別狩岳(2013/2/1)

鹿のトレースを追って


金曜日に休みが取れたので山スキーに出かけることにした。でも、金曜日では他の登山者のトレースは殆ど期待できそうにない。
二人だけで雪深い山をラッセルしながら登るのは大変なので、しばらくの間、雪の降っていない地方の山を探すことにする。
そして、金曜日の天気予報は曇りである。標高の高い山に登っても、山頂からの風景は楽しめないだろうし、下手をするとホワイトアウトになってしまうかもしれない。
そんなことを考えながら選んだ山は、当別から浜益へ向かう途中にある標高726mの別狩岳だ。

当別から道道28号経由で別狩岳を目指す。
道路は広く除雪されているけれど、道民の森が閉鎖されている冬期間はここを走る車もほとんどいない。
国道路肩に車を停める晴れていれば、神居尻山やピンネシリの山容が美しく見えるのだが、雲が低く垂れこめてその姿を確認できない。
国道451号にぶつかる三叉路を左に曲がって約1.3キロ。その付近の林道が登り口になるはずである。
しかし、深い雪に埋もれて林道の場所など分かるはずもない。
カーブを抜けて道路が直線に変わり、そこからしばらく進んだところで車を路肩に寄せて駐車する。
道路も幅広く除雪されていて、その辺りならば他の車の通行の邪魔にもならない。
車から降りると細かい雪が降ってきていた。
かみさんが「全然楽しくないわ」と、早くも文句を言いはじめた。
確かにこれではテンションも上がってこない。
前回の富良野岳に引き続き、これも修行の内と割り切るしかなさそうだ。

除雪された雪の壁を登る道路脇の垂直の雪壁をスコップで階段状に切り崩し、何とかその上に登ることができた。
目の前には真っ白な雪原が広がっている。
そこのどこに林道が埋もれているのかは分からないが、その雪原は奥に行くほど狭まっているので、そこに向かって進んでいけば間違いは無いはずだ。
ラッセルの深さは15〜20センチ程度で、それ程苦にもならない。
雪の降っていない地方を選んだのは正解だったようだ。

雪原を通り過ぎ、樹木が生えている場所までやって来ると、何となく林道らしき姿が雪景色の中に確認できるようになる。
雪面が大きくへこんでいるのは、その下に沢が流れているのだろう。
そこの林道部分だけが、平らな雪面となって続いている。

ここでルートを失いかける別狩岳に登る場合、その斜面に取り付くまでに五番川沿いに3.5キロ程、ほぼ平らな場所を歩かなければならないのが難点である。
始めの頃は、五番川は林道から一段低くなった場所を流れている。

途中、坂を下って沢を越えた先で、道を見失いかけた。
樹木がまばらになっていたので、どこもが林道の様に見えてしまうのだ。
迷いながらそこを少し進んだところでGPSを確認したところ、あらかじめ登録しておいたルートから進む方向が少し外れかけていた。
そこで注意深く周囲の様子を見回すと、本来のルートの辺りに雪面が少し盛り上がっている場所を発見。どうやらその下に林道が隠れているらしい。
初めての場所ではGPSは頼りになる存在である。

橋の上は倒木で塞がれていたそこから先、林道は五番川の河畔林の中へと入っていく。
しばらく雪が降っていなかった割には、木々の枝にはたっぷりと雪が積もり、なかなか良い雰囲気である。
これならば林道歩きも苦にならない。

途中で五番川に架かる橋を渡る。
橋の真ん中に樹木が倒れ込んでいたが、その下をくぐって、何とか渡ることができた。
五番川は思っていたよりも水量のある川だった。
山を登り始める前にもう一度この川を渡ることになるのだが、次はスノーブリッジを探さなければならない。
事前に調べた情報では渡渉地点はもっと上流になるので、山に挟まれた地形の中をそのまま進んでいけば良いだけだ。


雪景色の河畔林 五番川に架かる橋
雪に覆われた河畔林 五番川に架かる橋には倒木が

緑の葉を付けたツルマサキ真っ白な森の中に、全く場違いであるかのように緑色の葉を付けた樹木があった。
良く見ると、その緑色の葉は樹木に絡みついた蔓性の植物の葉だった。
これまでに何度も冬の森の中を歩いているけれど、あまり見た記憶はない。
でも、何となく植物の名前だけは頭の中に浮かんでくる。
「あれ〜、何だったかな〜、ツル・・・、アオキ?いや、違うな〜」
そんなことを考えながら30分くらい歩いていて、ようやく「ツルマサキ」の名を思い出した。
記憶には無くても、どこかで見たことがあったのだろう。
最近は物忘れが激しくなってきたが、こんな樹木の名前を憶えていたことが何だかとっても嬉しかった。

