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ニトヌプリ(2010/04/17)

影のできない太陽


 ニセコのニトヌプリ、今年1月のカヌークラブ新年会では、大雪のために途中で登るのを諦め、その前にも一度登ろうとしたことがあったけれど、目の前に急斜面に圧倒されてそのままチセヌプリへ移動してしまった。
 シーズン最後の山スキーは、我が家の宿題にもなっていたニトヌプリに登って締めくくりたいところである。
通行止めゲート前 今時期になるとニセコパノラマラインの除雪も進められていて、通行止めのゲートから咲きも先も黒々としたアスファルトの路面が続いている。
 まずはその先に見えている急斜面を登ることになるのだけれど、そこは斜面と言うよりも私には崖にしか見えない。
 でも、ここで逃げてしまっては数年前と同じである。
 その頃よりもいくらかは進歩しているはずだとの全く根拠の無い自信に励まされて、チャレンジすることにした。
 しかし、その前に一つの問題があった。
 道路が除雪されたために、その脇には高さ3mの垂直の雪の壁ができているのだ。どう考えてもそこを登るのは不可能に思えたけれど、しばらく歩くとその雪壁が少しだけ崩れている場所があった。
 数日前に誰かが登った跡なのだろう。スキー靴の先だけで足場を作りながら、ようやくそこをよじ登ることができた。


y雪の壁を登って     いよいよ登り始める
垂直の雪の壁を何とか登って   崖に向かって登り始める

 そしていよいよ問題の崖である。
 実際にそこに立ってみて、崖ではないことが分かったけれど、急な傾斜であることに変わりはない。
急斜面を登る ただ、硬く締まった雪は表面が融けてきているので適度にエッジを立てることができ、自分の好きなルートで何処でも登ることができるので、マイペースで少しずつ高度を上げていくことにした。
 私が何度も登る方向を変えるものだから、キックターンの苦手なかみさんが後ろで文句を言っている。
 初めて登る山なので、何処を登れば良いのかも見当が付かず、傾斜のきついところに入り込んでしまうと、私も方向転換ができなくなってしまうので、見える範囲内で確実そうなルートを選ばなければならない。
 多分、目の錯覚だ思うのだけれど、自分の進む方向よりも反対側の方が傾斜が緩く見えてしまうので、何度も方向転換してしまうのだ。
 樹木が疎らなところでは雪崩のことが頭をよぎる。
 今日の状態なら心配することはないと分かってはいても、全層雪崩だってあるのだから、気持ちは良くない。
 そうしてやっと急斜面を越えて、傾斜も緩やかになってきた。
少し傾斜は緩くなったけれど・・・ そのまま直登で一気に登ろうとしたが、再び傾斜がきつくなる。
 もう少しで登りきれそうに見えて、登るに従ってそれが遠ざかっていくような感覚である。
 私の行く手に、吹き溜まりのように僅かに雪面が盛り上がっている場所が現れた。
 その盛り上がりのために傾斜が少しだけ急になり、その傾斜は私の登攀能力を少しだけ超えていた。
 でも、その少しの差は、簡単には乗り越えられない差なのである。
 私が立ち往生しているのを見たかみさんは、私のトレースから数十センチ上に上がったところを進んだおかげで、余裕で私の遥か上を通り過ぎていった。
 その後のかみさんは、邪魔者がいなくなったとばかりにマイペースで先に登っていってしまう。
ヨレヨレの私 久しぶりにパワーメーターがゼロに近づいていた私は、ヨレヨレになりながらもようやくこの急斜面を登りきることができた。
肝心のところで何時もかみさんに先を越されてしまう私である。
 そこが、最初の目標にしていた874mの台地である。
 ここまで約60分、ひたすら急な登りが続いていた。
 そこには真っ白な台地が広がり、チセヌプリからビーナスの丘、シャクナゲ岳の真っ白な山の連なりがとても美しく眺められる。
 もっとも私の場合は、その眺めに感動するよりも先に、その場に倒れこんでウィダーインゼリーでエネルギーを補給しなければならなかった。
一息ついてからノロノロと立ち上がる。
 白い山の風景は素晴らしいのだけれど、残念なのはその白さをくすませるような灰色の空である。
 今日の天気は晴れのち曇りのはずなのに、札幌を出る頃から既に空には全面薄雲が広がっていた。
 今でも、上空を仰ぎ見ればそこに太陽の姿は確認できるのだけれど、足元を見ても自分の影は何処にも見当たらないのだ。


