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長峰裏(2016/2/6)

主役は誰?


体力の無い人でも参加できるようにしよう。 
そんなコンセプトの元に、長峰裏の通称で呼ばれるバックカントリーのツアーが企画された。
漠然と「体力の無い人」と言っているけれど、そのターゲットがN島先輩ただ一人であることは皆の共通認識である。

簡単に登れて、滑る斜面も難しくない。私は、銀山駅の裏から登る稲穂嶺がN島先輩にはちょうど良いだろうと考えていた。
しかし、他の人達は自分が楽しむ事しか考えていないので、そんな山は全くの論外。リフトで簡単に登れる長峰裏がちょうど良いだろう、とのことになったのである。

リフトで登れたとしても、滑るところはかなりの急斜面。そして、滑った後はそこを登り返さなければならない。
リフトを使わない山ならば、登り疲れたら途中で止めることもできるけれど、ここでは何が何でも元の場所まで登り返さなければ帰ることさえできないのである。

長峰山頂は吹雪そして当日、集まったのはN島先輩を含めて何時もより多めの10名。
どう考えても、初心者向きの山だと思って集まってきた人達ではなかった。

まずは2本のリフトを乗り継いで長峰山頂へ。
リフト代だけで1400円もかかる。
我が家は夫婦二人分で2800円。バックカントリーで遊ぶのには痛い出費である。

3週連続の好天を期待していたけれど今日は吹雪模様の天気である。
リフトを降りてドロップポイントまで移動する時も、前の人を見失いそうになるくらいに視界も悪い。

「今日は前回みたいに雪は深くないですよね。」
N島先輩が不安そうに呟く。
普段深雪を滑る機会が無く、目国内岳で散々苦労していたので、それが気がかりなのだろう。

ノートラックの斜面を見下ろす残念ながら雪の深さは半端ではなかった。
実は昨日、強風で長峰のリフトは動いていなかったらしい。
ここでは、昨日、一昨日とそれぞれ15センチ程度の雪が降っていたので、少なくとも30センチの深雪となっていることになる。

長峰裏は外人ツアーがどっさりと入っていて、多分そこの斜面は既にズタズタになっているだろうと、誰もが考えていた。
ところが、30センチの積雪で古いトレースの大部分は埋もれているようだが、全くの手付かずの斜面も沢山残されていたのだ。

そんな斜面は、それこそ底無しの深雪である。
おまけに今日は私達以外のパーティーの姿は見当たらない。
N島先輩の不安な心など誰も知る由も無く、皆はノートラックの斜面を目の前にして、浮き足立っていた。

雪煙の中に消えていく次々と深雪の中を滑り降りていく。
巻き上がる雪煙で直ぐにその姿が見えなくなる。

雪が深いと少々の急斜面は気にならないのだけれど、さすがに出だしの斜面は急過ぎて腰が引けてしまう。
でも、そこを過ぎれば、雪煙を巻き上げながら気持ち良く滑る事ができる。

ゴーグルに隠れて見えないけれど、皆の顔にも笑顔が浮かんでいるのは間違いない。
しかし、N島先輩はゴーグルの上からでも分かるくらいに、顔が引き攣っていた。

N島先輩の姿が、何度も雪の中に隠れてしまう。
この深雪では、一度転ぶと起き上がるのも大変である。
転倒寸前のN島先輩ところが今日のN島先輩は一味違い、意外とすんなり起き上がってくる。
雪の中で起き上がる技術は確実に向上しているようだ。

marioさんなどは、かみさんの助けを借りながらも、長い間雪の中でもがき続けていた。

私も一回、どうしようもなくなってI山さんに助けを求めた。
片方のスキーは雪の中から出せたけれど、もう片方のスキーが埋もれたままで、足を動かす事さえできないのだ。
I山さんがそのスキーを掘り出してくれたが、私の考えていた場所とは全く違うところからスキーの先端が出てきてびっくりしてしまう。
これだけ深い雪だと、うかつに転ぶ事もできないのだ。


雪に埋もれたmarioさん 救出に駆け付けるかみさん
雪に埋もれたmarioさん marioさん救出に駆け付けたかみさん

スプレーを上げるS藤さんこの場所に詳しい人があまりいないので、適当な場所で止まっては、その先を確認して再び滑るパターンである。
私はカメラマン役をしているので、「先に降りて撮影しますから」と言ってノートラックの斜面を最初に滑るのは役得である。

豪快にスプレーを上げながら滑り降りる皆の姿は、写真を撮っていても爽快である。
ただ、相変わらず雪が降り続き、なかなか良い写真は撮れない。

標高差にして160m程滑り降りてきたところから登り返すことにする。
滑る時は深雪で喜んでいても、それを登り返すとなると深雪のラッセルが待ち構えている。


身体がスプレーで隠れてしまいそうなY須賀さん
舞い上がるスプレーで身体が隠れそうだ

力強いラッセルしかし今回は、思わぬ秘密兵器が隠されていたのである。
marioさんが連れてきたゲスト参加の若者。
年齢は何と29歳。私の息子と同じ年である。
若いからと言って馬力があるとは限らない。
しかし、彼の場合、勤め先が某林業関係の試験場。
多分、冬の間も仕事で山の中を歩き回っているのだろう。
先頭でラッセルしてもらったところ、大股で全身を使ってグイグイと登っていく。
その速さに、後ろのおじさん達は付いていくのもやっとの状態である。

