チセヌプリ(2015/3/18)

平日の山は蜜の味


水曜日に予定されていた会議が中止になり、その日の天気予報を見ると、全道的に快晴マーク。
他に予定も無かったので、直ぐに休みを取る事に決める。
問題は、せっかくの好条件の中で何処の山に登るかである。
疲れも溜まっていたので、当別丸山辺りを軽く登ろうと考えたが、天気が良いのだからもう少し展望の良い山に登ってみたい。
迷った末に、ニセコのチセヌプリに決定。
チセヌプリスキー場が閉鎖され、国民宿舎雪秩父も閉館となったその後のチセヌプリの様子が、以前から気になっていたこともあった。

狭くなった駐車場旧スキー場の駐車場は、以前よりかなり狭くなったけれど、まだ除雪されていた。
平日の午前9時で、既に3台の車が停まっている。
この広さならば、週末には満車になって車が溢れそうである。

隣にある自衛隊の練習ゲレンデでは、これまでと変わりなく訓練が行われていた。
国民宿舎雪秩父の建物は既に無くなり、その跡地では日帰り入浴施設の建築工事が既に始まっている。
スキー場の施設は、雪に埋もれたままだ。

このスキー場は、平成25年度に閉鎖された後、町が5千万円で譲渡希望者を募っていたが、未だに買い手は現れていないようである。
公募期限は今年の4月30日なので、それを過ぎるといよいよこの施設も解体されてしまうのだろうか。
私にとっては、ニセコヒラフなどよりも思い出深いスキー場なので、とても残念である。


自衛隊訓練ゲレンデ 雪に埋もれたリフト乗り場
自衛隊ゲレンデだけは賑わっている 雪に埋もれたリフト乗り場

気温も高く既に雪は解け始めていた。
先週後半に爆弾低気圧が北海道を襲った際、この付近では雨が降っていたのか、雪面には雨水が流れたような跡が沢山できていた。
昨日は日中の気温もかなり上がったはずで、スキー場のゲレンデ跡は、スキーやスノボ、スノーシュー、つぼ足などのトレースでぐちゃぐちゃである。
旧ゲレンデにはシュプールが一杯リフト方向に続くメインのゲレンデにもシュプールが沢山描かれている。
恐らく、旧スキー場のゲレンデを登り返して滑っている人も沢山いるのだろう。

私達の直ぐ前に登り始めた男性は、そのメインゲレンデの方に向かって登っていた。
しかし、スキー場のリフト終点を目指して登っていっても、チセヌプリに登るためにはそこから一旦下らなければならない。
無駄な登りは避けたいので、リフト終点の高みを巻くようなルートで登っていく。
スノーシューの真新しいトレースも、同じルートで続いていた。

回りの樹木は殆どがダケカンバである。
真っ白な雪景色と、風雪に耐えながら育ったダケカンバの森。ニセコを代表する景観といっても良いだろう。
強い太陽の陽射しが、そのダケカンバの複雑な枝振りを黒い影として雪面に描き出している。
かみさんは日焼けしないように、顔を完全ガードしている。


ダケカンバの森
ニセコらしい風景だ

荒れたゲレンデ 日焼け防止
旧ゲレンデはこんな状態 日焼けを避けるため完全装備のかみさん

高度を上げるにしたがって、シャクナゲ岳やビーナスの丘の真っ白な姿が見えてくる。
スノーシューのトレースは、どうやらそのシャクナゲ岳に向かっている様子だ。
既にリフトの終点より高い場所まで登ってきていた。
沢地形を挟んで、リフト終点が見えている。
そのまま後ろを振り返ると、チセヌプリの山体がすぐ近くに迫ってきていた。

シャクナゲ岳とビーナスの丘しかしその付近のトレースは、どれもシャクナゲ岳方向に伸びているものばかり。
チセヌプリに向かっているようなトレースは見当たらないので、自分でルートを考えなければならない。
スキー場のリフトが動いていた頃は、もっとニトヌプリ寄りの斜面を登っていたはずなので、その方向に向かって登っていくことにした。
トレースが無くても、ラッセルの深さはそれ程でもないので、大して苦労することは無い。

