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へんたこった虫にギョギョジ鳥、糠平キャンプ(後編)

国設ぬかびらキャンプ場(6月25日〜27日)

ルピナスの咲く風景 この付近の国道273号は、とても快適なドライブコースだ。気持ちよくアクセルを踏み込み、森の中を駆け抜ける。
 やがて、周りの景色が急に開けてきた。十勝三股に到着である。
 道路沿いのルピナスの花がとても美しい。そんなルピナスの花園の中に丸太小屋の喫茶店が建っていた。以前にこの付近を走ったときは、そんな店は無かったような気がしたが、ちょうど喉も渇いていたので、そこで一休みすることにした。
 店の前に車を置かせてもらい、そのまま周辺を歩いてみることにする。
 べつに、作られたルピナス畑があるわけではない。そこらの道ばたや空き地に、雑草が生えてるような感じでルピナスの群落があるのだ。
 店の裏の方に、ルピナスの花の間を通る木道が整備されているが、そんな場所を歩くよりも手入れされていない砂利道を歩いた方がずーっと楽しい。
 後で知ったことなのだが、昭和39年頃、この場所では220戸、1200人近い人々が生活しており、かなりの賑わいだったのことである。それが今では、喫茶店が一つと後は数軒の廃屋があるだけだ。何も知らずにこの場所を訪れた人は、昔の賑わいなど全く想像もできないだろう。
 私だって、ルピナスの花と遠くの山が綺麗だなー、程度のことしか頭に浮かんでこなかった。
水路とルピナス もしも、あらかじめそんな知識を持っていれば、その風景も全く違った物に見えていただろう。
 ルピナスの花の陰から元気な子供達が突然飛び出してきて、ルピナスに囲まれた廃屋の煙突からは石炭を燃やす真っ黒な煙がもくもくと立ち上って、ルピナスに覆われた線路の上をSLが走ってくる姿まで見えたかもしれない。
 しばらく歩いていくと、細い水路の周りにもルピナスが綺麗に咲いている場所があった。
 田舎の方にいくと良く見かける素掘りの排水みたいな水路で、そんなところには濁った汚い水が流れているのが常である。
 しかし、その水路をのぞき込んで驚いた。綺麗な水の中で、バイカモがゆらゆらと揺れている。そこらではなかなかお目にかかれないような清流である。そして、その周りのルピナスの花の美しさ。
 多分、賑やかだった頃には、そこには周りの家から生活排水が流れ込んでいたのだろう。自然の回復力が、人間の生活の跡をすべて消し去り、大きなお花畑に変えてしまっていた。
 何となく、天空の城ラピュタのイメージが頭の中に浮かんできた。
 道内には、ここよりももっと大きなルピナス畑や、綺麗に管理されたルピナスの花壇があるが、私は絶対にここのルピナスをお勧めしたい。
 遠くの東大雪の山並みや周辺の森を背景にしたルピナスの姿もさることながら、こぼれ種から芽を出した株が年月をかけて周りに広がり、昔の記憶をすべて花の中にのみ込んでしまったようなその姿には、畏敬の念を抱いてしまうだろう。

廃屋とルピナス ルピナスの群落

 キャンプ場に戻って昼食を作るのも面倒なので、近くにあったレストランに入ることにする。
 鉄道記念館で買ったアーチ橋の地図をゆっくり見てみると、今走ってきた道の途中にも、素晴らしいアーチ橋が有ったみたいだ。やっぱり、最初にこの地図を手に入れてから、アーチ橋探索を楽しんだ方が良かったようである。
 不味い料理を食べ終えて、そこのレストランを出た。このような温泉街で、美味い物を食べさせてくれる店を見つけるのは本当に難しい。
 キャンプ場に戻ると、夏の太陽の日差しが照りつけていた。
 開けた場所にテントを張ったものだから、我が家のテントだけが燦々と太陽の光を浴びている。
 最近はタープも張らないものだから、こんなに日差しが強いとテントのそばには居場所が無くなってしまう。近くの白樺の木の下に避難することにした。
日陰に逃れて 昨日の夕方にテントを張るときは、そこが一番良い場所のように思えたのに、今は最悪の場所にテントを張ってしまったように見える。まあこれも日中だけの辛抱なので、白樺の木の下を避暑地代わりに使えば良いだけの話である。このキャンプ場に置いてあるテーブルとベンチのセットは移動することができるので、近くに置いてあったものをそこまで持ってきて、使わせてもらうことにした。
 愛犬フウマは、あちらこちらを連れ回された疲れとこの暑さでグロッキー状態だ。もう10歳になって老犬の仲間入りをしているので、そんな姿を見るとこれからはあまり無理をさせられないなと思ってしまう。
 しばらく休んだ後、温泉に入りに行くことにした。
 最近買った「北海道ホンモノの温泉」という本には、糠平の温泉が2軒ほど紹介されていた。その中の「湯本館」という温泉に行くことにする。
 建物は古く、中に入るとひんやりした空気と独特の臭いが向かえてくれた。自慢の露天風呂は直ぐ下を渓流が流れ、太陽の光を浴びながら透明なお湯に身を浸していると体の疲れがスーッと抜けていくような気がする。
 風呂から上がり、脱衣所で地元の老人と少しだけ話をした。
 「ここも、昔はもっと賑やかだったんだよねー。」と言う老人の言葉が気になった。
 私自身、ここでゆっくりと時間を過ごすのは初めてだったのだが、糠平の良さを改めて知ったような気がする。然別湖や層雲峡も確かに素晴らしい場所だけれど、じっくりと探してみればもっと素晴らしい観光資源がこの周辺には隠されていそうだ。

