歴舟川ダウンリバーキャンプを終えて河口でその余韻に浸っていると、サダ吉さん夫婦が我が家の車を届けに来てくれた。
前日一緒にヌビナイ川を下ったメンバーが、まだカムイコタンキャンプ場に残っているというので、一旦そこまで戻ることにする。
もう3時を過ぎているので既に帰り支度を済ませているのかと思ったら、まだタープの下でコーヒーを入れたりしながら、のんびりと寛いでいるところだった。
サダ吉さんのところ以外は、これから札幌まで帰らなければならないというのに、この余裕には驚かされてしまう。我が家の場合は、下り終えたら一刻でも早く札幌へ戻ろうするので、今頃は既に天馬街道あたりを走っている頃だろう。
今日は歴舟川の上流を下ったと言うことで、我が家と同じく、皆その余韻に浸っていたのだろう。
我が家もコーヒーをいただいて、それぞれの川下りの話しをしながらのんびりとしていると、次第に次のキャンプ場に移動するのが面倒になってくる。
「このままここに泊まれば良いじゃない。」との言葉にかみさんが直ぐにその気になる。
「ダメ、ソレハゼッタイニダメ!」
歴舟川を下って最後に聞いた太平洋の波の音、今夜は晩成キャンプ場で同じ波の音を聞きながら、最後の余韻に浸らなければならないのである。
何だか前日も、ここで同じような会話をしていた気がする。
一度決めたら絶対にそれでなきゃ嫌だ〜と言う、我が儘な子供みたいな性格なものだから、本当に困ったものだ。
何時までもそのペースに付き合っていると、晩成に付く頃には暗くなってしまいそうなので、4時過ぎには一足先に失礼させてもらった。それにしても皆、まるでここでもう一泊しそうな雰囲気である。
今日の夕食は、大樹町で肉を仕入れてバーベキューにする予定だった。
「これからキャンプ場へ行って、バーベキューの準備をするのって面倒くさくない?」
かみさんがボソッとつぶやいた。
確かにもう疲労困憊で、キャンプ場でテントを張ったらその後は何もする気が起こらなそうだ。何の躊躇いもなく途中のセイコーマートに立ち寄ってコンビニ弁当を購入する。
「昔もこんなこと無かったっけ?」
確か、川下りを終えて精根尽き果て、キャンプの夕食をコンビニ弁当にしたことが一度だけあった気がする。しかもそれは、歴舟川を下った時だったような気もする。
手抜きキャンプがモットーの我が家にとって、キャンプでコンビニ弁当を食べるのに何の抵抗も感じないのだ。
晩成キャンプ場の以前Aサイトと呼ばれていた場所は、我が家の憧れのサイトである。
初めてここのキャンプ場を利用した時は既にクローズ後で、無理矢理お願いしてBサイトの方にテントを張らせてもらった。帰り際にこのAサイトを見て、次回は絶対にここにテントを張ろうと心に決めてそこを後にしたものだ。
そして次にここを訪れた時、今度はまだオープン前で、温泉の横にならテントを張っても良いですよと言われてしまう。その場所はとてもテントを張る気にはなれないところだったので、別のキャンプ場に移動することになってしまった。
今回は、わざわざ週末を外して、Aサイトを独り占めできるように日程を調整して、万全の体勢で乗り込んできたのだ。
晩成温泉での受付は後回しにして、直ぐにキャンプサイトへと向かう。すると一番眺めの良い端の方に既にテントが張られているのが下の道路から認められた。
ちょっと残念だったが、前回のようにこのサイトが既に閉鎖されてしまっているかもしれないという不安も抱いていたので、それよりはましである。
坂道を上がってサイトの入り口まできた時、突然目の中に飛び込んできた光景に、一瞬何が起こっているのか訳が分からなくなってしまった。
夏のキャンプシーズンも終わって、ただでさえ利用者の少ない晩成キャンプ場で、しかも敢えて週末を外した日曜日の夕方だと言うのに・・・。
サイトの中は見渡す限りテントだらけなのだ。しかも全てがモンベルのムーンライト。中央にはモンベルのビッグタープが4連結、いや5連結。 おまけに大型バスとマイクロバスが1台ずつ停まっているのだ。
こんなことが有って良いものだろうか?世の中が信じられなくなってしまった。
直ぐに車をUターンさせて、逃げるように晩成温泉まで戻ってきた。
駐車場の横では一人のライダーがテントを張っているところだったが、もしかしたら彼も同じような口なのだろうか。
我が家も同じ場所にテントを張ろうと思ったが、かみさんはどうしてもそこが好きになれないみたいだ。まあ、私だって好きこのんでこんなところにテントを張りたくはないが、既に時間は5時を過ぎてしまっているのだ。
それでもあまりにかみさんが嫌がるものだから、とりあえずそこにテントを張るのは止めることにした。
