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大雪山縦走(2016/07/22)

3日目(忠別岳避難小屋〜南沼キャンプ指定地)


テン場に月が出た大雪縦走三日目の朝、テントから出て最初に目に飛び込んできたのが山小屋の上に浮かんでいる丸い月だった。
縦走最初の夜が丁度満月だったのに、これまでその月の姿を一度も見られずにいたのである。
ようやく今日は青空の下を歩けそうだ。

早く出発したかったけれど、朝露でびっしょりと濡れたテントの撤収に手間取り、歩き始めた時は既に6時を過ぎていた。
それでも、今日の野営予定地である南沼までのコースタイムは6時間なので、比較的余裕はある。

小屋に泊まっていた人達も皆、今日は南沼のキャンプ指定地に泊まるようだ。
スタートしたのは私達が一番早く、直ぐ後から単独の女性が付いてきていた。


濡れたテントを乾かす 忠別岳避難小屋を出発
朝露で濡れたテントを乾かす 小屋を出て雪渓を渡る

素晴らしい青空が広がっていたけれど、旭岳付近だけに雲がかかり、その山頂を隠していた。

五色岳への登りはハイマツ等が茂っていて早朝には朝露で濡れると夏山ガイドなどに書かれていたので、念のためザックカバーを付ける。
しかし、邪魔な枝は全て切られていて、拍子抜けするくらいに歩きやすくなっていた。

下界には雲海が広がっていた五色岳の山頂は、小さな広場になっているだけで、山頂らしい雰囲気はない。
そこでは一人の男性が休んでいた。
沼の原から登ってきて昨日はヒサゴ沼に泊まっていたとのこと。
かなり健脚な方なのだろう。

直ぐに単独の女性も追い付いてきた。
途中で結構距離が開いていたと思ったが、彼女も意外と健脚である。

トムラウシ山がもうかなり近くに見えてきていた。
雲海が広がっている下はトムラウシ温泉辺りになるのだろうか。


忠別岳と旭岳
遠くに見える旭岳付近だけに雲がかかっている

トムラウシ山が美しく見える一休みしてから再び歩き始める。
ハイマツ群生地を抜けると、トムラウシ山の見事な山容が目の前に広がっていた。
多分、ここから眺めるトムラウシ山が一番美しく見えるのではないだろうか。

そんなトムラウシ山の姿を眺めながら歩いていくと、所々に花畑が広がり始める。
登山道は木道に変わり周りは湿原へと変わってくる。
これから向かう化雲岳がその先に見えているが、その姿は高根ヶ原から眺める忠別岳にとても良く似ている。

木道はやがてエゾノハクサンイチゲやチングルマの咲く広大な花畑の中へと入っていく。

花畑の中に続く道 花畑の中には大小の池塘が点在し、その水面に青空が映り込む。
その向こうにはトムラウシ山がどんと構えている。

この辺りが神遊びの庭と呼ばれているらしいが、その呼称は決して大げさではない。

化雲岳への緩やかな登りが始まっても、周りには花畑が続いていた。

忠別岳から続いている切れ落ちた崖の縁へと出てきた。
まるで爆裂火口の様に見えるが、これは多分、谷の底を流れる化雲沢川が削りだした巨大な谷なのだろう。
その谷の向こうに見えている旭岳や白雲岳は、相変わらず山頂付近に雲がかかったままである。


池塘とトムラウシ山
美しすぎる風景だ

旭岳に白雲岳
旭岳や白雲岳の山頂は雲に隠れてしまった

化雲岳 神遊びの庭
木道の先に化雲岳 神遊びの庭を堪能

化雲岳山頂からの展望そこから最後に一登りして化雲岳の山頂に到着。
その山頂には巨大な岩が鎮座していて、その上まで登る人がいるのかもしれないが、高所恐怖症の私は遠慮しておいた。

崖の縁に添って更に登山道が伸びている。
その先は天人峡温泉へと続いているはずだ。

トムラウシ山はもう目の前に見えている。
しかし、その周りに雲が増えてきているのが不安だった。

一休みしてからトムラウシ山に向かって化雲岳を降りていく。
相変わらず周りは、チングルマとエゾノハクサンイチゲが一面に咲き乱れる広大な花畑となっていて、その中を木道が通っている。

