朝の散歩を終えて、島内観光に出かけることにする。
まずは昨日ここへ来るときに通り過ぎてしまった、「復興の森」へ行くことにした。
そこまでは産業開発道路と言う全く味気ないネーミングの道を走るのだが、ブナの森に覆われた山間を抜けるこの道路はなかなか快適なドライブルートである。
所々に海岸や海を見渡せるビューポイントがあって、思わず車を停めてカメラを構えてしまう。
この「復興の森」だが、ぶな林の中の散策が楽しめるかと思ったら、部分的に下草が刈られているだけで特に面白い場所ではなかった。入り口にあるログハウスも、以前は森林学習にでも使われたのかもしれないが、現在は殆んど使われた様子も無い。バーベキュー小屋もかなり古ぼけてきている。
「復興の森」と言うよりも「忘れ去られた森」と言うネーミングの方がピタリとはまりそうな場所である。。
でもそんなことはどうでも良く、手ごろな枯れ枝が沢山落ちていたので、私達夫婦は急遽焚き火用の巻き集めを始めてしまった。林内には古くなったシイタケのほだ木も放置されていて、かみさんはそこから新しいシイタケが生えているのを見つけて大喜びだ。
一体何をしにここまで来たのか良く分からなかったりする。
その後再び海岸線に戻り、次は青苗の奥尻島津波館を見に行くことにする。
途中で、朝にも立ち寄った無縁島海岸に寄り道した。
太陽の光で温められた小砂利の浜、その上に大の字に寝転がったら最高に気持ちが良い。次に奥尻に来る機会があれば、その時こそこの浜にテントを張りたいものだ。
真っ黒な小砂利を手にすくって見ているうちに、元に戻すのが勿体なく感じてきて、そのままゴミ袋の中に詰め始めてしまった。
車まで持ち帰れる限界の量まで小砂利を詰め込む。これを我が家の外の水道の周りに敷き均せば良い感じになりそうだ。
かみさんが私のそんな行動を呆れた様子で見ていたが、その水道の周りにはかみさんが川から拾ってきた平たい石が敷き詰められているのだ。全く、似たもの夫婦なのである。
かみさんが穴の開いた貝殻を使って、石の上に人の顔を作っていた。その顔がやけに私に似ているものだから笑ってしまった。
しばらくそこで遊んだ後、津波館へと向かう。
受付で入場料を払っていると、その隣で案内係らしき女性が待機している。
「館内の説明でもしてくれるのだろうか?自分達で自由に見て回るからほっといてくれれば良いのに」と思っていたが、払い終わると直ぐに館内の説明を始められたのでそのまま黙って聞いているしかない。
説明の最後に「それではこちらの写真からご覧ください」と言われ、ようやく自分達のペースで見て回れるようになった。
そこに展示されている写真を見て、殆んど忘れかけていた13年前の津波の被害の様子が頭の中によみがえってきた。地震の翌朝のテレビニュースで、火災の黒煙に覆われたここ青苗地区の映像に衝撃を受けたものである。
昨日、島に渡って来てからも、美しい海の風景ばかりに目を取られて、そんな地震のことなどまるで思い浮かばずにいた。
しかし、先ほど通ってきたばかりの場所が13年前はその写真のような状況になっていたのを間近に見せられ、今では過去のものとなった島民の人たちの苦労を改めて思い知ったのである。
その写真を見終わった先で、再び案内係の女性が待ち構えていた。
「それでは、次はこちらの・・・」
そんな調子で案内されながら、最後に映像ルームへ連れてこられた。
「それでは最後にここで2本の映像を見てもらいます。」
「おいおい、それも強制かよ。」と思いながらも、それぞれ10分少々の津波や奥尻島の映像は結構楽しむことができた。
これが彼女達の仕事なのだからしょうがないけれど、できれば説明付きか、自由に見て回るか、入場者が選択できるようなシステムに変更した方が喜ばれると思うのだが。
そこを出た後は、これまでと同じ島の風景や街並みの影に、島の人たちの努力と苦労が垣間見られるような気がした。
