歴舟川を下りながらの川原キャンプは、これまでに2度ほど経験していたけれど、今回はカヌークラブの例会でそれをやることになった。
その準備段階での持ち物リストには、大鍋があるのは分かるけれど、それ以外にダッチオーブンまで含まれている。
「川のツーリングキャンプにダッチオーブン?」
私の頭の中では、ありえない組み合わせである。
準備が進むうちに、「ダッチオーブンが足りないので、誰か持ってこられる方はいませんか?」との、掲示板への書き込み。
「た、足りないって、一体幾つダッチオーブンを積んでいくの?」
一生懸命準備している役員のためにも、こんな時には率先して手を挙げたいところだけれど、今回ばかりは静かに見守っていることにした。
自分のやってきた川原キャンプとは全く次元の違うキャンプが、これから始まろうとしているのだ。
買い物部隊の集合時間から少し遅れて大樹町までやってくると、皆は既にスーパーフクハラで買い物を終えてレジに並んでいるところだった。
段ボール箱に入れられた大量の食材を見て、唖然としてしまう。それで買い物は終わりなのかと思ったら、道路を挟んだAコープの店舗に移動してそこでトウモロコシと餃子などを購入。
大量の買い物も、S吉隊長の入念な事前準備により順調に進んだようだ。
その後、近くで昼食を済ませてからキャンプ場に到着。
まずは、キャンプ場の炊事場を借りて、大量の食材の詰め替えや下処理をする。
このために、S吉隊長が事前に管理人のおじさんに、炊事場を使わせてもらう了解を得ようとしたところ、突然その管理人さんが怒り出したそうである。
「あんた達みたいな奴がいるから、どうのこうの!」
以前に、そう言って炊事場を使った人間が大量のゴミを捨てていったことがあったそうで、そんな人間と一緒にされて怒られた隊長も気の毒だけど、炊事場の使用だけは認めてもらったようだ。
今回の参加者は総勢17名。
普段はカヤックや小さなOC-1に乗っているメンバーも、今回は大型のカナディアンで参加してくれたので、7艇のカナディアンが揃った。
これだけあれば荷物の分担も楽になったけれど、その荷物の量も半端ではない。
大鍋二つにダッチオーブン三つ、着替え・トイレ用テント、スコップ、ノコギリ、おまけに普段のクラブキャンプで使用しているビッグタープまで乗せていくらしい。
それに加えて各自のキャンプ道具や、カヤックで参加するメンバーの荷物も引き受けなければならない。
私も、水30リットルに、普段はオートキャンプの時しか使わないような大型のクーラーボックス、それに前日の雨で川原の流木が湿っていることも予想されたので、乾いた薪まで用意してきていた。
それに加えての二人分のキャンプ道具や着替えなどを積み込むと、カヌーは引きずるのも困難なくらいに重たくなる。
それでもまでスペースがあるので、今日仕入れた食材などを次々とカヌーに積み込んでいると、かみさんが「も、もうそれ以上積まない方が良いんじゃない?」と心配し始めた。
いくら荷物が重たいと言っても、大人の人間をもう一人乗せるのとそれほど違いは無いはずである。
そこで試しに、かみさんと二人で荷物を載せたカヌーを水面に浮かべ、ちょっとだけ漕いでみた。
それでようやく、かみさんも安心できたようだ。
16フィートのカナディアンカヌーならば500kg程度の積載能力があるので、地上でいくら重たく感じても、水に浮かべてしまえば重さは大して関係ない。
カナディアンカヌーは、瀬の中で遊ぶための乗り物ではなくて、こうして荷物を載せて運ぶのが元々の目的に合った使い方なのだろう。
そうしていよいよ、キャンプ予定地の川原に向けての川下りがスタートした。
歴舟川上流の日高山脈では前日の明け方に雨が強くなり、川の水位情報を見ていたら僅か数時間で1m以上も水位が上昇し、これで明日の川下りが本当にできるのか、心配だった。
前日に現地入りした人の話では、濁流の中を倒木が次々と流されていく、すさまじい状況だったらしい。
5年前の歴舟川例会で、あっと言う間に姿を変えてしまう歴舟川の様子を目の当たりにしていたので、その状況がリアルに浮かんでくる。
しかし、歴舟川は増水するのも早いけれど、水が減るのも早い川である。大増水から一日過ぎた歴舟川は、濁りもかなり取れて、水量も川下りには程好い状態まで落ち着いてきていた。
今回の例会では、2週間前に千歳川を一緒に下ったT葉さんが、いよいよ本格的なカヤックでの川デビューとなる。T葉さんの場合、川下りだけでなく、これまでにキャンプをした経験も殆ど無いそうである。
川の方は初心者でも何とか下れるレベルだけれど、キャンプデビューが、いきなりのトイレも水場も無い川原キャンプでは大変である。
川下りと同じくらいに、キャンプの方にもドキドキしているみたいだ。
そしてもう一組、ゲストで参加しているKなべさんご夫妻も、湖以外でカヌーに乗ったのは千歳川と美々川だけと言うことで、相当に緊張しているらしい。
何しろ、スタートする川原から直ぐ下流にある歴舟大橋の橋脚が、最初の障害物に見えたそうである。
確かに私も、現在はその橋を過ぎた先の流れしか目に入らないけれど、初めて歴舟川を下った時は、まず最初にその巨大な橋脚を見て恐れを感じたものである。
荷物を満載してカヌーの喫水が下がり、それに水量も多めで波もやや高くなっているので、歴舟大橋を過ぎた先の瀬を下っている時でも、ガンネルを越えてカヌーの中に水が入ってきた。
これでは、同じ瀬の中を下る時でも、少しでも波の小さなルートを選びながら進まなければならない。
後続の初歴舟組も、本日最初の瀬を、緊張しながらも無事に下ってきた。
私が今日のキャンプ地の案内役になっているので、先頭で下っていくと、右岸にぶつかる左カーブのところで、かなり大きな白波が立っているのが見えてきた。
普段ならばそのまま流れに乗って波の真ん中に突っ込むところだけれど、さすがに今日はそんな危険は冒せない。
瀬の手前から左岸に寄って、波の低い場所を漕ぎ抜ける。
直ぐにカヌーから降りて、後続のメンバーに左に寄るよう合図を送る。
何せ、重たいダッチオーブンを積んでいる舟もあるので、絶対に沈させるわけにはいかない。
今回は水遊び用に水中眼鏡も持ってきたけれど、「水中に沈んだダッチオーブンのサルベージに役立ちそうですね」と言われていたのだ。
そんな私の心配をよそに、カヤックのK島さんから預かったキャンプ道具と全員分の米を積んでいるI田元会長が、わざわざ一番波の高いヒーローコースに突っ込んでいって皆をハラハラさせてくれる。
初歴舟組も、何とかその瀬をギリギリでかわすことができて、本当にドキドキしたみたいだ。
見ている方もドキドキである。
ここで沈されても、荷物満載のカナディアン以外でレスキューに動ける人は僅かしかいないのである。
第一の土壁まで下ってくる頃には、何時もとは一味違った川下りにも慣れてきたようで、皆それぞれリラックスした表情を浮かべている。
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