やっと訪れた静寂兜沼キャンプ
兜沼公園キャンプ場(5月5日〜6日)
キャンプ最終日、まずは兜沼公園キャンプ場へ行ってずぶ濡れのまま車に積み込んだテントをそこで乾かすつもりだった。
稚内の町を出る前にホームセンターでガスカートリッジを仕入れる。今回のキャンプでは一度もツーバーナーを使わずに、料理も暖房も全てガスストーブに頼っていたのでガスの消耗も激しいのだ。
最近はホームセンターでもガスカートリッジが売られるようになってきたので、旅行時にはとてもありがたい。
ついでに隣接するスーパーで食料品も買い込んで、兜沼へと向かう。ところが、その途中から再び雨が降り始めた。
携帯電話で雨雲レーダーを確認したが、既に稚内付近からは雨雲が去っていて、本来ならばそろそろ青空が広がってきても良いはずである。レーダーに映らないような低い雨雲が日本海から流れ込んできているのだろうか。天気予報では今日は北の方から天気が回復してくると言っていたのに。
昨日も午後から晴れるとの予報だったのに結局一日中曇り空、どうも最北の地では天気予報はあまり当てにならないみたいだ。
この雨の中ではテントの設営もする気になれないので、先に豊富温泉へ行き温泉に入って雨が止むのを待つことにした。
日帰り入浴施設の「ふれあいセンター」に入る。浴室に入ると油の臭いがプーンと鼻を突く。浴槽の中には薄らと油膜まで浮いている。
これが豊富温泉の特徴なのだが、正直言ってあまり気持ちの良いものではない。それでも、肌にしっとりと馴染んでくるお湯がキャンプの疲れを癒してくれる。
温泉から出ても雨の止む気配は全然なかった。
もう少し時間をつぶすために、そのまま幌延町のトナカイ観光牧場まで足を延ばした。観光牧場に入るためには500円の入場料を払わなければならない。雨が降る中で金を払ってまでトナカイの姿を見ようとも思わないので、管理棟の中のレストランで昼食にすることにした。
かみさんは「もやし激辛ラーメンレベル1」を注文。私はせっかくだからトナカイを食べてみたかったけれど、トナカイステーキは高すぎるのでトナカイカレーを注文。
カレーの上にはトナカイの肉を使っているらしいソーセージが乗っていたが、何がトナカイの味なのかは良く分からない。観光施設に付帯したレストランの割にはメニューにも工夫が見られ、食べたものも結構美味しかった。
相変わらず雨は降り続いているので、キャンプ場に電話をかけて現地の様子を聞いてみる。「朝から小雨が降ってますが、天気予報では雨も止むと言ってますよ」とのこと。
天気予報は全然信用していないけれど、今日は早めにキャンプ場に入ってのんびりしたかったので、雨のことは気にしないでキャンプ場へ向かうことにした。
幸い、キャンプ場に着く頃には雨もかなり小降りになっていた。
最初にオートキャンプ場の方に寄ってみたが、やっぱりテントを張る気になるような場所は無かった。それでも、素晴らしく天気が良くて兜沼の湖面も美しく見えるような日であれば、一番湖畔側のサイトにテントを張っても良いかも知れない。
受付を済ませて、場内の通路を一巡り。
先客のテントが1張りだけポツンと張られていた。稚内森林公園と同じように場内はまだ雪が残っているところもあり、芝生もかなり湿った状態だ。
かみさんは端の方の兜沼が見える場所に惹かれたみたいだが、どんよりと曇った兜沼では魅力が無いし風当たりもちょっと強そうだ。
さすがにもう風は懲り懲りなので、キャンプ場ど真ん中のやや小高い場所にサイトを確保。5年前にテントを張った場所と、まったく同じところだった。
ずぶ濡れになったテントを再び広げる。この天気ではそれが乾くことは期待できないが、インナーテントだけは濡らさなかったので、寝るのには問題ない。
葉を落としたままの裸の木々、雪解け直後のため去年の落ち葉が芝生の上にぴたりと張り付いたままだ。
それでも裸の木々の間を飛び交う小鳥たちとそのさえずり。やっぱり兜沼は、心から落ち着くことのできるキャンプ場である。
かみさんはゆっくりとポトフを煮込み、私はその間に場内を一回りして久しぶりに訪れる兜沼公園を懐かしく思い出した。
管理棟横の湿地では水芭蕉が花を咲かせ始めているが、まだ花は小さい。
目の前の木にアカゲラの姿。葉が出ていない今時期は鳥の姿が良く見える。
テントに戻ってくつろいでいると、隣の木にコゲラもやってきた。
他にも名前も知らない鳥たちがテントの周りにやってきて、かみさんが双眼鏡でそんな鳥たちを観察している。
最近はかみさんの方が鳥の名前に詳しくなってきたみたいだ。私は何度聞いても鳥の名前はすぐに忘れてしまう。
新しく小沼へ通じる散策路が作られていたので、そこを歩いてみることにした。小沼まで1.2kmの標示、散歩するにはちょうど良い距離だ。
道はすぐに、兜沼から続く湿地の中へと入っていく。葦の茂った向こうの水面には羽を休めるハクチョウの姿が見える。
稚内の大沼では、目の前にうんざりするくらいに沢山群がっている白鳥にカメラを向ける気にもならなかった。
それなのにここでは、遠くに見えるハクチョウに感激して一生懸命カメラを向けている自分が何となく滑稽に思えてしまう。
カエルの卵でもありそうだなと水の中を探していたら、何故か一箇所だけに固まって大量の卵が産み付けられているのを発見。
カエルは、何匹も集まって産卵する習性なのだろうか。
しばらく歩くと小沼まで300mの看板が立っていた。しかしそこから先、いくら歩いても小沼らしきものが見えてこない。
