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へんなこった虫にギョギョジ鳥、糠平キャンプ(前編)

国設ぬかびらキャンプ場(6月25日〜27日)

 最近、泊まるキャンプ場を決めるときは、ひたすらインスピレーションが湧いてくるのを待つことにしている。
 これが、突然ひらめくこともあれば、全く何処も頭に浮かんでこないような時もある。
 後者の場合は、以前はキャンプ場ガイドブックをパラパラとめくり、何となく気に留まったキャンプ場へ出かけると言うパターンが多かったが、最近は「北海道の森と湿原を歩く」や「車でめぐる北海道の花園100」という本が役に立ってくれている。
 今回、糠平湖キャンプ場に決めたきっかけも、「車でめぐる北海道の花園100」に載っていたルピナスの花が一面に咲き誇っている1枚の写真からだった。
 この写真の場所は上士幌町の十勝三股付近、花のことについては知らなかったが、車でそこを通るときは、何となく良いところだなーと感じていた場所である。そしてそこがルピナスの名所だと言うことを知って、いつかは訪れてみたいと考えていたのである。
 それに、糠平湖といえば旧国鉄の線路後に残っているコンクリート製のアーチ橋も有名である。カヌーに乗って湖上からそんなアーチ橋の写真でも撮影し、ついでに温泉にも入って。
 おまけに糠平湖のキャンプ場は、我が家にとって初めて泊まる場所でもある。
 一つのきっかけから、次々と楽しそうなことが浮かんできて目的のキャンプ場が決まる、これが最近のパターンである。
 問題になるのは、然別湖キャンプ場が比較的近くに存在するということだった。然別湖に泊まっても、車で一山越えれば簡単にこれらの場所へ行くことができる。糠平のキャンプ場へは、かなり前になるが一度下見に訪れたことがあり、キャンプ場としての魅力は完全に然別湖へ軍配が上がってしまう。
 でも、答えを出すのは簡単だった。
 我が家がキャンプを予定している週末、然別湖の方は7月オープンということで、まだ閉鎖されたままなのである。一方、糠平湖の方は、我が家が泊まろうとしているその日がオープン日になっていた。
 答えは出したものの、然別湖に泊まれなくてがっかりしたような、迷うことが無くなってすっきりしたような、複雑な気分である。

 今回のキャンプは場所も遠く、個人的には結構リキの入ったキャンプなので、金曜日から休みを取って2泊3日の日程で出かけることにする。
 ただ、前回のチミケップキャンプの時は、職場の月1回の定例会議を欠席して出かけ、今回もまたその定例会議の日程ともろに重なってしまっていた。さすがに、4月に現在の職場に異動してきたばかりで連続して会議をさぼるわけにもいかず、会議の終わった午後から休みを取ることにした。
 仕事が終わると直ぐに、25kmの道のりを高速道路を使って大急ぎで自宅まで舞い戻る。急いで昼食を済ませて、荷物を積み込み、自宅を出たのは1時15分だった。これで何とか、夕方頃には現地に到着することができるだろう。
 日勝峠を越えてから糠平までの最短ルートは然別湖経由になる。しかし、清水町から音更町まで高速道路を使った方が、20km程遠回りになるものの時間的には短縮できそうなので、そちらのルートを選択した。
 道東道の音更帯広インターで降りて、そこからは国道を使わずに裏道を走る。初めて通る道だったが、交通量も少なく、そのまま高速道路が続いているような感覚で一気に上士幌の町まで着いてしまった。
 上士幌の町では今夜のバーベキュー用の食材を調達して、糠平まではあと少しである。
 上士幌からは国道を走るが、そこも交通量は少なく快適に走ることができる。こんな道を走っていると本当に気持ちが良い。
 道ばたでは、雑草のようにルピナスが花を咲かせている。札幌では1週間くらい前からルピナスの花が散り始めていたのでちょっと心配だったが、こちらの方ではちょうど良い時期を迎えているようである。
 そして5時過ぎにはキャンプ場到着、札幌から280kmの道のり、まあまあのペースだった。

