そこを出た後は、今日の宿泊予定地霧多布岬の様子を見に行くことにした。
途中で、キャンプ場を管理する浜中町役場に確認の電話を入れる。今日は夜から天気が崩れるとの予報だったので、ここのバンガローを利用するつもりでいたのだ。キャンピングガイドによると、ここのバンガローの一部はペットも泊まれるようになっているらしい。
電話でそのことを聞いてみると、確かにペットも泊まれるバンガローは用意しているけれど数が少ないので予約が必要とのこと。まさか、もう予約済みなのではと心配になって「今日泊まりたいんですけど、空いてますか?」聞いたところ、「あっ、今日の話しなら予約なんかしなくても、直接現地に行っても大丈夫ですよ」との答えが返ってきた。
これで宿の心配も無くなったのでゆっくりと観光することができる。
霧多布岬は数十メートル先も見えないくらいの濃い霧に包まれ、近くの灯台から霧笛の音がひっきりなしに聞こえてきていた。
今回の道東キャンプでどうしてもテントを張りたかったのが、実はここ霧多布岬キャンプ場の見晴らしの良い芝生のサイトだったのである。7年前にここに泊まった時も濃い霧と強風のためにバンガローを借りたのだけれど、帰る時になってその芝生のサイトの存在に気が付いたのだ。
それ以来、そこにテントを張るのが私の中では一つの夢のようになっていたのだけれど、結局今回もその夢はかなえられずに終わりそうだ。その場所は草が伸び放題になっていて、もしも天気が良かったとしても、鎌が無ければそこにテントを張るのは難しかったかもしれない。
霧に包まれたキャンプ場では青年が一人ベンチに腰掛けて本を読んでいるところだった。
話しかけると「昨日からずっとこんな天気なんですよ。一晩中霧笛は鳴り続けるし、それに無茶苦茶寒いんです。」と弱音を吐いていた。
とても気の毒に思えたけれど、これが今時期の霧多布の本当の姿であり、彼も多分この惨めな状況を心のどこかで楽しんでいるのかもしれない。
キャンプ場を出ると直ぐにポツポツと雨が落ちてきて、その雨は直ぐに本格的な降りへと変わってきた。先ほどの青年がますます気の毒に思えてくる。
もっとも、気の毒なのは自分達も同じである。夕方までは雨も降らないはずだったのに、この雨では何もすることができない。雨雲レーダーを確認しても、この雨はしばらく降り続けそうだ。
とりあえず霧多布湿原ネイチャーセンターに逃げ込んで、今日の予定を考え直すことにする。
車の中から見る霧多布湿原では、ワタスゲの花が結構咲いていた。初めてこの風景を見れば大いに感動していただろうけれど、昨日、名も無い湿原でワタスゲ大群落を見ているものだから、それほど感動もしない。それに、雨に打たれたワタスゲは、どこかしょぼくれて見えてしまうのだ。
センターの駐車場で車から降りると、クワックワッと鋭い鳴き声が聞こえてきた。すれ違ったレンジャー風の女性が「今日も鳴いているわね」と話していたので、多分それがタンチョウの鳴き声なのだろう。旅行中に何度もその姿を見かけたけれど、ここでようやくその声も聞くことができて、何となく嬉しくなった。
平成5年に完成したと言うこのセンターは、湿原関連の情報も充実しているし、旅行へ出る前に湿原でのカヌーについてメールで問い合わせた際も丁寧なアドバイスをもらえ、スタッフの方の対応も感じが良い。
レストランも兼ねたゆったりと寛げる展望室や自然関連の蔵書が多い図書室もあって、半日程度はここで時間を過ごせそうだ。さすがにそれも退屈過ぎるので、昼食に牡蠣を食べるために厚岸までドライブすることにした。
今日の楽しみの一つあやめヶ原は帰りに寄ることにして、まずは厚岸のマイナー観光地でも回ろうと愛冠岬を目指す。
ところが、駐車場から岬まで500m程歩かなくてはならず、雨も降っているのでそこは諦める。
次に国泰寺も寄ってみたが、山門と前庭に歴史を感じるくらいで特に見るものも無し。
その寺の隣に小さな資料館があったので何気なく入ってみると、無人だと思っていたところに受付の人が座っていたので驚かされる。
おまけに入館料が100円かかるというので、慌てて出てきてしまった。
一体お金を払ってここを見に来るような人が何人いるのだろう?と甚だ疑問に思えてしまうのだ。
近くに筑紫恋キャンプ場もついでに寄ってみたけれど、バンガローばかりが目に付くようなキャンプ場で我が家が魅力を感じるような場所ではなかった。
結局、何も得るものも無くお昼になってしまった。
旅行前の計画では、最初の方で厚岸を訪れ生牡蠣を仕入れて、それを何処かのキャンプ場で美味しく頂くと言うことになっていた。
それが結局今頃訪れることになってしまい、ここで生牡蠣を購入してもバンガローの中で焼いて食べる訳にもいかない。
