2 寂れゆく故郷

 国道274号線日勝峠を十勝側に下ったところにある町が清水町だ。国道をそのまま進むと国道36号線にぶつかるが、そこから500m程入ったところに私の実家がある。
  酪農家の長男として生まれ、高校を卒業するまでの18年間をその土地で過ごした。
  大学進学で札幌に出てきてそのまま就職、今年で札幌での生活も30年になる。
  毎年、盆と正月、気が向けばゴールデンウィークにも里帰りをしているが、その度に次第に寂れていく生まれ故郷の姿を見て淋しさを感じてしまう。
  子供の頃、その中に隠れ家を作って遊んだカラマツ林、湧き水が流れる小さな小川もその中を流れていた。
  実家の隣にあったその場所は、10年ほど前、突然宅地開発の業者が入って、思い出の場所はただの更地に変わり果ててしまった。
  そこには2軒ほど家が建ったが、開発した業者は倒産、工事費も未払いのまま姿を消してしまい、残された宅地は雑草が伸び放題。
  その2軒のうちの1軒には、私より一つ年上の幼なじみが住んでいる。
  彼の親は昔、私の実家の隣で同じく農業を営んでいたが、長男の彼が畑を継いだ後経営に失敗して土地を全て手放し、現在はそこの小さな土地に家を建ててサラリーマンをやっているのだ。
  また、道路を挟んだ向かい側の土地にも良く遊びに行った家があって、その周りの池や湿地帯は子供の冒険心を十分に満たしてくれた。
  今はそこも公共残土の捨て場に変わり果ててしまい、日高降ろしの強風が吹く日は砂塵が巻き上がり道路の脇に土の吹きだまりを作っている。

 最近は市町村合併の話しが時々ニュースなどで話題に上っているが、清水町は地理的に言えば鹿追町、新得町あたりと合併するのが妥当なように見える。
  ところが、財政事情が火の車の我が故郷清水町は、それらの街から完全にそっぽを向かれ相手にしてももらえないという話しだ。
  新得蕎麦で有名な新得町、然別湖を後ろに控え観光の町として発展する鹿追町、それに比べて清水町の売りは・・・。
  新聞やローカル雑誌では、道内市町村の名物紹介といった企画が良く載っているが、清水町といえばフロイデという温泉施設が紹介されるくらいだ。
  そのフロイデも今は赤字に悩まされているとか。元町民としては本当に情け無い話しである。
  もっと探せば、きっと他の町にも自慢できるような何かが有るはずだ。
  正月に帰省した時、朝日がカラマツの防風林越しに登ってくる風景を写そうと考え、新しく買ったデジカメを抱えて撮影ポイントを探しながらそこら辺を走り回ったが、初めて出会うような美しい風景に何度も出会った。
  十勝平野から見える日高山脈は、清水町から眺める姿がもっとも雄大だとも思う。
日高山脈の眺め  住んでいる住民には気が付かないような魅力が、そこを離れて他の町の住人となった私のような人間にはとても新鮮に見える。
  今は道内有数の観光地となった美瑛の丘も、有名になる前は地元の人達だってただの生活の場としか感じなかったことだろう。
  誰も気が付かないそんな清水町の風景に脚光をあてるきっかけにならないかなと、十勝毎日新聞という地方紙に「防風林写真コンテスト」みたいな企画を考えたらどうかと提案してみた。
  近い将来、再びこの町に移り住むことになるのならば、寂れた町のままよりは少しでも魅力のある町になっていてもらいたいのだ。

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