徳舜瞥山(2014/03/22)

気まぐれな雪の女神


登山口の農家で飼われている犬が、一緒に山の上まで付いてきてくれたとのブログ記事を読んで、徳舜瞥山に登ることを思い立った。
この山に登るのは4回目。
前回は2年前に北西尾根ルートから登っていたが、その犬がいるのは上野ルートの方で、そちらから登るのは4年ぶりになる。
その時も、除雪終点の農家さんが飼っている大型犬が放し飼いになっていたのを覚えている。
でも、ブログに写っていた犬は、同じ大型犬でも違う種類だった。
4年前に私達が合った犬は、その時でもかなりの老犬だったので、既にもう死んでしまっているのだろう。

天気予報は微妙だった。
胆振は晴れ時々曇り、後志は曇り時々雪。徳舜瞥山は地域的には胆振に入っているけれど、山の天気としては隣の後志と同じだと考えた方が妥当だろう。
出発前にレーダー画面を確認すると、雪雲の帯が日本海から後志や石狩へ向かって北西方向から流れ込んでいた。
それが西の方に動いて行ってくれれば、徳舜瞥山は雪雲から逃れられるけれど、北西方向からの流れが変わらなければ、まともに雪の中ということになる。
支笏湖から大滝村に向かって車を走らせていると、美笛峠を越えた辺りから雪が激しく降り始めた。
「これはダメかも」
雪が止まなければ、温泉ドライブに予定を変えるしかないと思ったが、大滝村までやってくるとその雪はピタリと止んだ。
空は曇ったままだが、これならば山に登るのに支障はない。

犬の鳴き声を聞きながら出発そうして除雪終点までやってきたが、楽しみにしていた犬の姿がどこにも見えない。
ガッカリしてスキーの準備をしていると、キャイーン、キャイーンと訴える様な犬の鳴き声が聞こえてきた。

その声の聞こえてくる方に目をやると、ブログに出ていた大型のシェパードが、倉庫の中に繋がれたままで、こちらを見ながら鳴いていたのである。
放し飼いにしていると、勝手に登山者に付いて行ってしまうので繋ぐようにしたのだろうか。
一緒に山に登りたがっている様な、その切ない鳴き声を背中に聞きながら、二人で寂しく山へと向かった。

まずは広々とした雪原の中を登っていく。
そこには、何時のものか分からない、微かなトレースが残っていた。
固く締まった雪の上に僅かな新雪が積もっている状態なので、トレースに頼る必要もないくらいだ。

背後に広がる風景登るにしたがって背後に山の風景が広がってくる。
本来ならばそこに羊蹄山の姿も見えているはずだが、今日は雲の中だ。
そして、目指す徳舜瞥山の姿も全く見えない。
それでも時々、雲の切れ間から青空も覗くようになってきた。
しかし、雲の流れが速く、その青空も直ぐに隠れてしまう。
それが分かっているので、青空が見えてもあまり喜ばない様に自制しながら登っていく。

真っ白な雪原の下は牧草畑なのだろう。
その雪原を過ぎて、森の中へと入っていく。
消えかかったトレース。所々の木の枝に結び付けられた赤いテープ。4年前に登った時のルートを登録してあるGPS。
それらを代わる代わる参考にしながら、森の中を登っていく。


少しだけ青空 赤いテープが目印
青空が見えてきたけど雲はまだ厚い 赤いテープが到る所に付けられている

次第に雪深くなってきたので、ラッセルをかみさんに代わってもらった。
上空の青空の面積が次第に広がってくる。
次々と流れてくる雲に直ぐに隠されてしまうのは相変わらずだが、天気が回復傾向にあることを、そろそろ素直に喜んでも良さそうだ。

かみさんが「早くこれを写して!」と手招きしていた。
そこまで近寄ってみると大きな窪地の中にハート形の影が映っていた。何時太陽が隠れるか分からないので、慌てて写真を撮る。

美しい風景この山に登るのは4回目。
過去3回はいずれも山頂に立つことはできず。
そもそも、スキーを履いたままで山頂に立てるような生易しい山ではないのだ。
滑りを楽しめる様な斜面も無い。
それにもかかわらず、何度もこの山に来てしまうのは、途中の樹氷の美しさが忘れられないからなのである。