堪りかねたように、I山さんが後ろから「もう少し緩い角度で登ってください」と声をかける。
何せ、メンバーの中にはN島先輩が混ざっているのである。
深雪の中で何度も転倒を繰り返し、既に体力を大幅に消耗している様子だった。

急斜面を登る斜面が急なので、そこをジグザグに登っていくことになる。
そのためには何度も方向転換しなければならないのだが、急斜面での方向転換は簡単なものではない。
後続メンバーはその方向転換で四苦八苦していた。

皆がそれなのだから、N島さんにとっては大変な試練だった。
次第に先頭からの距離が開いてくる。
遅いなーと思って様子を窺うと、方向転換ができずに一旦スキーを脱いでいるようだった。
良い方法にも思えるけれど、これだけ雪が深いと次にスキーを履くのがまた大変なのである。

かなり上まで登り返してきて、2本目を滑り降りるにはその辺りで十分だった。
S藤さんが遠く離れているN島さんに向かって「もう1本滑りますよね〜」と声をかける。
すると戻ってきた返事は「もう帰る!」。
普段から男N島と皆から敬意を込めて呼ばれているだけあって、潔い引き際の決断だった。

滑走準備をしてN島さんを待つしかし、そのためには元の場所まで登り返さなければならない。
N島先輩が登るための道を付けるため、全員で元の場所まで登り返すことになった。

下の方からは若者のパーティーが登ってきているのが見えていた。
今日は私達の他には、そのパーティーしか入っていないようだ。

約50分で元の場所まで登ってきた。
吹雪の中、そこでN島さんが追い付いてくるのを待つ。
途中からN島さんの後ろに付いていたかみさんが、N島さんを見捨てて一人で登ってきた。
かみさんの話しでは、後ろの若者グループと一緒に登ってくるらしい。

誰かが、「また、若いお姉さんにちょっかい出してるんじゃないの」などと言っている。
その若者グループが登ってきたが、N島さんの姿はまだずっと後ろの方に見えていた。
吹雪の中で待っている皆の身体は冷えきり、直ぐにでも滑りたそうな様子だ。

雪の山頂ようやく登ってきたN島先輩。
「後はそのまま戻ればスキー場に出られますから」
皆はそう言い残して、次々に滑り降りていく。
今日はN島先輩のために計画された企画なのに、何て冷たい扱いなんだろう。

リフト終点の建物も、吹雪のためにはっきりと確認できないような状況だった。
N島さんが間違って、滑り降りた人のトレースの方に歩いていかないだろうか。
心配しながら見ていると、リフトの方向に向かって亡霊のようにトボトボと歩いていく様子だったので、私も直ぐに皆の後を追って滑り降りた。

それからは楽しい時間が待っていた。
1本目と別のところに、まだ手付かずの斜面が残っているのだ。
そこを順番に滑り降りる。


私 かみさん
白い歯がこぼれる私 かみさんも白い歯を見せる

深雪を滑る
最高に気持ちが良い

かっ飛ばす若者何時ものようにかっ飛ばす、S藤さんにT津さん。
ラッセルに大活躍してくれた若者も、同じかっ飛び派だった。

前回テレマークスキーで参加のコージさんは、今回はアルペン用のスキーで別人のような豪快な滑りを披露している。

marioさん、I山さん、Y須賀も気持ち良さそうにスプレーを巻き上げる。

かみさんは何時もと同じく細かなターンで滑っているが、これだけ雪が深いとそれでは途中で止まってしまう。

標高差にして250m程下ったところで昼の休憩。
そこからゲレンデの途中まで200mの登り返しは40分で済んでしまった。
今頃になってようやく青空も見えてきていた。


真っ白な風景の中を登る
急斜面の登り返し 真っ白な風景の中を登る

私達の滑った跡
自分達が滑った跡を横切る

ゲレンデまで戻ってくる頃にようやく青空がN島さん以外のメンバーにとって、ここは本当に手軽にバックカントリーが楽しめるエリアである。
さすがに今日は天気が悪いので、3本目を滑る話しは出てこなかったが、天気が良ければもう1本滑りたかったところだ。
かみさんは最後に登り返しながら、まだノートラックの斜面が残っているのを見て、本気でもう1本滑りたかったらしい。

ゲレンデの脇には立ち入り禁止と書かれたロープが張られていた。
そのロープの外側にいる私達は、まるでルール無視のスキーヤーに見えてしまうが、定められた正式な手続きをしてバックカントリーに出てきているのである。

最後にゲレンデを滑り降りる最後はスキー場のゲレンデを気楽に滑り降りたかったが、他のメンバーはあくまでもバックカントリーにこだわり、ロープ柵をくぐることなくそのまま林間を滑り降りていく。
樹木が混みあった急斜面を難なく滑る皆の後にしょうがなく付いていったが、最後にようやくゲレンデに出られた時は、最初からゲレンデを滑れば良かったと後悔したのである。

センターハウスに戻り、「今日は楽しかったですね〜」と皆で話しをしている時、I山さんが「そう言えばN島さんは無事に降りてきたのかな」と思い出して、慌てて電話をかける。
そうして、N島さんが一人寂しく帰途についていることを確認し、解散となった。
最後まで主役としての扱いをしてもらえなかったN島先輩だったのである。



長峰山頂9:35 - 標高920m10:20 − 2回目山頂11:10 - 標高835m12:30 -ゲレンデ13:10 - センターハウス13:40 



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