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三段山(2012/2/18)

文句なしで撤退


週末の土曜日が比較的天気が良くなりそうなので、今シーズン初めてのニセコへ行こうと考えていた。
ところが、前日の天気予報では、全道的に晴れそうなのに、後志地方だけに雪だるまが付いていたのである。
そこで急きょ予定を変更して、天気が一番良くなりそうな内陸部に狙いを定め、去年初めて登った十勝岳連峰の三段山へ出かけることにする。

朝6時前に家を出発。何時もならば三笠ICで高速を降りて桂沢湖経由で富良野へ向かうのだが、大雪の影響で10日ほど前からこの道が通行止めとなっているので、滝川ICで降りて国道38号を走るしかない。
20キロ以上の遠回りである。

白銀荘を後にして登り始める天気はまずまずだったけれど、霞のような雲がかかって、富良野までやってきても山の姿が麓の方しか見えていない。
でも、今日は晴れると信じていたので、そんなことは大して気にならない。
8時半に吹上温泉白銀荘前に到着。車を降りると強烈な寒さに震えあがる。気温はマイナス20度近い。
山の上の方には雲がかかっているものの、青空がかなり広がってきていた。
予想通りの展開にニンマリとする。

私たちの直ぐ先に2組のパーティーが登り始めた。
事前に調べたところでは、2日前と3日前にこの辺りでまとまった雪が降ったはずである。
あまり早く登り始めるとトレースが無くてラッセルを強いられるかと心配していたが、先行するパーティーがいなくても、前日のトレースが結構残っているので大丈夫だった。
その数日前の新雪に覆われたトドマツの森が美しい。

先行するパーティー1段目の斜面で前を行く2組のパーティーは、斜面を直登する組と右側の方へ向かう組とに分かれた。
多分、右側へ行くと南西コースと呼ばれるルートなのだろうが、そちらの方は良く分からないので、そのまま目の前の斜面を登ることにする。

直登しているパーティーはスノーシューが中心なので、私たちは前日のスキーのトレースを見つけて、その中を登る。
そのトレースもかなり急角度で登っていたけれど、何とかスリップすることなく1段目の上に出ることができた。

外に露出している顔面が痛くなるほどの寒さなのに、体は汗ばんできていた。
この寒さの中で汗をかき過ぎると、それが冷えた時に急激に体温を奪われるので、早めに上着を1枚脱ぐ。


1段目の斜面 1段目の上からの風景
1段目の斜面 1段目を上がるとこんな風景が広がる

1段目を上がったところから前十勝を望む前十勝の山頂は見えているけれど、目指す三段山はまだ雲に隠れている。
それでも確実に青空は広がってきている。
ただ、 太陽の回りに暈がかかっているのが気になった。

真っ白なトドマツの森を抜けていく。
去年初めて登った時は、その美しさに感動してここで写真を撮りまくっていた気がする。
それが、2回目ともなると、余裕を持って周りの風景を眺めることができ、写真も数枚撮っただけで黙々と登り続ける。

2段目の斜面までやってきたところで、先行するパーティーの中で一人だけが大きく遅れていた。
ここで遅れているようだと、この先が大変そうである。
その彼を追い越して登っていく。


白いトドマツの森を抜ける 2段目の斜面
真っ白なトドマツの森を抜けると2段目 2段目で遅れていた一人を追い越す

2段目をもう少しで登りきれるところで、積雪が風で飛ばされクラストした固い雪面が出てきた。
そこを斜めに登っていたものだから、スキーが横滑りして立ち往生してしまう。
スキーのエッジを立てようとすると余計に横滑りする。

必死の思いで2段目を登りきる私が悪戦苦闘している横を、かみさんが何食わぬ顔で追い抜いて行った。
「何であいつは滑らないんだ?」

確かに、エッジを立てるとシールが雪面から浮いてしまうので、それでは登れるわけが無い。
理屈は分かっていても、急な斜面に横向きに立ったままスキーの板を雪面に密着させることは、物理学の法則を無視した体勢をとることになり、私にはどうしても無理である。

それでも横歩きしながら、何とかその斜面登ることができた。

第2斜面から上は、がらりと様子が変わっていた。
たっぷりと積もっていた雪は跡形もなく消え去り、一面がブッシュと吹きだまりばかりとなる。
2段目から上の様子去年、気持ち良くシュプールを描いて滑り降りた右手に見える尾根の斜面も雪が飛ばされ、シュプールを描くどころの話ではなさそうだ。

今登っている斜面もハイマツの枝がそこらじゅうに露出していて、滑り降りるのに苦労しそうである。
少し風が出てきたので、体を冷やさない様に脱いでいた上着を再び着込んだ。

目指す山頂はハッキリと見えていたものの、その上には相変わらず雲がかかっていて、なかなかすっきりとした青空が広がらない。
富良野岳の山頂はその雲の中に隠れてしまっている。
噴煙を上げる前十勝も、その背景が白い雲ではその美しさが半減してしまう。
それよりも、富良野盆地と遠くの山の姿の方が美しかった。


富良野盆地が美しい
GPSトラックによる顛末

先行していたパーティーが、遅れていた一人を待つために途中で休んでいたのを追い越す。
元気の良い若者たちだった。

山を駆け下りるキタキツネ沢を挟んだ右手の尾根に目をやると、一匹のキタキツネがその斜面を駆け下りていくのが見えた。
何もないこんな山の上まで何を目的に登ってきたのだろう。

そして、その駆け下りるスピードの速いこと。
まるでその斜面を駆け下りることを楽しんでいるかのようだ。
意外とこのキタキツネも、私達と同じ目的で山に登ってきているのかもしれない。
全くスピードを緩めないまま尾根の向こうへと姿を消していった。

