春香山(2007/03/04)

予定外の快晴


 楽しみにしていた流氷キャンプ、諸般の事情によって断腸の思いで中止する決定を下したところ、「それじゃあ明日は天気が良さそうだから、何処かへ山スキーに出かけましょう!」と、まるで流氷キャンプなんかへ行くより山スキーの方がずーっと楽しいといった様子で提案してくるかみさん。
 「もしかしたら流氷が接岸しているかもしれないし、行くだけ行ってみましょうよ。」とか言ってくれたら、キャンプ翌日の天気が大荒れになるとの予報も気にせず大手を振って流氷キャンプへ出発していたのに、あっさりと予定は変更されてしまった。
 今回の山スキーは春香山へ行くことにする。山スキーを始める前は、札幌近郊でスキーを履いて登る山といえば春香山くらいしか思い浮かばなかった。それもオーンズスキー場のリフト終点から登るものだと思っていたら、桂丘の住宅地の奥から登山道があるらしい。
 それほど簡単に登れる山でも無さそうなので、これまで候補地には上ってこなかったのである。
駐車スペース 家を出る時はどんよりとした曇り空で、手稲山の山頂も雲に隠れてしまっていた。
 今日は最初から山スキーのトレーニングのつもりで考えていたのでそんな空模様も大して気にならない。
 国道5号線から桂岡の住宅地へ続く道へ曲がった。
 山登りをしていなければ来る機会の無い場所である。札幌市内でも見たことのないようなカツラの立派な街路樹が通りを飾っていた。
 カツラは私の好きな樹種でもあるので、「こんなところにこんな立派なカツラ並木が有ったんだ!」とちょっと感激したが、考えてみれば桂岡にカツラの街路樹、至極当然の話である。
 住宅地が終わり少し山の中に入ると、車10台ほどが停められるくらいに広く除雪してあるスペースがあった。
 そこを通り過ぎて除雪終点まで行ってみたけれど、既に2台ほど停められていたので、広いほうの場所に車を停めることにする。
 そこではスノーモービルの男性が出発準備をしていた。そのエンジン音がとてもやかましく、低騒音のスノーモービルって無いのだろうかと思ってしまう。

圧雪された林道を歩く 準備を整え7時50分に出発。
 除雪終点では男女4名のグループが準備をしているところだった。挨拶をして先に進む。
 さすがに人気の山らしく、そこから先の林道はスノーモービルやスキー、スノーシューなどで踏み固められ、つぼ足でも問題なく歩けそうである。
 川沿いにしばらく進み、途中から橋を渡って谷あいの林道へと入る。どういう訳かやたらにデコボコがあり、まるでスキー場のこぶ斜面の中を歩いている感じがする。
 殆どスノーモービルが付けたようなザラザラのトレースの中を歩くより、そこを外れた雪の中を歩いた方が楽である。
 やがてその林道は沢から離れて、カラマツ林の間を縫いながら山の斜面を登り始める。高度を上げるにしたがって、山に遮られていた空が次第に広がってくる。
 その空からは、いつの間にか雲が消えていた。これまで、朝の天気が良すぎる時は決まって途中から雲が広がりガッカリさせられていたが、今日は完全にその逆である。
 気温も上ってきたようで、上着を脱いでいても顔に汗が浮かんでくる。半そでTシャツ1枚でも良いくらいの陽気である。
 斜面をジグザグに登る林道をショートカットするように、林の中に登山道が付いているようだ。カラマツ林の中に延びるその登山道を見ると、結構傾斜がきつそうなので私達はそのまま林道を進むことにした。
 迷沢山に登った時、林道をショートカットしたおかげで大変な思いをしたことがあったし、少々遠回りでも楽に登った方が体力を消耗しないで済むのである。
 スノーモービルの耳障りな騒音が次第に近づいてきた。林道の上で追い越されて、排気ガスでも吸わされたら堪らんな〜と思っていたら、そのスノーモービルは林の中を真直ぐに登ってきたようで、私達の歩くかなり前の方にぴょんと飛び出してきて、そのまま林道を走っていってしまった。  

