トップページ > キャンプ > キャンプ日記 > 2014年キャンプ日記

礼文島の旅(前編)

民宿から憧れの野営地へ(7月25日〜26日)

前方に浮かぶ朝日金曜日の朝4時30分に家を出る。
霞みにその輝きを吸い取られた朝日が、まるで満月のように前方に浮かんでいた。
高速道路で留萌まで行き、そこから先はオロロンラインをひたすら北上する。
稚咲内付近では道道を外れ、隣の牧草畑の中の道を走ってみると、そこには何処かで見たような風景が広がっていた。
直ぐにそれが、オホーツク海側のエサヌカ原生花園付近の直線道路と全く同じ風景であることに気が付いた。

上空には青空が広がっているのに、海の向こうに見えるはずの利尻山の姿が全く見えない。
霞みで隠れているだけなのだが、青空と霞みの境目もはっきりとせず、水平線だけが見えている状態なので、本来はそこにあるべきものが忽然と消えてしまったようで、何とも不思議な気がする。

 
直線道路   利尻山が見えない
稚咲内付近の直線道路   利尻山があるはずの場所には何も見えない

稚内港に入ってくるフェリー今回の目的地は5年ぶりの礼文島である。
フェリーの出航時間午前11時には、十分に余裕を持って稚内に到着。
去年も利尻に渡っているし、最近は天売や焼尻など、年に1度は島に渡っているので、フェリーに乗り込むのも電車に乗る感覚と大して変りなくなってきた。

椅子席でビールを飲んでいる間に礼文島に到着。フェリーの上からも、利尻島の姿は全く確認できなかった。
桃岩荘の若者が旗振りをしているのは5年前と変わりは無いが、ゆるキャラ「あつもん」は今回が初登場である。

フェリーターミナル2階の食堂で軽く昼食を済ませ、その後は桃岩コースを歩いて、今日の宿である知床の「民宿はまなす」に泊る予定である。
予約の電話を入れた時に「荷物だけでも受け取りますよ」と言われたが、「いや、良いです、トレーニング代わりに荷物を背負ったまま歩いていきますから」と答えていた。
樹木の間を登っていくフェリーターミナルから桃岩展望台コースを歩いて知床方面に降りるコースタイムは3時間20分。
その程度で楽をしていては、明日からの礼文島縦断など覚つか無いのである。

しかし、その申し出を断ったことを直ぐに後悔する羽目となった。
フェリーターミナルから車道を少し登っていくと、桃岩展望台コースへの入口がある。
そこから暫くの間、樹木が茂った見通しの悪い道を黙々と登らなければならない。
気温はそれ程高くはないものの、湿度が高くて風もなく、歩き始めて間もなく汗が噴き出してくる。
日本の最北の島と言えども、7月下旬ともなれば快適に歩ける季節ではなくなっているのだ。

団体の観光客は、もっと桃岩展望台に近いところでバスを降りて、そこから登り始める。
その辺りまで登ってくると、ようやく樹林帯を抜けて涼しい風が吹いてきた。
車道に停まった観光バスから、団体客がぞろぞろと降りてくるのが見えた。
そんな団体と遭遇しては堪らないので先を急ぐ。
桃岩展望台へ登っていくコース沿いの草は腰の高さくらいまで伸びていて、そのうえでオニシモツケやチシマアザミ等が花を咲かせている。
ショートパンツ姿だったものだから、草を掻き分けながら歩いていると、素足が草でかぶれてしまいそうだ。

桃岩展望台まで登ってきた。
さすがに礼文島観光のメインルートの場所だけあって、結構な賑わいである。
そんな場所は苦手なので、桃岩の写真を撮っただけで、サッサとそこを後にした。

5年前にこの桃岩コースを歩いた時は、濃い霧に包まれて周りの風景はほとんど何も見えなかった。
それでも、霧の中に霞んで見える花々の美しさに感動したものである。
今回は青空こそ広がっているものの、5年前と比べると花の数はかなり少ない。
それに、咲いているのは地味な色の花ばかりで、エゾカワラナデシコのピンクが少し目立つ程度だ。


オニシモツケが満開   桃岩とエゾカワラナデシコ
オニシモツケが満開だけど、あまり綺麗じゃない   桃岩とエゾカワラナデシコ

キンバイの谷とツバメ山霧の中に見えていたキンバイの谷、そこに咲き乱れる色とりどりの花々、霧が晴れればどんなに素晴らしい景色が見られるのだろうと5年前は考えていたものである。
今、目の前には緑一色のキンバイの谷が広がっているだけだ。
これはこれで礼文島らしい風景だが、やはりちょっと物足りない。

その物足りなさの理由は、花の少なさの他に、遠くの風景が霞んでいるせいもあった。
この辺りからは、険しい海岸線がつづく礼文島西海岸や洋上に浮かぶ利尻山、そうして真っ青な海が楽しめるのだが、どれも霞みのせいでぼやけてしまい、利尻山はその姿さえ確認できない。