更に風が強まってくる。
後ろを振り返ると山頂付近から流れてきた雲が、下界の風景を隠すように浮かんでいた。
風は私たちの後ろから吹いてきているのに、雲の流れはその逆である。

三段目の途中から振り返る三段目の登りが始まる。
ここはそれ程急な斜面ではないので直登できるのが良かった。
これがジグザグに登らなければならない様な急斜面ならば、2段目の時と同じく、スキーのシールを効かせられないで立ち往生するところである。
それでも、先に登るかみさんとの差が次第に開いてくる。

クラストした固い雪面の上を、強風に飛ばされた雪が流れていく。
地吹雪状態になってきた。

1段目のところで別ルートに進んでいった二人組だろうか。
山頂へ続く最後の急斜面を登っているのが小さく見えている。
三段山ではこの山頂への最後の登りが最も急なところである。
去年は雪の状態が良かったので何とか登れたけれど、今日はスキーを履いたままでは絶対に登れないだろう。
そこに見えている二人組はスノーシューで登っているはずだが、それでも苦労している様子が遠くからでもうかがえる。

横に見える前十勝風はなおも強まってくる。
マイナス20度でこれだけ風が強ければ、現在の体感温度は一体何度になるのだろう。
指先の感覚が無くなってきたので、両手を叩き合わせて血行を回復させる。
私たちの上まで雲が広がってきていた。
これ以上登り続ける意味は何もなく、撤退の潮時である。

ところが、かみさんは私の遥か前を、後ろを振り向こうともせずに黙々と登り続けている。このまま山頂まで登るつもりでいるのだろうか。
かみさんを先に行かせると、何時もこうなってしまう。二人パーティーで、お互いの姿さえ確認できないほど離れてしまっては、緊急事態が発生しても対応できないと言うことが理解できないようである。

この辺りが限界かしかし、風がまともに吹き付ける斜面の途中で下山準備するわけにもいかず、かみさんの後を追って三段目の斜面を登りきるしかなかった。
そしてようやくかみさんに追いつき、ここで下山することを告げて、風を避けられそうな尾根の陰に逃げ込んだ。

先に登っていた2人組も、登頂を諦めたのか、それとも最初からそこまでしか登らないつもりだったのかは分からないが、斜面の途中から滑り降りていった。
私たちがシールを剥がしていると、途中で追い越してきたパーティーが登ってきた。
一人少ないところをみると、遅れていた彼はまた置いていかれたのだろう。
人のことは言えないけれど、同じパーティーの人間はなるべく離れない方が良いと思う。
まだまだ元気な彼らは、あくまでも山頂を目指すようである。


地吹雪にまかれる二人
地吹雪にまかれる二人

ブッシュの間を滑り降りるブッシュの出ていないところを探しながら滑り降りる。
所々にクラストした雪面が出てくるので、気を抜くことができない。
パーティーから一人遅れていた彼が、疲れた足取りで登っていた。
私の気のせいかもしれないが、こちらを見ているその表情が「俺もここで帰りたい」と訴えているようであった。

続けて、10人近いパーティーが登ってきた。犬も一匹、一緒である。
山で出遭う犬は大体がとっても楽しそうに走り回っているのだが、さすがにこの天気では犬もテンションが下がってしまうようだ。

犬と一緒のパーティー強風に乗って雪面を流れるように飛んでくる細かなザラメ混じりの雪は、ちょうど犬の体を直撃するのである。
尻尾を垂れながらも私たちに挨拶しに来てくれた。

景色の良い場所にかみさんを立たせて写真を撮ろうとするが、かみさんもテンションが下がっているのか動きが鈍い。
聞くと、体の震えが止まらないと言う。
上で私が追い付くのを待っている間、上着のベンチレーションを開けたままにしていたので、それで一気に体温が奪われたらしい。
とりあえずは、この吹きさらしの場所を離れなければならないので、そのまま急いで2段目の斜面を滑り降りる。
そこでようやく風から逃れることができた。


寒さで固まるかみさん 2段目を滑り降りる
寒さで固まっているかみさん 2段目を滑り降りる

森の中に逃げ込んだ暖かな飲み物を出そうとしても、手が思うように動かず、ザックもなかなか開けられない有様である。
これが低体温症の初期症状なのだろう。

ほんのちょっとした油断が冬山ではこんな事態を招いてしまう。
今回は直ぐに麓まで滑り降りられるので大したことにはならないが、これがもしも冬山の縦走中だったら、命取りにもなりかねないところだ。

相変わらずかみさんの体の震えが止まらないので急いで下まで降りて、温泉で体を温めることにする。
2段目から下はパウダーを楽しめるだろうと思っていたが、雪が重たすぎて快適な滑りとは言い難かった。
温泉目指して滑り降りる吹き溜まりの細かな雪がそのまま深く積もった様な感じで、傾斜の緩いところではスキーが全く滑らない。
そしてようやく駐車場に到着。

後ろを振り返ると、山の上には巨大な傘雲のような不思議な雲が広がっていた。
上空では強風が吹いているのだろう。

スキー靴を脱いだら直ぐにそのまま白銀荘の温泉に直行。湯槽に入っても冷えた体はなかなか温まらなかった。
露天風呂に浸かりながら、前十勝岳を滑っている人達の姿を眺める。つい先程まで、自分達が同じ様な場所にいたことが信じられない。
森の中で食べるつもりで用意していた昼食は、温泉の休憩室でゆっくりと食べる。
真冬の山の厳しさを教えられた今回の三段山であった。


不思議な雲
駐車場まで下りてくると不思議な雲が山の上に広がっていた

駐車場 1段目上 2段目上 1580m付近
0:25 0:30 0:50
下り0:45
距離:2.7km 標高差:569m

地図

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