今日の昼食は青苗で食べるつもりで店も決めてあったけれど、残念ながらその店は閉まっていた。しょうがないので観光パンフに載っている店を見て回ったけれど、適当な店がなかなか見つからない。
寿司屋に入って昼食に数千円も支払いたくないし、たまたま道路沿いに「潮騒」と言う食堂があったのでそこに入ることにした。
観光パンフには載っていない店で、店内は結構混みあっていた。メニューを見ると天丼、カツ丼、カレーライスと、まるで普通の食堂である。
せっかく島に来たのに味気なさ過ぎるな〜と思いながらメニューの下のほうを見ると、「イカ定食」があった。私は迷わずにそれに決めて、かみさんは正油ラーメンを注文。
出てきたイカ定食は、思わず笑みがこぼれる位に美味しそうなイカ刺し定食だった。昨日食べたイカ刺し定食もまずまずだったけれど、こちらの方が量も多くてイカも新鮮で、十分に満足できるものだった。
かみさんのしょう油ラーメンも合格点の味で、店内が混んでるのも納得できる。観光客向けの店より地元の人に利用される店、観光地で食堂に入る時はやっぱりこれが鉄則なのだろう。
同じ道を何度も行ったり来たりしているものだから、ガソリンもかなり減ってきていた。ぐるりと一周しても66km程しかない島なのに、島に渡って来てから既に200km近く走行しているのである。
全くの予定外だったけれど、ガソリン価格が一切表示されていない島のスタンドで恐る恐る給油することにした。10リットルで十分だったけれど、ついつい見栄を張って20リットルも給油してしまう。
後でレシートを見ると、リッター174円のガソリンだった。まあ、島の経済のお役に立てたと考えれば、この金額も我慢することができる。
飲み物や氷も補充し、釣具屋もあったのでそこでさびき仕掛けも購入。
キャンプ場に戻り、温泉に入る前に港で竿を出してみた。昨日そこで見た釣り人は、入れ食いと言いながらも、しっかりとまき餌はしていたし餌も付けていたようだ。
さびき仕掛けだけでは、さすがの奥尻でも余程の群れがやってこない限りは釣れるわけがない。釣りの気分だけ味わって、さっさと温泉に入ることにした。
今日は1階の方の温泉に入ったけれど、同じ源泉のはずなのにこちらはやや温めで、かろうじて水を入れずに湯船に入ることができた。
その後はキャンプ場に戻ってのんびりとした時間を過ごす。
何時もせわしないキャンプばかりしている我が家にとって、久しぶりののんびりしたキャンプである。それでも他のキャンパーからは、テントの前で座っている事が殆んど無い落ち着きの無いキャンパーとして見られてしまうだろう。
そんな我が家でももう1泊したら、本当にゆったりした時間を過ごせるのかもしれない。
週末だけれど、今日は他のキャンパーがやって来そうな気配も無い。
日が西に傾き始めたので、彫刻のある丘の上に登って夕陽を楽しむことにする。
昨日は夕方になって雲が増えてしまったけれど、今日は快晴の空が広がっているので文句の無い夕陽が見られそうだ。
丘の上の広場中央に立つ彫刻「回転が原」は、朝・昼・夕と時間の経過と共にその表情を変えているような気がする。それが製作者の意図したものかどうかは分からないが、これが屋外彫刻の良いところだ。
最初は丘の頂上にポツンと飛び出て見える人工物が何となく目に触ったけれど、2日間ここで過ごしているとその風景が北追岬の風景としてすっかりと心に刻み込まれてしまった。
背景の山肌、ススキの草原、神威脇漁港、遠くに見える島影、全てが夕暮れ色に染まってきた。ススキの穂が夕陽に照らされ、今にも燃え上がりそうだ。
しばし声も無く、水平線に沈む夕陽に二人とも魅入られる。
最後の瞬間、光の雫が一滴、水平線上に浮かんだかと思った刹那、掻き消すようにそれは見えなくなってしまった。
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