前編から続く
我が家も北海道内はかなり歩き回ったつもりだが、道南方面だけは先に書いたような理由もあって未開の地として残っていた。
今回のキャンプではその未開の地の半分、恵山方面を攻めることにした。残り半分の松前方面も廻れば、晴れて道内全ての地を訪れることになる。果たして全道制覇は何時のことになるのだろう。
恵山に向かう前に、この付近で気になっていたキャンプ場の大船河川公園と川汲公園に立ち寄った。
大船河川公園では、場違いと言ったら失礼かもしれないが、如何にも近所の公園で花見をしているような風情のおじさんおばさんグループキャンパーに驚かされた。
11月に入ったキャンプ場にはどうせ世捨て人みたいなキャンパーしかいないはず、などという私の固定観念が良くないのだろうが、それにしても最近の中高年の皆さんのたくましさには敬服させられる。
こんなことを書くと、自分だって中高年だろうと突っ込まれそうな気もするが。
温泉施設の整備に伴って、敷地の隅っこに取りあえずという感じで作られたようなサイトだが、紅葉の時期にでも泊まったら快適な時間を過ごせそうなキャンプ場だ。
もう一カ所の川汲公園は、どう表現すれば良いのだろう。
実際に泊まってみないと何とも言えないが、普通の人が見れば多分テントを張る気にはなれないような場所だと思う。
そうやって寄り道をしながら恵山に到着、ここでの目的は「北海道の森と湿原を歩く」に載っていた岬展望台までのルートを歩くことである。
ツツジ公園の駐車場に到着。そこの直ぐ横に登山口への入り口があった。靴の紐を締め直して、勇んで急な階段を登り始める。
直ぐに、赤く色づいた恵山山麓の美しい景色が眼下に広がる。ところがそこには、山奥のキャンプ場のおじさんグループよりももっと場違いな、金色に輝く巨大な釈迦涅槃像が横たわっているのである。
それは、バブル最盛期に作られた恵山モンテローザというリゾート施設の一部であるが、何でこんな悪趣味な施設を作ってしまったのか、本当に信じられない。
ちょっと古い観光ガイドブックを見ると、必ずこの釈迦涅槃像が写っているので、恵山に対するイメージはかなり悪いものになっていた。
この頃に作られたリゾート施設の例に漏れることなく、この恵山モンテローザも既に廃墟と化していて、この巨大釈迦涅槃像も他の地域に移されることになったと聞いている。
さらに急な階段を登りながら、次第に疑問が湧いてきた。この道って本当に「北海道の森と湿原を歩く」に載っていたルートなのだろうか?
周りの様子が本に書いてあったのと全然違う。
かみさんが、「山のもっと上の方に車が上がっていくのが見えるわよ・・・」
「!!」
どうやら私たちが登っているのは恵山ではなくて、その前山へのルートだったみたいだ。
「入り口の案内図を見なかったのか!」
「何言ってるの、あなたがサッサと登り始めたんじゃないの!」
相変わらずそそっかしい夫婦である。
展望台まではあと少しみたいなので、取りあえずそこまで登ってみることにした。
やっと頂上について、そこの小さな展望台に上る。
キラキラと光輝く海がとてもまぶしい。ゴツゴツとした荒々しい山肌の恵山山頂が直ぐ近くに見える。
「ここまで登ってきた甲斐があったなー。ここでなければこんな恵山の姿は見られないぞ。」
そう言いながらも、心の中はとっても虚しかった。
直ぐにまた階段を下りて駐車場へ。この間の移動は、賀老高原で賀老の滝まで下りた時よりも大変だったかもしれない。
おまけに気温もかなり上がっていたので、愛犬フウマもかなり堪えたようだ。
気を取り直して車に乗り込み、急勾配の曲がりくねった坂道を恵山山頂を目指した。