我が家のサイト ここのキャンプ場は本日オープンと言うことだったので、これは一番乗り間違いなしと思っていたら、すでに2張りのテントが張られていた。
 以前下見で訪れたときは、もう少し明るい雰囲気のキャンプ場というイメージだったような気がするが、空には暗い雲が垂れ込め、場内の白樺も葉を茂らせているためか、何となく薄暗く感じられる。
 テントを張る場所を探しながら、時々かみさんとお互いの表情を確認し合うが、その表情になかなか合意の笑みが浮かばない。そんな中、場内の奥に開けた場所があり、ここはどうだとかみさんの表情を見ると、ようやく二人の意見は一致したようである。
 テーブルとベンチがちょうど良い具合に置いてあったので、それに合わせてテントを設営する。
 雑木の茂みが目の前にあってロケーション的にはパッとしない場所だが、テントの周りにはコウリンタンポポ等が花を咲かせ、ちょっとしたお花畑の感じもして、なかなか良い雰囲気である。
 テントを先に立て終わってから、残りの荷物を車から降ろす。駐車場から距離は離れているが、リヤカーが使えるので、2台のリヤカーを同時に使って荷物運びは全く苦にならなかった。
 夕食の前に、焚き火用の薪を集める。ちょっと歩いただけで十分な量が集まった。それなのに、かみさんから「どうして家に置いてある薪を持ってこなかったの!」と怒られてしまう。
 「ここで十分に拾えるんだから別に良いだろう。」
 「そんなこと言っていたら、家に置いてある薪の山が何時までたっても減らないでしょう!」
 まあ、それはそうだが、薪は沢山積んであった方が嬉しくなるのも事実である。

へんなこった虫 夕食の準備をしていると、周りを飛び回る小さな虫が気になってきた。
 体長2〜3ミリの黄色い虫で、ガの仲間かアブラムシの仲間か全く検討もつかない。どうやら人間を刺すことは無さそうだが、数が多いのでとても鬱陶しい。
 どうやら、色の濃いものに留まってくる習性があるようだ。ツーバーナーとか地面の焚き火後の黒い部分にもびっしりと張り付くように留まっている。
 気が付くと、テントの前室天井にも沢山とまっていたので、慌てて外に追い払って入り口を閉めた。さわっただけで簡単に潰れてしまうので、追い払うのにも注意が必要である。
 多分、卵から羽化して数日も経っていないのだろう。
 あまりの数の多さに閉口して、蚊取り線香を周りに並べた。
 ちなみにこの蚊取り線香、初めてアース製薬のものを買ってきたのだが、その臭いが仏壇にそえる線香と全く同じなのである。テントサイトが、まるで葬式の会場にいるような臭いに包まれてしまう。線香はやっぱり金鳥に限ると、改めて感じさせられた。
 その、名も知らぬ虫を、いつの間にか「このへんなこった虫が・・・」などと呼ぶようになっていた。
焼き肉中 焼き肉を食べている時も、ビールを飲んでいる時も、その「へんなこった虫」がタレの皿やコップの中に入っていないことを、一々確認しながら飲んだり食べたりしなければならない。
 別に「へんなこった虫」を食べても腹痛を起こすわけでもなく、黄色いふりかけだと思えば良さそうなものだが、さすがに私はそんな豪傑にはなれない。
 神経質に、タレの中に浮かんだ黄色い「へんなこった虫」を箸で取り除きながら、焼き肉を楽しんだ。それでも多分、2,3匹は確実に食べてしまったかもしれない。

 あたりが暗くなると、「へんなこった虫」の来襲も無くなったようである。でも、よくよくあたりを見回すと、いろんな場所にびっしりとその虫が張り付いていた。しばしの休息に入っただけの話みたいだ。
 焚き火をはじめる頃には、なんだか上空がにぎやかになってきた。
 急降下する羽音が特徴のオオジシギだ。
 この鳥が急降下するときの音を人間の言葉で再現しようとしたが、とても難しい。
ジーッ、ジーッ、ジッ、ジッ、ジ、ジ、ジ、ギャ、ギョ、グッ、グッ、グググググーーッ、ギョッ、ギョギョジ、ギョギョジ、グェーッ。
 こんな感じだろうか。
 数匹が上空で交差するように、何回も急降下してくる。我が家のテント周辺がやや開けているためか、急降下しながらそのまま直ぐ近くに着地してくるやつもいたりして、その時の音がまたすごいのである。
 グググググーーッの後にギョギョジ、ギョギョジをはさまずに、そのままグェ、グェ、グェーーッて感じで真後ろに降りてこられたものなら、ビックリして飛び上がってしまう。
 焚き火をしながら、静かに野鳥の囀りに耳を傾け・・・、同じ野鳥に違いはないが、まるで正反対のシチュエーションである。
 細かな霧雨が頬に当たるのを感じたので、早めに焚き火も切り上げることにした。
 2張りのテントには、それぞれソロキャンパーが泊まっていたが、その明かりもすでに消えている。
 9時にはテントに入り、野鳥の声を子守歌にしながら眠りについた。

