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幸福になれる朱鞠内キャンプ

朱鞠内湖畔キャンプ場(4月18日〜19日) 

 北海道内のアメダス観測地点でまだ積雪があるのは4箇所だけ。
 庭では水仙が花を開き、1週間後には桜も開花しそうだというのに、その4箇所の中の一つである朱鞠内へキャンプへ行こうというのだから、我ながら天の邪鬼な性格だと思ってしまう。
 いくら気温が高くなっても、この時期の北海道は何処へ行っても冬枯れの味気ない風景が広がっているだけだ。それならば、白い雪の風景の方がまだ面白そうである。
 それに、雪解けが急速に進む季節の朱鞠内湖へはまだ行ったことがない。もしかしたら、砕氷船のように氷を割りながらカヌーに乗るような楽しい経験もできるかもしれない。
白鳥が餌をついばむ そんな事を考えながら朱鞠内湖へと車を走らせた。
 札幌を出てからずーっと続いていた茶色い風景が、幌加内峠を越えると一変した。
 数週間前までは見慣れていたはずの雪景色に、何か懐かしささえ感じてしまう。
 それでも、アメダスでの幌加内の積雪は数日前に0センチになっているだけあって、市街地周辺に広がる蕎麦畑では真っ白な風景の中に染みが広がるかのように土が顔を出し始めていた。
 そんな風景の中の所々に、何やら白い大きな塊が転がっているように見えている。
 何かなと思ったら、それは土が出てきた蕎麦畑で餌をついばむハクチョウ達の姿だった。
 新たな幌加内の一面を発見したような気がして嬉しくなる。

 朱鞠内湖へ向かう途中、昼食に蕎麦を食べるのも楽しみの一つである。
 今回は道の駅「森と湖の里ほろかない」の中にある「玄蕎麦処○(まる)」に入った。ここの打ちたての蕎麦もなかなか腰があって美味しい。
雨竜川で羽を休める白鳥 朱鞠内に向かうに従って次第に雪深くなってくる。
 雨竜川を渡る橋を通ると、川の水面で沢山のハクチョウが羽を休めているのが見えた。
 幌加内付近で餌を食べていたハクチョウは夜は何処で眠るのだろうと不思議に思っていたけれど、どうやら川の上をねぐらにしているらしい。
 真っ白なハクチョウが浮かぶ雨竜川はの水は、増水して茶色く濁っていた。
 今日はこの雨竜川でもカヌーに乗ろうと考えていたので、ちょっと気が重くなってしまう。

 そうして朱鞠内湖に到着。
手前の坂を上り終えたところで目の前に一気に広がる湖の風景。「今時期は一体どんな様子なのだろう」と、いつも以上にワクワクしながら坂を登っていくと、そこに広がっていたのは初めて見る朱鞠内湖の表情だった。
一瞬、解け残った氷が湖面全体に浮かんでいるのかと思ったが、直ぐにそれは凍った湖面全体に雪がまだらに残っているのだと分かった。
冬の間、ワカサギ釣りの客をスノーモービルで送り迎えしていた跡が、そのまま白い道のように湖面を走っている。
これでは湖でカヌーに乗る事はできないけれど、こんな朱鞠内湖の表情を見られただけでも得した気分だ。

 
まだ凍っている朱鞠内湖

 冬の朱鞠内キャンプで何時も我が家がテントを張る辺りに、湖が一望できる最高の場所があった。
 そしてそこのすぐ前には雪解けが進んで地面が出てきているところもあって、ちょうど良い焚き火スペースにもなりそうだ。
 設営を始める前に、キャンプ場の管理棟に人がいるようなので、一応挨拶をしておくことにする。
 「すいません、この辺でテントを張らせてもらっても良いですか?」
 まだ雪の積もっている時期にこんな事を言うと、大体は怪訝な顔をされるものである。
 ところが管理棟にいたおじさんは、にっこりと微笑んで「ああ、好きなところに張りなさい」と答えてくれた。朱鞠内の人達は、どんな人間でも温かく迎え入れてくれるような心の温かさを持っている気がする。
除雪されたばかりの道 第2サイトへの道が除雪されているようなので、そちらの様子も見てみる事にする。管理棟にいたおじさん達は、ここの除雪作業をやっているらしい。
 路面にまだ雪が残っているけれど、何とか車でも入ってこられそうだ。でも、途中で埋まってしまったりすると、おじさん達に迷惑をかけることになる。
 毎回、同じような場所にばかりでは面白くないので、できれば第2サイトの方にテントを張ってみたい。
 どうするか暫く迷っていたけれど、そこで肝心な事を思い出した。我が家の車は既にスタッドレスから夏タイヤに履き替えてしまっていたのである。

 クマゲラの独特な鳴き声が聞こえて頭上を振り仰ぐと、直ぐ目の前の木にクマゲラがとまっているのを見付けた。
 これだけ近くでクマゲラの姿を見られる事は滅多にない。私が夢中になってその姿を写している間、クマゲラは盛んに鳴き声を発し続けていた。
 時々、湖の遠くから別のクマゲラの声が返ってくる。今の季節はパートナー探しに必死なのだろう。
 朱鞠内湖でクマゲラを見るのはこれが初めてだった。何度も訪れている朱鞠内だけれど、今回は新しい発見が沢山ある。
 これだから朱鞠内通いは止められないのだ。