今回もまた、登るにしたがって期待通りの風景が広がってきていた。
しばらく気温の高い日が続いていたので、ダケカンバに積もっていた雪はかなり落ちてしまっていたが、その代わりに細かな枝先まで樹氷に覆われ、ただでさえ白い姿のダケカンバが更にその白さを増しているのだ。


ハート型の影 日が射してくる
雪のくぼみの中にハート型の影が! 日が射すと周りの風景も美しく見える

徳舜瞥山が姿を現す青空と共に、徳舜瞥山の山頂も姿を現した。
空に向かって急峻な山容で聳え立つその山頂の姿はとても印象的である。
その真っ白な山肌にポツンと二つの黒い点が見えていた。登山者の姿である。
徳舜瞥山へは、2年前に私たちが登った三階滝からのルートもあるので、多分そちらから登ってきたのだろう。

と思っていたが、しばらく登っていくと突然真新しいトレースに遭遇した。
多分そのトレースが、山頂への途中に見えている登山者が登ってきた跡なのだろう。
近くには、にょろにょろと呼ばれる氷筍ができることで知られている百条敷き洞窟もあるので、そちらから登ってきたのだろうか。
いずれにせよ、ラッセルも次第にきつくなってきたのでそのトレースをありがたく使わせてもらうことにする。

親子の木見覚えのあるダケカンバが現れた。
4年前にかみさんが「親子の木」と名付けた3本のダケカンバである。

そこを過ぎるといよいよ、このルートの中でも樹氷が一番美しい森の中へと入っていく。
時々隙間から太陽が姿を現して、ただでさえ美しい森の姿を更に白く輝かせる。
その度に私達は感嘆の声をあげる。

そうして、最後の真っ白なモンスターと化したトドマツの森を抜けると、目の前に徳舜瞥山が姿を現す。
今回の上野ルートを登ってきた時の、一番の感動ポイントである。
それまではずーっと緩い傾斜の森の中を登ってきて、その森を抜けると突然、目の前に急峻な姿を現す徳舜瞥山。
全くもって粋な演出と言うしかない。


白い森 白い森
次第に白さを増してくる森 全てが真っ白だ

徳舜瞥岳の全貌が姿を現す
森を抜けるとその先に徳舜瞥山が姿を現す

下山中のご夫婦遠くから見えていた二人の登山者は既に下山途中で、山の中腹辺りでスキーを履いているところだった。
私達もそこまで登っていって挨拶をする。
地元のご夫婦の登山者で、私よりも少し年上くらいに見える。
旦那さんの方が面白い人で、突然「昨日のテレビ見たかい?」と言い始める。
「えっ?な、何の番組ですか?」
「三浦雄一郎さ!」
「あっ、それなら僕も見ました」
「夏は何やってるの?」
「カヌーに乗ってます」
「へ〜、カヌーかい、一年中遊んでいるんだね」
その後、歳を聞かれて答えると
「えっ!そんな歳なの!若く見えるよね、やっぱり遊んでいるからか!」
本当に面白い人である。

そのご夫婦は、ここから上をワカンとアイゼンで登っていたけれど、私達はスノーシューに履き替える。
4度目の今回こそは山頂を極めるぞと思ってスノーシューを用意してきたのだ。
「スノーシューで大丈夫かな?」
旦那さんが心配してくれたけれど、MSRのスノーシューなので何とかなるだろう。それでダメなら素直に引き返すだけである。
背後から怪しい雲が!ご夫婦にお別れして、スノーシューで登り始める。
スノーシューを履いていても、雪の下に背の低いダケカンバなどが隠れているところでは雪面を踏み抜いてしまう。
とてもツボ足で登れる様な所ではない。

ご夫婦と別れる頃、西の方角から嫌らしい雲が近づいてきていた。
その雲の下が霞んでいるところを見ると、雪を降らせる雲の様である。
目指す山頂は青空の下にくっきりと見えているのに、私達がそこに立つ頃には、背後から迫ってきている雲が。
毎度お馴染みのパターンである。

