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我が家のファミリー通信 No.38

京都世界遺産を巡る旅(前編)


 7年ぶりに京都旅行へ出かけることになった。
 前回は紅葉の散り終える12月上旬、それでも散り遅れた紅葉と秋の京都を十分に満喫することができた。
 そして今回は桜が咲き始める3月下旬、果たして京の桜は咲いているだろうか。
雨の神戸空港 土砂降りの雨が降る神戸空港に到着。
 関西方面はこの日で3日連続の雨である。
 2泊3日の短い日程なので、早朝の便で早めに京都に着いて、1日目から観光に時間をかけたいところだけれど、神戸空港着12時50分という中途半端な時間の便しか予約できなかった。
 しかし、この雨ではゆっくりとお寺巡りもしていられなかっただろうし、結果的には良かったのかもしれない。
 到着が昼の時間帯なので、空港の飲食店は何処も行列ができている。
 仕方なく、ポートライナーで三宮まで出て昼を食べることにしたが、事前の食事処のリサーチでは三宮までは含まれていなかった。
 適当に入った店の美味しくないスパゲティで腹ごしらえをしてから、JRの快速電車で京都へと向かう。
 沿線では桜が咲いているところもあって、これからの旅への期待が高まってくる。

 京都駅に降り立つと、既に雨は止んでいたものの、吹き付けてくる冷たい風に体が震え上がる。
 天気予報では気温の低い状態が続くとなっていたが、それでも最高気温は10度前後。札幌でこの季節に10度にもなれば、十分にポカポカ陽気と言えるだろう。
 それでわざわざこの旅行のために、薄手のウィンドブレーカーを夫婦二人分買い揃えたのに、千歳に停めた車の中に厚手のフリースジャケットを脱ぎ捨ててきたことが後悔されるような寒さである。
 既に午後3時を過ぎていたので、まずは駅から直ぐ近くのホテルにチェックインして荷物を置き、緊急用に持ってきていた薄いダウンジャケットをウィンドブレーカーの下に着込んで、最初の目的地である東寺へと向かう。
東寺境内 7年前に訪れた場所を外しながら今回の旅のプランを作った結果、図らずも世界遺産に指定された寺社仏閣ばかりとなってしまい、その世界遺産巡りの旅の一番目が東寺である。
 実はここは、京都への到着が午後遅くなるので、ホテルから徒歩圏内と言う理由だけで選んだところである。
 それでも、春期特別公開で宝物館や国宝の観智院が見られるので、仏像好きなかみさんは喜んでいた。
 京都駅の八条口を出て、なるべく狭い道を選びながら東寺へと向かう。
 大きな通りよりも狭い路地を歩く方が地元の人達の生活ぶりを直に感じられて楽しいのだ。
 途中のタバコ屋の店先に「西城園子関西初登場!」などと書かれた写真入りポスターが貼られていたり、そのまま歩いていくとそのポスターの元である怪しげな劇場があって、近くを歩いていた若いお兄ちゃんが吸い込まれるように中に入っていったりと、京都の違う一面にも触れられるのである。
 その路地を抜けると、通りの向こうに五重塔が見えてきた。
 信号を渡って東寺の東門から境内に足を踏み入れると、まずその五重塔の姿に目を惹かれる。
管理作業中の枝垂れ桜 大きな枝垂桜が花を咲かせていて、五重塔と一緒に写真に収めれば画になりそうだけれど、高所作業車が何かの作業中だったので、それが写らないように構図を作るのに苦労する。
 宝物館に入ると、かみさんが一つ一つの仏像の前で真剣な顔付きでその説明に見入っている。
 私の場合、最近はカメラのファインダーを通して風景を見る癖が付いているので、撮影が禁止されているこんな場所では、どうも手持ち無沙汰で退屈してしまう。
 今回の旅行で行く所が決まった後は、それらを効率良く見て回れるように私が分刻みの旅程表を作っていた。
 夫婦二人旅で、かみさんがお客さんで私がツアーの添乗員の様なものである。
 じっくりと仏像を見て回るかみさんを「お客様、予定より遅れていますのでお急ぎ下さい」と言って急かせる。
 次は観智院へ。ここでは、宮本武蔵が描いたといわれる「鷲の図」の襖絵が私の興味を惹いた。
 剣豪がこれを描く姿を思い浮かべながらじっくりと鑑賞したかったけれど、添乗員みずからがツアーの遅れを招くわけにもいかないので、足早に順路を回った後は東寺の中心である金堂や講堂、五重塔へと向かった。
講堂 500年の時を経た今でも創建当初と変らぬ姿で私の目の前に迫ってくるそれらの建築物。
 しかし、何故かしっくりしないのは、周りの風景が500年前とは全く違っているからなのかもしれない。
 砂利敷きの広場に立って、ポツンと孤立した建物だけを眺めても、何も感じるものは無いのだ。
 逆に、何気なく建物の裏に回った時、樹木の間から見えるその姿に心を動かされた。
 市街地の中に存在し、しかも多数の観光客が訪れる世界遺産ともなれば、多くを期待するのは無理なことなのかもしれない。
 それでも雨上がりの平日、閉園間近い時間で観光客の姿も疎らな中、静かに見て回れたのは収穫だった。


