道東キャンプの2日目、まずは琵琶瀬川でカヌーを楽しみ、その後は「霧多布温泉ゆうゆ」で一汗流す。
素晴らしい青空が広がり、霧多布岬からの絶景も楽しみたかったけれど、昨日のことがあるのでどうもそちらには近づく気がしない。
その代わりにアゼチノ岬の方へ行ってみることにした。
道東の海岸線は全て回りつくしたつもりでいたけれど、この岬だけは抜けていたようだ。
霧多布までは何度も来ていたけれど、殆どが天気の悪い時ばかりで、ゆっくりと観光するような余裕も無かったのである。
目の前に浮かぶ小島とその向こうの嶮暮帰島、霧多布岬よりもこちらの方が眺めが良いかも知れない。
その後は昼食を食べてから、今回の道東旅行で一番の目的の場所へ向かうことにする。
その途中に、朝の散歩の時に見つけた「粉の実」と言うパン屋に立ち寄る。
道路沿いの看板に従って道を入ると、普通の民家の一角が店になっていた。
何のことはない、サイトから常にその姿が見えていた家だったのである。
でも、ここで買ったパンはとても美味しく、店の外見と中身は大違いだった。
相変わらず文句の付けようのない青空が広がっているものの、目的地の方向の空には若干だけど雲が広がっているのが気がかりだった。
昼食は国道44号線沿いにある牧場直営のレストラン「ファームデザインズ」に入る。
アメリカンスタイルの建物が根釧原野の中にポツンと建っている風景は、何となく日本離れしている。
アメリカのハイウェイを走って、砂漠の中で一軒だけ営業しているパブに入るような感覚である。
この後は明日の昼までフリーズドライの山食しか食べられないので、ここで腹を満たしておかなければならない。
都会のレストランで食べるのと全く変わり無いような食事で腹一杯になって、店を出る。
そしてとうとう目的地の駐車場に到着した。
私のホームページの2010年キャンプ日記のトップページに「日本の果てでキャンプをしてみよう」と書いた時、私の頭の中にはこの場所がイメージされていたのである。
それなので、今年のうちには絶対にここでキャンプをしなければならないと考えていたのだ。
本当の目的地はこの駐車場から2時間ほど歩いた先である。
そこが本当に日本の果てのような場所なのか、一度も行った事がないので分からないが、航空写真でその場所を確認して、私の頭の中には最果ての風景が完全に出来上がっていた。
心配していた通り、空には次第に雲が広がってきていた。
おまけに海沿いなので、霧多布湿原にいた時よりも更に風が強く吹いている。
一応は観光地でもあるのだけれど、周りに人の姿は無く、気分だけは早くも最果てである。
重たいザックを背負って歩き始める。
山に登るわけでもなく、2時間くらいしか歩かないので、ザックが重たければ重たいほど旅をしている気分にひたれる。
とは言っても、かみさんのようにワインのボトル1本をそのままザックの中に入れて歩くのはどうかと思うのだが。
途中から木道を外れ、いよいよ原野の中に続く道に足を踏み入れる。
その先には展望塔もあって一応はまだ観光地の中であるが、その展望塔も老朽化のため立ち入り禁止となっていて、今は歩く人も疎らのようだ。
人間よりも鹿の方が沢山歩いているようで、そこら中にフンが落ちていて、周りの風景に気を取られていると直ぐに踏みつけてしまう。
展望塔を過ぎると、更に道は覚束なくなってくる。
ずーっと先には休憩小屋が見えているが、そこも今は朽ち果てているのだろう。
ところがその小屋まで行ってみると、建物全体がサルオガセのような蘚苔類に覆われているものの、立ち入り禁止にはなっていなかった。
2階の展望テラスへ続く階段を、足を踏み抜かないように一歩一歩慎重に登る。
テラスの上から、これから向かう先を眺めてみたが、目的としている先端部分までは確認できなかった。
そこから先にも、踏み分け道のような道がかろうじて続いていた。
こんなところまで歩いてくる物好きが結構いるのかもしれない。
しかし、更に歩いているうちにそうではなさそうなことが次第に分かってきた。同じような踏み分け道があちらこちらにできているのだ。
遊歩道の一部だとおもって歩いていた道は、どうやらエゾシカが歩いてできた獣道だったようだ。周りの草がペタリと倒れているのは、そこでエゾシカが寝ていた跡なのだろう。
私達は完全な鹿のテリトリーに入り込んでいたのである。
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