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楽しくてしょうがない歴舟川旅キャンプ

歴舟川河原(6月23日〜24日)

 月曜から金曜まで5日間の休暇を取得し9連休の休みを作った。年末年始を除いてこれだけの長い休みはここ20年くらいの間で記憶にないし、もしかしたら就職してから初めてになるかもしれない。
 自分がその気になりさえすれば、今まででもその程度の連続休暇は取得できていたのだけれど、「仕事の調整をするのも大変で、それなら細切れに自分の好きな時に休んだ方が良い」と言うのが、これまでの私だった。
 それが何故、今頃になって長期休暇を取る気になったのか。
 特に大きな理由があるわけでも無く、ただ何となくと言ったところなのだけれど、そろそろ一度頭の中をリセットしたくなったのかもしれない。そんな時には荒野の中に身を置くのが一番である。今回の旅のテーマは「荒野を目指して道東キャンプ」で行ってみようなどと、私の心の中だけで密かに決めていた。

 キャンプ1泊目は歴舟川ダウンリバーキャンプ。
 これは、愛犬フウマが元気なうちにもう一度川旅キャンプを一緒にしておこうと、道東キャンプとは別に以前から考えていたものである。
 ところが何故か、私がこの歴舟川ダウンリバーキャンプを計画すると、カヌークラブのS吉さんがその上流のヌビナイ川下り企画を考えてくれるのである。初めてのダウンリバーキャンプの時もそのヌビナイ川下りとバッティングしてしまい、結局その時は、皆と一緒にヌビナイ川を下って、そのまま我が家だけが歴舟川を下り続けて川原でキャンプすると言う、かなりハードな行程となってしまった。
 今回こそはのんびり下ろうと考えていたら、またしてもS吉さんがその日を狙っていたかのようにヌビナイ企画を出してきたのだ。
別に我が家の予定を公表しているわけでもないので、両方ともが全くの偶然なのである。
 さすがに今回はその後に道東キャンプが控えているので、ヌビナイ川は遠慮して、予定通りに歴舟川ダウンリバーキャンプ計画を実行することにした。
翠明橋公園の湧水 とりあえずはカムイコタン公園キャンプ場でS吉さん達と合流するために、天馬街道経由で現地へと車を走らせる。
 今回は野宿キャンプもありそうなので、それに備えて途中の翠明橋公園に立ち寄って、そこの湧き水で20リットルのポリタンクを一杯に満たす。この湧き水はトンネル掘削工事の際に湧出したもので、日高山脈の伏流水と言われている。
 札幌を出てここまで低い雲が垂れ込めるパッとしない空模様が続いていたけれど、延長4,232mの野塚トンネルを抜けて十勝側に出ると、とうとう雨が降り出してきてしまった。
 その雨も峠を下るにしたがって止んできて、歴舟川の河口の様子などを下見しながらキャンプ場へ到着。
 結局、ヌビナイ川の参加者はS吉さん夫婦の他は同じクラブのSさん一人だけだったので、S吉さんの車にカヌー2艇を積み込んでスタート地点へ行き、私がその車をキャンプ場まで乗ってくることにした。
美しいヌビナイ川 翌日はS吉さんが私の車を河口まで移動してくれると言うので、ありがたくそのご好意に甘えることにする。
 我が家単独の場合は、河口に到着後タクシーを呼んでキャンプ場まで戻ってくるつもりでいたので、おかげで行動にかなり余裕ができる。
 ヌビナイ川の上流へ向かっている途中で猛烈な雨が降り始めた。ワイパーを高速で動かさなければ対応できないような降り方だ。
 歴舟川はちょっとした雨で直ぐに増水するような川である。このまま降り続ければ川原キャンプも中止しなければならないところだったけれど、スタート地点に着く頃にはその雨も小降りになってきた。
 橋の上から2艇のカヌーが気持ち良さそうにヌビナイ川を下っていくのを見送る。相変わらずため息が出るくらいに美しい流れだ。