途中でヒサゴ沼への分岐があり、木道はヒサゴ沼の方向に向かって伸びていた。
花畑の中に続く木道を歩いていきたくなるが、遠回りになってしまうので、そのまま礫が多くて歩きづらいトムラウシ山への縦走路へと進む。


花畑の中に続く木道とトムラウシ山
トムラウシ山を眺めながら何処までもこの木道を歩いて行きたい

荒々しい風景に変わる登山道の様子が一変したように、周りの風景も一変した。
これまでの「もしも天国が有るとしたらこんな所かもしれない」と思えるような美しい風景が、溶岩の岩がゴロゴロと転がる荒々しい風景に変わったのである。

地獄という表現はちょっと違うかもしれないが、まるで天国から一気に地獄までやって来た気分だった。

ヒサゴのコルまで降りてくると、そこからまた登りになる。
ヒサゴ沼のテン場も見えてきた。
その向こうに見えている山はニペソツ山らしいが、どの辺がニペソツの山頂なのかが分からない。

いわとハイマツの間を縫いながら歩く一面に広がるハイマツ帯の中に巨岩が点在する、何とも不思議な風景が目の前に現れた。
登山道は迷路のように曲がりくねって、巨岩やハイマツの中をすり抜けていく。

その先に見えているトムラウシ山は、とうとう山頂に雲がかかり始めていた。

干上がったばかりのような大きな沼地があった。
つい最近まではその中央部に水が溜まっていたのだろう。
そこを丸く取り囲むように白や黄色、ピンクの花がビッシリと咲いている。

遠くて種類までは分からないが、雪田植物のチングルマやメアカンキンバイ、エゾコザクラなどだろうか。
近くで見られないのが残念だ。


ヒサゴ沼と東大雪の山々 干上がった池
ヒサゴ沼の向こうには東大雪の山々が見える 干上がった池の周りで咲く雪田植物

大雪山の日本庭園周りの岩がチングルマやエゾノツガザクラにすっかりと覆われていた。
そんな風景に感動しながら歩いていくと小さな沼が行く手に現れた。
それが天沼である。
周りの岩は全てチングルマの群落に覆われ、この世のものとは思えない美しさである。

この辺りが日本庭園と呼ばれているらしいが、こんなに美しい日本庭園は見たことがない。
正に自然が作り上げた芸術品である。
霧が出てきて、その風景を更に幻想的に見せてくれる。

しかし、その先の巨岩地帯。
またしても天国から地獄の感である。

巨岩地帯で苦労するかみさん大きな岩の上をバランスをとりながら歩かなければならない。
足を踏み外せば大怪我は必至である。
岩にペンキで印が付けられてはいるものの、そこからちょっとでも外れると行き場を失ってしまう。
特に、背が小さくて股関節が硬いかみさんは、こんな所が苦手なようで苦労していた。

ようやくそこを切り抜けたと思ったら今度は巨岩地帯の急な上り坂。
トムラウシは簡単に登れる山ではないことを実感させられる。

そこを登りきったところで一休み。
忠別岳の避難小屋を一緒に出た女性に途中で追い抜かれ、彼女はもう遥か先まで進んでいた。

北沼とトムラウシ山頂そこから少し下がったところに北沼があり、トムラウシ山の山頂は北沼の直ぐ先に見えていた。
6年前に登山者8名が死亡する遭難事故が発生したのもこの辺りである。
その時は大雨で北沼が溢れ、大きな川となって登山道を横切っていたそうである。

今は、そんな状況が全く想像できないくらいに北沼は穏やかな表情を見せている。
今日の宿泊は南沼キャンプ指定地。
北沼分岐から直接南沼へ行くルートも有り、先にテン場で荷物を下ろして空身でトムラウシ山へ登ろうかとも考えていた。
しかし、それも面倒なので、そのまま一気に山頂を目指す事にする

ここでもまた、かみさんの苦手な巨岩地帯が山頂まで続いていたのである。
そこを何とか登って、山頂で休憩している人も直ぐ目の前に見えたところに、最大の難所が待っていた。