しかし、その付近からシールに雪がこびり付き始めた。
今時期の雪質ならば、パウダー用の板を買う前に使っていた細板の方が滑りやすいらしい。
そう聞いてはいたけれど、家を出てくる時に大して気にしないで、幅の広いパウダー用の板を持ってきてしまった。
パウダー用の板は、当然ながらシールの幅も広い。そのシールに雪がくっつくと、普通のシールよりもずーっと重たくなるのである。

こんな事態に備えて、シール用のワックスも持ってきているのだが、面倒なのでそのまま登り続ける。
まるで、両足に重りをくっ付けて登っている気分だった。


ゲレンデを登り詰める チセヌプリが迫る
ゲレンデ跡を登り詰める 真正面にチセヌプリが迫ってくる

急斜面の登りが始まる私は、ここのように、樹木が全く生えていない急斜面の登りがあまり好きではない。
ただでさえ高いところが苦手なのに、樹木が無いと余計に恐怖心が増してくるのだ。
もしも気温が低くて硬い雪面だったとしたら、途中で登るのを諦め、シャクナゲ岳に行き先を変更していたかもしれない。
幸いなことに、日差しが強いこともあって雪面の雪が解けてきていて、しっかりとスキーのエッジを立てることできるので助かった。

シールに雪が付くのは、登るにしたがって何とか解消できたけれど、今度は急斜面が体力を奪う。
疲労と恐怖と戦いながら、頂上近くなって斜面の傾斜が緩くなってきたときは、本当にホッとした。

チセヌプリ山頂チセヌプリの山頂は広々とした台地状になっていて、山頂標識はその中央付近の少しだけ小高い場所に立っていた記憶がある。
しかし、現在のその場所には樹氷の塊があるだけだった。
恐らくその塊の中に山頂標識が隠れているのだろう。

駐車場を出てから、ちょうど2時間経っていた。
リフトが動いている頃は、その終点から1時間ほどで登れていたので、これまでよりも1時間余計にかかったことになる。
初心者向けの山でも、アプローチを含めて3時間近くかかるのが普通なので、リフトがなくなってもチセヌプリは比較的簡単に登れる山と言えそうだ。
簡単とは言っても、それは登りにかかる時間だけの話で、標高差もありルート選択の難しさもあって、技術的な難易度は高いことに間違いない。

樹氷それにしても山頂の樹氷の風景は印象的だった。
樹氷と言っても、その中身は多分岩塊なのだろう。
それが見事な海老の尻尾で覆われているのである。

まずはシャクナゲ岳の方向に行ってみる。
青空の下に広がる真っ白な山の風景。
何度見ても感動させられる。
冬のチセヌプリに登るのはこれが5回目となるが、天気に恵まれたのはこれが初めてだった。
しかし、南の空から雲が徐々に広がってきて、シャクナゲ岳を雲の影が覆っていく。


チセヌプリからシャクナゲ岳、目国内岳を眺める
チセヌプリからの大展望

シャクナゲ岳、目国内岳
シャクナゲ岳、白樺山、目国内岳、岩内岳

頂上台地を横断して、今度はニトヌプリの姿を見に行く。
ニトヌプリの姿に重なるようにイワオヌプリ、ニセコアンヌプリが並ぶ様子は、なかなか壮観である。
アンヌプリに隠れるように羊蹄山の姿も見えているのだが、雲で少し霞んでしまっていた。


チセヌプリ山頂台地 山頂台地とアンヌプリ
頂上台地で 頂上台地とアンヌプリを背景に

チセヌプリから見るニトヌプリやアンヌプリ
ニトヌプリ、イワオヌプリ、ニセコアンヌプリに向かって

大斜面を滑り降りる山頂からの展望を一しきり楽しんだ後は、いよいよチセヌプリの南東斜面を滑り降りる。
かみさんは憂鬱そうな表情を浮かべていた。
かみさんにとってここの斜面は、少し急過ぎるのである。おまけに雪もザクザクなので、かなり滑りづらそうだ。

