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海・薄・彫刻に囲まれた奥尻キャンプ前編

北追岬キャンプ場(9月22日〜24日)

 かみさんが突然奥尻島へ行きたいと言いはじめた。
 奥尻島に大きな被害を与えた北海道南西沖地震から時間も経ち、私も一度は訪れてみたいと思っていたので異論は無い。
 問題は天候だけである。島に渡って天気が崩れたら逃げ場はないし、海が荒れてフェリーが欠航したら帰ってこられなくなってしまう。
 天気予報を見ながら金土日の三日間で島へ渡ることにした。
フェリーにて 瀬棚港9時25分出航のフェリーに間に合うように5時半に自宅を出る。その頃はまだ上空が雲に覆われていたけれど、海岸沿いの道路を南下するに従ってその雲も次第に薄くなり、前方には真っ青な空が広がっていた。
 瀬棚港に着くと、フェリー岸壁の隣に沢山の釣り人が並んでいて、その中の竿の1本が大きくしなっている。何が釣れるんだろうと見に行くと立派な鮭が上ってきた。私達がちょっと見ている間にも次々と鮭が釣り上げられ、驚かされる。
 瀬棚から奥尻までは青空の下の快適な船旅、と思っていたけれど風が強くて結構船も揺れる。
 かみさんが船室に入ると酔いそうだと言うので、ずーっと外で過ごした。
 フェリーに乗る機会なんて殆んど無いので、船室で横になって寝ているより外で海岸線の風景を眺めている方がずーっと楽しい。
 波に揺れる甲板をフラフラしながら行ったり来たり、まるで初めて船に乗った子供みたいな夫婦である。
大壁画「サムーン」 島影が次第に大きくなってくる。その姿がやけに赤っぽく見えて、まるで早くも紅葉が始まっているかのようだ。どうやら、数日前に島の近くを通過した台風13号の強風で、木々の葉が全て茶色く痛んでしまったのがその原因みたいだ。
 港の背後の山肌に描かれたサムーンと呼ばれる大壁画がだんだん大きく見えてきた。港の中の海の色が素晴らしいマリンブルーに染まっている。
 岸壁では島のマスコットらしいうにまる君の着ぐるみが、短い手を振って出迎えてくれる。
 そうして遂に奥尻島の地に降り立った。

 まずは島内観光である。
 奥尻港から北に向かうと最初に目に入るのが宮津弁天宮、海に突き出した大きな岩の上に建てられた社である。急な階段を上ってお社にお参り。周囲の海は感動的な透明度だ。
 そこから奥尻島の北端賽の河原へ行く途中に、東風泊海岸のキャンプ場がある。海水浴場的なキャンプ場だが、黄色みを帯びた美しい砂浜が広がり、澄んだ海水を透して小砂利の海底がくっきりと見え、居心地も良さそうだ。
 沖に並んだ消波ブロックのせいでロケーションは劣るものの、海水浴を楽しみながらの夏のキャンプには最高の場所である。
 賽の河原ではそこに1軒だけあるお土産処兼食堂の「北の岬さくらばな」で昼食にする。今時期はイカしか採れていないのでイカ刺し定食を注文。もっとも夏場のウニが採れる時期でも、多分我が家はイカ刺し定食しか頼まないのだが。
賽の河原付近 店のおばちゃんが、先に来ていた道外からの旅行客と話をしていた。
 車体に日本一周中と大きく書かれ、色々なステッカーが無数に貼り付けられた車で、同じフェリーに乗ってきたリタイア組らしい夫婦連れの旅行者である。もしもテント泊の予定ならば、数少ない島内のキャンプ場なので、どこかで一緒になる可能性もありそうだ。
 その車を見た限りの印象ではとても自己主張が強そうで、我が家の苦手なタイプである。
 シーズンオフの静かなキャンプを楽しみにしているかみさんは、キャンプ場で一緒になってしまわないかと戦々恐々としていたが、結局この後で出会うことは無かった。
 店のおばさんはとても気さくな人で、我が家のフウマが車の中で吠えているのに気がついて「誰も居ないんだから放してやりなさい」と言ってくれる。それはありがたいのだけれど、馬鹿犬フウマをこんなところで好き勝手にさせたら何をしでかすか分からない。
 それでも店の近くに繋がせてもらうことにした。
 そこの店では水槽に入った活あわびも売られていた。せっかく奥尻島に来たのだから、ウニとかアワビとかイカとか、新鮮な魚介類が手に入れば焼き物にしようと思ってその用意だけはして来ていた。
 でも、礼文島に渡った時もそうだったけれど、このような島にはそもそも魚屋は存在しないのである。島内のスーパーに入っても、肉や野菜のコーナーはあっても鮮魚コーナーだけは無いのだ。
 それで、ここで売られているアワビを買うかどうか迷ったが、それはあまりにも小さなアワビで札幌のスーパーで売られているアワビの方がまだましといった感じだ。
 奥尻島でグルメを楽しむならば、やっぱり民宿に泊まるしか無いのだろう。貧乏キャンパーはいつも通りの質素なキャンプメニューを食べるしかないのである。

