GW全道一悲惨なキャンプ
稚咲内海岸(5月3日〜4日)
今年のGWは北へ行こう。
漠然とした計画の中で、はっきりと決まっていることが二つだけあった。
一つ目は、去年考えていたけれど実行できなかったサロベツ川でのカヌー。下流の橋からサロベツ川を遡行してパンケ沼まで行ってみようというものである。
二つ目は久しぶりの宗谷丘陵訪問。最近ここに大規模なウィンドファームが建設されたとの話を聞いていたので、私の好きな宗谷丘陵の風景が変わってしまったのではないかと心配だったのだ。
それと急遽浮上してきた計画が、利尻富士を赤く染める日本海の夕日を眺めながらの砂浜キャンプである。
道北の日本海沿いの砂浜には大量の流木が打ち上げられている。何時もその様子を見ながら、この流木で焚き火をしたら最高だろうな〜と考えていた。
面白そうなことは即実行に移す。最近の我が家のパターンである。
この三つの目的以外は何の計画も無いまま、朝7時半に北へ向けて出発した。
天気は快晴、沼田町まで高速に乗って留萌から日本海オロロンラインを北上。
苫前町の風車が立ち並ぶ風景を楽しむ。真っ青な空に風車の白い姿がくっきりと浮かび上がって良い眺めだ。
次は羽幌町のエゾエンゴサクの群生地を訪れたが、花の時期にはまだ少し早すぎて林床の所々が薄らと青くなりかけている程度だった。
天塩町に着く頃には昼になっていたので、たまたま見つけた「ひろせ」と言う蕎麦屋に入る。下調べ無しで入った店だが、結構おいしい蕎麦だった。
近くに天塩川歴史資料館があったので、そこにも立ち寄る。
こうしてブラブラしながら走っていくと、お馴染みの一列に並んだ風車が見えてきた。そしてその向こうには雪を抱いた利尻富士の姿も浮かんでいる。
期待通りのロケーションに心がワクワクしてきた。ただ、その風車が勢い良くグルグルと回っているのがちょっと気に入らない。
北へ来るにしたがって風も強まってきたような感じだ。
オロロンラインから幌延町へ向かう道を曲がるとサロベツ川を渡る橋に行き着く。ここが予定していたカヌーのスタート地点である。
雪解け水で増水したサロベツ川は、ちょっとした大河の様相を呈していた。以前にこの橋を渡った時の印象では、とても穏やかな流れだったはずだ。
それでも川を漕ぎ上がるのに特に問題はなさそうだ。装備を整えてカヌーに乗り込む。
パンケ沼への入り口の場所をハンディGPSに落としておいたので、ナビの画面を表示したところ、そこまで3.7kmと出ていた。
地図をチラッと見ただけで、頭の中では2kmくらいだろうと考えていたのでちょっとビックリである。湖の静水でもこの距離を漕ぐのはちょっと疲れるのに、流れのある川を漕ぎあがるのは大変そうだ。
心配だった風の方は横からの風になるので特に問題は無い。風を避けるように岸沿いを進むと、カヌーは順調に進んだ。
順調とは言っても漕ぐのを止めればそのまま下流に押し流されてしまうので、ひたすら漕ぎ続けなければならない。
単調な景色も相まって、かみさんは早くも漕ぐ気力を失ってきたみたいだ。ナビに目をやると、まだ半分の距離までしか来ていない。
「もう少し先まで行ってみよう」
そう言って、目の前に置いたナビを見ながら漕ぎ進んだが、そこに表示されている目的地までの距離が全然減らなくなってきた。
残り1.3km。
「・・・、もう止めよう」
体力的にはもっと進むこともできたが、頑張ってパンケ沼までたどり着いたとしても、そこで素晴らしい感動が待ち受けているとはどう考えても思えない。
漕ぐ手を止めると、カヌーはスーッと下流に流され始めた。ナビで確認すると時速2〜4kmほどの流速である。
下流に向けて軽く漕いでみると直ぐに時速8kmまであがった。漕ぎあがるのとは雲泥の差だ。
その後は風で押し流されるのを時々修正する程度で、回りの景色を眺めながらのんびりとスタート地点の橋まで流されていった。
そこで川に漁船を下ろす作業をしていたおじさんの話しによると、後一週間もすれば水も引いてほとんど流れの無い川になるとのことである。