朝の焚き火風景 3時には野鳥の声で目が覚めた。チチッ、チチチッという囀りではなくて、ギョギョジ、ギョギョジ、グェーッの鳴き声だ。
 シュラフの中でまどろみを楽しむような余裕もなく、4時には起き出すことになってしまった。
 焚き火を楽しみ、朝のコーヒーをゆっくりと味わい、朝食を済ませてもまだ6時前だ。朝の時間を有効に使えるのもギョギョジ鳥のおかげである。
 そのまま、今回のキャンプで楽しみにしていたタウシュベツ川橋梁を見に行くことにする。
 廃線になった国鉄士幌線のコンクリート製アーチ橋が、糠平湖周辺には多数残っており、その中でもタウシュベツ川橋梁はパンフレット等の写真にも使われ、もっとも有名なアーチ橋である。
 事前に仕入れた情報では、今年は冬の大雪の影響で例年になく湖の水量が多く、このアーチ橋も水中に隠れてしまっていると言うことだったが、とりあえずはその周辺をカヌーで回ってみるつもりだ。
 キャンプ場からはちょっと距離がある。湖の上流へ車を走らせ、途中から林道に入って湖の対岸へ回るような場所に位置している。
 国道から林道へ入って橋までは5kmほど、道幅は狭いが走りやすい林道である。
 やがて、タウシュベツ川橋梁の小さな看板を見つけたが、車林道沿いの駐車場に停めて、橋までは歩いていかなければならないようだ。これではカヌーに乗れないと一瞬がっかりしたが、その手前にある湖畔沿いの空き地からならば何とか湖までカヌーを降ろせそうである。
 大きな流木が何本も横たわっている中を、その上をまたぎながら水際までカヌーを運び、糠平湖の水面に初めてカヌーを浮かべた。
 そうして、少し沖にカヌーを進めると、直ぐにタウシュベツ川橋梁の姿が見えてきた。
 そのアーチ橋は、わずかに頭の部分が水上に姿を現しているだけで、予備知識なしでこの光景だけを見たならば何の感動も湧いてこないかもしれない。写真で見た美しいアーチ橋の姿を思い浮かべながら、その周囲をカヌーで回る。
 温泉街からも距離が離れ、こんな場所までカヌーでやってくる人間なんてほとんどいないだろうが、ここのアーチ橋を楽しむにはカヌーは本当に便利である。自分の好きな場所からアーチ橋の姿を楽しむことができるのだ。
 ただ、人気の撮影スポットでもあり、他の見学者がいるような時にアーチ橋の周りをカヌーでウロチョロしたら、かなり顰蹙をかってしまうだろう。
 もしもこの内容を読んで、現地へ行ってみようと考えるカヌー愛好者がいたとしたら、節度ある行動をお願いしたい。
 アーチ橋のコンクリートの表面は、かなり風化が進んでいるようである。最近、アーチの一部が崩れたとの報道もあり、美しい姿を楽しめる期間はこの先あまり長くはないような気がする。

