月曜から金曜まで5日間の休暇を取得し9連休の休みを作った。年末年始を除いてこれだけの長い休みはここ20年くらいの間で記憶にないし、もしかしたら就職してから初めてになるかもしれない。
自分がその気になりさえすれば、今まででもその程度の連続休暇は取得できていたのだけれど、「仕事の調整をするのも大変で、それなら細切れに自分の好きな時に休んだ方が良い」と言うのが、これまでの私だった。
それが何故、今頃になって長期休暇を取る気になったのか。
特に大きな理由があるわけでも無く、ただ何となくと言ったところなのだけれど、そろそろ一度頭の中をリセットしたくなったのかもしれない。そんな時には荒野の中に身を置くのが一番である。今回の旅のテーマは「荒野を目指して道東キャンプ」で行ってみようなどと、私の心の中だけで密かに決めていた。
キャンプ1泊目は歴舟川ダウンリバーキャンプ。
これは、愛犬フウマが元気なうちにもう一度川旅キャンプを一緒にしておこうと、道東キャンプとは別に以前から考えていたものである。
ところが何故か、私がこの歴舟川ダウンリバーキャンプを計画すると、カヌークラブのS吉さんがその上流のヌビナイ川下り企画を考えてくれるのである。初めてのダウンリバーキャンプの時もそのヌビナイ川下りとバッティングしてしまい、結局その時は、皆と一緒にヌビナイ川を下って、そのまま我が家だけが歴舟川を下り続けて川原でキャンプすると言う、かなりハードな行程となってしまった。
今回こそはのんびり下ろうと考えていたら、またしてもS吉さんがその日を狙っていたかのようにヌビナイ企画を出してきたのだ。
別に我が家の予定を公表しているわけでもないので、両方ともが全くの偶然なのである。
さすがに今回はその後に道東キャンプが控えているので、ヌビナイ川は遠慮して、予定通りに歴舟川ダウンリバーキャンプ計画を実行することにした。
とりあえずはカムイコタン公園キャンプ場でS吉さん達と合流するために、天馬街道経由で現地へと車を走らせる。
今回は野宿キャンプもありそうなので、それに備えて途中の翠明橋公園に立ち寄って、そこの湧き水で20リットルのポリタンクを一杯に満たす。この湧き水はトンネル掘削工事の際に湧出したもので、日高山脈の伏流水と言われている。
札幌を出てここまで低い雲が垂れ込めるパッとしない空模様が続いていたけれど、延長4,232mの野塚トンネルを抜けて十勝側に出ると、とうとう雨が降り出してきてしまった。
その雨も峠を下るにしたがって止んできて、歴舟川の河口の様子などを下見しながらキャンプ場へ到着。
結局、ヌビナイ川の参加者はS吉さん夫婦の他は同じクラブのSさん一人だけだったので、S吉さんの車にカヌー2艇を積み込んでスタート地点へ行き、私がその車をキャンプ場まで乗ってくることにした。
翌日はS吉さんが私の車を河口まで移動してくれると言うので、ありがたくそのご好意に甘えることにする。
我が家単独の場合は、河口に到着後タクシーを呼んでキャンプ場まで戻ってくるつもりでいたので、おかげで行動にかなり余裕ができる。
ヌビナイ川の上流へ向かっている途中で猛烈な雨が降り始めた。ワイパーを高速で動かさなければ対応できないような降り方だ。
歴舟川はちょっとした雨で直ぐに増水するような川である。このまま降り続ければ川原キャンプも中止しなければならないところだったけれど、スタート地点に着く頃にはその雨も小降りになってきた。
橋の上から2艇のカヌーが気持ち良さそうにヌビナイ川を下っていくのを見送る。相変わらずため息が出るくらいに美しい流れだ。
キャンプ場まで戻ると雨も止んで、いよいよ今度は自分達が船出をする番である。
アリーに代わる新しい舟マッドリバーのフリーダムは、朱鞠内湖で進水式をした後は美々川を一度下っただけで、これが実質的な川デビューとなる。
キャンプ道具を積み込んで、14時20分いよいよ流れに漕ぎ出す。この瞬間、世間一般の一切の煩わしさから開放され、本当の自由を手に入れられた気持ちになる。まさにフリーダム、川旅の一番の楽しさである。
ところが川の流れはフリーダムとはいかない。直ぐに浅瀬が現れて、カヌーの底が石につかえてしまう。