これだけ流れのあるときに沼まで行くのは無理だろうと笑われてしまった。
これで今回の道北キャンプの目的の一つをを果たしたというのかどうかはちょっと微妙だが、次の目的の日本海砂浜キャンプへ向けて出発した。
風がさらに強まってきた。
所々にある海岸に降りる道を見つけては、砂浜の様子を窺ってみる。そこには期待通りの大量の流木。
しかしかみさんは浮かない表情だ。
なんと言ってもその風の強さ。そして大量の流木に混ざった大量のゴミの山。
この状況で「ウワーッ最高!ここにテントを張りましょう!」なんて言うような人間はまずいないだろう。
ところが私の目には、沖合いに浮かぶ利尻富士の姿しか見えていなかった。この付近なら、ちょうど利尻富士の山頂に沈む夕日が見られるかも。
「何で?ここじゃだめ?しょうがないな〜、それじゃあもう少し先まで行ってみよう。」
そうして何箇所か下見しながら北上を続ける。そうして最後にたどり着いた砂浜は結構幅も広く、利尻富士の姿も目の前に迫って見えている。
テントを張るには申し分の無い場所だったが、かみさんの浮かない表情に変化は無い。
私の方も、「ちょっと流木が少ないな〜、それにここからでは夕日の沈む場所も利尻富士から外れてしまうな〜」と、かみさんとはまったく違った理由から、そこが気に入らなかった。
「やっぱり一番最初に見た場所にしようか!」
再びもと来た道を引き返し最初の場所へ。しかし、先ほど見た利尻富士の姿と比べると、こちらの方はかなり小さく見えてしまう。
「どうする?」
固まってしまって返事の無いかみさん。
強風が吹きつけるゴミだらけの海岸を前にして「どうする?」って聞かれても、普通は返事のしようは無いだろう。
それでも「嫌だ」と言わないところが、やっぱりかみさんも普通ではないみたいだ。
「多分、夕方になれば風も止んでくるよ。」と何の根拠も無い言葉でかみさんを説得し、先ほど見た海岸にテントを張ることに決定した。再び北へと車を走らせる。
オロロンラインを行ったり来たり。
本日の野営予定地に到着。車を砂浜ぎりぎりまで乗り入れて、まずはテントを下ろす。
風が強いといっても、テントを張るのが困難なほどではない。砂浜でも下地の砂がしっかりと締まっていてペグが効いてくれるのがありがたいところだ。
テントを張り終わって、後は荷物の搬入。そうして一晩の住処が完成すると、強風も大して気にはならなくなる。
一息ついたところで焚き火用の流木を拾い集めるが、途中で見てきた海岸と比べると落ちている量も全然少ない。それでも一抱え程度の流木は直ぐに集まった。
あまりにもテントの周りが殺風景なので、長めの流木をテントの前に立てて、それに拾ってきたプラスチックの浮き玉をぶら下げる。
稚咲内の広い海岸線がすべて我が家の庭になった気分だ。
この庭で優雅に時を過ごしたいところだが、現実はそうもいかない。強風を避けるようにテントの前室でじっと縮こまっているしかないのである。
目の前の砂浜の表面を砂がサラサラと流れていき、新たな砂紋を作り出す。
背の低いフウマは飛ばされた砂が目に入るのか、目をショボショボさせて辛そうだ。
夕暮れが近づくといつの間にか空が雲に覆われてしまっていた。そしてますます風も強まり、海も荒れ始める。
夕凪になるかもなんて甘い期待は完全に吹き飛んでしまった。
これで夕日が見られなければ、苦労してここにテントを張っている意味がまったくない。
ところが、何故か利尻富士の周りだけが雲がかかっていなくて、そこが次第に赤く染まり始めた。なかなか良い雰囲気である。
そのわずかな雲の隙間も次第に狭まってきた。
「うーん、もう少し待ってくれ〜」
祈るような気持ちで利尻富士を見つめ続ける。
次第に厚さを増す雲、しかしその切れ間から漏れる赤い光がスポットライトのように利尻富士を照らし出している。
暗く沈んだ日本海と上空の暗い雲、その狭間で神々しさを感じさせるくらいに赤く浮かび上がる利尻富士の姿。感動的な美しさである。