デコボコの沢沿いの林道 カラマツ林の中に続く林道

 かなり上まで登ってきたところで下の方を見下ろしてみたけれど、私達の後から出発したはずの男女4人連れの姿は何処にもなかった。
 山スキーを始めたばかりで経験も浅く、登っている途中で追い越されるのはしょうがないのだけれど、実際に抜かれる時はやっぱりちょっと悔しく感じるのである。
 ラッセルする必要も無く、自分でも結構早いペースで登ってきたつもりなので、今日はこのまま追い越されずに済みそうだとホッとする。
 林道も次第に尾根の上に近づいてきたようで、周りの風景も見渡せるようになって来た。水分補給をかねて一休みしていると、下の森の中から人の話し声が聞こえてきた。
林道を登る ちょうど私達の真下を男女4人グループが登ってきているところだった。私達がジグザグの林道を登っている間に、登山道を使って一気に差を詰められてしまったようである。
 ただ、真下に見えると言うことはまだ追い抜かれたわけではなく、こちらの方が高いところにいると言うことは、まだ私達の方が先に進んでいると言う理屈でもある。
 ここで抜かれて堪るかと再び歩き始めたけれど、とても適う相手ではないという事を直ぐに思い知らされた。
 登山道の方はそこから上り坂となって、標高も一気に追いつかれ、おまけに歩く早さは向こうの方が早いときている。
 同じ道を直接後ろから追い越されなかっただけ良かったのかもしれない。
 林道はそのまま尾根の上に出て、その先の小さなピークは林道は右から、登山道は左から巻くようになっている。
 そこで私達も林道から離れ、4人組を追いかけるように登山道の方に進んだ。そこでますます距離を開けられたけれど、一度抜かれてしまえばもう気楽なものである。
 林道を歩くより登山道の方が、自然の中を歩いている感じがして気持ちが良い。
 しばらく行くと、再び林道と登山道が交わる通称土場と呼ばれるところに出てきた。時間は9時半、出発してからおよそ1時間40分で土場到着である。 そこでは4人組が一休みしているところだった。
気持ちの良い登り ここで追い抜かすと再び抜き返されるのは目に見えているのでしばらく様子を窺っていたが、なかなか歩き始める気配がないのでしょうがなく私達が先に進むことにした。
 聞いてみると、彼らはそこから違う方向に向かうようなので、それなら再び追い抜かされることも無くマイペースで登ることができる。
 林道の方はそこから一旦下りになっていたので、私達は目前の尾根の右側から取り付いて登り始めることにする。
 そこにはスキーの薄いトレースが残っていたけれど、これまで踏み固められたようなところばかり歩いてきたので、ようやく山スキーらしい登りになってきた感じだ。
 そこを登って再び林道と合流する辺りでは、既に何処が林道なのかも分からなくなってきていた。
 スノーモービルのトレースも、そこからは好き勝手なルートで上へと登っている。
 傾斜は次第に緩くなり、シラカバの疎林が広がっていた。そのシラカバが枝先まで薄い樹氷に包まれ、冬山らしい風景を作っている。
 今日は気温も上るはずで、そんな風景は全然期待していなかったのに、これは嬉しい誤算だった。真っ白な風景の中に添景として存在するアカエゾマツも、1本1本の葉先まで樹氷に覆われ、これもまた真っ白に染まっている。
 そんな風景を楽しみながら、ウィダーinゼリーでエネルギー補給し、この後の山頂までの登りに備える。
 樹氷の森を抜けると、登ってくる途中では何処からもその姿を見ることのできなかった春香山がついにその全貌をあらわにした。
 そこはまるで春香山を眺めるための展望所として人工的に作られたような、樹木の生えていないなだらかな丘になっていて、登山者のために自然が演出してくれているような光景に思わず見とれてしまった。
 そこからは定山渓天狗岳の姿も良く見えている。頂上で風が強ければ、今日のお昼を食べるのにもちょうど良い場所になりそうだ。

樹氷の森を抜ける 遂に春香山が目前に現れた

 その丘を滑り降りたところには、春香山の麓に張り付くように山小屋銀嶺荘が樹木に囲まれてひっそりと建っている。
 駐車場には雪の被った車も停まっていたので、多分前日から銀嶺荘に宿泊している登山者もいるのだろう。その横を通り過ぎると、沢を一つ越えていよいよ春香山への最後の登りである。
 カンジキで登ったような新しい跡がある以外は、スキーのトレースにも薄く雪が積もっていて、今日はまだ誰もスキーで登った人はいないみたいだ。
 かなり急な登りを覚悟していたけれど、私達のレベルにちょうど良い角度のトレースになっていたので、苦労しないで登ることができる。
 雪質も、最近の暖かさからは信じられないくらいにサラサラの粉雪である。そして周りの木々は完璧なまでに樹氷に覆われ、枝先が重たそうである。
 その樹氷越しに手稲山の姿も見えている。
 後ろを振り返ると、石狩湾の緩やかなカーブを描く海岸線が眼下に広がっていた。和宇尻山の樹木は全て樹氷に包まれて全山が真っ白となり、暗い冬の日本海を背景に強烈なコントラストを作っている。