 キャンプ場まで戻ると雨も止んで、いよいよ今度は自分達が船出をする番である。
 アリーに代わる新しい舟マッドリバーのフリーダムは、朱鞠内湖で進水式をした後は美々川を一度下っただけで、これが実質的な川デビューとなる。
 キャンプ道具を積み込んで、14時20分いよいよ流れに漕ぎ出す。この瞬間、世間一般の一切の煩わしさから開放され、本当の自由を手に入れられた気持ちになる。まさにフリーダム、川旅の一番の楽しさである。
 ところが川の流れはフリーダムとはいかない。直ぐに浅瀬が現れて、カヌーの底が石につかえてしまう。
 アリーの場合は柔らかい構造なので、こんな時はまずグニョッといった感じでその石に張り付くのだけれど、今度の舟は堅いものだから、石につかえた途端にぐらっと傾いて冷やりとさせられた。
 それを除けば、石だらけの浅瀬でも気にしないでゴリゴリと進むことが出来るし、ライニングダウンの場合も石の上をスルスルと流れてくれるのでとても楽である。
楽しいダウンリバー 2年前のダウンリバーキャンプの時は、既にヌビナイ川で体力を使い果たしていて日も暮れてくるものだから、一刻も早くキャンプできそうな川原を探さなければと焦っていたけれど、今回は大いに余裕がある。
 それでも大樹町の市街地にあまり近づくのも嫌だし、適当な川原があれば直ぐにテントを張るつもりでいた。
 流木が沢山転がっていて、テントを張るのに都合の良い平らな砂地がある場所と、言うのがキャンプ地の条件である。
 そうして、川が増水した時にも逃げられる場所があること。先ほどの突然の激しい雨のことを考えると、今回はこの条件はかなり大切なものになりそうだ。
 そんな川原を探しながらのんびりと下っていくと、その条件にちょうど合いそうなところが見つかった。早速上陸してみたが、何だか見覚えのある場所である。何のことはない、そこは前回テントを張った川原だった。
 当時の記憶では、そこから先にはあまり適当な川原は無かったような気もするけれど、同じ場所にテントを張るのは芸が無さ過ぎるので、そのまま下り続けることにする。
 たまに釣り人の姿も見かける。川の上からは人工物の姿はほとんど目に入らないけれど、崖を上った両岸には畑が広がり、何処からでも川原に降りてこられるようなところなので、完全に自然の中に身を置くような雰囲気は無い。
 まあ、そんなところだから安心して川原キャンプが楽しめるのも事実である。

野営地決定 ちょうど良さそうな川原を見つけて上陸する。なかなか良い場所だけれど、少し石がゴツゴツしていてそこで寝るのは背中が痛そうだ。
 そのまま川原を下流に歩いてみると、テントを張るのに打って付けの砂地が広がっていて、おまけに良く燃えそうな乾燥した流木がゴロゴロと転がっている、理想的なキャンプ地を発見した。
 先客の足跡が沢山付いていたけれど、それはシカ達の足跡だった。
 直ぐに私だけカヌーまで戻り、その川原の直ぐ近くにカヌーを横付けする。15時50分、キャンプ場を出発してから1時間半だ。
 この後は楽しいキャンプ地の設営である。
 まずはテントを張って、次に長い流木を組んで簡易物干しを作る。
 焚き火用の流木を拾い集め、平らな石を探してきてそれをテーブル代わりに焚き火スペースの前に据え付ける。
 かみさんと二人がかりで腰掛け用の太い流木も運んできた。
 こんな作業が、もう楽しくて楽しくてしょうがない。
 一般的なキャンプ場でこんな楽しさを味わうことはできないし、車で直接川原に乗り付けてのキャンプでも、ここまでは楽しく感じない。
我が家のプライベートサイト カヌーで川を下りながら、そこで見つけた川原にテントを張り、自分の好きなように、そして工夫しながらサイトをアレンジして、燃やし放題の流木、河畔林から聞こえる野鳥の囀り、目の前を流れる歴舟川、これら全てが一つになって最高に楽しいキャンプとなるのである。
 集めてきた流木に火を付けて、ビールで乾杯。
 夕食は米を炊いて、それにレトルトカレーをかけるだけの、川下りキャンプの定番メニューだ。こんな食事でも、川原で食べるとむちゃくちゃに美味しい。
やがて川原は濃い霧に包まれてきた。普通ならば体もしっとりと湿ってくるところだけれど、豪快に炎を上げる焚き火のおかげで、その周囲数メートルは乾燥地帯となっていて、そんな霧も全く気にならない。
何時ものような行儀良くイスに腰掛けての焚き火と違って、川原での焚き火は石や流木の上に座ったり、そのまま砂の上に転がったりと、自由な体勢でより身近に焚き火を楽しめるのが良い。
身近と言っても、炎の勢いが強いものだから、いつも以上に焚き火との距離は開いているのだが。
キャンプ旅行の初日からこんなに素晴らしいキャンプを体験してしまって、果たしてこの後大丈夫なのだろうかと心配しながら夜9時にテントに潜り込んだ。