以前テントを張った方のサイトも見に行ったが、草は伸び放題、入り口には有刺鉄線まで張られていて、さすがにテントを張るのは無理そうである。
ここでもう晩成に泊まる夢は完全に潰えてしまい、とりあえず風呂にだけ入って他のキャンプ場を探すことにした。
悲惨な話しに聞こえるかもしれないが、私とかみさんは確かにがっかりはしているものの、それほど落ち込んでもいない。
「またこれだもな〜」
我が家のキャンプは何時もこんな感じなので、もう慣れっこになってしまっているのだ。
大急ぎで風呂から出てきて時間は5時半、そこから一番近い忠類村のキャンプ場が見聞録のBBSでも話しが出ていたのを思いだして、そこに行ってみることにする。
対向車も殆ど来ないような道を、忠類村目指して思いっきり車を飛ばした。
キャンプ場の看板が見つからず、確か道の駅の裏の方だよなーと思いつつ適当に車を走らせていると、丘の上の方にテントが見えてきた。
「ここがキャンプ場か!でも・・・、どうして?どうして?どうしてこんなにキャンパーがいるんだ?」
確かに見晴らしは良い、でも目の前はパークゴルフ場、そして道の駅、忠類村の家並みも直ぐ近く、面積も狭い、キャンプ場と言うよりもただの公園の一画と言った雰囲気。
そこに、ファミリーキャンパーから、ライダーから、普通の乗用車で寝泊まりしている風の夫婦連れ、色んなタイプのキャンパーがひしめいているのである。
自分の常識が全く通用せず、ますます世の中が信じられなくなってきた。
こうなったら、どんなところでも良いからテントを張ってやるぞー。私は覚悟を決めたが、かみさんは完全な拒否反応を示していた。
「絶対に嫌!、こんなところでのキャンプは堪えられない!」
そこまで嫌がられては、どうしようもない。そろそろ覚悟を決めるしかなさそうだ。
晩成がダメだった時から、こんな結末になることは大体予想がついていた。やっぱりカムイコタンのキャンプ場に戻るしか無いのである。
時間はもう6時を回って、さすがに川下りのメンバーもキャンプ場を後にしているだろう。
西の空が赤く染まってとても美しい眺めだ。できればこの景色をテントサイトからゆっくりと眺めたかったが、カムイコタンへ向かう車の車窓から楽しむほか無かった。
キャンプ場へ到着する頃には、夕日の色は完全に消えてしまっていた。
中段サイトに一張り、河原サイトに一張りのテントがあるだけで、場内はひっそりとしている。忠類村のキャンプ場との差は一体何なんだろう。 昨日の週末でさえ河原サイトには数張りのテントがあるだけだった。
今時期の平日のキャンプ場は殆どが旅行者の利用しか無いのだろうが、旅行者はキャンプ場の快適さより少しでも便利の良いキャンプ場を選ぶということなのだろうか。
まあ、他人のキャンプ場の嗜好はどうでも良いことで、我が家にとってキャンプ場が静かなことは大歓迎である。
サイト選びをしているような余裕もなく、何時もどおりに一番奥の樹木の下にテントを設営した。本来このキャンプ場のサイトは予約制になっているので勝手にテントを張ることは禁止されているのだけれど、管理人も帰ってしまったし、明日の朝は直ぐに撤収することになるだろうから、あえて気にしないことにする。
河原を吹き抜ける風が冷たく、蚊もまだ飛んでいるものだから、テントの前室の中で食事を済ませた。
晩成へ向かう前に購入したコンビニ弁当、レンジで温めてもらった温もりがまだかろうじて残っていた。
そのままテントの前室でビールを開けようと思ったが、さすがに窮屈すぎる。昨夜は広々とした河原を全て自分たちのスペースとして使っていたのに、一日経ってこの状況では、堪えられないのも当たり前だ。
イスとテーブルを河原まで持ち出して、そこでビールを飲むことにした。
昨日のようなキャンプを経験してしまうと、仕切られた枠の中でのキャンプではもう満足感を得られなくなるのではと心配になってしまう。
今夜は焚き火が無いのがちょっと残念だが、その代わりに神居大橋の照明が歴舟川の水面をオレンジ色に染めてとても美しい。
そんな風景と水の音に癒されて、今日の楽しかった川下りのことを思い出しながらビールを味わう。
太平洋の潮騒は聞こえないけれど、歴舟川下りの思い出に浸りながらキャンプをするのならば、やっぱりここの方が正解だったような気がする。
疲れているから今日は早く寝ようと言っていたのに、川の側を離れ難くて結局9時頃までそこで過ごしてしまった。
時折、畑の鹿避けらしいパーンという音がキャンプ場まで響いてきたが、そんな音に目を覚まさせられることもなく朝まで熟睡した。
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