 昼食を終えて、賽の河原を歩いてみる。
 そこはキャンプ場にもなっているけれど、荒涼としていてあまりテントを張りたくなるような場所ではない。
 別に荒涼とした風景は嫌いでは無いのだけれど、ここのは自然の風景としての荒涼さではなくて、人工的な荒涼さを感じてしまうのだ。
石を積むおばさん 霊場「賽の河原」が目の前に広がるのはマイナスには感じないけれど、観光シーズンは観光客が次々とやって来て、ゆったりとはキャンプを楽しめないだろう。
 岬周辺は玉石の海岸となっていて、そこら中に石が積上げられている。
 一体誰がこんなに石を積むのだろうと思いながら振り返ると、かみさんが夢中になって石を積んでいる最中だった。
 そんな風に積まれた石の塔が多いのだろうとは思いながら、あまり長居したいような場所でもないので次へ移動することにした。
 次は山の中を横断する産業開発道路を通って西海岸へ出る予定だが、その前に一通りの観光を済ませてしまうことにして奥尻港まで戻り、近くの鍋釣岩とうにまる公園を見ることにする。
 鍋釣岩と言えば、奥尻島の観光パンフレットには真っ先に登場してくる、奥尻島の代名詞みたいな存在だ。確かに、無理やり名前を付けられたような観光地の岩と違って、何でこんな形に残ったのだろうと不思議に思えるような由緒正しい奇岩である。
 その上に1本の木が生えているのが、また良いアクセントになっている。
 私はその鍋釣岩よりも周りの海の美しさに目を惹かれてしまった。緑色に染まり海底の様子がくっきりと透けて見える海、奥尻島の何処へ行ってもこの美しい海を楽しめるのだろう。
 その海の中にゴロゴロと転がっているキタムラサキウニの姿まで頭の中に浮かんできてしまう。
 次はそのキタムラサキウニの姿を模したモニュメントがある、うにまる公園へと向かう。
 途中の看板を見逃してしまい、入り口をかなり通り過ぎてしまってから気がついて、再び引き返してきた。海側にモニュメントが建っているものだと勝手に思い込んでいて、山側に曲がる道を見逃してしまっていたのである。
 うにまるモニュメントは海を見下ろす高台の上に聳えていた。これも奥尻島のパンフレットなどでよく見かけるものである。
 普段は興味の無いこのようなモニュメントも、小さな島の数少ない観光施設の一つなので、その前で記念撮影したりとか一観光客として無邪気に楽しんでしまう。
 公園内には野球選手の佐藤義則野球展示室という施設もあったが、これには全然興味がないので、さすがに一観光客としてもパスしてしまった。

鍋釣岩   うにまるモニュメント

 再び奥尻港を通り過ぎて北に向かい、途中から山の中へ続く産業開発道路へと入る。
 その道を登っていくと、やがて回りは牧場地帯となり、茶色の肉牛がゆったりと草を食んでいるのどかな風景が広がっていた。 冗談で、「これがきっと奥尻牛だろう」なんてかみさんとしゃべっていたが、後で調べたら本当に奥尻和牛のブランドで飼育しているらしい。
球島山頂上への階段 やがて球島山の看板を見つけて、その道へと曲がった。駐車場に車を停めて、小高い丘の上へと続く階段を駆け上った。
 階段を上りきった場所が標高369mの球島山の頂上である。
 そこからは奥尻島の北側半分が一望の下に見渡せる。鍋釣岩も遠くに小さく見えている。
 そして海の向こうに広がる北海道の陸地。
 「ところで島の人達はこの北海道の陸地を見て何と呼んでいるんだろう?本土・・・、じゃ無いよな〜。北海道・・・、じゃ素っ気なさ過ぎ。本島・・・、ありえそうかな?」
 そんな疑問が頭に浮かんできたが、結局島の人にそれを聞く機会は無いままに終わってしまった。
 そこからの風景を眺めている時に、「明日は日の出前にここまでやって来て、北海道本島から昇る朝日を楽しむことにしよう」と思いついた。
 駐車場まで戻ると、鍋釣岩やうにまる公園でも見かけたネクタイ姿の人たちが車から降りてきた。
 出張ついでに島内観光をしているのだろう。小さな島で、見る場所も限られているから、同じフェリーに乗ってきたら行く先々で顔を合わせることになってしまう。
 多分、島内観光は車があれば半日で全て見て回ることができるだろう。そして民宿に泊まって美味しい海の幸を食べて、翌日のフェーリーで直ぐに帰ってしまう。
球島山頂上で これが一般的な奥尻観光の行程なのだろうが、あまりにも味気なさ過ぎる気がする。もっとも、釣りや海のレジャーをやらない人なら、それ以上島に滞在しても退屈するだけと言うのが本当のところかもしれない。
 私も釣り道具などは持ってきていないけれど、何もすることが無ければそれだけのんびりと過ごせると言う事になる。
 そこを出てしばらく行くと、道路沿いに「復興の森」と言うところがあった。そこではぶな林の中の散策を楽しめるみたいだが、そろそろキャンプ地に入ってゆっくりしたいので、先を急ぐことにする。
 西海岸へと降りていく途中、周りの山々には豊かなぶな林が広がっていた。そんな風景を楽しみながら、再び海岸沿いの道へと出てきた。
 東海岸と違って岩場が多く、海の色がこれまた美しい。