山頂への最後の岩場 周りに支えになりそうなものが何も無いところで、巨岩の上を飛び石を渡るように飛び越えなければならないのだ。
しかも、その巨岩の下には空洞が広がっていて、落ちたら一巻の終わりである。

私は何とか渡れたけれど、かみさんは完全に怖じ気づいてしまって「私はここで良いから」と言い始めた。
ここで良いと言っても、その巨岩の上を渡らなければ山頂どころか、その先へも進めないのである。
手を伸ばしたら何とかかみさんの手を掴めたので、そのまま一気に飛び越えさせた。

そうして12時30分、苦労してたどり着いたトムラウシ山の山頂だったが、ガスに包まれて周りの展望は無し。
晴れてきそうな気配も無いので、諦めてそのまま南沼のテン場まで降りることにする。


ヒサゴ沼と東大雪の山々 干上がった池
ヒサゴ沼の向こうには東大雪の山々が見える 干上がった池の周りで咲く雪田植物

下山途中の花畑南沼までの登山道は、相変わらず巨岩だらけだったけれど、それ程厳しい場所も無く、途中には日本庭園で見たような花畑もあり、楽に降りられた。

13時40分に南沼キャンプ指定地に到着。
ここにも見事な花畑が広がっていた。
その花畑の中に大小のサイトが点在している。
まるで天国のようなテン場である。

迷った末に場内の一番高い場所にテントを張る。
その上に大きな雪渓があり、そこからの雪解け水が高低差のある場内を流れていく。
それぞれのサイトから近い場所で水を取れるので、なかなか便利である。

早速その流れでビールを冷やす。
先にテン場についていた単独の女性も、直ぐ近くの花に囲まれたサイトにテントを張っていた。

我が家のテントここのテン場もガスに包まれていた。
晴れたかなと思っても、直ぐに雪渓の上から流れるようにガスが降りてきて、辺りを真っ白にしてしまう。

程良く冷えた最後のビールで乾杯。
最高のテン場だけれど、トイレが無いのが欠点である。
携帯トイレブースがあるので、初めてそこでオシッコを固める携帯ミニトイレ「プルプル」を使ってみた。
こうやって入れ物に入れるとオシッコの量も結構多いことに驚いてしまう。
最後の缶ビールを空けて荷物が軽くなるかと思ったら、それ以上の量のオシッコを持って歩かなければならないのだ。

それなので、オシッコだけは近くの薮の中で済ませることにした。
携帯トイレブースの横からは、同じような人達の踏み跡がずーっと奥へと続いているのである。

携帯トイレブース 注意しなければならないのは、そんな踏み跡を辿っていくと、その脇にウンコが放置されていることだ。
これはちょっと酷すぎる。
携帯トイレブースがあるのだから、せめてウンコだけは持ち帰るようにしてもらいたい。

確かに、ウンコを持って歩くのはかなり抵抗があると思う。
私も、3泊の縦走中にウンコが出なかったのでホッとしたくらいである。
これまでウンコを持って下山した経験はないけれど、もしも出てしまえば常に持ち歩いている携帯トイレを使う覚悟はできている。

それと、オシッコだってできればサイトに影響のないずーっと遠くでしてもらいたいものだ。
私達のテントを張った場所が一番端の方だったので、どこからともなくアンモニア臭が漂ってくるのだ。
下手をすれば、それが沢水に流れ込むことだって考えられる。

花に囲まれた南沼キャンプ指定地テレビ番組で山のテン場が大量のテントで埋め尽くされている映像を良く見るが、私がそれを見て一番最初に思うのが、ここに泊まっている大勢の登山者の排泄物はどうなっているのだろうと言うことである。
山のトイレ問題は本当に深刻だと思う。

大雪縦走最後の夜も、月の姿を全く見られないままに終わってしまった。

大雪縦走4日目

大雪縦走3日目のアルバム 


忠別岳避難小屋6:10 - 避難小屋分岐6:25 - 7:05五色岳分岐7:15 - 8:20化雲岳8:35 - ヒサゴのコル9:05 - 9:40天沼9:55 - 11:35北沼分岐11:40 - 12:25トムラウシ山13:10 - 南沼キャンプ指定地13:40  (縦走記録グラフ



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