駐車場に到着すると、そこからは異様な光景の中央火口が直ぐ近くに見える。歩いても直ぐの距離だ。
前山登山で時間を使ってしまったので、そこでは火口近くを歩くだけにした。何と言っても愛犬フウマがかなりばて気味だったのである。
小さな火山礫で固められた遊歩道は犬の足では歩きづらそうで、これ以上無理をさせては可哀相だ。それでも初めて見るような景色に、フウマも興味深そうである。
私もこんな風景は大好きなので、もっとここに留まっていたかったが、そろそろ昼飯の時間だ。
麓まで下りて、来る時に見かけた貝殻亭というログハウスのレストランに入ってみる。住宅用のログハウスをレストランに改造したような感じの店で、靴を脱いで中に入る。
食事のメニューはピザとスパゲティ、それにカレーしかない。私たちはカレーを注文したが、これがなかなか美味しい。飛び込みで入った店としては、久々のビンゴだった。
後は、函館新道を経由して一気に大沼まで。ところが湯ノ川付近で思いがけない渋滞にはまってしまった。30分ぐらい、ほとんど動かないのである。
折角の休日は1分たりとも無駄にはできない、そんなせっかちな性格の私にとって、こんな場所で渋滞にはまってしまうのは最悪の事態だった。
しびれを切らして地図を見ながら脇道に入ってが、どの道も混んでいる感じだ。
「函館って何時からこんなに車が多くなったんだ〜」
思わず泣きが入ってしまう。
それでも何とか函館新道入り口までたどり着いて、ようやくそこからは快適に走ることができた。
キャンプ場に戻ってくると午後3時を過ぎていた。本来ならば、2時前には楽勝でキャンプ場に戻ることができて、後はのんびりと湖を眺めながら時間を過ごそうという予定だったのに、1時間以上も無駄にしてしまった。
しかし、湖畔の道路を走っている時はほとんど風も無かったのに、我が家のサイトだけは相変わらず湖からの風がもろに吹きつけていた。これでは、早く戻ってきたとしても、とてものんびりとはできなかったなと、変なところで納得してしまう。
しょうがないので、キャンプ場近くの流山温泉に入りに行くことにした。ここは確か去年できたばかりの新しい温泉施設のはずだ。キャンプ場も一緒にオープンしているので、それもちょっと見てみたかった。
ところが、流山温泉に着いてビックリした。広い駐車場には車がびっしり、パークゴルフ場や、何故か新幹線まで展示してあったりして、ちょっとしたレジャーランドの雰囲気だ。
そこに隣接した、ただの芝生広場の新しいキャンプ場には全く興味が湧かず、風呂に入ってさっさと我が家のテントまで戻ってきた。
今夜のメニューはきのこ汁に炊き込みご飯。きのこだけは豊富にあるのだ。
私がビールを飲んでいると、かみさんがササッとナメコの和え物を作って持ってきてくれる。ウムウム、なかなか良い傾向だぞと一人ほくそ笑みながら、ビールのつまみにして美味しくいただいた。
炊き込みご飯は私の担当である。 炊き込みご飯と言っても、市販の素をご飯と一緒に炊くだけのものだ。
ツーバーナーの上で飯ごうがグツグツと音をたて、蓋の隙間から白い汁があふれ出してきた。
袋に入った炊き込みご飯の素を何気なくいじりながら、「あれっ!そう言えばこの具は何時入れるんだっけ?」
「何言ってるの!最初から入れておかなければダメでしょ!」
慌てて蓋を開けて、その具を飯ごうの中に放り込んだ。全く、ご飯もまともに炊けないダメな夫である。
夕食を終えて焚き火にあたっていると、いつの間にか風が止んでいた。静かに揺らめく焚き火の炎、強風にあおられメラメラと燃え上がる焚き火よりも、こちらの方がずーっと風情がある。