元地灯台まで、2組の団体さんを追い抜く。
人が一人通れる程度の道しかないので、団体さんを追い抜く時は、彼らがビューポイントで一休みしている時に限られる。
そうなると、せっかくの風景を見逃してしまうことになるが、せっかちな私達なので団体さんのペースに合わせて後ろからゆっくりと付いていくことができないのである。
おかげで誰もいない元地灯台に一番乗りしたが、そこからの礼文島西海岸の風景もやっぱり霞みに包まれ、期待したほどのものではなかった。


礼文島西海岸
西海岸の遠くは霞んでしまっていた

レブンウスユキソウ   元地灯台
キンバイの谷で咲くレブンウスユキソウ   元地灯台に到着

知床へ向かって下っていく元地灯台からは、知床に向かって真っすぐに下って行くだけである。
12年前にも愛犬フウマを連れて礼文島に来たことがあり、この道を逆に知床から灯台まで登ってきて、美しい西海岸の風景を楽しんでいた。
その時のフウマは、前日に礼文滝まで歩いてかなり疲れていたので、ここを登って来た時はもうヨレヨレになっていた。
私達が風景を楽しんでいる間、死んだように寝転がっていた姿が懐かしく思い出される。

知床までは単調な下りが続くけれど、5年前はその途中から海側へ行ける派生コースができていた。
今回はそのコースも植生保護のため通行止めとなっていたので、ただひたすら知床へ向かって降りていくしかなかった。

そうして午後4時、民宿はまなすに到着。
標準のコースタイムより1時間早く歩けたので、まずまずのペースである。

今回の礼文行きを決めたのは10日ほど前、休む日程を決めたのは5日前、宿の予約をしたのは前日と、殆ど思い付きだけで島にやってきたようなものである。
それでも3回目の礼文島なので、思い付きだけでも何とかなるのだ。
今回は3泊4日の日程で、5年前と同じく礼文島を北から南まで縦断するつもりでいた。
民宿はまなすの前で3泊ともテント泊でも構わないのだが、礼文島にはキャンプ場が2か所しかないので、効率良く歩こうと思うとどうしても1泊は旅館に泊まることになる。
今回は5年前とは逆に南から北へ向かって歩くつもりだったので、1泊目を礼文島南端の知床の民宿を予約したのである。

私達が泊った部屋は、道路を挟んだ直ぐ前が海で、ちょうどそこが小さな船揚げ場になっていた。
風呂に入って汗を流した後は、その船揚げ場に出て潮風で体を冷ます。
夕食は、決して豪華ではないけれど、満足できるものだった。
宿のご夫婦から、宇遠内の魔女の話を聞かされる。その魔女の魔力によって、多くの旅人が8時間コース完歩を妨げられたらしい。
明日、その魔女に会うのが楽しみになってくる。

ウニ漁に出て行く磯舟翌朝、宿の窓から、ウニ漁に出ていく漁船を見送る。
宿主さんによると、今日は少し波が高いけれど「ウニの旗」が上がったとのこと。
漁師はこの「ウニの旗」が上がっている間だけウニ漁ができる。
観光シーズンを迎え、各宿泊施設では新鮮なウニがその日に水揚げされるかどうかは大問題らしい。

出発前に礼文島の情報をネットで検索していると、泊った旅館でウニが出てこなかったと文句を言っているページがあったりして、我儘ばかり言う観光客を相手にするのはなかなか大変なのである。

一緒に宿に泊っていたソロの男性、おじさんおばさん4人グループと一緒に車で送ってもらい、私達は礼文林道入口で降ろしてもらう。
ここからスタートして、途中でビバークしながら礼文島北端のスコトン岬を目指す予定である。
しかし、天気が心配だった。
週間天気予報を参考に、今回の礼文の旅を企画したのだが、その後次第に週末の天気が悪い方へと変わってきていた。
礼文林道入口それでも、「天気が崩れるのは南の方が中心となりそうなので、北へ向かえば雨から逃げられそうだ」と考えていた。
しかし、今朝の天気予報では、逆に道北の方が天気の崩れが大きくなり、今日の雨の降り始めは夕方ころ、そして明日は一日中雨で風もかなり強くなるとなっていたのである。
本当に最近は、天気予報に裏切られるパターンが続いている。

上空には雲を透して太陽の姿がかろうじて見えているが、これから向かう礼文島北部の山々は鉛色の雲に隠れてしまっている。
そんな風景を見ていると、気持ちも空と同じ鉛色になってくるようだ。
せめて、美しい花が林道沿いを飾ってくれていれば心も癒されるのだが、桃岩コースと同じく花の数も少ない。
礼文林道には月の丘など、途中2か所の派生ルートがあるが、そのどちらも植生保護のため立ち入り禁止となっていた。
花の数も多く、眺めも良い場所だったので余計に残念である。