五重塔と桜 講堂と金堂

 京都駅へ戻って夕食を食べることにする。
 駅構内の飲食店は何処も外国人の姿が多い。食事代を安く済まそうとする旅行者なのだろう。
五重塔を見下ろしながらの食事 私も空腹さえ満たされれば何を食べても良いのだけれど、かみさんは折角京都に来たのだからとそれらしいものを食べたがっていた。
 もっとも、湯豆腐だけは対象外である。
 前回の京都旅行では昼食に湯豆腐を食べ、「豆腐は三千円も払って食うものではない」と二人の意見は一致していたのだ。
 駅ビルの最上階の京料理店で、先程見てきたばかりの五重塔を見下ろしながら、三千円のお手軽懐石料理を食べる。
 かみさんは満足したみたいだけれど、私はそれこそ「食った気がしない」である。
 毎日こんなものを食べていたらおちょぼ口になってしまいそうだ。

茶わん坂の提灯 食事を終えて、清水寺へと向かう。
 特に行きたかった場所ではないのだけれど、夜間公開されているとの理由だけで選んだ場所で、ここも世界遺産に指定されている。
 清水寺へは清水道のバス停から行くのが普通だけれど、一つ手前の五条坂で降りてみた。
 そこから清水寺まで、茶わん坂と名付けられた坂道を登っていく。
 沿道の店は殆どが営業を終えたようで、灯りも消え寂しい道である。
 再び雨粒も落ちてきた。
 清水寺の入り口までやって来ると、それまでの寂しさが嘘のように、多くの観光客で賑わっていた。
 二人とも、高校の修学旅行以来の清水寺である。
 ここの桜はまだそれほど開花していなかったが、ライトアップされている中では全ての樹木が色づいて見えるので、花が開いているかどうかは大して関係無いような気がする。
ライトアップされた木々 夜景撮影用にデイパックに入るくらいの小型の三脚を用意してきたものの、私のCANON 50Dはこれに取り付けるにはちょっと重たすぎた。
 三脚がグラグラと揺れてしまう。そもそも人が多いので、三脚を広げてゆっくりと撮影もしていられない。
 夜桜の雰囲気だけを味わって清水寺を後にする。
 ちゃわん坂とは正反対の賑わいを見せる三年坂を下っていくと、その先では客待ちのタクシーがずらりと並んでいた。
 それまではバスに乗ってホテルまで帰るつもりでいたのが、その様子を見た途端に気持ちが萎えてしまって、「タクシーで帰ろうか?」とかみさんに提案した。
 「何を言ってるの!勿体無い!」との返事が返ってくるだろうと思っていたら、寒さと雨と歩き疲れと時間が遅かったためか「ええ、そうしましょう」とあっさり同意してきた。
 清水寺から京都駅までのタクシー料金は千円程度。
 JRのフルムーンパスの年齢条件をとっくの昔にクリアしている私達夫婦なのだから、こんなところではためらい無くタクシーに乗り込むのだ普通なのだろう。
 しかし、自分達を貧乏バッグパッカーだと思い込んでいる私達夫婦は、何とも居心地の悪い思いでタクシーの後部座席にちょこんと座ってホテルまで戻ったのである。