 それまで空を覆っていた雲が急に取れてくる。そうして、涼しげな筋雲が流れる真っ青な青空が広がった。
 遠くには、まだ雪の残るニソベツ岳の姿も見える。鏡のような湖面にその姿を映し、感動的な美しさである。
 近くの湖岸に上陸した。ダム湖の湖岸は大体が泥に覆われているものだが、水位が高くなっているためか、それとも流れ込む川が近い影響なのか、この付近は石に覆われているので上陸しても気持ちが良い。
 真っ白に風化した、骨のような流木が沢山落ちている。焚き火好きの人間がこんな場面に出くわしたら、歓喜の叫び声を上げるだろう。
 かみさんが、「ここでキャンプをしたら最高ね。」なんて、うっとりした表情で言っていたが、さすがに熊が怖くて私はその気にはなれなかった。
 おもしろい形の流木を拾って、おみやげに持って帰ることにする。できればトラックで乗り付けて、ごっそりと持ち帰りたいほど、良い形の流木がいっぱいあって困ってしまう。
 今夜の焚き火用の流木もしっかりと確保した。
 そのうちに風がやや強まり、それまで静かだった湖の水面にさざ波が立ちはじめた。湖でカヌーを楽しむには、やっぱり早朝に漕ぎ出すにかぎる。
 水位が下がった時期に、もう一度ここを訪れようと心に決めて、その場所を後にした。

 林道を戻り国道に出る寸前で、下の方へ降りる分かれ道があった。何も迷わずに、直ぐにその道へ車を進める。
 その道は直ぐに、幌加発電所の入り口で行き止まりになっていたが、さらにその横に細い道が下の方へ続いている。両側から藪が覆い被さり、路面もかなり荒れている道だが、何も考えずにそこへ入っていった。
 その先には絶対に楽しいものがあるだろうとの、確信のようなものがあったのである。
 オデッセイの両側を藪にこすりながらその道を抜けると、突然目の前に美しい河原が現れた。思っていたとおりで、思わず笑みがこぼれてしまう。
澄んだ水の川を渡るフウマ 直ぐに河原に降りてみる。ため息が出てしまうくらいに清らかな水が流れている。車からサンダルを取り出し、それに履き替えて川の中を歩いた。冷たい水がとても心地よい。
 足下の河原の石を見てみると、やたらに黒い石が多いことに気が付いた。黒曜石、別名十勝石である。子供の頃、川で遊んでいて十勝石を見つけたら喜んだものだが、ここでは大から小まで、嫌と言うほど十勝石が転がっている。
 お土産用に適当な大きさの十勝石を確保した。かみさんはかみさんで、平たい石を集めている。家に持って帰って庭に敷くつもりなのだ。
 少しずつであるが、かみさんがこんな場所から持ち帰った石で、我が家の庭では敷石の面積が広がりつつある。
 フウマも、小さな石を抱え込んで一生懸命に舐めている。何だろうと思って見てみると、それは石ではなくて何かの骨みたいだった。腐ったものを食べるよりはましだろうと、放っておくことにした。
 遊び終えて、次の目的地に出発するのにフウマを呼び寄せたら、その骨をまだ口にくわえたままだ。そんな物までお土産にされたら堪らないので、骨を取り上げて川の中に捨ててしまう。
 恨めしそうな表情を浮かべるフウマを車に乗せて、そこを後にした。

第五音更川橋梁 国道をさらに北に進み○橋の上に差し掛かると、そこから美しいアーチ橋が見えた。インターネットで調べた簡単なアーチ橋の地図を持ってきていたので、それで調べてみたら第五音更川橋梁と呼ばれるアーチ橋のようである。
 国道の橋の上からその写真を撮っていると、河原まで降りられる道がついているのに気が付いた。そんな場所では河原まで降りてみないと気が済まない性分なので、直ぐにまた下まで降りることにした。
 ここの川は、川底が茶色い岩盤になっていて、その上をなめるような感じで水が流れている。一風変わった風景である。
 そして、そこを流れる水がまた透明で美しい。
 美しい渓谷の風景の中に、無骨な感じのコンクリート製アーチ橋が川をまたいでそびえていた。川の風景の中に忽然と現れるコンクリート構造物というのは、どうしてもイメージが悪いが、このようなアーチ橋は、開拓者と自然との激しい戦いを感じさせる遺構として、その風景の中に完全にとけ込んでいる。
 そんなアーチ橋を激写しようと、撮影ポイントを探して岩の上を飛び越えている時に、バランスを崩して危うくカメラと一緒に川の中でひっくり返りるところだった。
 片足を濡らしただけで済んだが、靴を脱いで濡れた靴下を絞っていると、なんだか子供の頃にかえったような気がして嬉しくなってしまう。
  そして、次の目的地はいよいよ十勝三股のルピナスである。

後編へ続く 

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