そうしてとうとう、その雲がやってきた。
次第に見通しが利かなくなり、風も強まってくる。
雪も降り始めて、強風に飛ばされた雪が容赦なく顔面を叩きつける。
傾斜も次第に急になってくる。
視界が悪くなってきた雪に埋もれた樹木のおかげで滑落の心配はあまりないが、それでも場所によっては10m位は滑落しそうなところもある。
斜面が急すぎてストックも役に立たない。山を登っていて、初めてピッケルの必要性を感じた。
更に風も雪も激しくなってくる。山の事故はこんな状況で起こるものだ。
山頂に立ったとしても何も見えるわけがなく、ここで撤退した方が良さそうだ。
前を登っているかみさんに声をかけたが、山頂までもう少しの様で、そのまま登り続ける気満々である。
しょうがないので私も急な斜面をよじ登る。

そうして山頂到着。
スノーシューで登り始めてから約50分、登山口からは2時間50分かかっていた。
写真を撮ったら直ぐに下山開始。
我が家の山頂滞在時間の最短記録更新である。


視界が殆どきかない 山頂
かみさんの姿が見えなくなりそうだ 写真を撮ったらサッサと下山

吹雪の中の下山視界は数メートル。
登ってきた跡を見失わない様に降りるのが精一杯だ。
雪と風でその跡が消えてしまったらと考えると、生きた心地がしない。
GPSがあるので降りる方向を見失う心配はないが、遭難のイメージが頭の中に浮かんできてしまう。

後でかみさんに聞いたところ、かみさんは全く恐怖は感じなかったそうである。
「ストックの穴が見えていたから全然大丈夫よ」
この時の状況で怖がらない方が、問題があると思うのだが。

どれくらい下ってからだろうか。
ようやく風も弱まってきて、ホッと一安心である。
それどころか青空さえものぞいてきていた。
オロフレ山に日が当たる振り返ると、徳舜瞥山の山頂まで見えている。
何のことはない、私達が山頂に立った頃が一番ひどい天気だったみたいだ。

灰色の雲を背景に、陽が当たって白く輝くオロフレ山の姿がとても印象的だ。
スキーをデポした場所まで下りてきた頃には、元の青空が広がっていた。
でも、風はまだ強い。

アカエゾマツの森まで滑り降り、風を避けられそうな場所を探して昼食にする。
そこからは、徳舜瞥山の山頂がハッキリと見えているのが、何とも皮肉である。


下山すると晴れてくる 樹氷
下山してくるとこんな事に 樹氷にも日が当たってとても美しい

昼食
風を避けて昼食に

スノーモンスターの陰から山頂が見える 雪の仮面とにらめっこ
こんな山頂を眺めながらの昼食だ 可愛いスノーモンスター

食事を終えた後は、麓まで一気に滑り降りるだけだ。
ここでは滑りを楽しめる斜面こそ無いけれど、平らな場所や登り返しも無く、一気に滑り降りれるのが良いところだ。
帰りには写真を撮りながら降りようと思っていたが、気温が上がってダケカンバの枝を覆っていた樹氷も全て落ちてしまい、面白くない風景に変わってしまっていた。
雪質も、登って来る時はパウダーだったのが、重たい湿り雪に変わっていた。
雪原を直滑降さすがに春分の日を過ぎると、北斜面でもない限り、パウダーを滑るのは期待できない。
牧草地まで下りてくると、私達の直ぐ後に到着した歩くスキーの団体がそこを滑りまくったようで、私達が付けた1本のトレースしか無かった場所が、スキー場のゲレンデの様に変わり果てていた。
シュプールを描くのは諦めて、ほとんど直滑降でそこを滑り降りる。

車まで戻ってくると、登り始める時はあんなに騒いでいたワンちゃんが、全く関心を示さない。
人間の行動が良く分かっている犬である。
ワンちゃんに手を振って帰路につく。
途中、支笏湖付近から再び雪が降り始める。
道路沿いの木々が真っ白に雪化粧しているところを見ると、降りだしたばかりの雪ではなさそうだ。
徳舜瞥山の山頂で雲に包まれたことを不運だと思っていたが、今日の空模様で青空の下を登れたことは、もしかしたら幸運だったのかもしれない今回の山行だった。


登山口 1050m台地 山頂

1:50

1:00
距離:3.9km 標高差:720m


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