降っていなくても、登山道に張り出した木々の枝に触れるだけでびしょ濡れになるので、雨具は脱げないのだ。
それでも、下の方まで降りてくるとそれも無くなるので、上着だけは脱ぐことができた。
登山道も乾いていて、もしかしたら下界では雨も降っていなかったのかもしれない。

途中で見覚えのある顔の女性と出会ってビックリした。
相手の方もかなり驚いたようだ。
それは、大雪の縦走時にテン場で2回も一緒になり、トムラウシ山山頂での御来光も一緒に見た女性だったのである。

岩尾別のバス停がゴール神奈川県から来ている方で、大雪縦走後も道内を回っていたらしい。
昨日は斜里岳に登り、今日から知床を縦走するとのこと。
また何処かの山で会えたら良いですねと言って別れる。

そうして9時45分、岩尾別温泉の登山口まで降りてきた。
そこから更にシャトルバスのバス停まで3.5キロ。
何とか10時44分のバスに間に合い、知床自然センターへと戻る。
これに乗り遅れると次のバスは11時24分になってしまうのだ。
そして、知床自然センターで食べたコケモモソフトが無茶苦茶に美味しかったのは言うまでもない。

知床縦走2、3日目のアルバム 

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2日目 第一火口キャンプ指定地5:50 - 第一火口分岐6:25 - 知円別岳7:35 - 8:45南岳8:55 - 9:50二ツ池10:10 - オッカバケ岳10:40 - サシルイ岳12:10 - 三ツ峰キャンプ指定地12:60  (縦走記録グラフ
3日目 三ツ峰キャンプ指定地6:10 - 羅臼平6:55 - 銀冷水7:40 - 弥三吉水8:40 - オホーツク展望9:15 - 木下小屋9:45 - 岩尾別バス停10:30 (縦走記録グラフ



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