北の方には鉛色の雲が広がる
これから向かう方角がこんな様子では力も入らない

レブンウスユキソウ群生地唯一花を楽しめたのが、レブンウスユキソウの群生地だった。
レブンウスユキソウは今がちょうど花の季節らしく、5年前よりは花を沢山咲かせていた。
ただ、私にとってはそれ程思い入れの強い花でもないので、あまり感動もしない。

礼文滝への分岐で一休みする。
そちらのコースも歩いてみたかったが、コースタイムは往復で2時間半となっている。
次第に雨雲が近付いてきている状況では、そんな余裕はない。
ここで最新の天気の状況を確認してこの先の行動を決めようと思っていたが、既に携帯圏外になっていたのは誤算だった。
何処かで携帯が繋がるだろうと思って、とりあえず先に進むことにする。

この先に宇遠内と香深井への分岐がある。
宇遠内へと進めば8時間コースとなり、今の時間では今日中に久種湖畔キャンプ場までたどり着くのは無理なため、途中でビバークしなければならない。
しかし、明日の天気は大荒れになる予報なので、ビバークすると必然的にその中を歩かなければならなくなる。
香深井の方へ向かえば、分岐から20分で緑ヶ丘公園キャンプ場に行くことができる。
天気のことを考えれば、今日は無理をしないで緑ヶ丘公園キャンプ場に宿泊するのが正しい選択だろう。
しかし、そこに泊ったとしても今日一日何もすることが無く、明日は一日中雨。これでは礼文島までやってきた意味がない。

宇遠内分岐から登り返すそんなことを考えながら、携帯が一度も通じないまま、宇遠内への分岐まで来てしまった。
迷うことなく、宇遠内への道へと進む。
今回の礼文島で一番楽しみにしていたのは、花を見ることより、5年前に最高の野営ができた海岸でもう一度野営することだったのである。
明日は東の風が強くなるとの予報になっていた。
もしもこれが西風ならば、その時点で西海岸での野営は諦めていたところだ。
東風ならば、礼文島西海岸の海はそれ程荒れないはずである。
雨や晴れの予報は外れることが多いけれど、風向きについては大きく変わることは無いと勝手に決め込んでいた。

礼文林道の標高は大体220mくらい。宇遠内への分岐地点の標高は30m。
そこから西海岸へ出るためにはもう一度標高190mの峠まで登ることになる。
登山と比べると大したことないけれど、礼文島を歩く時にこのアップダウンは結構きついのである。

西海岸へと下っていく汗をかきながら峠を目指して黙々と登っていく。
そして、やっとピークまでたどり着いたところで、携帯圏内に入っていることに気が付く。
早速、雨雲レーダーを確認してビックリした。大きな雨雲が礼文島のすぐ近くまで迫ってきていたのである。
後1時間もすれば、礼文島はその雨雲にすっぽりと覆われてしまいそうだった。
それまでに目的地についてテントを張ることができるかどうか、微妙な時間である。

峠を越えると、後は海岸までひたすら下って行くだけだ。
次第に西海岸らしい風景が広がってくる。
最後のガレ場はちょっとしたロックガーデンの様である。
急な坂を下って、イタドリを掻き分けながら進むと宇遠内の港へ到着である。


西海岸へと下りる岩場
この岩場を下れば西海岸までもう少し

宇遠内の集落を通り過ぎる4、5名の人達が港を眺めながら座り込んでいた。
ウニ漁に出た舟が帰ってくるのを待っている様子だ。
その中に宇遠内の魔女さんがいるのかどうかは分からなかったが、声をかけられることなく通り過ぎる。
ここには小さな茶屋があって、宇遠内の魔女はそこで8時間コースを歩く人に料理やビールを勧め、歩くのが面倒になった人はそのまま香深の港まで漁船で送られることになるらしい。
敢えてその罠に嵌められるのも楽しそうだが、残念ながら魔女さんにとっては忙しい時間帯だったのかもしれない。

そこから目的の場所までは険しい崖が迫る海岸線を歩いていく。
途中には巨大な岩がゴロゴロと積み重なったところがあって、そこを苦労しながら通り抜ける。
それらの岩は全て、隣の崖から崩れ落ちてきたものなのだろうが、敢えてそのことは考えないようにする。
そしてようやく見覚えのある場所までやってきた。


西海岸の海岸線を歩く   西海岸の海岸線を歩く
険しい海岸線を歩く   この辺りの石は全て上から落ちてきたものだ

テント設営空模様もかなり怪しくなってきていたので、急いでテントを設営する。
周辺には少し大きめの岩が幾つか転がっていた。それを見れば、以前に誰かがここにテントを張ったらしいことが直ぐに分かる。

それは良いのだけれど、その海岸全体に海藻が散らばっているのが気になった。
海が荒れると、海藻の落ちている場所全てが波に洗われると言うことでもあるのだ。
あまり良い気持はしないが、天気予報の風向きを信じて、ここにテントを張るしかない。

そうして、私達がテントを張り終えるのを待っていたかのように雨が降り始めた。

礼文島の旅後編へ続く 

礼文島の旅前編のアルバム 




戻る   ページTOPへ ページトップへ