千尺高地(2008/01/27)

修行のような山スキー


 前日の土曜日、札幌周辺には大雪が降り、今日は何処の山に出かけても新雪がたっぷりと積もった美しい風景を楽しめそうだ。
 そう考えて、朝目覚めて直ぐに寝室のカーテンを勢い良く開けたところ、上空には青空が広がっているものの、窓から見える小樽方面の山並みには雲がかかっている。風も強いので、候補の一つに考えていた春香山はこの様子では多分吹雪模様になっていそうだ。
朝の札幌市内 そこで、先週に引き続いて定山渓方面に出かけることにし、今日は前回登った大沼山の隣の千尺高地へ登ることにした。
 大雪の影響で市内の道路はすっかり道幅が狭くなってしまった。それでも日曜日の朝なので道路は空いていて、朝日の風景を楽しみながら気分良く車を走らせる。
 ところが、南区まで来ると空模様が次第に怪しくなってきた。先週とは全く逆の展開である。
 定山渓付近で雪がちらつき始め、豊羽鉱山に近づくにしたがって、除雪されていた道路にも新たな雪がかなり積もってきていた。
 そんな天気の中でも、大沼山の登り口の駐車スペースには何処かのツアーらしい小型バスも停まっていて、大賑わいである。
 さすがに日曜日は人が多いなと思いながら、我が家は無意根山荘跡の駐車スペースに車を停める。
 他に3台の車が、我が家と前後してやってきた。この付近の山に登る人は大体同じ時間(9時前後)にやって来るようである。
 それらの車に乗っていたのは夫婦2組と単独の男性。その中で私達夫婦が一番最初に準備が整う。
 そうなると、誰かが出発するのを待っているわけにもいかず、まだ誰のトレースも付けられていないところを已む無く先頭を切って登り始めることになってしまった。
 去年ここを登った時も、確か同じ事態になったはずである。
 雪混じりの風が吹き付ける中を出発。まずはスキー場跡の急な登り、少し凹んで見えるのが雪が降る前のトレースの跡だろう。
 でもそれが登る時の跡なのか、滑った跡なのかが判然としない。あまり良いルートにも見えないし、そんなトレースなど当てにしないで、自分の感覚に合わせてジグザグに登ることにする。ところによっては膝まで埋まる雪の深さだ。
僅かに残るトレース このスキー場斜面は頂上まで行くと登りすぎになるので、適当な場所から森の中をトラバースした方が良い。
 去年はその入り口に目印の赤いテープが付いていたはずだけれど、今年はそれが見当たらずトレースも残っていないので、見当をつけて森の中へ入った。
 それが大体正解だったようで、そのまま真直ぐ進むと細い尾根の上へと出ることができた。
 そこから先には所々にトレースらしきものも残っていて、それに加えて樹木に付けられたテープ、GPSに登録してきた去年のトラックデータも確認しながら先へと進んでいく。
 やがて見覚えのある急斜面が現れた。そこにはかろうじて判別できるトレースが残っていたので、それにしたがって一直線に斜面を登る。
 反対側の森の上には雲の中にぼんやりと霞んだ太陽の姿が見えているけれど、影を作るような力強い光は射してきそうにない。

ラッセル跡 僅かな日射し
斜面を登りきった 弱々しい日射しが

 去年はこの斜面を登りきったところで力尽きて、後ろから来た男性二人組みに先頭を譲っている。ところが今日は、ほとんど汗もかかずにここを登りきって、余力もまだ十分に残っていた。
 後続の姿は全然見えないので、しばらくはラッセルを続けなければならないようだ。
 かみさんが先に出たがっているようなので、先頭を任せることにする。
 わっせわっせと力強く登っていくその後ろに付きながらGPSを確認すると、去年のルートよりかなりずれてきていた。
かみさんの場合、街の中や建物の中でも当然のような態度で全く逆方向に歩いていくようなタイプなので、心配になって声をかける。
 すると、ただ闇雲に歩いているわけではなく、薄いトレースが残っているので、一応はそれを目印にしているようである。
 この付近では少しくらいルートがずれても、尾根から外れない限り迷ったりする心配も無い。
 ラッセルを続けるかみさんだけれど、雪が深くなるとさすがに大変そうである。再び先頭を交代した。
 この先で二つのピークを右から巻いてかわすのだけれど、樹木の様子から夏道のルートが大体分かるので、大沼山のように間違えて登り過ぎたりすることも無い。

かみさんのラッセル 雪が深い
かみさんの力強いラッセル 雪が深い!