 日の当たるテントの中にクーラーボックスを入れっぱなしだったので、中の氷がすっかり解けてしまっていた。
 酒屋によってビールと氷を補給する。
 外に停めてある車の屋根のカヌーを見て、酒屋のおじさんが「今年は水が多いからカヌーを出すのも楽でしょ。」と気さくに話しかけてくる。確かに、減水時のダム湖では水際までカヌーを降ろすのに一苦労するけれど、今回はそんな苦労が全くなかった。
 テントサイトに戻り、白樺の木の下でゆっくりとした時間を過ごす。いつもせわしなく動き回る我が家のキャンプでは、こんなのは本当に久しぶりである。やっぱりキャンプは、このくらいの余裕を持って楽しみたいものだ。
 さすがに週末だけあって、ポツポツとテントが増えてきた。
 ここのカラスはとてもずる賢く、少しでも隙を見せれば直ぐに荷物をあさりに来る。新しく到着したキャンパーがサイトに荷物を置いてちょっと駐車場に戻ると、直ぐに寄ってきてその中から手当たり次第にものを引っ張り出すのだ。
 炊事場へ行く程度の時間でも油断できない。
 昨日はあれほど五月蠅かったへんなこった虫も、今日は何処へ行ったのか、まるで姿を見せない。蚊もいないしブヨもいない。我が家のサイトの直ぐ脇はジメジメした湿地のようになっているのに、この環境で蚊がほとんどいないというのは不思議である。
 そこらを勝手に歩き回っていたフウマにも、ダニは全然ついていない。
 そう言えば今朝、かみさんが「首のところに何かついていない?」と言うので見てみたら、見事にダニが噛みついていた。昨日の夕方にこちらに着いてから、ダニに取り憑かれそうな場所はほとんど歩いていないはずだ。考えられるのは、一ヶ月前に行ったチミケップキャンプ場からダニを連れ帰り、そのダニが一ヶ月もの間、かみさんのシュラフの中で人間が入ってくるのを待ちかまえていたと言うケースである。
 その真偽は解らないが、今回のキャンプで虫に刺されたり喰われたりしたのは、結局これだけだった。

のんびりと過ごす 夕方、涼しくなってきたのでちょっとだけ周辺を歩いて見ることにする。その途中で、テントの外にゴミ袋を出したままだったのに気が付いた。
 散歩から戻ると、我が家のテントの周辺は見事なまでにゴミが散乱していた。ティッシュの箱もボロボロである。こちらの不注意なのでしょうがないが、それにしてもたちの悪いカラスである。
 日中に吹いていた爽やかな風がピタリと止んで、それと同時に再びへんなこった虫が現れ始めた。
 時間が経つにつれてその数も増えてくる。なんだか、昨日の夕方よりも数が多いみたいだ。線香くさいアースの蚊取り線香を焚き、焚き火の煙と合わせてへんなこった虫を追い払おうと頑張ったが、ほとんど役に立たずその数は逆に増えてきているような気がする。
 椅子に座る度に、そこにびっしりと張り付いたへんなこった虫を追い払わなければならないような状況だ。
 今夜の夕食は回鍋肉と豚汁、その中にへんなこった虫が飛び込まないように気を使いながらの食事は、なかなかスリリングである。
 相変わらず、上空ではギョギョジ鳥が賑やかに舞っている。
 決して快適とは言い難い状況ではあるが、自然の中で行動しているのだから、たまにはこんなこともある。逆に、滅多にできないような体験ができて、快適ではないが楽しい夜になった。
 明日の朝は、ギョギョジ鳥に無理矢理起こされるのが解っていたので、寝不足にならないように8時半には眠りについた。