最後の斜面を登る 振り返ると石狩湾が

 そうして11時に春香山山頂に到着、スタートしてから3時間10分、銀嶺荘の前からは40分かかった。
 これは雪山ガイドに載っていたタイムと全く同じである。全くラッセル無しでこのタイムだから、雪が積もった時はかなり時間がかかりそうだ。
 これまでも、雪山ガイドに載っているタイムと自分達が実際にかかった時間を比較しながら、「かなり早く登れるようになったな〜」などと喜んだりしていたけれど、どうもこのタイムはその山の記事を担当した人によって基準がまちまちな様である。
 山によって、かなりラッセルに苦労したのに大幅に時間を短縮できたり、今回のようにラッセル無しでも標準タイムギリギリだったりと、あくまでも一つの目安程度に考えておいた方が良さそうだ。

 春香山山頂からの眺めは今シーズン文句なしで今シーズン一番のものだった。石狩湾の向こうに見えるはずの増毛山地が、地上近くに垂れ込める春霞によって隠れてしまっている他は、素晴らしい青空が広がっていた。
 そして山頂の木々は枝先まで厚い樹氷に覆われ、紺碧の空を背景に白い姿を際立たせている。
 夫婦で言葉を交わすことも無く、広々とした山頂をそれぞれ勝手に歩き回って、気に入った風景をカメラに納める。
 一通りの風景を撮影し終えてホッとしていると、かみさんが「ね!キャンプへ行くよりこちらの方が良かったでしょ!」と言ってきた。まあ確かに、キャンプが中止になって予定外で登ることになった山でシーズン最高の条件に恵まれるとは、本当に得した気分である。
 風も弱いのでそのまま山頂で昼食にすることにした。
 気温が上ってきたのか、シラカバの枝先から樹氷がパラパラと剥がれ落ち始める。解け始める前の美しい樹氷を見ることができて、早めに家を出てきたのが正解だった。
 こんなに素晴らしい天気なのに、他の登山者は少ない。
 私達がラーメンを食べている間に、女性二人連れが登ってきたかと思ったら、そのまま直ぐにシールを剥がして滑り降りて行ってしまった。私達から見るとなんて勿体ないと思ってしまうが、彼女達にとってはこの程度の風景は見慣れたものなのだろう。
 その後も男性が一人登ってきただけである。

樹氷をバックに 樹氷に囲まれ
手稲山をバックにして昼食 周りの山

 昼食を終えていよいよ下山開始。春香山の山頂から続く斜面は、樹木も少なく人気の山スキーゲレンデとなっている。
 既に昨日までのシュプールが沢山付けられていたけれど、まだ真っ白なままの部分も残っている。そんな場所を探して滑り降りる。
 さすがに下のほうの雪は重たくなっているので、ちょっとビビッて後傾姿勢になってしまた。スキー場のゲレンデと違ってリフトに乗って何本も滑れるわけでは無く、1本勝負なものだから、それで上手く滑れないとガッカリしてしまう。
 何回も登り直して滑る人もいるみたいだが、私達は1度登るだけで精一杯である。
 次に滑り降りてくるかみさんにカメラを向けていると、重たい雪に足を取られ尻餅をついてくれた。滅多に転ぶことのないかみさんなので、ここぞとばかりに沢山シャッターを切らせてもらった。
 それほど傾斜もきつくなくて真っ白な斜面があったので、かみさんにカメラマンを頼んで颯爽とそこを滑り降りる。
 途中までは良かったけれど、最後にバランスを崩してそのまま立ち木に衝突しそうになったので無理やり転んでそれを避けた。
 今度はかみさんが、嬉しそうな表情でこちらにカメラを向けていた。

パンツが真っ白だけど・・・ まだ転ぶ前

 銀嶺荘の先の丘で少し登り返しがあるけれど、その後は登ってきた時のトレースの中を一気に滑り降りる。ただ、途中の林道に入ってからはちょっと苦労した。
 そこまで下りてくると気温もかなり上っていて雪はザクザク、おまけにスノーモービルが走った跡は雪面も荒れているのでターンがしにくい。直滑降でスピードが出すぎると停まるのが難しいので、ザクザクの雪の中をブルドーザーで掻き分けるようにボーゲンで滑らなければならない。
 途中ではスノーシューで林の中を歩いている人も結構見かけた。この付近までならば、今度はフウマを連れてスノーシューで遊びに来ても楽しいかもしれない。
 車に乗って国道まで戻ると、道路際にも雪は殆ど無く黒々としたアスファルトばかりが目に付き、つい先ほどまでの雪景色がまるで夢のように感じられてしまう。
 スキーシーズンもあとわずかである。



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