7年ぶりに京都旅行へ出かけることになった。
前回は紅葉の散り終える12月上旬、それでも散り遅れた紅葉と秋の京都を十分に満喫することができた。
そして今回は桜が咲き始める3月下旬、果たして京の桜は咲いているだろうか。
土砂降りの雨が降る神戸空港に到着。
関西方面はこの日で3日連続の雨である。
2泊3日の短い日程なので、早朝の便で早めに京都に着いて、1日目から観光に時間をかけたいところだけれど、神戸空港着12時50分という中途半端な時間の便しか予約できなかった。
しかし、この雨ではゆっくりとお寺巡りもしていられなかっただろうし、結果的には良かったのかもしれない。
到着が昼の時間帯なので、空港の飲食店は何処も行列ができている。
仕方なく、ポートライナーで三宮まで出て昼を食べることにしたが、事前の食事処のリサーチでは三宮までは含まれていなかった。
適当に入った店の美味しくないスパゲティで腹ごしらえをしてから、JRの快速電車で京都へと向かう。
沿線では桜が咲いているところもあって、これからの旅への期待が高まってくる。
京都駅に降り立つと、既に雨は止んでいたものの、吹き付けてくる冷たい風に体が震え上がる。
天気予報では気温の低い状態が続くとなっていたが、それでも最高気温は10度前後。札幌でこの季節に10度にもなれば、十分にポカポカ陽気と言えるだろう。
それでわざわざこの旅行のために、薄手のウィンドブレーカーを夫婦二人分買い揃えたのに、千歳に停めた車の中に厚手のフリースジャケットを脱ぎ捨ててきたことが後悔されるような寒さである。
既に午後3時を過ぎていたので、まずは駅から直ぐ近くのホテルにチェックインして荷物を置き、緊急用に持ってきていた薄いダウンジャケットをウィンドブレーカーの下に着込んで、最初の目的地である東寺へと向かう。
7年前に訪れた場所を外しながら今回の旅のプランを作った結果、図らずも世界遺産に指定された寺社仏閣ばかりとなってしまい、その世界遺産巡りの旅の一番目が東寺である。
実はここは、京都への到着が午後遅くなるので、ホテルから徒歩圏内と言う理由だけで選んだところである。
それでも、春期特別公開で宝物館や国宝の観智院が見られるので、仏像好きなかみさんは喜んでいた。
京都駅の八条口を出て、なるべく狭い道を選びながら東寺へと向かう。
大きな通りよりも狭い路地を歩く方が地元の人達の生活ぶりを直に感じられて楽しいのだ。
途中のタバコ屋の店先に「西城園子関西初登場!」などと書かれた写真入りポスターが貼られていたり、そのまま歩いていくとそのポスターの元である怪しげな劇場があって、近くを歩いていた若いお兄ちゃんが吸い込まれるように中に入っていったりと、京都の違う一面にも触れられるのである。
その路地を抜けると、通りの向こうに五重塔が見えてきた。
信号を渡って東寺の東門から境内に足を踏み入れると、まずその五重塔の姿に目を惹かれる。
大きな枝垂桜が花を咲かせていて、五重塔と一緒に写真に収めれば画になりそうだけれど、高所作業車が何かの作業中だったので、それが写らないように構図を作るのに苦労する。
宝物館に入ると、かみさんが一つ一つの仏像の前で真剣な顔付きでその説明に見入っている。
私の場合、最近はカメラのファインダーを通して風景を見る癖が付いているので、撮影が禁止されているこんな場所では、どうも手持ち無沙汰で退屈してしまう。
今回の旅行で行く所が決まった後は、それらを効率良く見て回れるように私が分刻みの旅程表を作っていた。
夫婦二人旅で、かみさんがお客さんで私がツアーの添乗員の様なものである。
じっくりと仏像を見て回るかみさんを「お客様、予定より遅れていますのでお急ぎ下さい」と言って急かせる。
次は観智院へ。ここでは、宮本武蔵が描いたといわれる「鷲の図」の襖絵が私の興味を惹いた。
剣豪がこれを描く姿を思い浮かべながらじっくりと鑑賞したかったけれど、添乗員みずからがツアーの遅れを招くわけにもいかないので、足早に順路を回った後は東寺の中心である金堂や講堂、五重塔へと向かった。
500年の時を経た今でも創建当初と変らぬ姿で私の目の前に迫ってくるそれらの建築物。
しかし、何故かしっくりしないのは、周りの風景が500年前とは全く違っているからなのかもしれない。
砂利敷きの広場に立って、ポツンと孤立した建物だけを眺めても、何も感じるものは無いのだ。
逆に、何気なく建物の裏に回った時、樹木の間から見えるその姿に心を動かされた。
市街地の中に存在し、しかも多数の観光客が訪れる世界遺産ともなれば、多くを期待するのは無理なことなのかもしれない。
それでも雨上がりの平日、閉園間近い時間で観光客の姿も疎らな中、静かに見て回れたのは収穫だった。
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