 ピークを巻いて次のやや急な斜面を登っている時に、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
 尻餅といっても、このフワフワの雪では簡単に起き上がることもできない。お尻はスキーよりも低く沈み込んでいるし、ストックを突いて体を支えようとしても、グリップの部分までズボリと雪の中に刺さってしまう。
 ひっくり返った亀よりも情けない状態で雪の中でもがきながら、かみさんの助けを借りてようやく起き上がれた。
 その斜面を登り終えて一息付いていると、後ろから一組の夫婦が追いついてきた。危うく雪の中でもがいている姿を見られるところだったけれど、そのもがいた跡だけはしっかりと見られてしまったようだ。
  もう行程の半分ほどは登ってきたはずなので、先頭を替わってもらうことにする。
 この辺りからは雪を被ったダケカンバやエゾマツ・トドマツの巨木の間を縫いながら歩くようになり、晴れていれば最高の風景を楽しめるはずなのに、こんな天気では感動も湧いてこない。
 やがて、目の前に急な斜面が現れた。ここを登れば千尺高地へと続く尾根の上に出ることになる。
 いつでも先頭を交代できるようにと、夫婦の後に続いてそこを登り始めた。ところが最後の急な部分で、先頭の男性が付けたトレースをスリップして登ることができず、止む無くそのトレースから外れて自分の登れる角度でラッセルするしかなかった。
 かみさんはそのままトレースの中を登って行ったので、私がやっと元のトレースまで戻れた時は他の3人は遥か先に進んでしまっていた。

岩峰が霞んで見える 先頭を行くご夫婦
岩峰が霞んで見えている ラッセルを続けるご夫婦

 私が山スキーをする時に一番嫌いなのが、他人のトレースがきつ過ぎてスリップして登れないことである。これには、情けないと言う気持ちももちろんあるけれど、後ろにずり落ちないように必死に踏ん張ることによって一気に体力を消耗してしまうのが嫌なのである。
 その後は離されないように付いていくのが精一杯で、とても先頭を交代できるような状態ではなかった。
 尾根の上には横殴りの風が吹き荒れていて、ジャケットのフードをスッポリと被って黙々と歩き続ける。
 今回は珍しくかみさんの方から「ここらで引き返そうか?」と弱音が出てきたけれど、ここまで登ったのなら頂上だけは踏んでから下山したかったので、そのまま登り続けることにする。
 頂上とは言っても、千尺高地の場合はなだらかな丘のようなものだから、そこまで登っても大きな感激があるわけでもない。でも、頂上まで何分かかったという記録だけは残しておきたかったのである。
急斜面を登る 私はこれまで山登りの経験が全く無かったので、天気が悪くて視界がほとんど利かないような時にも山を登る人達の気持ちがまるで理解できなかった。
 それなのに自分がこうして悪天候の中を頂上を目指しているのだから、可笑しなものだ。
 そして最後の急斜面。先頭の男性は急な角度でグングンと登っていき、そして途中で方向転換したところで男性の奥さんがそれに付いて行けず苦労している。
 私はその急斜面での方向転換は絶対に無理だと思ったので、そのまま斜めに上り続けもっと楽な場所で方向転換しようと考えた。
 ところが木が邪魔になっていたりして、適当な場所が見つからないまま崖の縁まで来てしまった。しょうがないので谷向きのキックターンで向きを変えて、登ってきた跡をまた引き返す。そして適当なところで再び斜めに登り始める。
 とても効率の悪い上り方だけれど、急斜面での山向きキックターンが出来ない時にはこれでも良さそうだ。