 今日のキャンプ予定地は北追岬キャンプ場である。もしもそこが外れだったら、また賽の河原キャンプ場まで戻らなければならない。
 道路沿いの北追岬公園の看板に従って、木立の中へ続く道へと入った。その先は幅が2mも無いような細い舗装道が続いていた。その道が二股に分かれていたが、そこには看板も何も付いていない。しょうがないので適当に右に曲がったら、その先は彫刻のある場所で行き止まりになっていた。
 この付近一帯は彫刻公園となっていて、園内に彫刻が点在しているのである。この舗装道はそれらの彫刻をつなぐ散策路にもなっているのだろう。
 引き返して、今度は別の道に入る。すると、また右へ曲がる分かれ道があったが、今度はそのまま真直ぐ進む。すると左手に起伏の多い芝生広場が広がっていて、そこにも彫刻が建っている。
 広場の端に水場も作られていたのでで、「もしかしたらここがテントサイト?」とも思ったが、キャンピングガイドに載っていた写真では海が見えるようなサイトだった。そこの芝生広場からは山しか見えない。
 再び分かれ道が現われたので、何も考えずに今度は右へ曲がる。舗装された部分から脱輪しないようにハンドルを切るのがなかなか難しい。教習所のS字やクランクコースを走っているみたいだ。
我が家のサイト しばらく走って最後の坂道を登ると、そこにはトイレと質素な水場があり、その先にわずかばかりの広場が作られていた。
 ようやく北追岬キャンプ場に到着したようである。
 それにしても小さなサイトだ。キャンピングガイドにはテント10張りと書いてあるが、私の感覚ではここで許せるのは3張りまでだろう。
 2方向が土手に囲まれ少し視界が遮られるものの、南側の海岸線や東側の山並みが見渡せてロケーションは十分満足できる。
 それに、この土手のおかげで、その日の北西から吹いていた強風が遮られて快適に過ごすことができる。
 サイトの真ん中にも彫刻が置かれているのはご愛嬌だ。
 初めて訪れるキャンプ場で少し不安もあったけれど、すっかりここが気に入ってしまった。
 テントを張り終えて直ぐにビールで乾杯したかったけれど、汗もかいたし、フェリーの甲板でずーっと過ごしていたので体が潮でべとべとしている。まずは温泉で汗を流すことにした。
 そこから車で直ぐの神威脇漁港の隣に神威脇温泉がある。
 1階と2階に風呂が分かれていると言うので、今日は2階の風呂に入ることにする。露天風呂は無いものの、大きな窓から港が一望できてなかなか良い眺めだ。
 浴槽からはかけ流しの源泉が惜しげもなく溢れ出している。ちょっと足を入れたが、熱すぎてそのままではとても入れそうに無い。誰も居ないので、水の蛇口を全開にしてそこに体を沈める。そこから少しでも移動すると、熱くて皮膚がピリピリしてくるので、そこから離れることができない。
 せっかくの源泉が薄まってしまうのは勿体ないが、これだけ熱くてはしょうがない。
温泉から出てくると、岸壁で竿を出している人が居た。見ていると、殆んど入れ食い状態になっている。チカだと思ったらコアジが釣れているとのことだった。
 竿は車に積んであるので、仕掛けでも買ってきて我が家も明日チャレンジしてみよう。