雪原の奥には別狩岳の姿が河畔林を抜けると、その先にはまた広々とした雪原が広がっていた。
林道の場所はもう全く分からないので、適当に見当を付けてその雪原を横断する。
真正面に見えている山が、目指す別狩岳のはずだが、雪のためか少し霞んでいる。

雪原を通り過ぎて再び森の中へと入っていく。
行く手を阻むように小さな沢が横切っていた。
少し移動すると雪で埋まっている場所があったので、何とかその沢を渡ることができた。
既に積雪は十分なはずなのに、こんな小さな沢をかろうじて渡っているようでは、本当に五番川を渡るスノーブリッジができているのか、不安になってくる。

その五番川の直ぐ脇に出てきた。
冬の沢水は感動的な程に澄んでいる。
水深も浅そうなのでいざとなれば歩いても渡れそうだが、できればスキー靴は濡らしたくない。


五番川の流れ 川のおまんじゅう?
清冽な五番川の流れ 流れの中の白いお饅頭

川沿いの僅かなスペースを歩く山際まで川が迫り、その間の僅かなスペースを歩いていく。
対岸の方にはまだ平地が広がっていたので、渡れる場所さえ見つかれば、そちらに渡りたくなってしまう。
しかし、事前に調べた情報では、あまり早く渡ってしまうとその後で急斜面にぶつかって苦労するとのことなので、我慢してこのまま進むしかなさそうだ。

すぐ横の斜面には、昨日の暖気で樹木等から落下した雪が、雪崩のように転がり落ちた跡が沢山付いている。
今日は日中の気温も更に上がる予報なので、帰りにこの付近を通る時はちょっと怖そうだ。
でも、転がり落ちた雪玉の中にはバームクーヘンの様に渦巻き模様ができているものもあって、とても可愛らしく見える。

途中から川の流れは山際から離れて、私達が歩いている側に森が広がってくる。
森の中には縦横無尽にエゾシカの歩いた跡が続いている。
もしも雪に埋もれかけたトレースを辿っていたとすると、どれが人間でどれがシカのトレースなのか、訳が分からなくなりそうだ。


雪のバームクーヘン エゾシカのトレース
美味しそうな雪の造形 森の中にはエゾシカのトレースが

次第に山が両側から迫ってきて、そのまま行き場所が無くなってしまうのでは不安になってくる。
山の斜面をトラバースするように進んでいくと、その先にちょうど良いスノーブリッジができているのを見つけた。
GPSで確認してみると、登録してあった渡渉ポイントとほぼ同じ場所だった。
五番川のスノーブリッジを渡る川の形態によって、スノーブリッジができ易い場所は大体決まっているのだろう。
その先にももう一か所スノーブリッジができていて、そこにはシカが歩いた跡が残っていた。
シカもやっぱり、足を濡らすのは嫌なのかもしれない。

その先からいよいよ登りが始まる。
スタートしてからここまで1時間45分かかり、その間に登った標高は僅か30mである。
去年の2月末に樽前山に登った時も6.4キロの林道歩きにうんざりさせられたが、その時はスノーモービルのトレースもあり、2時間15分歩く間に350m登っていた。
帰りのことを考えると嫌になってくる。

最初はそれ程苦にならなかったラッセルだが、その影響で確実に体力は消耗していた。
ここから先、山頂までは約500mを登らなければならない。
大福餅でエネルギーを補給し、目の前の斜面にとり付く。
最初の急斜面はあっさりとクリアできそうだと思って上を見ると、その先には空しか見えてなかった。
「あれ?斜面はこのまま続いているはずなんだけど・・・」
GPSで確認すると、設定したルートから微妙に外れていて、進行方向を示す矢印も違う方向を示している。
最初の急な登りそれでもまだ「もう少し登れば、その先に次の斜面が続いているはず」と思って登り続け、そしてようやく自分たちはただの小さな小山に登っていたことに気が付くのである。

大したロスでは無かったけれど、勝手な思い込みでルート間違いをするのは私の悪い癖である。
少し下ってから本来のルートに戻って、再び登り始める。
今度は、直登できない様な急な斜面が延々と続いていた。そこを、無理をしない角度でジグザグに登っていく。
100m近くを一気に登り一息つく。
ようやく高度感が出てきて、山を登っている実感が湧いてくる。

