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我が家のファミリー通信 No.38

京都世界遺産を巡る旅(後編)


 次第に上空に広がってくる雲を心配しながら見上げていたら、バスを待っている間にとうとうポツポツと雨粒が落ちてきてしまった。
 その雨から逃げるように大原行きのバスに飛び乗る。バスは、先程私達が亀の飛び石で渡ってきた高野川に沿って北上する。
茶店で雨宿り かみさんは高校の修学旅行以来の大原。私は始めての大原なので、思っていた以上にバスがどんどんと山奥に分け入っていくので驚いてしまう。
 雨脚は次第に強まり、終点の大原に着いても雨は降りやまず、バスを降りて直ぐに近くの茶店に逃げ込む。
 時雨れ模様の天気で、時々日も射してくるものの、雨脚はなかなか弱まらない。私の気のせいかもしれないが、京に降る雨はきめが細かい。北海道でこんな雨が降るのはあまり見たことがない。
 多分、この雨が北海道で降れば雪に変っているはずだ。きめの細かい雪が降るのは見慣れている風景なのである。

お土産屋を物色中 雨が小降りになってきたと思って店を出ると、直ぐにまた強まってきた。
 三千院へと続く参道には土産屋が立ち並び、その中には参道を覆うように庇を延ばしている店がある。
 ちょうど良い雨宿り場所になるのは良いけれど、当然ながら蜘蛛の巣に捕まった蝶のように土産屋の餌食となってしまう。
 もっとも、かみさんは最初からその餌食になるつもりでいたらしく、漬物にドレッシングと次々と買い漁っていた。
 そして買ったものは、全て私のザックに納まっていくのである。
 幸か不幸か、本来はザックの中に入っているべき二人分のウィンドブレーカーとダウンと傘は全て出払って空っぽになっていたのだ。

聚碧園の筧 三千院に着いて寺の中を拝観する。
 これまで大きな寺や神社ばかりを巡ってきたので、人間のスケールで作られたこんな寺に入ると心が落ち着く。
 葉が付いたままの竹の筧が何とも風流である。
 雲間から漏れ出た太陽の光が庭に射し込むと、その庭を覆っている一面の苔が鮮やかな緑色に染まる。
 裸の木々の枝先に付いた水滴、降り続ける雨の細い筋、それらも光を受けてキラキラと輝く。
 この雨が大原の里を一層艶めかしいものにしているようだ。
 三千院を出た後は勝林院へ向かう。
 他にも近くには宝泉院や実光院などもあるが、それぞれに拝観料がかかるので、全部を回っていてはその金額も相当なものになってしまう。
 そこで、門の前から中を覗きこみ、さてどうしようと悩むことになる。
 800円の拝観料をケチったばかりに宝泉院の座敷から眺める美しい竹林を見逃してしまったことが残念でしょうがない。出発前にもう少しそれぞれの寺の内容を調べておけば良かったと後悔しても後の祭りである。


三千院の灯籠 三千院の地蔵

三千院の往生極楽院と苔の庭

 その後に向かった来迎院では受付に誰もいなくて勝手に金を置いていけば良いようだ。
 私達が戸惑っていると、裏から住職の奥さんらしき人が「ご免なさいね〜」と言いながら現れた。この雨の中で、濛々と白い煙を上げながら境内の枯枝などを燃やしていたらしい。
生まれて初めて鐘を撞く 「どうぞごゆっくり」との声を後ろから受けて階段を登っていくと鐘楼があり、100円を入れるとその鐘を撞けるらしい。
 賽銭箱に100円玉を入れる気にはなれないけれど、鐘を撞けるのなら喜んで払ってしまう。
 生まれて初めての鐘撞き体験はとても新鮮なものだった。
 お寺の本堂も勝手に上がりこんで参拝する感じで、この大らかさが何とも好ましい。
 場内撮影禁止などといった無粋な張り紙も無く、初めて仏像の写真を撮ることができた。
 本堂から出ようとすると、また雨脚が強まってきた。
 しばらくの間、小振りになるのを待っていると、どうもこれまでの雨とは様子が違っている気がする。
 足元を見るとパラパラと白いものが跳ねていた。
 「えっ!雪?」顔を上に向けた瞬間、一陣の風が吹き抜け、大原の里が雪に霞んだ。
 吹雪いたのはほんの僅かな時間だけだったけれど、まさか京都まで来て雪を見ることになるとは思いもよらなかった。

