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風に吹かれて尾岱沼キャンプその2

尾岱沼ふれあいキャンプ場(4月30日〜5月3日)

 今日の予定は風蓮湖でのカヌーである。
 風蓮湖は、日本で見ることができる野鳥の半数以上、300以上の種が観察される世界屈指の野鳥の楽園となっているそうで、特に今時期はタンチョウが子育てをしている時期でもあり、そんなところでカヌーに乗って大丈夫なのか、ちょっと心配だった。
 札幌の近くで言えば、ウトナイ湖にカヌーを浮かべるような行為ではないだろうか。
 そこで、風蓮湖周辺でカヌーツアーをやっている「根室ネイチャーセンター」に問い合わせてみた。
 すると、丁寧な返信メールが届き、「現在はタンチョウが卵を暖めている真っ最中、でもカヌーの方がタンチョウを驚かさないように注意すれば大丈夫、風蓮湖周辺のタンチョウの生息密度は釧路湿原の4倍以上、カヌーで風蓮湖をツーリングしてタンチョウを見ることができないことのほうが珍しい。」と言った内容が書いてあった。
風蓮川スタート地点 今回のキャンプの一番の目的は「風蓮湖でタンチョウに会おう!!」だったのである。
 風蓮湖は広いので、どこのポイントでカヌーに乗るか迷ってしまう。地図を見ていると、風蓮川の河口近くまで細い道路が延びているのを見つけた。周辺は湿地帯で、そこから河口まで2km弱、ほとんど流れの無い川なので出発地まで漕ぎ上がるのも問題なさそうである。
 地図を見ながら砂利道を走っていくと、その道の終点にはサケ・マスふ化場の施設が建っていた。ゲートが閉じられていたものの、そこから川までカヌーを運ぶのも問題ない距離である。
 「もうすぐ憧れのタンチョウに逢うことが出来るぞ!」
 ワクワクしながら風蓮川に漕ぎ出した。
 さすがにこの辺では川幅もかなり広がっている。周りは広々とした湿地帯、あまりに広すぎて距離感がつかめない。まだ風蓮湖までは出ていないようである。。
 カモの鳴き声だけは聞こえてくるが、タンチョウらしい姿はどこにも見えない。
風蓮川河口付近 パドリングを止めて静寂の中に身を置くと、大自然の中に放り出された気がしてくる。ふと気がつくと、何もしていないのにカヌーがかなりの距離を進んでいた。風もちょっと強くなってきたみたいだ。
 ネイチャーセンターの人からは、「根室は風が強いところなので注意してくださいね。」と言われていたのを思い出した。出発地点のふ化場の建物が遙か彼方に米粒のように小さく見えている。
 「これってちょっと、まずい状況かも。」
 タンチョウとの出逢いはあきらめて、あわてて戻ることにした。
 一見、流れの無いように見える風蓮川だが、しっかりと水は動いているようである。何も遮るものがないので、向かい風がもろに吹き付けてくる。
 「す、進まない!」
 それでも全力のパドリングで、やっとスタート地点まで戻ってくることが出来た。
 こうして、今回のキャンプの最大の目的は、あっさりと崩れ去ったのである。

 予想以上に時間が余ってしまったので、根室まで昼飯を食べに行くことにした。その場所は回転寿司の「花まる」、前回ここで食べたホタテは本当に美味しかった。
 再びそのホタテの味を満喫して、急遽決めた次の目的地、落石岬へと向かう。
 ここも結構歩かなければならない場所だが、こんな時でなければなかなか訪れる機会のなさそうなところである。
 ここはサカイツツジの自生地として有名であるが、当然この時期では花も咲いていない。それでも、ミズゴケに覆われたアカエゾマツ林や湿原の周りの矮化したアカエゾマツの奇木、灯台の建つ急峻な崖など見所が多い。
 その中を通る高床式の木道は、半割丸太の丸い面を上にして敷かれているので、ちょっと歩きづらい。ハイヒールでは絶対に歩くことが出来ない木道である。

落石岬への入り口
  落石岬の断崖
木道の始まり   落石岬の断崖、柵がない!

 落石岬からは道道142号を走って厚床へ抜けたが、この付近の風景も結構私の好みだったりする。
 とろろ昆布のようなサルオガセを枝に絡ませた樹木が、道路沿いに多く見られる。
 高校生の頃、バスケ部の遠征で根室まで来たとき、汽車の車窓から見たこのサルオガセの風景が心に強く焼き付き、私はそれ以来サルオガセ大好き人間になってしまったのだ。
 再び別海町のAコープに寄って食材を仕入れ、尾岱沼では漁協の直売店で巨大ホタテを購入した。1ヶ200円と値段はちょっと高めだが、この大きさのホタテは他では手に入らない。
 今日こそは豪快にホタテと牡蠣の炭焼きを味わうのだ。
 夕食前に近くの温泉「浜の湯」に入りに行く。この「浜の湯」は、国道からも密集した家並みの中に看板だけが見えているが、その様子はまるで街中の普通の銭湯である。
 ところが中に入ると、源泉が惜しげもなくかけ流しとなっていて、泉質の違う浴槽が二つあり、露天風呂も想像以上の広さで、ちょっと感激してしまう。
 前回は野付湾が見渡せるシーサイドホテルの風呂に入ったが、こちらの「浜の湯」の方がお勧めである。