第二の壁を登る少し傾斜が緩くなったと思ったら、直ぐにまた第2の壁とも言えそうな急斜面が現れる。
ここもまた一気に100m程登る。
樹木の密度も少なく、所々には開けた斜面もあって、これは帰りの滑りが楽しめそうである。
ただ、重たい雪なので上手く滑れるかどうかがちょっと不安だ。

その後しばらくは緩斜面が続く。
ラッセルにも疲れたので、かみさんに先頭をまかせる。
オープンバーンの先に1本のダケカンバがオブジェのように立っていた。
その先に続く白い丘を登れば、いよいよ山頂が見えるかもしれないと力が入る。

そして、そこを登った先に見えた山頂らしき場所。
事前にネットで調べた情報によると、「別狩岳の本当の山頂はもっと先であり、そこが山頂だと思い込んで登ったら心が折れた」とのこと。
それを知っていたおかげで、ぬか喜びしないで済んだ。
細い尾根を通って最後の急な斜面を登る。
その上では強風が吹き付けていて、途中で脱いでいたジャケットを慌てて羽織りなおす。


1本のダケカンバ 丘の向こうの偽山頂
孤高のダケカンバ 白い丘の向こうに山頂が?

最後の急な登り
偽の山頂への急な登り

本物の別狩岳山頂そこから見える本物の別狩岳の山頂付近には雪崩の跡があり、雪面には大きな亀裂も入っていた。
ちょっと近寄りがたい雰囲気である。
天気もパッとしないし、何時もの我が家ならばそこで引き返すことも大いにあり得るところだが、今回だけは意地でも山頂に立つつもりでいた。
昨シーズンは山頂を目前にしながら登頂を諦めてしまうパターンが多かったので、今シーズンは何とかしてそんな流れを断ち切りたかったのだ。
それに、今回は山頂からの風景は期待せず、半ば修行のつもりで登っていたので、修行を完遂させるためにも山頂に立たねばならないのである。

そこから少し下って、亀裂の入っているのとは反対側の樹木の生えている斜面に回り込んで登る。
最後は雪も固くなっていたので、ツボ足になり、登り始めてから3時間50分で山頂に到着。
写真を撮ってサッサとそこを降りたが、満足感は大きかった。
遠くの山までは見通せなくても、周辺の山々の風景はある程度楽しむことができた。


別狩岳山頂
これだけ周りの風景が見えれば不満はない

シールを張ったままでそこを滑り降り、偽の山頂に登り返したところでシールを剥がす。
そこから五番川までは一気に滑り降りることができる。
長い林道歩きを耐えた人だけが得られる楽しみである。

それなりに滑るかみさんところが、その滑りが全然楽しくなかった。
足の疲労は既に限界に達しており、おまけに雪は重たい。
そんな雪の中でも曲がれるように、一週間前にスキーのレッスンを受けたばかりなのに、その技術が全然役に立たない。
と言うよりも、教えられたことを完全に忘れてしまっていた。
スキーを曲げることができずに、尻もちを繰り返す。
これでは楽しめるわけがない。

一方のレッスンを受けていないかみさんは、私が避けた急斜面を、臆することもなく滑り降りてくる。
すっかり自信喪失してしまった。

五番川のほとりで昼食そしてヨレヨレになりながら五番川まで降りてきたところで、川を眺めながらの昼食にする。
心地良い川の水音。時々、その流れに沿っカワガラスが飛び去っていく。次第に強まってきた風もここまでは吹いてこない。
これで天気が良ければ最高なのだが、再び細かな雪が舞い始めた。

ここから先は細かなアップダウンも多いので、再びシールを張って歩くことにした。
トレースが有る分、来る時よりはかなり楽に歩ける。
とは言っても、体力は既に使い果たし、かみさんに付いていくのも精一杯の有様だ。
途中ではせっかくの自分たちのトレースが、シカに歩かれてぐちゃぐちゃにされているところもあった。
シカもやっぱり少しでも楽をしたいらしい。

かみさんから大きく遅れながらも1時間10分ほどで車まで戻ってきた。
修行のつもりで臨んだ今回の別狩岳。
天気が良ければもっと素晴らしい眺めを楽しめて、雪質が良ければもっと滑りも楽しめる。
そうは思っても、もう一度この山にチャレンジする気にはなかなかなれそうもないのである。


駐車場所 渡渉地点 偽山頂 山頂
1:45 1:50 0:20
下り 2:00
距離:6.0km 標高差:535m

GPSトラック図

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