梅の花と藁葺き屋根 この後は参道から離れて大原の家並みの中を歩いてみることにした。
 藁葺き屋根や遅咲きの梅の花などを眺めながら、こうして知らない町を歩くのはとても楽しく、熊野古道の旅を思い出す。
 相変わらず天気は変りやすく、雨が上がったからと折り畳み傘をしまうと、それを待っていたかのように雨が降り始める。
 そのまま畑の中など大原の里をぐるりと一巡りしたかったけれど、こんな天気で、そして密かに期待していた菜の花もまだ咲いていないようなので、途中から大原のバス停まで引き返し、最後に寂光院を見てから京都市内へ戻ることにする。
 寂光院は紅葉の名所として人気の寺だが、この季節はちょっと寂しい。
 特にここの本堂は10年前に放火によって全焼し、今は5年前に再建された本堂が建っているけれど、やはりまだ周りの風景にこの建物は馴染んでいないような気がする。
椿の花と苔生した手水鉢 そんな中で、苔に覆われた手水鉢の隅に赤い椿の花が一輪、そこに偶然落ちてきたものなのか、それとも誰かがそこに置いたのか、どちらでも構わないけれど、その風景だけが強く心に残ったのである。

 午後4時過ぎのバスで京都市内へと戻る。
 そのまま御幸町の居酒屋に直行するつもりが調べてみると午後6時からの開店となっていたので、先に祇園の街を歩くことにした。
 本当は居酒屋で一杯飲んでから、ほろ酔い気分で祇園の夜桜を楽しむつもりだった。
 それならば少しは体も温まっていた筈なのに、バスを降りた途端に、大原で冷え切っていた体に今度は市内の冷たい空っ風が吹き付けてきて、震え上がる。
 祇園の中を流れる白川沿いには枝垂れ桜が花を咲かせ、京情緒満点である。
 そこに舞妓さんでも通りかかれば、映画じゃないけど「舞子Haaaaan!!!」と言って飛び上がってしまいそうだ。


風情たっぷりの祇園の枝垂れ桜

 鴨川を渡って京都の繁華街へと向かう。
 橋の上から眺める、西日に照らされた川岸の風景がとても印象的だ。
 今日はとても川に縁のある一日だったような気がする。
鴨川の夕風景 寒さに耐えかね、コンビニで使い捨てカイロを購入して、ポケットに入れる。今日初めて感じる暖かな温もりである。
 開店と同時に居酒屋「ここら屋」に入る。
 ここはかみさんが調べだした店で、町家を改造した京野菜を中心としたメニューの居酒屋だ。
 ビールがプレミアムモルツしか置いていないのには戸惑ったが、一品メニューは手ごろな値段だ。
 かみさんが京都でしか食べれそうにない物を次々と注文。一皿の量も多くて、一人だったらそれだけで腹一杯になってしまいそうである。
 それぞれの味も美味しく、腹一杯になって、最後に恐る恐る会計を頼んだところ一人当たり4千円以下で済み、京都で初めて出会った味・量・値段の三拍子が揃った店であった。
 時間も遅かったのでこの日は夜桜見物は止めにしてホテルへと戻る。
 そしてホテルの玄関に入ろうとしたところで、宿泊のおまけに付いていた京都タワーの無料入場券をまだ使っていなかったことを思い出した。
 金を払ってまで登る気にはなれないタワーだけれど、タダならば話は別である。そのままUターンして京都タワーへ。 美しい京都の夜景を楽しんでからホテルへ戻り、京都の二日目が終わった。


京の夜景

 京都旅行の最終日は、朝から素晴らしい青空が広がっていた。
 最初に向かうのは醍醐寺。桜の咲く時期が他の寺よりも早いようなので候補地に選んだところ、ここもやっぱり世界遺産だった。
 JRの山科駅から地下鉄東西線に乗り換え、醍醐駅に到着。
桜の花に見とれる そこで降りた人は大部分がそのまま醍醐寺へ向かって歩き始める。
 天気が良い週末とあって、さすがに今日は人出も多そうだ。
 総門を入ると満開の桜が目に飛び込んでくる。
 拝観料のかかる三宝院、霊宝館、西大門から先の境内は9時開門なので、それまでの間は周辺の桜を見て回るが、それだけでも素晴らしい花の風景を楽しめる。
 その間にも人は増え続け、三宝院や霊宝館の前には既に長蛇の列が伸びていた。
 私達はまだ列の出来ていない西大門の前に並んで開門を待つことにする。
 前の方に並んでいる人達は、私を含めて皆一眼レフを手に抱えている。
 かみさんの観察によると、そんな人達はチラリチラリと他人の持つカメラに視線を向けていて、その様子がとても可笑しかったそうである。

西大門前の桜

青い空に桜が映える 開門を待つ人の列

 開門と同時に他のカメラマンと一緒に奥へと進む。
 そしてまず最初に清瀧宮本殿前の枝垂れ桜に向かってカメラを向ける。
 私もその中に混ざり、構図を考えながら撮影位置を次々に変える。
醍醐の桜 その次は後ろを振り返って、五重塔と桜を一緒に写そうと、またまた位置を変えながらシャッターを押しまくる。
 次第にそれが馬鹿らしく感じてきて、もっとゆっくり境内を見て回ることにした。
 そんなに焦らなくても、桜の咲く美しい光景はそこら中にあるのだ。
 その後、三宝院や霊宝館へも回ったが、こちらはもう大きな枝垂れ桜の周りに人垣が出来ていて、とても構図を考えて場所を移動するような状況ではなかった。
 豊臣秀吉が花見を楽しんだという醍醐の桜はさすがに素晴らしかったけれど、その人混みから逃げるように次の随心院へ向かう。