クマゲラ   クマゲラ

 最初の場所に戻ってテントを設営する。
 スノーシューを持ってきたけれど、そんなものは必要ないくらいに雪が締まっている。気温が上がって表面はザクザクに解けてきているけれど、2mを越える雪の重みで堅く締まった雪は気温が15度になっても下まで溶けることはない。
 雪面から反射する紫外線で、顔がチリチリと音を立てながら焦げてくるような気がする。
 汗をかきながら設営を完了し、ここでビールをグビッとあおりたいところだけれど、この後に雨竜川の川下りを予定しているので、グッとこらえるしかない。
 サクサクと川を下って、サッサと戻ってくることにしよう。

とてもサクッとは下れなかった川下りの様子はこちら 




我が家のサイト

 午後5時前にキャンプ場に戻ってきて、ここでようやくビールにありつける。
 雪中キャンプだというのに、この時間でまだ気温が10度もあるのだから信じられない。
 空をほんのりと染めながら、太陽が傾いていく。
夕暮れ 日も長くなってきているので、暗くなる前に夕食を済ませることができて、その後は楽しい焚き火の時間である。
 焚き火台があれば雪の上でも何とか焚き火は楽しめるけれど、やっぱり案配は良くない。
 それがサイトの隣に雪が解けて地面が出ているところがあったので、何時も通りの焚き火ができてしまう。
 周辺の雪の解けている場所を探すと乾いた枯れ枝まで拾えてしまって、こんなに条件の良い雪中キャンプなんて初めての経験だ。
 2月に買った6本セットのワインも残り2本で今日はそのうちのキャンティを持ってきた。
 家では毎日500円ワインばかり飲んでいて、キャンプの時だけはちょっとだけ贅沢ができる。
 かみさんが「直人さんのために乾杯しましょう!」と言った。
 去年の暮れに亡くなられた直人さん。そう言えば直人さんご夫婦と最初で最後のキャンプを楽しんだのが去年の6月の朱鞠内湖だった。
 直人さんの冥福をお祈りして2人でグラスを合わせた。
 月齢12のほぼ真ん丸く見える月が真正面に浮かんでいた。
 クマゲラの鳴き声がまだ聞こえてくる。暗くなるまでパートナー探しに頑張っているようだ。
 時々白鳥の群れが独特の声を上げながら、朱鞠内湖の上空を通り過ぎていく。
 ねぐらに帰るだけなのか、それともこのままシベリアを目指すのか・・・。
 そんな群れの一つが月の前を横切って飛んでいった。カメラを構える余裕もなく、自分の脳裏にその瞬間を焼き付けた。
 チロチロと上がる焚き火の炎を見つめながら「幸せだな〜」とつぶやいた。
 朱鞠内でのキャンプは何時も私を幸福な気持ちにしてくれるのだ。
 雪中キャンプだというのに、一度も手袋をしないままで寝る時間が訪れた。

焚き火   月夜

 夜中に目覚めると、さすがに寒さで震えてしまった。
 いくら暖かでも、テントの下から伝わってくる雪の冷たさに変わりは無いのである。
 朝になっても、凍ったテントの中でシュラフから抜け出す決心が付かず、暫くダラダラとしてしまう。
 ようやくテントを出られた時には、既に朝日の頭が山の上に現れかけていた。そしてそこからスポットライトのように天に向かって真っ直ぐに伸びる光の柱、太陽柱と言われる現象である。
 慌ててテントの中にカメラを取りに戻った。
 太陽柱を見るのは私も初めてである。もっと早起きしてこの現象を楽しみたかった。

太陽柱

 この時期の朝日は昇るスピードも速い気がする。
 良いアングルを探してカメラを抱えてウロウロしていると、その間にスポンと太陽が昇ってしまった。
 この朝の気温は−2度。直ぐに焚き火に火を付ける。
 完全な堅雪となっているので、全く埋まることなく何処でも自由に歩き回ることができる。
 フウマも久しぶりに好き勝手に徘徊できて満足そうだ。

朝の風景   フウマも気持ちが良さそう

 水位が下がっているので、第1サイトの前の離れ小島とも陸続きになっている。
 全面結氷しているので他の島も全て陸続きのようなものだけれど、さすがにこの時期に氷の上を歩く気にはなれない。
 氷の下に確実に陸地があるところだけを選んで歩くのである。
 氷結した湖面で白く解け残った雪が、白波のようにも見える。
 分厚い板氷が割れてクレバスを作る湖岸の風景は、まるでオホーツクの流氷を見ているようだ。
 太陽が高くなると、凍っていた雪面が直ぐにザクザクになってくる。
 春の日射しを浴びながら朝食を済ませ、撤収を開始。
 テントも十分に乾き、最後は雪の上にブルーシートを広げてその上でテントを畳んだので、濡らすこともなく片付け終えた。
 何から何まで、いつもの雪中キャンプからは考えられないような快適さだった。

白波が立つように見える   流氷の風景にも見える

 その後はせいわ温泉ルオントへと向かう。
小川の縁ではエゾノリュウキンカが、雪の解けた湿地ではミズバショウが、日当たりの良い道ばたではエゾエンゴサクが花を咲かせはじめている。
周りの山はまだ真っ白だけれど、朱鞠内にも遅い春が訪れようとしていた。

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朱鞠内の風景

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