ライトアップされた清水寺

賀茂川沿いを歩く 翌朝は雨も上がって青空ものぞくまずまずの天気になった。
 この日の午前中は上賀茂神社から下鴨神社へと回る予定である。
 「京都最古の神社」との情報に興味を持って訪問先に選んだところ、どちらも世界遺産に指定されている神社であった。
 まずは上賀茂神社を目指して、地下鉄北山駅で降りる。
 駅の隣りにある府立植物園はまだ開園時間前だったので、その横を歩いて賀茂川へと出る。
 この付近の賀茂川堤防上には半木の道(なからぎのみち)と呼ばれる散策路が整備されていて、紅枝垂れ桜が800mに渡って植えられている。
 その紅枝垂れはまだ蕾のままだったが、他にも堤防上にはずらりと桜が植えられていて、既に花を咲かせているものも結構あるようだ。
 そのまま川沿いに歩いてみる。
早咲きの桜がほぼ満開 空を覆い隠すように頭上にまで枝を広げる桜。
 その枝の蕾が全て開いたら、一体どんな風景に変るのだろう。
 札幌でも川の堤防上に桜を植えて何々桜堤と名付けている場所が沢山あるけれど、何処もみすぼらしい桜ばかりである。
 歴史の違いを思い知らされるような京の桜堤の風景である。
 適当な場所から、細い路地へと足を踏み入れてみた。
 民家の庭先で花を咲かせる名も知らぬ樹木。
 玄関前のプランターに植えられている花は、北海道でもお馴染みのプリムラやノースポールだ。
 枝先までびっしりと花を咲かせた枝垂れ桜が路地の上にまで枝を伸ばしている。
 その花の密を吸っているのだろうか、何匹ものメジロが枝から枝、花から花へと飛び回っている。
 路地を曲がるとその先で、やけに落ち着いた様子のトラ猫が一匹、私達の方をじっと眺めていた。


枝垂れ桜の咲く家 土塀の続く路地

太田神社 大田神社へとやって来た。
 カキツバタが花を咲かせる時期にはここにも多くの人が訪れるようだけれど、今はひっそりと静まりかえっている。
 境内では小さな社に向かって女性が一人、深々と頭を下げたまましばらく動かない。
 信心深い人なのだろう。
 その女性の存在が、境内の空気をきりっと引き締めているかのようだ。
 それなのに私は本殿に向かって、二拍手二礼一拍手「あれ?順番逆だったかな?」などとやっている始末である。

 明神川沿いに土塀が続く社家の町並みを歩いて上賀茂神社へ到着。
 鳥居をくぐるとその先には広大な芝生の広場となっていて、参道の脇では大きな枝垂桜が華麗な花を咲かせていた。
御所桜 ソメイヨシノよりも枝垂桜の方が開花が早いようだ。
 更に鳥居をくぐるといよいよ世界遺産上賀茂神社の境内である。
 しかし、熊野古道を旅した時もそうだったけれど、神社の建物を見ても特に感動は沸いてこない。
 仏教と神道に差を付ける気持ちは無いのだが、仏像に対しては素直に手を合わせられても、分けの分からない神様に手を合わせるのは気持ちがこもらないのが正直なところである。
 それに、いくら年代の古い建物だと言われても、神社建築はほぼ様式が定まっていて、何処の神社も同じように見えてしまう。
 そして、ここから先は神域だとかの理由で立ち入りが制限されているのも面白くない。
 かみさんの感想は、「私、赤く塗られた建物ってあまり好きじゃない」。
 まあ私もその気持ちが分からない訳でもないけれど、前回の旅行で訪れた伏見稲荷大社だけは例外である。特に、あの赤い鳥居がずらりと並んだ風景が私のお気に入りで、是非もう一度その中を歩いてみたいと思っている。


