6 田舎暮らしと都会暮らし

 1998年に札幌に東急ハンズがオープンした時には、これで札幌もようやく都会になったなと感じたものである。
 欲しいものは何でも手にはいるような札幌に住んでいても、東急ハンズが近くに無いということだけがどうしても不満だった。まだ子供が小さい頃にディズニーランドへ遊びに行った時、その足でわざわざ渋谷のハンズまで出かけくらいだ。
 札幌に店舗ができたからそこで何かを買ったと言うわけでもないのだが、欲しいものができた時には何時でも簡単に手に入れることができるという安心感が大きいのである。
 その後も、欲しい本ならば何でも手に入りそうな巨大本屋とか、家1軒を建てられるくらいの各種資材がそろった巨大ホームセンターなど、私好みの店舗が次々とオープンし、札幌はますます便利な街になってきた。
 秋葉原を思わせるような電気店街も札幌駅周辺に形作られ、札幌に無いのはディズニーランドくらいと言ったら少し大げさすぎるだろうか。
 私が住んでいる周辺も、スーパーにホームセンター、本屋に回転寿司、マクドナルド等々、車で数分の圏内で全ての用事を足すことができる。
 唯一不満なのはレンタルビデオ屋だけが車で5分以上かかってしまうことくらいだ。
 以前は、大きなアウトドアショップも近くに2件ほど有ったのだが、残念ながらそれらの店は直ぐに潰れてしまった。
 札幌に限ったことでは無いのだろうが、一時のブームに乗って次々とオープンしたアウトドア関係の店だけは、現在はほとんど姿を消してしまっている。
 家からは遠いが、秀岳荘という札幌では老舗のアウトドアショップがしっかりと残っているので、アウトドア関係の用品を買うのにそれほど不自由はない。
 それでも私としては、LLBeanの直営店が無くなってしまったのがとても残念ではある。
 これだけ便利な都会にいながら、私の住んでいるところからはスキー場へも海水浴場へも車で15分ほどで行けてしまう。
 我が家の敷地は家が1軒隣接しているだけで、裏は将来も道路が造られる予定のない道路用地、そしてもう1面は送電線下の敷地になっていて、安い料金で菜園として借りている。
 庭の生け垣には毎年モズが巣を作り、隣家の伸び放題になっているイチイの木の下にはキジの夫婦が住みついているみたいだ。
 庭木に取り付けた巣箱には、先日からスズメやシジュウカラがその中をのぞきにやって来て、巣を作るかどうか検討中のようである。
 送電線下の敷地は少し低くなっているので、雪解け後しばらくは水が貯まって、大きな池のようになる。そこにも毎年かもの夫婦がやって来て、横の草むらで卵を育てたりしている。
 残念ながら、その卵は近所の悪ガキ達にいたずらされて、無事に雛が孵ったことは一度もない。
 送電線の向こう側には酪農家の牧草畑が広がり、以前は綺麗な朝日がそこから昇ってきたものである。
 現在は牧草畑との間に4階建てのマンションが建ってしまい、それだけが目障りである。
 一度だけ、我が家の庭までキタキツネが入ってきたことがあったが、さすがにその時は驚かされた。
 家の周りの空き地はかなり少なくなってきてしまったが、それでもワラビやクロイチゴの生える空き地がある。
 水はさすがに汚いが、小さな川も近くに流れていて、そこの堤防は愛犬との朝の散歩にちょうど良いコースとなっている。
 JRの駅まで徒歩15分、地下鉄の駅までは30分と少し離れてはいるが、交通機関の利便性もまずまずで、まさに理想的な都会暮らしと言えるかもしれない。
 こんなことを書いていると、そんなのは都会とは言えないだろうと怒られそうだが、北海道の中の大都会札幌市はせいぜいこの程度の都会なのである。

 そんな恵まれた都会暮らしを捨てて、田舎暮らしを始めるとしたら・・・。
 私の場合、実家に帰って農業をするという前提があるものだから、この田舎暮らしも清水町と言う場所に限られてしまう。
 札幌が本当の意味での都会ではないように、清水町も本当の意味での田舎ではない。
 清水町の人口は1万1千人くらい、道内の町では上から30番目くらいになる。道内の人口1万人前後の町は、何処も似たような雰囲気の町並みになってきている。
 30年くらい前までは、確かに田舎と言った雰囲気が漂っていたと思うのだが、今では町外れには小ぎれいな住宅が建ち並び、札幌の郊外の風景と大して変わりがない。
 私の実家も、直ぐ近くにまでそんな住宅地が広がってきている。
 都会を離れて田舎暮らしを、そう考えている人達にとって、私の実家が有るような場所は決してその候補地にはならないはずだ。
 それでは田舎とは一体どんな場所のことを言うのだろう。
 この話はまた次回で。

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