 サイトに戻り一息ついて、「さあ、そろそろ夕食の準備でもするか!」と思った頃、再び風が強くなりはじめた。昨日と違って、今日は海側から風が吹いている。テントの入り口を海に向けているものだから、前室部分に入ってもその風から逃れることが出来ない。
 再び今日もテントを締め切っての夕食になってしまった。
 巨大ホタテは、しょうがないので刺身とバター焼きにして食べる。もしかしたら、炭焼きで食べるよりもこちらの方が美味しかったかもしれない。
 ところでこの風は、昨日のように止んでくれるんだろうか。
 日中は海より陸の方が暖まるので海風が吹き、夜は陸の方が冷えるので陸風が吹く。この方程式が5月のこの時期にも成り立つのか、はなはだ疑問である。どう考えても、昼も夜も陸の方が寒そうなのだ。
 それでも今日も、7時頃には風が弱まってきた。
焚き火風景 ホタテは食べてしまったが厚岸産の牡蠣はまだ残っている。昨日から準備していた炭に、ようやく火を付けることが出来た。
ところがこの牡蠣、いくら焼いても口を開けてくれない。
 「死んでんじゃないのか、この牡蠣!」
 とうとう我慢できなくなり、ハンマーで殻をたたき割ってみると、水分が無くなりかけてはいるものの、プリンプリンとした身が出てきた。
 何とか食べれそうだけど、あきらめて捨ててしまった。
 厚岸産の牡蠣はやっぱり厚岸で買った方が良さそうである。
  札幌を出るときの週間予報では、明日だけが雨の予報になっていた。もしかしたら予報が変わっているかもしれないと、再び天気予報を確認してみたが、やっぱり明日は雨みたいだ。
 天気が良ければ、次はどこかへ移動するつもりでいたけれど、しょうがないのでもう1晩ここに泊まることに決める。
 2日目の夜も焚き火とワインで暮れていった。

ミズバショウの風景 次の朝はやっぱりテントをたたく雨の音で目が覚めた。
 早起きしてもしょうがないのでテントの中でウダウダしていたら、雨も上がったようである。
 テントから出てみると、雨は止んだもののどんよりとした霧に覆われて暗い風景が広がっていた。
 こんな時こそ雨に濡れたミズバショウのしっとりとした写真が撮れそうだと、国道からの入り口近くにあったミズバショウの群落を見に行く。
 網走湖のミズバショウのように観光地化されていないこんな場所の方が、ゆっくりとミズバショウの花を楽しむことが出来る。長靴を履いて林の中に入り、しばらくの間ミズバショウの花と戯れた。

 どんよりと曇った空の下、知床ドライブへ出発。するとまもなく、それまで知床の山を隠していた暗い雲が次第に薄れはじめ、真っ白な雪に覆われた山並みが現れてきた。
 遠くの海面すれすれに立ちこめた霧の上からは、国後島の姿も見えている。
 やがて空は完全に晴れて、雄大な知床の山並みが見渡せるようになった。海も空も完璧な青色に染まり、そこに浮かぶ真っ白な山が息をのむような美しさである。
 知床はやっぱり素晴らしい土地だ。
 ただ、純の番屋だけはちょっと・・・。
 ドラマ「北の国から2002 遺言」で純が住んでいた番屋を羅臼の市街地に再現したものだそうだが、その建っている場所がパッとしないのだ。
 やっぱり純の番屋は、玉石の海岸にポツンと建っていた方が風情がある。それでも我が家でさえその前で記念撮影してくるくらいだから、観光には少しは役立つのだろう。
 羅臼からウトロへ抜ける知床横断道路は冬の通行止めが続いていたので、羅臼側の道路の行き止まり、相泊まで行ってみることにした。
 羅臼市街地から24kmを往復することになるので、時間の余裕が無ければなかなか行くことが出来ない。
 羅臼までは何回か来ているが、相泊まりまで行くのは学生時代以来になる。途中の奇岩や滝を楽しみながら海岸のセセキ温泉までやってきた。
 ここも「北の国から2002 遺言」の舞台になった場所だ。学生の頃、この温泉に浸かりながら、すぐ横の海底から採ったウニを食べたときの美味さは今でも忘れられない。
 そのウニの美味さだけは鮮明に覚えているのに、温泉の様子は「あれ?当時もこんな感じだったかなー?」って感じで、はっきりとは思い出せなかった。