それでも、厚岸に来て牡蠣を食べずには帰られないと「厚岸味覚ターミナル コンキリエ」で牡蠣を食べることにする。
この施設の中にある「レストラン エスカル」に入りメニューを見る。直ぐに目に入ったのが2500円のかきづくし弁当である。
2500円×2=・・・、しばし悩んで出した結論が、私がかきづくし弁当、かみさんが普通の定食を注文して、かきづくし弁当に付いてくる牡蠣を二人で分け合うと言う方法だった。
みみっちい奴だと馬鹿にされそうだけれど、これで厚岸で牡蠣を食べたと言う事実だけは残せたのである。
その後、厚岸の街の中でガソリンを入れようとスタンドを探したけれど、どのスタンドにも価格が表示されていないので困ってしまった。
「だからあそこで入れておけば良かったのに」とかみさん。
今朝方、築拓キャンプ場を出て厚床の国道沿いにあるGSの横を通った時、かみさんが「ここでガソリンを入れましょう」と言ってきたけれど、「こんな田舎で入れるより厚岸の街の中まで行った方が、もっと安い店があるはずだ」と無視していたのだ。
これだけガソリンが値上がりしてくると、1円でも安い店を探して入れたくなるのが人情である。店頭に価格を表示していないような店は、「当店のガソリンは時価で販売してます」と言っているようなものだから、とてもじゃないが怖くて入れない。
地図を見ると郊外へ出たところにホクレンのGSがあって、ちょうどその近くに「太田屯田兵屋」の観光スポットもあるようなので、そこまで出かけることにした。
北海道の場合、地方の方へ行くとホクレンのGSが一番安心して給油できるし、特に今時期はサマーフェアーをやっていてスタンプが貯まると北海道地図をもらえるのである。
やっとたどり着いたそのホクレンGSだけれど、結局、厚床にあったGSより高いガソリンを入れることになってしまった。料金を支払うと、そこの店員さんが笑顔で「ちょうどスタンプカードが満タンになりましたよ」と教えてくれた。スタンプ10個で地図が1冊もらえて、そのカードには20個のスタンプが押せるようになっているのだ。
「やった!、今回の旅行だけで2冊分のスタンプが貯まっちゃったね!」と私が喜んでいると、かみさんが一言「スタンプ1個押すのに1000円払っているのよ」と冷めた表情で言い捨てた。
その後、「太田屯田兵屋」へと向かう。
その兵屋は農家の裏庭のようなところに建っていて、知らずに見えればその農家の物置と勘違いしてしまいそうな建物だ。
特に見るべき施設でも無いのだけれど、満足な防寒服も無いような状況でその建物で北海道の冬を越したのだと考えると、当時の苦労をしみじみと感じることができるのである。
そのせいで病気に倒れる人が続出し、数年後には最初に入植した人数の半分程度しか生き残らなかった、なんて話しも思い出してしまう。
先ほどのGSの近くに屯田兵の資料館もあったので、もう少し詳しく当時のことを知りたいと思って、そちらに向かう。
ところが、入り口の横に入館料100円と書かれていたものだから、そのまま車をUターンさせてしまった。
「興味があるのなら100円くらいけちるな!」と言われそうだが、「こんな施設に入るのにいちいち金を取るな!」と言うのが私の考えなので、そうなってしまうのだ。
その後は漁協の直売所「Aウロコ」に立ち寄ったりしながら、あやめヶ原へと向かう。
同じ品物を買うのなら「コンキリエ」より「Aウロコ」で買った方が安いようだ。今夜の夕食用に「コンキリエ」で買ったカニの鉄砲汁やサンマの蒲焼が「Aウロコ」で安く売られていたものだから、かみさんがとても悔しがっていた。
途中でほとんど止みかけていた雨が、あやめヶ原に着く頃にはまたポツポツと降り始めてきた。愛冠岬の時とは違って、あやめヶ原の方はそう易々と退散するわけにはいかない。
長靴に履き替え、雨具を着込み、完全装備であやめヶ原を散策する。
これまでにも数回ここを訪れているけれど、今回ようやくヒオウギアヤメが一面に咲き誇る風景に出会えることができた。北方原生花園と同じく、ここでも馬達がせっせと雑草駆除に働いている。
今回これだけヒオウギアヤメの花を沢山見られたのは、この馬やポニー達のおかげだと思ったけれど、どうやらそれだけでは無く、今年は特に花付きの良い年だったようである。
そんな花の風景に感動しながらチンベノ鼻と呼ばれる岬の先端まで歩いて行くと、次第に雨風が強くなってきた。慌てて駐車場まで戻ってきたけれど、雨具を着てても全身ずぶ濡れと言った感じである。
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