 朝の3時、ギョギョジ鳥の目覚まし時計で目が覚めた。
 朝の時間を告げた後は、昨日の朝ほど賑やかに飛び回らなかったが、それでも一度目が覚めてしまうとなかなか眠れない。結局、この日も朝の4時に起きることになってしまった。
 テントから出ると、夏を感じさせる青空が広がっていた。
 顔を洗った後、直ぐに早朝カヌーに出かけることにした。今回はキャンプ場の近くからカヌーを出すことにする。近くとは言っても、カヌーを車で湖畔まで運ばなければならない。
 湖畔の駐車場に車を停めて屋根からカヌーを降ろすと、その内側には気味悪いくらいのへんなこった虫が張り付いていた。暗くなると姿が見えなくなるので、何処に行ったのかと思っていたら、こんなところに隠れていたのだ。
 駐車場からは人間の手でカヌーを運ばなければならないが、湖の水位が高いので比較的楽に水面に降ろすことができる。以前に、減水している時にこの辺の様子を見たことがあるが、その時の水面は遙か彼方に有ったような気がする。

霧に包まれる糠平湖 快適なカヌーフィールド

 鏡のような湖面にカヌーを浮かべた。
 上空には青空が広がっているが、湖の奥の方は朝靄に包まれている。時々その朝靄が薄れると、まぶしいくらいの太陽の光が射してきて、直ぐにまた、その光は朝靄の中に吸い込まれてしまう。
 周りの山々は霞に包まれ、もしかしたら中国の桂林もこんな感じなのではと思えてきてしまう。
 山の斜面は湖に垂直に落ち込み、尾根と沢が交互に連なる。一つの尾根を過ぎると急に水音が聞こえてきた。沢の奥に川が流れ込んでいるのだ。そして次の尾根の部分までカヌーを進めると、その水音が突然聞こえなくなり、あたりは再び静寂に包まれる。
 そんな尾根と沢をいくつか通り過ぎながら、何処まで行こうか考えていたら、遠くに大きな岬のような場所が見えてきた。
 キャンプ場のある温泉街は、糠平湖の大きな入り江の一番奥に位置しているが、その岬は入り江のちょうど角にあたる場所だ。そこを目標にのんびりとカヌーを漕ぎ進め、岬の先端に上陸した。
 ここもまた流木の宝庫であった。流木収集を趣味にしている人がこんな場所にやってきたら目移りして大変だ。何とも言えない形の流木が沢山転がっている。
流木の岸辺で かみさんが何かを探すように遠くに歩いていくので、どうしたのだろうと思っていたら、鳥の形をした流木を拾って戻ってきた。カヌーに乗っている時から、その流木が目に付いていたのだと言う。
 またそこでも、お土産用の流木をいくつか確保した。
 その岸辺には鹿の足跡がそこら中に残っていた。野生の鹿達も、どうやらここがお気に入りの場所のようである。
 水が少ない時はどうだか分からないが、満水状態の時の糠平湖は本当に魅力的なカヌーフィールドだと思う。
 湖でのカヌーは、どうしても単調な風景しか楽しめないが、ここ糠平湖は周りに山が迫っているので、湖上を進んでいくと景色が次々と変わっていく。場所によっては湖上からアーチ橋を楽しめることもできるし、紅葉の時も素晴らしい眺めを楽しめるだろう。
 道内の湖の中でもお勧めのカヌーフィールドである。
 帰りも、川の流れ込む入り江を探検したりしながら元の場所まで戻ってきた。
 カヌーを引き上げて、二人でそれを運ぼうとしたら、足元からへんなこった虫の大群がわき上がってきた。息もできないくらいの、もの凄い数である。必死になってへんなこった虫を振り払いながら、やっとの思いでそこを脱出する。
 やっぱり、水辺のこの付近がへんなこった虫の発生源なのだろか。

 キャンプ場まで戻って朝食をとる。いつもならば朝の焚き火を楽しむところだが、その時にはかなり気温も上がってきていたので、ゴミを燃やす程度の焚き火で終わってしまった。
 結局、昨日拾ってきた流木や森の中で集めた枯れ枝は、ほとんどそのまま残ってしまったので、近くに丁寧に積み上げて次のキャンパーへのプレゼントとする。
 昨夜からのキャンパーはソロが4組、夫婦が2組である。そして、全員が道外からの旅行者みたいだ。
 どうしてこんな良いキャンプ場に道内のキャンパーがいないんだと、ちょっと複雑な気持ちになってしまう。
 我が家の前に来ていたキャンパーは、今日はオンネトーへ向かうという。
 「そちらは今日はどちらへ?」と聞かれ、「札幌へ帰るだけです」と答えるのはとっても寂しい。
 他のキャンパーに挨拶して、糠平を後にした。

 帰りに然別湖のキャンプ場に寄ってみた。
 ここは7月からのオープンになっていたが、水場もトイレも開いていて2組ほどのキャンパーが泊まっていたみたいだ。
 ここに来るのは5年ぶりくらいになるが、キャンプ場中央に真新しい野外卓がびっしりと並んでいるのには驚いた。以前からその場所はあったのだが、団体のツアー客などが利用するスペースとして整備されたのだろう。
 ちょっと興ざめである。
 湖からは冷たい風が吹き付け、なんだかキャンプ場全体が寒々とした感じに見えてしまう。
 やっぱり糠平湖へ泊まって良かった。心の底からそう感じた。

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