アリーの場合は柔らかい構造なので、こんな時はまずグニョッといった感じでその石に張り付くのだけれど、今度の舟は堅いものだから、石につかえた途端にぐらっと傾いて冷やりとさせられた。
それを除けば、石だらけの浅瀬でも気にしないでゴリゴリと進むことが出来るし、ライニングダウンの場合も石の上をスルスルと流れてくれるのでとても楽である。
2年前のダウンリバーキャンプの時は、既にヌビナイ川で体力を使い果たしていて日も暮れてくるものだから、一刻も早くキャンプできそうな川原を探さなければと焦っていたけれど、今回は大いに余裕がある。
それでも大樹町の市街地にあまり近づくのも嫌だし、適当な川原があれば直ぐにテントを張るつもりでいた。
流木が沢山転がっていて、テントを張るのに都合の良い平らな砂地がある場所と、言うのがキャンプ地の条件である。
そうして、川が増水した時にも逃げられる場所があること。先ほどの突然の激しい雨のことを考えると、今回はこの条件はかなり大切なものになりそうだ。
そんな川原を探しながらのんびりと下っていくと、その条件にちょうど合いそうなところが見つかった。早速上陸してみたが、何だか見覚えのある場所である。何のことはない、そこは前回テントを張った川原だった。
当時の記憶では、そこから先にはあまり適当な川原は無かったような気もするけれど、同じ場所にテントを張るのは芸が無さ過ぎるので、そのまま下り続けることにする。
たまに釣り人の姿も見かける。川の上からは人工物の姿はほとんど目に入らないけれど、崖を上った両岸には畑が広がり、何処からでも川原に降りてこられるようなところなので、完全に自然の中に身を置くような雰囲気は無い。
まあ、そんなところだから安心して川原キャンプが楽しめるのも事実である。
ちょうど良さそうな川原を見つけて上陸する。なかなか良い場所だけれど、少し石がゴツゴツしていてそこで寝るのは背中が痛そうだ。
そのまま川原を下流に歩いてみると、テントを張るのに打って付けの砂地が広がっていて、おまけに良く燃えそうな乾燥した流木がゴロゴロと転がっている、理想的なキャンプ地を発見した。
先客の足跡が沢山付いていたけれど、それはシカ達の足跡だった。
直ぐに私だけカヌーまで戻り、その川原の直ぐ近くにカヌーを横付けする。15時50分、キャンプ場を出発してから1時間半だ。
この後は楽しいキャンプ地の設営である。
まずはテントを張って、次に長い流木を組んで簡易物干しを作る。
焚き火用の流木を拾い集め、平らな石を探してきてそれをテーブル代わりに焚き火スペースの前に据え付ける。
かみさんと二人がかりで腰掛け用の太い流木も運んできた。
こんな作業が、もう楽しくて楽しくてしょうがない。
一般的なキャンプ場でこんな楽しさを味わうことはできないし、車で直接川原に乗り付けてのキャンプでも、ここまでは楽しく感じない。
カヌーで川を下りながら、そこで見つけた川原にテントを張り、自分の好きなように、そして工夫しながらサイトをアレンジして、燃やし放題の流木、河畔林から聞こえる野鳥の囀り、目の前を流れる歴舟川、これら全てが一つになって最高に楽しいキャンプとなるのである。
集めてきた流木に火を付けて、ビールで乾杯。
夕食は米を炊いて、それにレトルトカレーをかけるだけの、川下りキャンプの定番メニューだ。こんな食事でも、川原で食べるとむちゃくちゃに美味しい。
やがて川原は濃い霧に包まれてきた。普通ならば体もしっとりと湿ってくるところだけれど、豪快に炎を上げる焚き火のおかげで、その周囲数メートルは乾燥地帯となっていて、そんな霧も全く気にならない。
何時ものような行儀良くイスに腰掛けての焚き火と違って、川原での焚き火は石や流木の上に座ったり、そのまま砂の上に転がったりと、自由な体勢でより身近に焚き火を楽しめるのが良い。
身近と言っても、炎の勢いが強いものだから、いつも以上に焚き火との距離は開いているのだが。
キャンプ旅行の初日からこんなに素晴らしいキャンプを体験してしまって、果たしてこの後大丈夫なのだろうかと心配しながら夜9時にテントに潜り込んだ。
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