残雪の知床連山
  国後島も見える
天狗岩と知床の山並み   沖には国後島の姿が

 思い出深い羅臼を後にして、次は野付半島へと向かう。
 前回ここに来たのは7年前、その時はトドワラを歩いていたので今回は手前にあるナラワラでも歩いてみようと思っていた。
 この野付半島の道路から見える知床連山の姿も素晴らしい。
 道路沿いの駐車場に車を停めてその風景を撮影していると、かみさんとフウマが道路の方へ出て行ってしまった。
 「風景を眺めながら歩いていくから、途中でピックアップしろってことだろう。」
 撮影を終わって道路へ戻ると、いつの間にかかみさんとフウマが海岸へ降りていた。道路からそこへ降りる道がついているのだ。そこへ車を入れて海岸へ出てみると、小砂利の綺麗な浜が広がっていた。
ここからの方が知床の山並みも美しく見える。我が家はやっぱり整備された場所よりも、こんなところの方が好きなのである。
 ナラワラの駐車場へ付くと、引き潮で干上がった海底から湯気が湧き上がり幻想的な風景になっていた。
 「この風景は素晴らしいけれど、ナラワラの中を歩く道って無かったっけ?」
 どうやら現在のナラワラは、この駐車場から眺めるだけみたいだ。
 「昔はナラワラの中を歩けたような気がするけどな〜。」
 これも多分、学生時代の記憶なのだろう。30年近い昔の話しなら記憶があやふやなのもしょうがないと自分を慰める。
 その後は野付半島の車で行ける最後の地点まで走ってから、同じ道を引き返してきた。やっぱりここは原生花園の花が咲く時期に訪れた方が良さそうだ。

野付半島の浜辺
  ナラワラ
野付半島の浜辺で   湯気に霞むナラワラ

 キャンプ場に戻る頃には、それまでの素晴らしい青空にかなり雲が広がってきていた。それでも静かな野付湾が広がり遠くには国後島の姿も見えている。3泊目にしてようやく静かな夜を過ごせそうだ。
 と思ったのもつかの間、また海からの風が強く吹き始めた。
 さすがに3日目となればそんな風も気にならない。どうせまた7時頃には風も止むのだろう。
 一人の男性が近づいてきた。
 「もしかしたらヒデさんですか?」
 同じ場所に3泊していたら誰か知っている人に会いそうだなーとは思っていたが、やっぱりビックリする。見聞録の掲示板で名前だけは知っていた、初対面のともさんだった。
 札幌から遠く離れたこんなキャンプ場でばったりと会うなんて、考えてみたら面白い話しだ。
 風を避けてテントの中で夕食を食べていたら、外から「すいませーん」と言う声がした。
 「また誰か知っている人だろうか?」
 外へ出てみると少年が3人、ガソリンランタンの火の付け方が分からないので教えて欲しいというのだ。
 「へっ?」
 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
 「君たちだけでキャンプに来ているの?」と聞いてみたら、他にも人がいるとの話しである。どうやら親に言われて、わざわざここまでランタンを持って聞きに来たらしい。
 子供を使って聞きに来させるなんて情けない親だ。と言うか、ランタンの火の付け方くらい覚えてからキャンプに来いと言ってやりたいものだ。

海面に映る街の灯 予定どおり7時頃には風も止んで、尾岱沼最後の夜の焚き火を楽しむ。
 尾岱沼の街の灯りが海面に長く伸びて、美しい光景を作っていた。何気なく顔を横に向けたままそちらの方を向くと、その光が突然キラキラと輝きだした。
 綺麗だなーと思いながら顔を元に戻すと、そのきらめきが急に消えてしまった。
 「あれ?」
 もう一度顔を横に向けると、再び美しく輝いて見える。
 「ちょっと、ちょっと、顔を横に向けてあの光を見てごらん。」とかみさんに促す。
 かみさんも「あら!」と驚きの声。その後は二人して、何度も顔を傾けたり元に戻したりしながら、その訳を確かめようとする。
 私なんか、後ろ向きに立って股覗きまでやってみたが、やっぱり顔を横に向けた時のようには見えなかった。まあ、理由は良くわからないが、こんな事に気がついたのって我が家くらいじゃないのと言って二人ではしゃいでいた。
 こんな様子を他の人が見ていたら、あの夫婦二人で何やってんだろう?と不審がられたかもしれない。
 まったくアホな夫婦である。

照明に照らされる場内 ここのキャンプ場は照明が明るいので、焚き火の炎の味わいが薄れてしまう。
 ともさんがテントを張っている方を見てみると、暗い砂浜でチロチロと焚き火の炎が上がっているのが見えた。
 「ムムッ!これはやられたな!」
 他人の焚き火にはやたら対抗心を煽られる性格なのである。
 海面に映る街の灯を眺めながらの焚き火も楽しそうだ。そのまま焚き火台を砂浜へ移そうかとも考えたが、照明に照らし出された樹木の姿もなかなか美しい。
 おとなしくそこで焚き火を続け、最初にくべた極太の薪が燃え尽きるのを待って眠ることにした。
 明日は確実に美しい朝日が見られそうだ。

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