キャンプ場には5時頃に到着。
プレハブの管理棟で受付を済ませて川原へ通じる道を降りていくと、その途中にあるサイトは3分の1くらいの埋まり様だ。私の目にはそれでもとても賑やかに見えるが、3連休の初日にしては随分空いていると言っても良いだろう。
川原のサイトはそれ以上に空いていた。川下りに出かけているクラブのメンバーは誰も居なかったが、それにしてもこのテントの少なさは驚きだった。
でも、混んでいるよりはこの方がずーっと嬉しい。
我が家が予約していたサイトの隣にはS吉さんのビッグタープが張られているだけで、周りにはテントが一つもない。
何だか、これから団体客がまとめて到着するのではないかと心配になってしまう。
テントを張ろうとしたら、周りの地面に土が少し盛り上がってその真ん中に穴があいている不思議なものが沢山あるのに気が付いた。
蟻の巣かとも思ったけれど、周囲に蟻の姿はそれほど見られない。
何となく気持ち悪くて、周りの土の小山を足で蹴り飛ばしてテントを設営した。
その後しばらくして、歴舟川や豊似川を下っていたメンバーも戻ってきた。
これからテントを設営する人が殆んどで、クラブで予約しているサイトはあるけれど、皆、何となくS吉さんのビッグタープの近くにテントを張りたそうにしている。
どう見ても、そのビッグタープが宴会場として絶好な場所であることは明らかなのである。
しょうがないので受付に戻って回りのサイトの予約状況を調べてみたら、明日の夜まで予約は入っていない。
そうして、先にテントを張っていたメンバー以外はビッグタープの近くにテントを設営。
我が家は宴会場から離れたつもりでいたのに、結局宴会場の直ぐ隣にテントを張ったことになってしまった。
それでも日中の川下りで皆疲れているし、11時を回った頃には宴会もお開きとなって静かに眠ることができた。
と思っていたのは私だけで、直ぐ隣で大きな鼾をかかれていたかみさんは、新しく買った耳栓の効果も無く、朝起きたときは寝不足気味の顔をしていた。
テントから外に出ると、周りにあった不思議な土の山に新たに湿った土が積上げられて、真ん中に開いていた穴が塞がれているのに気が付いた。
まるで穴の中に雨水が入ってこないように塞いでいるようにも見える。
蟻の巣でないことだけは確かだが、一体この中にはどんな虫が住んでいるのかとっても興味が湧いてきた。
今回のキャンプでは、我が家のキャンプの必需品である焚き火台は積んでこなかった。
川下りの装備だけで結構な荷物になるし、夏のキャンプなので焚き火の暖かさが必要になることも無いだろうと考えていたのだ。
しかし、朝早くに起きて川原を散歩していると、手ごろな流木が目に入ってきてどうしようもない。
我が家のテントの前の川原にちょうど良い焚き火の跡が残っていたものだから、それらの流木を集めて焚き火を始めてしまった。
前日の日中は30度近くまで気温が上がり、朝になってもまだその余韻は続いていたので、焚き火の熱さがちょっと鬱陶しく感じる。
それでもやっぱり、川原での焚き火は気持ちが良い。
そのうちに霧が出はじめ、それとともに急に気温も下がってきた。海からの冷たい風が入ってきたのだろうか。
そうなると、ますます焚き火の炎が魅力的に見えてくる。
起き出してきたメンバーも自然と焚き火の周りに集まってきた。
今日はヌビナイ川のダウンリバー、楽しい一日になりそうだ。
ドキリとさせられるくらいの透明な水が流れるヌビナイ川。その美しさに感動しながらも、水が少なめだったために、巨大な玉石だらけで足場が悪い中をカヌーを引きずって歩かなければならないことも多く、キャンプ場まで下ってきた時には殆んど体力の限界に達していた。
今年はこれまでのんびりとした川下りしかやっていなかったので、久々の急流のダウンリバーで精根ともに使い果たしたと言った状態である。
川原のサイトには昨日よりもテントの数が増えていて、我が家の直ぐ隣のサイトにもテントが張られていた。
我が家のテントとは5mくらいしか離れてない。こんなに近くにテントを張られたのは何年ぶりだろう。オートキャンプ場の隣同士のサイトなのだからそれくらい接近していても驚くには当たらないだろうが、何だかとても近くに見えてしまう。
川原サイトはそれなりに賑わっていたが、逆に中段のサイトは昨日よりもテントの数が減ってひっそりとした雰囲気になっていた。
忠類村のナウマン温泉に向かうと、次第に霧が濃くなってきて車のライトを点灯して走らなければならない。
ナウマン温泉の近くにはナウマン公園若者広場というキャンプ場がある。去年はキャンプ難民となってこのキャンプ場までやってきたことがあったが、その雰囲気に馴染めず結局カムイコタンキャンプ場に泊まることになった。
そのキャンプ場をついでに見に行ったところ、こちらの方は満員御礼状態で、駐車場も車中泊らしい車で一杯だ。去年のキャンプ日記にも書いた気がするけれど、この二つのキャンプ場の利用者数の差が、私にはどうしても理解できない。