874m台地からの眺め
874m台地から眺めるチセヌプリ

目の前に見えるのはニトヌプリの南峰で本当の山頂ではない

次の目標のコル 目の前に大きく迫るのはニトヌプリの南峰で、本当の頂上はその後ろに隠れて見えない。
 雪山ガイドに書かれていたように、ここからは南峰と980mコブの間のコルを目指して登ることにする。
 それほど斜度もないので、周りの風景を眺めながら楽しく登ることができる。
 ダケカンバの林の中には氷の破片が散乱していた。
 カンバの枝に付着した樹氷が気温が上がった時に剥がれ落ちたものだけれど、散らばっている氷は樹氷などと言ったロマンチックなものではなく、厚さ数センチもありそうな氷の塊である。
 四日ほど前に北海道は大荒れの天気に見舞われたけれど、その時にできた樹氷なのだろう。
 1本だけまだ氷が付いたままのダケカンバがあったけれど、当時のここの天候の凄まじさをまざまざと見せ付けられた気がした。
氷に包まれたダケカンバ この付近では気温もまだ氷点下のようで、斜面全体が薄い氷に覆われている。
 その下の雪面との間には隙間ができていて、上を歩くとパリパリと音をたてて氷が割れていく。
 積もった雪の表面だけが硬く締まっている状態をもなか雪というけれど、これは完全にもなか氷である。
 コルに近づくに従って、その向こうに山の頂が二つ、姿を現してきた。イワオヌプリとニセコアンヌプリである。
 コルの上に立つと、その二つの山が目の前に迫ってくるような壮大な展望が広がっていた。
 そこから先は目の前の南峰を回りこんで山頂を目指すのだが、東から回り込むか西からにするか。
 西側の斜面は全面が凍りに覆われ、東側は真っ白に見えている。
 地形図で確認すると東側の方が傾斜がきつく、真っ白な雪に覆われていても、その下が固く凍っているのは確実なので、西側を進むことにする。


コルから眺めるアンヌプリ
コルから望むアンヌプリ、羊蹄山の山頂が少しだけ見えている

 何も目標のない斜面を、少しだけ高度を上げながらトラバースしていく。
 一歩一歩スキーを進めるたびに、砕けた氷がザーっと音をたてながら氷の斜面を滑り落ちていく。
モナカ状の氷を割って進む ガチガチのアイスバーンではないので滑落の危険はそれほど無さそうだが、後ろ向きに転びでもしたら一気に下まで滑り落ちることになりそうだ。
 周りには一本の木も生えてなく、完全に無防備な状態。頼れるのは自分自身だけである。
 北西斜面に入ると潅木や岩が露出しているので、歩きづらくなるものの、無防備な状態から逃れることができて、少し安心できる。
 そうしてようやくニトヌプリの本当の山頂が見えてきた。
 この辺りからでは山頂と言うよりも、一つのピークにしか見えない。
 その標高は南峰よりも10m高いだけで、南峰の方がニトヌプリの山頂らしい姿をしている。
 登り始めて2時間20分、ニトヌプリ山頂に到着。
 わざわざ山頂に立たなくても、周りの風景は何処からでも同じように見えるし、山頂に立った後でも南峰の方が高く見えるけれど、それでもやっぱり山頂に立てた満足感は大きい。


何もない氷の斜面 ニトヌプリ山頂
何もない氷に覆われた斜面をトラバース 山頂に到着

 山頂からの眺めではイワオヌプリとアンヌプリの並ぶ姿が見物である。
 チセヌプリの眺めは、シャクナゲ岳などがそ裏に隠れてしまうので、登ってくる途中からの方が楽しめた。
 岩内の海から積丹にかけては、霞んでいてあまり良く見えないものの、晴れて空気が澄んでいる時ならば、こちらの眺めも素晴らしそうだ。


山頂から眺めるイワオヌプリとアンヌプリ
ニトヌプリ山頂から眺めるイワオヌプリとアンヌプリ

山頂標識 南峰の方が高い?
山頂標識は少し低い場所に立っている 向こうに見える南峰の方が山頂らしい

びびりながら滑るかみさん 山頂から少し下ったところにある山頂標識の前で記念撮影した後は、汗が冷えてきたので直ぐに下山開始。
 登ってきたルートに従って、南峰をトラバースしながら滑り降りる。
 ほとんど水平に滑っているのに、斜面が凍っているのでどんどんスピードが出てきてしまう。
 途中で止まってかみさんを待っていると、必死のボーゲン斜滑降でそこを滑ってきた。
 滑落しても問題なさそうなところまで降りてきてから、斜面に対して真っ直ぐに滑ってみる。
 もなか状の氷はパリパリと小気味良く割れるので意外と滑りやすく、これならばもっと上から滑りを楽しめば良かったと後悔した。
 眺めの良い場所を見つけて昼食にする。
 風も無くて眺めも良くて、これで晴れていれば、もっとそこで時間を過ごしたかったけれど、再び体が冷えてきたので食事を終えたら直ぐに滑り降りる。
 どうやら次第に気温が下がってきているようだ。
 今時期の山スキーならばTシャツ1枚で滑れても良いはずなのに、今年はまだまだ冬が続いているのである。


昼食タイム 昼食タイム
下界を眺めながらの昼食 ここもベストビューポイントである

 登る時にあれだけ苦労した林間の急斜面は、圧雪されたゲレンデよりも滑りやすい状態で、あっと言う間に下まで滑り降りてきてしまった。
 そして最後に雪の壁を滑り落ちて、アスファルトの舗装に降り立つ。
 この日の夕方、立山黒部アルペンルート開通のニュースを見て、そのミニ版のニセコパノラマラインの雪の壁を思い出した。
 ニセコの雪が完全に無くなるのは、今年はかなり遅くなりそうである。


下りは気持ち良い 雪の壁
下りはあっと言う間 そしてこの雪壁を滑り落ちた!


ゲート 874m台地  コル   山頂 

1:15

0:25 0:35
総距離:2.8km 標高差:464m
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