何か変だなと思いながら、それ以上進むのを諦めて途中から引き返し先ほどの看板のところまで戻ってきた。その看板を良く見てみると、そこに書いてある矢印が私たちの歩いた道とはややずれた方向を指しているのに気がついた。その先を見ると水面が広がっているだけ。
何のことは無い、小沼への道は水没していたのである。
一気に疲れが噴き出してきて、もと来た道をトボトボと引き返す。
やがて辺りに霧が出てきて、ちょっと幻想的な風景に変わってきた。
「おっ、これは良いぞ!」
霧に包まれたキャンプ場、特にここのような林間のキャンプ場が霧に包まれると、とても幻想的な光景が楽しめるのだ。
ところが残念なことに、兜沼から湧き上がってきた霧はキャンプ場の中まで流れ込んでくることは無かった。
夕食はポトフとスパゲティペペロンチーノ。とても美味しくて貪るように食べ尽くしてしまった。
食事が終わると今回のキャンプ旅行最後の焚き火を楽しむ。
今回の焚き火は1時間1本勝負である。これだけ雨が降れば現地での薪の調達はほとんど不可能だ。
そんなこともあろうかと、昨夜の焚き火の際、翌日の分を少し残しておいたのである。
僅かな薪の量なので少しも無駄にはできない。全ての準備を整えてからおもむろに火を付けた。
途中からは風も完全に止んで、静かな森の中に焚き火のはぜる音だけが響く。
その静寂を破るのは、兜沼から聞こえてくるハクチョウたちの賑やかな鳴き声だ。
久しぶりに顔を合わせたハクチョウ達の会話。
「グェッグェッ、最近変なインフルエンザが流行っちゃっていやよねー、グェッグェッ、今年の黄砂は酷かったわよー、グェッグェッ、シベリアの火災は治まったかしら、グェッグェッ」
これは、かみさんがそれを通訳してくれた内容である。
下らない話しをし、焚き火でウィンナーを焼きながらワインを傾ける。
楽しいキャンプの夜。1時間勝負の予定が、薪が完全に燃え尽きるまでたっぷりと1時間半の焚き火を楽しむことができた。
今夜はようやくぐっすりと眠ることができそうだ。
二日連続の睡眠不足で早起きは無理だろうと思っていたが、4時にはしっかりと目が覚める。
外の様子を見てみると、ついに朝から青空が広がっていた。
こうなると寝ているわけにはいかない。
テントを出ると、既に森の木の間から朝日が顔を出していた。
沼の方へ行ってみる。朝日は沼と反対側からのぼってくるのだが、沼の向こうに見える利尻富士が朝日を浴びて赤く染まり、なかなか良い眺めだ。
これなら沼の見える場所にテントを張っても良かったかもしれない。
テントに戻ってゆっくりと朝のコーヒーを楽しむ。
いつものように焚き火とコーヒーのセットでないのが物足りないが、今朝は太陽の日射しが焚き火の代わりだ。
今日は早めにキャンプ場を出発して札幌まで戻る予定なのに、こんなに素晴らしい天気になってしまうとキャンプ場を去りがたくなってしまう。
それでも次第に風が強まってきたので、テントを撤収する良い潮時だ。
その風のおかげでテントも完全に乾かすことができた。
昨日の雨のおかげで、稚咲内海岸キャンプでテントに付着した潮や砂も綺麗に洗い流されたし、気持ちの良い撤収である。
キャンプ場を後にして、今日はカタクリなど春の花の名所を訪ねながら札幌まで戻る予定だ。
国道40号沿いにある宮の台展望台から最後に利尻富士の姿を楽しもうと思ったが、海の方の霞が濃くなって、残念ながら山の姿までは見えなかった。
その後は天塩川沿いにひたすら南下する。中川町から音威子府までの区間を走るのは、9年前に家族で天塩川を下って以来だ。雪解け水で増水した天塩川は、その時の川の様子とは全く違っていたが、親子3人での川下りが懐かしく思い出された。
音威子府村付近はまだ真っ白な雪の世界のままで驚かされる。
最初に和寒町の三笠山自然公園に立ち寄る。ここは3年前のGWにも訪れているが、その時よりは花の開花が遅れているようだ。
旭川の突哨山は混んでいそうなのでパスして、深川の丸山公園へ。ポツポツとカタクリが咲いているものの、大群落というわけではない。まだ蕾のままのカタクリが多かったので、これが咲けば少しは見栄えがするのかもしれない。
ここの公園の展望台はなかなか良い眺めだ。そこでコンビニ弁当の昼食にした。
この時の気温は20℃を超えていた。今朝まではほとんど冬のキャンプに近い装備で過ごしていたと言うのに、信じられない気温である。服装もそのままで兜沼を出てきたので、暑くてたまらない。
最後に浦臼町の浦臼神社を訪れた。道の駅つるぬまに車を停めて、その隣にある浦臼神社の急な階段を上る。
前の2カ所が期待はずれだったので、ここでもあまり期待はしないようにしていたが、先に階段を登りきったかみさんが「凄いわよ!」と声をかけてきた。
「何!」急いで階段を駆け上がる。
ようやく私が望んでいたとおりの風景を見ることができた。あたりは一面エゾエンゴサクの淡いブルーに染まっていて、その中でカタクリが可憐な花を咲かせている。
今年の札幌は春が遅くてGWに入ってもスイセンが咲いているくらい。そして道北はまだ雪が残り、春の気配はほとんど感じられない。
ここまで来て、ようやく本当の春に出会えた気がした。
それにしてもちょっと暑すぎだ。やっぱり私は、ブルブル震えながら焚き火で暖をとるくらいのキャンプが好きなのである。
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