海が見えるサイト サイトに戻ってようやくビールを飲むことができた。
 周りにはススキがびっしりと生えていて、その穂が風にたなびき秋のキャンプを演出してくれる。
 ススキに囲まれた道を岬の先端まで行くとそこにも彫刻が置かれていた。
 さらにススキをかき分けて、崖のギリギリまで行ってみる。
 柵が有るわけでもないので足がすくんでしまう。
 美しい海岸が足元に広がっているのが見えるが、残念ながらそこまで降りられる場所は何処にも無さそうだ。
 トイレの先の方にも彫刻がある。
 そして、その向こうの丘の頂上にもポツンと彫刻が立っているのが見える。
 かみさんが夕食の仕度をしている間に、その丘を登ってみる事にした。
彫刻に映る空 車で入ってきた道を歩いて引き返し、途中の分かれ道を来た時とは反対に曲がる。
 その分かれ道のところにも黒い御影石の彫刻が置かれ、真っ黒なその表面に青い空が映り込んでいた。
 丘の頂上へと続く階段を登りきると、そこは彫刻の周りを御影石でぐるりと囲んだ小さな広場になっていた。
 そしてそこから北追岬の様子を一望の下に見渡すことができる。
 我が家のテントがススキの海の中で溺れそうになって小さく見えている。
 かみさんが動いている姿も見えたので、そこから思いっきり大きな声で「お〜〜い」と叫んでみた。
 すると、かみさんが直ぐに振り返った。かなり距離があるものの、結構声が通るみたいだ。
 遠くの方に、最初に道を間違って行き着いたところの彫刻が見える。その手前にも別の彫刻があるのが見えるが、きっと途中にあった分かれ道を進めば、その場所に行き着けるのだろう。
ススキに囲まれた我が家のサイト 北追岬の丘陵にポツンポツンと配置された彫刻、そしてそれらを結ぶ迷路のような散策路、明日にでもゆっくり歩いてみたら楽しそうだ。
 サイトへ戻る途中、1台のバイクに追い抜かれた。キャンプ場を独り占めと考えていたが、そうはいかない様だ。
 でも、そのライダーはテントを張らずにまた何処かへ行ってしまった。
 当然誰も居ないだろうと思ってやって来たキャンプ場で、怪しげな夫婦が先にテントを張っていたものだから、がっかりして帰ってしまったのかも知れない。
 気の毒に思ったけれど、テントを張られなくてこちらもホッとしてしまう。意地の悪い性格で、全く困ったものだ。
 先ほどまで昇っていた丘の頂上を改めて見てみると、あそこから叫んで良く声が届くものだと感心してしまう。
 ところがかみさんは、突然大きな声が聞こえたのでビックリしたと言うのだ。大声を出さなくても、普通の声で十分に届くようである。
 下の岩場に波が打ちつける音の他、人工的な物音は一切聞こえない、そんな環境のおかげなのだろうか。

今日の夕陽 次第に西の空が赤く染まってきた。
 西海岸でのキャンプの楽しみの一つは、やっぱり日本海に沈む夕陽である。
 ただ、今日はちょっと雲が増えてきてしまって、期待していたような美しい夕陽は見られなかった。
 先ほど何処かへ行ってしまったと思っていたライダーが再び戻ってきた。テントを張る場所に相当悩んでいたのかもしれない。
 我が家と反対側の端にテントを張ってくれたので、全然気にならない。函館から来たというシャイな青年だった。
 夕食はかみさんの特製スパゲティだ。無理して海の幸を食べなくても、これで十分に満足することができる。
 夕闇が次第に濃くなり、やがて水平線上に漁火が一つ二つと浮かんでくる。今日は新月、真っ黒な空に星も瞬き始めた。
 テントの直ぐ後ろに水銀灯が立っているものの、灯りが付きそうな気配もない。その他周辺には邪魔な灯りは一切ないので、今夜は素晴らしい星空を楽しめそうだとワクワクしてきた。
 ところが午後7時を過ぎた頃、ボンッと言う音を立てて水銀灯に灯が点った。点滅のタイマーが夏時間のままセットされていただけだったのだ。
 おまけに、この小さなサイトに二つも水銀灯が建っているので、その明るさは半端ではない。ライダーの彼は水銀灯の下で本まで読んでいるようである。
 頂上に彫刻が立つ丘はもとより、もっと遠くの山肌までこの二つの水銀灯の光で明るく照らし出されている有様だ。
 雲も多いので、この日は焚き火だけ楽しんで寝ることにした。(後編へ続く

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暗闇に浮かぶ漁り火に星空   水銀灯が点灯してしまった

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