大沼周辺の木々は大部分がその葉を落としてしまっているが、まだ所々に鮮やかな赤や黄色の葉が見られる。
大沼森林公園の中を、少し歩いてみた。
林床を埋め尽くした落ち葉は、完全に水分を失って端が丸まり、歩くとカサカサと音を立てる。
同じ落ち葉でも、せめてもう少し新鮮なままでいてくれたらもっと風情があったのにとガッカリしてしまう。
ところが少し場所を変えただけで森の様子が一変し、真っ赤に色付いたヤマモミジやメイゲツカエデ、色鮮やかな黄色のイタヤカエデなど、まだまだ紅葉真っ盛りといった風景が残っていた。
かみさんが自分のデジカメでそんな風景を写しまくっている。
「同じような写真ばかり写すなよ!」
少しセーブさせないと、まだ旅は始まったばかりだと言うのに、メモリーカードの容量をあっと言う間に使い果たしてしまいそうな勢いでシャッターを切っているのだ。
大岩園地の遊歩道も歩いてみる。そこの林内にはトクサが一面に茂っていて、その植生保護のため園路沿いにロープが張られ立ち入り禁止になっている。
トクサってそんな保護するような対象の植物なのかなと疑問に思うものの、そのロープを平気で乗り越えて写真を撮っているおじさんには眉をひそめてしまった。
大きなカメラをぶら下げた無愛想なおばさんと狭い園路ですれ違う。
最近は自分も「写真を撮るのが趣味です」と言えるくらいになってきたけれど、そうなると同じような趣味の人間の立ち振る舞いがどうも気になってしまう。
「写真が趣味の人間って自分のことしか考えないような奴が多いんじゃないだろうか。」
自分のことは棚に上げて、そんな風に感じてしまうのである。
そうして午後3時頃に東大沼キャンプ場に到着。
天気も良いし、当然先客のテントがあるだろうと考えていたので、人っ子一人いないガランとした場内の様子にちょっと驚いてしまった。
公表されている開設期間を過ぎた平日なのだからそれで当然のはずで、驚く方が間違っているのかもしれない。
偵察要員としてかみさんが一人で車から降りて、炊事場の蛇口を恐る恐る捻ってみる。そしてニコッと笑顔を浮かべてOKサインを送ってきた。
次はトイレの偵察。ドアに鍵はかかっていないようだ。中から出てきたかみさんがOKサインを出した。これでとりあえず今日は安心してキャンプを楽しむことができそうだ。
次はサイト選び。広いサイトの何処にでも自由にテントを張れるというこの状況はかなり悩ましいものになると思ったら、私とかみさんの意見はあっさりと一致してしまった。
二人が決めたのは、駐車場から一番奥の松林付近の湖岸である。
誰も居ないのだからど真ん中にドーンとテントを張れば良いものを、何時もと同じく隅の方を選んでしまうのが我が家らしいところかもしれない。
道路際に車を停めてそこから荷物を降ろす。テントを張り終えてホッと一息付いていると、直ぐに西の空が赤く染まってくる。
今時期のキャンプで一番困るのが、日の短さである。4時を過ぎれば直ぐに暗くなってくるので、キャンプ場到着が遅れると忙しい目に遭うことになる。
くつろぐ間もなく、焚き火用の薪集めに取りかかる。家からも薪を車に積めるだけ持ってきていたけれど、それだけで4泊をまかないきれる訳が無い。どうしても現地調達が必要になってくるのだ。
夏を過ぎたキャンプ場では薪集めも難しくなるけれど、少し離れた道路際の藪の中に伐採した枝などが埋もれているのを発見。
生木に近いような枝だったけれど、贅沢は言えない。家から持ってきた乾燥した薪と組み合わせれば十分に燃やすことができる。
今夜と明朝用の薪を確保できて一安心。テントで寛いでいると1匹のお客さんがやって来た。それは、フウマと似たようなコーギーである。
私達を気にする様子もなく、湖に入って泳いだりと自由気ままに振舞っている。
テントの中で寝ていたフウマがそれに気づいて外に出てきた。相手のコーギーもそこに犬がいたので驚いたようである。
お互いに臭いを嗅ぎあって、喧嘩する様子も無さそうだ。でも相手は雄犬なので、直ぐにフウマのお尻の臭いを嗅ごうとする。耳や首の臭いを嗅がれても大人しくしていたフウマだが、さすがにお尻だけは許せないみたいだ。牙をむき出して唸り声をあげる。