 そこを登りきるといよいよ吹きさらしの尾根になり、雪面も堅く締まっていた。強風に吹き飛ばされそうになりながらも一歩一歩登っていく。
 すると、前を登っていたご夫婦が突然Uターンして戻ってきた。どうやらそこで頂上に立ったことにして、直ぐに下山するようである。
 すれ違う時にラッセルのお礼を言って、私達夫婦もその場所まで登ってみる。そこは頂上とは言えないけれど、一応は周りを見渡せるようなところだった。
 見渡せるといっても視界は利かないし、立っているだけがやっとの状態なので、時計で時間を確認しただけで、私たちもサッサと下山することにした。
 とてもそこでシールを剥がせるような状況でもないので、まずは風を遮れるような場所まで滑り降りる。

頂上が近い 追われるように滑り降りる
吹きさらしの尾根を登る 直ぐに下山開始

 そして少し滑ったところで立ち往生してしまう。自分達が登ってきたトレースはあっと言う間に消えてしまっていて、どちらに向かって滑れば良いのか分からないのだ。
 登ってくる時はフードを被って足元ばかり見ていたので、周りの風景を見ても登ってきたルートを思い出せない。
 それでも、先に滑っているご夫婦が進んでいる方向は何となく間違っているような気がした。
 GPSを取り出して確認してみると、やっぱりその方向は全然違っている。
 「何か別の目的があるのだろうか?」
 心配しながら見ていると、途中で不安そうに後ろを振り向いた。私が、登ってきた方向をストックで指してみると慌てて向きを変えたので、やっぱり道を見失っていたようである。
 簡単に登れる山ではあっても、ちょっとした油断が命取りになるので、やっぱり冬山では気を抜けないことを改めて感じさせられる。

 先ほどの急斜面を滑り降りたところでようやく風も当らなくなったので、そこでシールを剥がす。
 フワフワのパウダースノーがたっぷりと積もっているけれど、ここの山は滑りを楽しめるような斜面が少ない。上級者ならば頂上から北東斜面に向かって滑り降りるのだろうけれど、私達のレベルでは登ってきたトレースの中を滑り降りるだけである。

下山風景 下山風景
フワフワのパウダーの中を滑り降りる トレースの中を滑り降りる

 せめて、登る時には眺める余裕も無かった周りの風景を楽しみながら滑ることにする。
 途中に、誰か他の人が滑った後が残っていた。姿を見かけなかったもう一組のご夫婦とソロの男性もその付近まで登ってきたのだろう。
 今日の天気では、わざわざ頂上まで登らずに適当なところから滑り降りるた方が絶対に正解だった気がする。
 登ってきた時のトレースの中を滑っていても、所々で歩いたり登り返したりしなければならず、これが疲れた体にズシリと堪えてくる。
 何時もならば途中でお昼にするのだけれど、寒いし、疲れているしでそんな気にもなれず、一気に車まで降りることにする。


白い風景
真っ白な風景

 そしてようやくスキー場跡の斜面に出てきた。
 上部のパウダーと比べるとかなり見劣りするけれど、まあこれはしょうがない。気合を入れて僅かばかりの斜面を一気に滑り降りた。
  ヨレヨレになって駐車場に到着。
 ここで今日始めて天狗岳の姿を見ることができた。
 景色も滑りも楽しめず、これではまるで修行するために山に登っているようなものである。でもたとえ修行のような山行であっても、自然の中に身を晒すのは気持ちの良いものだ。
 途中から滑り降りていたご夫婦の旦那さんは、千歳川でも何回かお会いしたことがある方だった。
 自然を相手に遊ぶのが好きな人間は、その遊びも同じようなものになってしまう傾向があるみたいだ。

スキー場跡を滑る 駐車場に到着
スキー場跡を滑る やっと駐車場に到着

駐車場 844ピーク 千尺高地

1;30

1:30
距離:3.9km 標高差:610m



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