上賀茂神社の立砂 かみさんが好きでない赤い建物

 バスに乗って次は下鴨神社へと向かう。
 ここも境内の様子は上賀茂神社と殆ど変わりはない。
下鴨神社 この様な規模の大きな神社では、本殿の他に摂社と呼ばれる小さな神社が沢山ある。
 一応はそれらにもお参りしてみるのだけれど、賽銭箱が置かれていない神社は何処にもない。
 賽銭を入れずにお参りだけするのは、何となく食い逃げするような気分で後ろめたさを感じてしまう。
 とは言っても、財布の中に小銭が無くなってくると、百円玉を投げる気にもなれず、食い逃げするしかないのである。
 次に京都に来る時は、家にある10円玉や5円玉をかき集め巾着袋に入れて持ってきた方が良さそうだ。

 ここ下鴨神社では糺(ただす)の森を歩くのも楽しみにしていた。
 「賀茂川と高野川の合流地点に茂る太古からの原生林」このキャッチフレーズを聞けば、いやがうえにも期待は高まる。
河合神社 その期待が大きすぎたので、実際にその森の中を歩くとちょっと拍子抜けの感であった。
 小川も流れ、気持ちの良い森であることは確かだけれど、「原生林とは言い過ぎだろ〜」って感じだ。
 糺の森を抜ける辺りに小さな神社があったのでそこにも寄ってみる。
 下鴨神社の摂社、河合神社である。
 ここの手鏡の形をした絵馬にメイクをして奉納すれば美人になれると言われているらしい。
 その絵馬も買わずに10円玉1枚で一生懸命お参りしているかみさんに、後ろから「もう手遅れじゃないの?」と声をかけた。


糺の森 糺の森

 二つの川が合流する場所まで行ってみる。
 上賀茂神社の横を流れてくる賀茂川、そして今日の午後から向かう予定の大原から流れてくる高野川、その二つが合流する様子は川好きの私達をとてもハッピーな気分にさせてくれる。
 その合流部には、二つの川を横切るように亀の形の飛び石が並べられていて、その上を飛び移りながら川を横断できるのである。
 これがまた楽しかった。


賀茂川と高野川の合流部 川を横切る亀の飛び石

 川で遊んだ後は、隣の出町柳駅から叡山電車に乗って一乗寺へと向かう。
 前回の旅でも一乗寺まできて詩仙堂とかを見て回ったのだけれど、今回の目的はお寺などではなくて、かみさんが行ってみたいという「恵文社」である。
恵文社店内 本屋と雑貨屋が合体したような不思議な店だけれど、なかなか面白かった。こんな店が札幌にもオープンして欲しいものである。
 昼食も一乗寺で食べることにした。
 一乗寺はラーメン激戦区らしく沢山のラーメン屋がある。その一番人気の「高安」へ行ってみると、平日の11時半なのに既に行列が出来ていたのにはビックリ。
 もう一つの候補に挙げていた「珍遊」はすんなりと入れて、そこで背脂たっぷりの屋台風しょう油味を食べる。
 味も美味しかったけれど、その値段の安さに再びビックリ。並が500円、あまりに安いので量が少ないのかと思い私は550円の中を注文したが、並で十分だった。
 食べ物のが高いと言われる京都なのにこの値段、札幌ラーメンが高すぎるのかもしれない。
 そうしてこの後は、かみさんが一番楽しみにしていた大原へ向かうこととなる。
 ちょっと心配なのは山の方の空が暗い雲に覆われていることだった。

2010/3/25〜26
京都世界遺産を巡る旅(後編)へ
京都の旅のアルバムその1




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