フウマとまったり   夫婦でまったり

 次第に明るくなってくるテントの中でまどろんでいると、外から奇妙な音が聞こえてきた。
 かみさんが「鹿が歩いているんじゃない?」
 これは前回の歴舟川川原キャンプと全く同じ展開である。その時も、夜中に何度も同じような音が聞こえてきて、これは鹿の群れだろうと思ってそのたびに外の様子を窺ったけれど、鹿の姿は一度も見られなかった。結局、翌朝になって、その音は川岸の土壁が崩れる時の音だったことが判明したのである。
 今度もどうせその音だろうと思って気にもしないでいたら、外を見たかみさんが「ほらっ!やっぱり鹿じゃない!川の中を歩いているわ!」
 慌ててシュラフから抜け出して私もテントの外を見たけれど、既に鹿の群れは遥か遠くの川の対岸まで行ってしまった後だった。テントを張る前にも、その付近には鹿の足跡が沢山残っていたし、どうやら私達は鹿の散歩道のど真ん中にテントを張ってしまっていたようだ。何時もの快適な散歩道に珍妙な障害物があったものだから、シカ達もさぞビックリしたことだろう。
川を眺めて そのまま起き出して、直ぐにまた焚き火を始める。
 昨夜の霧はまだそのままで周りの風景を乳白色に霞ませている。
 そんな風景を眺めながら、焚き火の前で飲む朝のコーヒーの味は格別だ。
 早朝からしきりにカッコウが鳴いている。
 まだ巣立ったばかりで鳴き慣れていないのだろうか。
 「カッコー、カッコー、カッコー、カッホェ〜」と、時々鳴き声が裏返ってしまい、それが可笑しくて思わずコーヒーを吹き出すところだった。
 何時ものように、面白い形の石を探して二人で川原を歩き回る。
 ここでは何故か、丸いくぼみのできた石が多い。
 流れの中で小さな石がちょうどそこに嵌って転がり続けることによって、そんなくぼみができると何かの本で読んだような気がする。
 丸い2つの穴が目のように開いていて、まるで何かの顔のように見える石があった。
 かみさんが触った拍子にその片方の目から涙が流れ出し、その石はすっかり泣き顔になってしまった。
お土産の石 穴が裏まで完全に貫通している石を発見。有名彫刻家の作品に同じような形のものがあったような気がする。
 これを今回の旅の記念に家まで持って帰ることにして、大事にカヌーに積み込んだ。我が家の旅行のお土産と言えば、石とか流木とか、そんなものばかりなのである。

 霧も晴れてテントも乾いたので、再びカヌーに荷物を積み込み、河口を目指して歴舟川を下ることにする。
 物干しに使っていた流木はロープを解いてもまだそのまま自立していたので、そのまま残しておくことにした。
 「もしかしたら、今日キャンプ場から大樹町まで下る予定になっているS吉さん達がこれに気付いてくれるかも」
 (S吉さん達はしっかりとこのサインを見つけてくれたようである)
 8時50分川下りスタート。昨日の山に降った雨の影響か、わずかだけれど川の水量も増えている。
 幾つか気持ちの良い瀬を越えた後、やや大きめの波の立つ瀬が前方に現れた。やや緊張しながらも、そのまま瀬に突入したところ、カヌーの両側から一気に水が流れ込みあっと言う間に舟の3分の1程が水に浸かってしまった。ビックリしたフウマがカヌーから飛び出そうとするので、それを押さえようとしたところ、今度は波の中でカヌーが横向きになってしまう。
 何とか沈もしないでその瀬をクリアすることができたけれど、歴舟川といえども油断はできない。これまでキャンプ場から大樹町の間ではそれほど大きな瀬は無かったのに、広大な川原が広がり毎年川筋を変える様な歴舟川では、数年前の記憶など全く役に立たないのである。