一般的なキャンパーがキャンプ場に求めるものと私が求めているものはそんなに違うのだろうか。余計なお世話かもしれないけれど、どうしてここでキャンプしているんですか?と聞いてみたい気がする。
ナウマン温泉の湯に浸かっても、疲れは取れるどころかますます体の奥に染み入ってきた。大樹町内で買出しをしてキャンプ場まで戻る。風もやや強まってきて、長袖を着ても寒いくらいだ。
S吉さんが大型のテントをビッグタープの隣に張って、その中に石油ストーブまで準備してくれた。これなら雪が降ってきても暖かく過ごせそうだ。
若者グループが嬌声を上げながらバレーボールに興じたり、川原で花火を打ち上げたり、発電機を使って周りに騒音を撒き散らしているグループがいたりと、昨日の夜と比べるとかなり気温が下がっているのに、今日のほうが場内には夏のキャンプの雰囲気が漂っている。
何時もの我が家なら耐えられない状況だけれど、こちらも団体キャンパーで、おまけにペット禁止のキャンプ場なのに、焼肉をもっと食わせろとばかりに吠えまくっているフウマはいるし、偉そうな事は言えない。
川下りの疲れのせいか、缶ビールを1本飲んだだけで具合が悪くなってきてしまった。ワインも喉を通らず、途中からは水を飲んでいるような有様だ。
明日は歴舟川の上流部を下る予定になっていたが、帰り道が大変なので下らないでそのまま帰ると言う人が多く、参加者は少なそうだ。我が家もこの調子では明日はとても無理そうなので、早々に撤退宣言をしてしまった。
疲れのため10時過ぎにはテントに潜り込む。隣のテントの話し声が直ぐ近くに聞こえてくる。
私用の耳栓も買ってあったので、初めてそれを使ってみることにした。小さなスポンジ状の耳栓を耳の中に詰め込むと、全ての音が遥か彼方から聞こえてくるようになった。
「耳栓の威力って凄いな〜。」そう思っているうちに直ぐに深い眠りに引きずりこまれた。
鳥の声で目が覚めると、体に力が戻ってきているのが感じられた。昨晩は諦めていた今日の川下りだけれど、これなら何とかなりそうだ。帰り道が大変だからとか中途半端な考えで川下りを止めたりすると、後々まで心の中にしこりが残っているような気分になるのは、これまでに何度も経験している。
「明日動けなくなっても良いから、今日は絶対に川を下って帰るぞ!」そう心に決めた。
かみさんの目覚める気配を感じたので、「やっぱり今日は下ることにしよう」と声をかけた。
「 ・・・ 」返事が無い。
「まだ疲れが取れないの?」
「全然寝られなかった・・・」
「もしかして・・・、俺のイビキ?」
「そう!」
私にとって効果絶大だった耳栓は、かみさんにとって何の役にも立たなかったようである。
二日連続の寝不足でかみさんの方は絶不調みたいだが、、帰りの車の運転は私がするのだし、カヌーの上で居眠りをする心配も無いだろうと、今日は最初の予定通り歴舟川上流部のツーリングを楽しむことにした。
朝食を済ませ、テントも早めに撤収してしまう。
川下りへ出発するまで間があったので、例の不思議な土の山をじっくりと観察してみることにした。
こんな風に土に開いた穴に細い草などを刺して中に入っている虫を釣り上げる、と言う話を子供の頃に聞いたような気がする。
試しに私もやってみたが、虫が釣れる気配は全くない。それでも、穴に刺した草を見ていると、時々ピクピクと動いている。
自分の住処の中に突然変な物体を突っ込まれて、中の虫はえらい迷惑を被っているようである。
近くの穴で何かが動く気配を感じた。あれっ?と思って良く見ると、穴の入り口に小さな目のようなものが見えた。
私が顔を近づけると、それはスッと穴の中に引っ込んでしまった。他の穴からも、時々外の様子を窺うように小さな目が覗いて見える。
ようやく穴の住人の正体が分かりかけたと思ったとき、小さな虫が穴の周りを飛び回っているのに気が付いた。
かみさんが「もしかしたらこの虫がそうなんじゃない?」と言った。
その虫をじっと見ているとやがて土の上に着地した。体長は1cmほど、最初は羽蟻かと思ったけれど、どちらかと言うとアブかハチの仲間みたいだ。
そしてその虫は、近くの穴にスルリと潜り込んだ。ついに正体判明である。
正体は分かったけれど、家に帰って調べてみてもその虫の名前は分からずじまいだった。
その後、歴舟川上流の川下りへ出発。
参加者は我が家を含めて5艇7名と少なめだったけれど、楽しい川下りを終えて12時前にはキャンプ場前の川原に到着した。
心地良い疲労感、と言いたいところだが実際は昨日と同じく疲労困憊である。
それでも下り終えた充実感で、心は思いっきり爽やかだった。
2年前、同じ歴舟川からの帰り道のことを思い出した。
その時と比べると、握るハンドルの何と軽いことか。
遊ぶ時はやっぱり、力一杯遊んだ方が気持ちいいのである。
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