まずは、私が途中まで滑り降りて、後ろを振り返る。
すると、私が描いたシュプールから雪玉が転がり落ちてきていた。
転がるにしたがって、雪だるまのように大きくなりながら私の方に向かってくる。
呆然として眺めてる間に、その雪玉は私のスキーの上を乗り越え、巨大なバームクーヘンのようになりながら、下へと転がっていった。

雪玉に襲われる今の季節の雪山では、樹木や崖の上から落ちた雪の塊が、斜面を転がりながら大きくなったものを良く見かける。
それが小さければ可愛いものだけれど、巨大化すると本気で逃げる必要がありそうだ。

かみさんはやっぱり、急斜面とその重たい雪に悪戦苦闘していた。
追い付いてくるのを待って再び滑り始める。
樹木が一本も生えていない山の斜面、標高差300mを一気に滑り降りることができる。

標高が下がるにしたがって雪が更に重たくなってくる。
パウダースノーならば、いい加減なスキー操作でもターンできるが、このような悪雪だとそれでは通用しない。
パウダースノーを滑った後で自分のシュプールを眺めて、その曲線の歪さにがっかりするのだが、ここでは逆に美しい曲線を描けていた。
こんな雪を沢山滑れば、少しはスキーの腕前も上達するかもしれない。

昼食中調子に乗ってあまり下まで滑り降りてしまうと、駐車場に戻るのに苦労することになるので、標高830m付近から斜面をトラバースしていく。

その途中で昼食にする。
真正面にニトヌプリの姿が迫る。
その林間にも沢山のシュプールが描かれていた。

森の中は静寂に包まれていた。
リフトが動いていた頃ならば「間もなく終点です」と言ったアナウンスが、遠くから聞こえてきたものだ。
今日は結局、チセヌプリに登ったのは私達だけだったみたいだ。
こんなに良い天気のときにチセヌプリを貸切で楽しめるなんて、本当に贅沢な話である。


ニトヌプリを眺めながら昼食
静寂に包まれ、ニトヌプリを眺めながらの昼食

トラバース中昼食の後は、駐車場に戻るために、ひたすら斜面をトラバースしていく。
その付近からならば、100mも登らずにスキー場のゲレンデに出ることができるので、面倒がらずにシールを貼って登り返した方が楽だったかもしれない。

小湯沼、大湯沼と眺めながら、ようやくゲレンデの途中に出てこられた。
重たい雪の中のトラバースで、既に身体はよれよれ。
荒れたゲレンデを転ばないように滑るのが精一杯で、ようやく駐車場まで戻ってこられた。

何時もならば下山後はそのまま雪秩父の温泉に入るところだが、建設中の日帰り入浴施設のオープンは今年の9月頃の予定である。
しょうがないので五色温泉まで足を伸ばす。
途中の道は、雪崩防止柵を乗り越えるくらいに雪が積もり、何時雪崩が起きても不思議ではない状態である。
今年のニセコは例年以上に積雪が多いようだ。

五色温泉の露天風呂雪景色を眺めながら露天風呂に浸かる。
この頃には、上空の雲は消えてなくなり、快晴の天気に変わっていた。
私達が山頂にいた頃が、雲が一番広がっていたようである。
それがちょっと残念だったが、これ以上の贅沢を言っていたら、平日で仕事をしている人たちに怒られてしまいそうだ。

カヌークラブのI山さんが、平日に休んで山スキーを楽しむのは蜜の味だと言っていたが、今日は本当に甘い蜜をたっぷりと吸ってしまった。
この蜜の味を一度知ってしまうと、その虜になってしまいそうだ。


小湯沼とニトヌプリ 大湯沼
小湯沼とニトヌプリ 大湯沼の隣では新しい施設が建築中


戻る │ ページトップへ