落ち着かないフウマ ここでずぶ濡れになってしまったものだから、またフウマの脱走癖が顔を出してきた。下っている最中に、岸が近づくと直ぐにカヌーから飛び出そうとするのである。
 穏やかな流れの中ならまだ良いのだけれど、瀬の中で少しでも水しぶきを顔に浴びたらもうダメである。
 カヌーに水が入るたびに岸に付けて、中の水をスポンジで綺麗に吸い取る。そして再びフウマを乗せようとしても嫌がってなかなか乗らないので、ソーセージで釣ってカヌーの中におびき寄せなければならない。
 こんなことを繰り返しながら大樹町市街地まで下ってきた。
 大樹橋下の障害物が気になったので一旦中州に上陸した。すると何を思ったのか、フウマが流れの急な川に飛び込んで、そのまま見事なフェリーグライドで岸まで泳ぎ着いてしまった。
 周りに家並みが見えるものだから、どうやらフウマはそこで川下りが終了するとでも思い込んでいるらしい。
 放っておくとそのまま道路へ出て、ヒッチハイクで家まで帰ってしまいそうな様子だったので、慌ててソーセージでおびき寄せてカヌーの中に引きずり込んだ。
 大樹橋からふるさと大橋までの1km程は浅い荒瀬が続いていて、カヌーの底を何度も擦りながら、ようやくその区間を脱出することができた。
 せっかくぬくぬくとした文明の世界が近くに見えていたのに、再び荒野の中に逆戻りさせられてしまい、フウマは非常に不満そうである。
瀬の中を楽しく下る ふるさと大橋の下流には、前回の川下り時にカヌーが水没しかけた瀬が待ち受けている。恐る恐る近づいていくと、その時とは様相が一変していて、ライニングダウンを強いられるような情けない姿に変わり果てていた。
 本当に数年前の経験など全く役に立たない川だと、改めて思い知らされた感じだった。
 そこから先は広大な川原が広がり、特に難しい瀬も無く黙々と漕ぎ下る。
 フウマのために時々上陸しては、その広い川原を自由に歩かせてやる。ただ、その間もやっぱりフウマからは目を放せられない。時々石の間から何かを見つけ出しては食べているのである。
 落ちていた釣り針を誤って飲み込んでしまうような心配もあるし、何と言っても腐った魚とか人間の○○に体を擦り付ける前科が沢山ある犬なのだ。
 ふと気が付くと、まだ肉のこびり付いているような鹿の骨を美味しそうにしゃぶっていたので、慌てて取り上げる。
 フウマにしてみれば、カヌーの中で頭から水を浴びさせられるよりも、こんな川原で自由に骨探しをしていたほうがずっと楽しいのだろう。
河原で一休み 川にかかる最後の橋「歴舟橋」を過ぎると、後は河口まで何も人工物は無い。
 相変わらず空は雲に覆われ、時おりその雲の薄くなったところから太陽の輪郭がぼんやりとのぞく程度である。かみさんはこのくらいのほうが暑くなくて川下りにはちょうど良いと言うが、私の方は強烈な太陽の陽射しを全身に浴びながら、暑くなれば川に飛び込んだりとか、そんな川下りのほうがしてみたかった。

海に近づくと再び霧が出てきた。その中にかすかな潮の香りを感じるようになる。
サダ吉さんが回送してくれた我が家の赤いオデッセイが川原に停まっているのが見えてくる。これまでにも2度ほどこの河口まで下っているけれど、何れもそこの川原で上陸して海の姿を直接は見ていない。
歴舟川の場合は一気に海に流れ込むわけでは無く、河口部分は巨大なプール状になっていて海との間は小高い砂丘で遮られているのだ。
今回はその砂丘に登ってみることにした。
赤いオデッセイに気が付いたフウマは、それが自分の乗る車であることを知っているのかいないのか、その前をカヌーが通り過ぎてしまったのでとても悲しそうな表情を浮かべている。
フウマのそんな様子がとても可笑しくて、笑ってしまった。
やがて川の流れが全く無くなり、静かな水面が回りに広がっているだけとなった。砂丘の向こう側からは、腹に響くような太平洋の波の音が聞こえてくる。
その音を聞いていると何だかとても恐ろしくなってくる。川の瀬の音とは全く違う、人間ではとても太刀打ちできないような巨大な力を、その波の音の中に感じてしまうのかもしれない。
かみさんもすっかり怯えているので、励ましながら正面の砂丘に12時40分に上陸。そしてその砂丘を駆け上がると、とうとう目の前に太平洋が姿を現した。
こうして我が家のキャンプ旅行、最初のイベントである歴舟川ダウンリバーキャンプは終わったのである。

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河口に到着   遂に海に出た

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