しかしその美しさも長続きはしなかった。次第に利尻富士の姿が薄くなっていき、ついには一度も夕陽の姿を見ることも無く、暗い雲の中にすべてが消えてしまった。
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後は無事に朝を迎えられるかどうかだ。
流木を集めた盛大な焚き火は諦めるしかなかった。炭を熾してのバーベキューも全く無理である
風に吹かれて大きく揺れるテントの中で、家で作ってきた豚汁とおにぎりだけの質素な夕食。さすがにそれだけでは惨めなので、フライパンで野菜炒めを作り、少しだけ彩りのある夕食にした
波がテントまで迫ってこないか心配で時々外の様子を窺うが、幸い潮は次第に引いてきているようだ。
GW後半戦の初日、道内は比較的好天に恵まれ、今頃各地のキャンプ場に泊まっているキャンパーは楽しい時を過ごしているのだろう。
ワインを空けながら、こんな悲惨な思いでキャンプをしているのは我が家くらいだろうと、かみさんと話し合った。
ちょっとテントの外に出ただけで砂まみれになってしまう。まるで砂嵐の中でキャンプをしている気分である。
他にすることも無いので8時過ぎには就寝。
2時頃に目が覚める。波の音がもの凄い。かみさんは全然寝られないでいたみたいだ。
普段は煩いと文句を言われる私の鼾も、波の音にかき消されてほとんど聞こえないくらいだという。その後熟睡できないまま朝を迎えた。
まずはテントが持ちこたえてくれたことに感謝した。
風は一向に治まらず、海は白波に覆われている。空はどんよりとした暗い雲に覆われ、利尻富士の姿も見えない。
いつもどおりに朝のコーヒーを入れようとしたら、かみさんがコーヒーを持ってくるのを忘れたという。しょうがないので天塩町で買ったシジミでスープを作ったが、これがなかなか美味しかった。
以前に天塩川を下った時、周辺の牧場から流れ込む牛のし尿のせいで、流れのよどんでいる場所からは何ともいえない芳しい臭いが立ち上っていた。
それ以来、天塩産のシジミにはあまり良い印象を持っていなかったけれど、なんだかんだ言っても栄養分をたっぷりと含んだ天塩川の水で育ったシジミは美味なのである。
朝食を済ませた後は砂まみれのテントの撤収。蓋をしてある箱の中まで、細かな砂が吹き込んでいた。
ふと気がつくと、フウマの姿が見えない。またどこかで腐ったものを見つけて食べてるのかもしれないと慌ててあたりを探したら、先に車のところまで戻ってドアの前にちょこんと座っている姿を発見し、思わず笑ってしまった。
「もうどこでも良いから、もっとまともな場所にさっさと連れてってよ」と言った風情である。
そんなフウマに急かされて、撤収完了。
最後に3本のオブジェの前で記念撮影をして、我が家の新たな思い出の地となった稚咲内海岸を後にした。
キャンプ地を後にして、まずは稚内へ行くことにする。
途中で抜海港へ立ち寄った。
「そう言えば、抜海港ってアザラシが来るとか聞いたことあるよな〜」
話しだけで本当にアザラシがいるわけ無いと思いながらも、興味本位で港の奥まで車を進めたところ、「あれっ!あそこにいるのはもしかしてアザラシ?」
岸壁の向かいの消波ブロックの上に、奇妙な物体がゴロゴロと沢山転がっていた。
気持ちよさそうに寝転がっているアザラシ達である。
フウマの耳を両手で押さえて後ろに引っ張るとアザラシそっくりな顔になる。そして、全く無防備でゴロリと寝ている姿を我が家はフウマのトド寝と呼んでいる。
「わーっ、フウマが沢山いる!」嬉しそうに叫ぶかみさん。
車の窓からフウマが、自分の仲間を不思議そうな表情で見ている。
好奇心のあるアザラシは私たちの方に泳いできて、水面からポコッと顔を出すのがとても可愛らしい。
思わぬアザラシとの出会いに得した気分になって稚内へと向かった。
さて、次は何処へ行こうかな。
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