醍醐の桜 醍醐の桜

 人混みを離れてホッとしたものの、醍醐寺から随心院へと続く道は、幅も狭くて交通量も多く、のんびりとは歩けなかった。
花の終わった随心院の梅園 随心院は梅の名所らしいけれど、さすがに今時期では花は殆ど散ってしまっていて、それなのに梅園の入園料に100円も取られたのには納得できなかった。
 もっとも本来は400円なので、これでも安くなっていたようである。
 この寺は小野小町にゆかりがあるそうで、翌日にはこの小町を慕ったはねず踊りが開催されるために、境内はその準備作業で慌ただしい。
 特に印象に残るものもなく寺を出て、次の目的地は勧修寺。
 こちらはスイレンが名物らしいけれど、花の季節は6・7月。
 時期を外れた花の名所は面白くないことがこの随心院で分かったので、そこはパスして最後の目的地である宇治の平等院へ向かうことにした。

 平等院も世界遺産。
 今回の旅行の計画時に、醍醐寺を見た後でまだ半日の余裕がありそうなので何処へ行こうかと考え、近くに世界遺産の平等院と宇治上神社があることを知り、「もうこの際世界遺産巡りの旅にしてしまおう!」となったのである。
 地下鉄東西線の終点六地蔵でJR奈良線に乗り換え、宇治駅へ。まずは駅前の「和ダイニング湖中」で腹ごしらえしてから平等院へと歩く。
 お土産屋が並ぶ表参道は、さすがにお茶の名産地だけあってお茶の芳しい香りが漂ってくる。
 そしてたどり着いた平等院の入口にはまたしても長蛇の列が。とてもそこに並ぶ気にはならなかったので、そのまま通り過ぎて横を流れる宇治川の中州へと渡ることにした。
堤防の上からは、樹木越しに平等院鳳凰堂の姿が少しだけ見える。
 その建物は10円玉で飽きるほど見ているので、そこから写真を撮るだけで十分である。
 中州でも立派な枝垂れ桜が満開となっていた。
 シートを広げてお花見をしているグループもある。
天気も良くてのどかな風景だ。
 でも、宇治川の流れは全然のどかではなかった。
 上流にダムがあるらしく、電光掲示板には毎秒200t放流中と表示されている。
 カヌーをやっている人間にこの流れはたまらない。ウェーブで沈して猛烈な勢いで流され橋の橋脚に張り付く姿が、リアルに頭の中に浮かんできてしまうのだ。


中州に咲く枝垂れ桜 桜と急流

 そんな宇治川の流れをドキドキと見下ろしながら対岸へと渡る。
 そこにも、桜が咲くのどかな道が続いていた。
 宇治神社、宇治上神社と見て回る。
宇治上神社 宇治上神社は神社建築では日本最古と聞いていたが、そんなに古そうな建物にも見えないし、何でこれが世界遺産に指定されたのだろうと首をかしげる。
 後で調べると、私達が見ていた本殿は覆屋で、その中に平安時代後期の本殿が収まっているのだとか。
 その事を知っていたとしても、これが世界遺産だとの感動は湧いてきそうにもない。
 近くには源氏物語ミュージアムなどの観光施設もあったけれど、源氏物語にあまり興味のない私達はわざわざ見に行く気にもならない。
 そうすると少し時間に余裕も出来たので、宇治川を見下ろす喫茶店に入って一休みすることにした。
 毎度のことだけれど、我が家の旅は少し忙しすぎる。
 何度も来れないから少しでも多くの場所を見て回ろうとして、あちらこちらと動き回ってしまうのだ。
 もう少し年相応に落ち着いた旅をしたいものである。


桜の咲く道 宇治川を眺めながらコーヒータイム

 川を渡って対岸へ戻ると、平等院前の行列も消えていたので、中に入ることにする。
 そこにはやっぱり10円玉のイメージどおりの平等院鳳凰堂の姿があるだけだった。
 これで今回の旅七つ目の世界遺産制覇である。
平等院鳳凰堂 全然その気は無かったのに、偶然に世界遺産を巡る旅となってしまった今回の京都旅行。
 でも私達の好きな京都は、この世界遺産とは全く関係が無いことが、今回の旅で良く分かった気がする。
 もう一度京都へ来る機会があれば、今度は名も知らぬようなひなびたお寺ばかりを回ってみたいものである。
 でもきっと、そんなお寺を沢山回ってしまい、何時もと同じせわしない旅になることだけは避けられないような気がする。

 帰りは関西空港から飛行機に乗った。
 たどり着いた千歳空港には雪が積もり、スケートリンクのようにツルツルになった路面に冷や汗をかきながら自宅へと車を走らせた。

2010/3/26〜27
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京都の旅のアルバムその2




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