でも相手に怯む様子もなく、しつこくフウマの後ろを追い掛け回してくる。困った表情のフウマが面白い。
もっとも、こちらも面白がってばかりもいられない。飼い主の姿が何処にも見えないのだ。まさか、ここで捨てられたわけでは無いだろうが、このまま居つかれても困ってしまう。
ようやく車に乗った飼い主がやってきたようで、そのコーギーは怒られながら連れていかれた。
焚き火を始める前に近くの流山温泉に入ることにする。
トイレの中にこの温泉の割引券が沢山置いてあった。800円の入浴料が600円になるのだから結構お得である。
この流山温泉は、建物や内部の設計を彫刻家の流政之氏がデザインしたとのことである。どこかで名前を聞いたことがあるなと思いながら、温泉の売店に置いてあった流氏の作品集をパラパラとめくっていて、ようやく思い出した。
奥尻島の北追岬でキャンプした時、その周辺に置かれていた彫刻が全て流氏の作品だったのだ。
キャンプ場に戻り焚き火に火をつける。
今日の夕食はレトルトご飯にレトルト八宝菜。キャンプ初日はこんなもので十分だろう。
既に月が高く上っていた。
3年前の秋に大沼に泊まった時も、月が美しかったはずである。今夜の月はまだいびつだけれど、このあと次第に丸みを増して5日には満月を迎えることになる。
今回のキャンプでは星空よりも月明かりの夜を楽しむことになりそうだ。
焚き火に当たっていても背中の方からジンジンと冷えてくる。今年は秋になっても暖かなキャンプばかりだったので、久しぶりに体験するような寒さである。
何時もの夫婦の気温当てゲームでは1度くらいだろうとの結論になったけれど、温度計を見ると既に0度まで気温が下がっていた。
吐く息も真っ白である。久しぶりの寒さが心地良い。
二人でワイン1本を空けて、キャンプ初日の夜は9時に就寝。
何時もはテントの前室で寝ているフウマも、今日はインナーテントの中に入りたそうな顔をするものだから中に入れてやることにした。
翌朝5時に目覚めても、テントの中はまだ真っ暗である。
それでも今朝は日暮山まで行って日の出を見る予定だったので、そのまま起きだす事にする。
テントのファスナーを開けると霜がパラパラと頭の上へ降ってきた。外の温度計を見るとマイナス3度まで下がっている。空にはオリオン座がくっきりと浮かんでいた。
朝日を眺めながらコーヒーを飲めるように準備をして、暗い中を車で出発する。
日暮山頂上の駐車場に到着すると、既にそこには2台の車が停まっていた。平日だと言うのに、狙いは皆同じようである。
東の空がやや赤みを帯びてきているものの、あたりはまだ暗い。車から降りて下界の様子を見てみると、そこには雲の海が広がっていた。
今朝の冷え込みがそんな風景を演出してくれたのだろう。もしかしたらと期待していた風景が現実のものとなって、自然と笑みがこぼれてくる。
パーコレーターでコーヒーを沸かしながら明るくなるのを待っていると、その間にも次々と車が入ってくる。車から降りた人たちは直ぐに、そこから少し離れた山頂まで登っていく。
寒さのためにガスストーブの火力が弱く、なかなかコーヒーが沸かない。上の様子が気になってしょうがないので、コーヒーは後回しにしてとりあえず山頂まで登ることにする。
すると先ほど登って行った人たちが次々と降りて来るのとすれ違った。まだ太陽は昇ってきていないのに、赤く染まった東の空だけが狙いだったのだろうか。
太陽が昇ってくるこれからの時間帯こそが素晴らしい風景が楽しめるのにと不思議な気がしたが、考えてみれば今日は平日なので、普通の人はそんなにのんびりとしてもいられないのかもしれない。
山頂には普通では無さそうな人が一人、駒ケ岳にカメラを向けているところだった。その人に軽く挨拶して私達も駒ケ岳の方向に目をやり、そして次の瞬間思わず感嘆の声を上げてしまった。
湖から流れ出した霧が駒ケ岳の麓の森まで白く覆っていたのである。
そこから見える森は実はゴルフ場になっているので、昼間に見る風景の中ではただの邪魔者としか写らない。しかし今は、そのゴルフコースを白い霧が覆い隠し、逆にコースで分断された森が雲の海に浮かぶ島のようにも見えるのだ。
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