夕食が終わって貰えるものが無くなると、さっさとテントの中に入って寝てしまう愛犬フウマ。それでも時々テントの中から出てきて、人間が勝手に何かを食べていないか様子を見に来る。何もないと解ると、また一人でテントの中に戻っていってしまう。
本当に変な犬だ。
チーズフォンデューを食べ始めると、直ぐにテントから飛び出してきてピッタリと人間の横にへばり付き、絶対にそこから離れようとしない。
この卑しい性格だけは何とかならないだろうか。我が家の犬は、癒し犬ではなくて卑し犬と呼ばれているのだ。
本当に暖かな夜だった。とても11月のキャンプとは思えない。ラストキャンプにするには勿体ないような夜である。
それでも、何時も通り9時にはテントに入った。
夜中に、ポツポツとテントに落ちてくる雨音を聞いた。
朝起きて、天気の様子が心配で恐る恐るテントから出てみると、空に雲は多いものの青空も広がっていた。天気予報でも今日の天気が一番悪くなっていたが、これならば何とかなりそうだ。
昨夜は少しだけ止んでくれていた風も、また元通りに湖から吹き付けていた。波も高くて、朝のカヌー散歩は無理そうである。
薪も沢山残っていたので、朝の焚き火をゆっくりと楽しむことにする。結局、持参してきた薪は全て燃やすことができなくて、また持ち帰ることになりそうだ。
朝食を終えて、少しずつ荷物を片付けはじめる。その間に、テントが乾くように開口部を全開にして中に風を通す。最後のキャンプでは、テントは完全に乾かしておきたい。こんな時だけは強い風がありがたかった。
全ての片づけを終えて後はテントをたたむだけ、そんな時になって風が弱くなり、青空も空一面に広がってきた。
「帰る時になってこれでは心惜しいなー」
テントを片付けるのをためらっていると、湖の沖の方から漁船が数隻、真っ直ぐにこちらに向かってやって来るのが見えた。
「何だ何だ、何事だ」と思っていると、その漁船は直接キャンプ場の前に横付けして、漁師風の男達が舟から下りてきた。それと同時に別の男達が、大きなガスボンベや大鍋などを道路の方から運び込んできた。
「何だ何だ、何が始まるんだ」
漁船の一隻が湖に網を仕掛けはじめた。話を聞いていると、どうやらそれは地引き網のようだ。
何だか良く解らないが、撤収する潮時みたいだ。テントを片付けて全ての荷物を車に積み終えた。
それと同時に、キャンプ場には場違いの雰囲気のチャラチャラしたおじさんおばさん達が大勢集まってきた。それでようやくこの状況がのみこめた。
観光ツアーのご一行様が、地元漁協の協力を得て、ここで地引き網を楽しもうというイベントらしい。何だかあほらしく思えてしまったが、地引き網で何が捕れるのか興味があったのでしばらく様子を見ることにした。
その頃には再び風が強まり、今回の滞在の中では一番強く吹き始めたかもしれない。
風に吹かれながらも、みんな楽しく綱を引いていた。そこは、私たちが先ほどまでテントを張っていた場所である。もしもそのまま滞在する予定だったら、どうなっていたのだろう。
上がってきた網を覗いて見ると、結構大きなヘラブナが入っていた。
先ほどまでの名残惜しさも、すっかり風に吹き飛ばされてしまい、気持ちよくキャンプ場を後にすることができた。
途中、森町の道の駅「YOU・遊・もり」に立ち寄る。入り口で売っていた1000円のホタテ弁当がとても美味そうに見えたので、今日の昼飯にすることにして二個購入。
その後はちょっと寄り道して、昔から興味があった森町の「みどりとロックの広場」というキャンプ場を見に行くことにした。
ここは確か、周辺の島崎渓谷と合わせて、雑誌「BE-PAL]のビーパルランドに指定されてことがあるはずだ。かなり昔の話しではあるが、それ以来一度は行ってみたいと考え続けていた場所である。
キャンプ場までの鳥崎川の渓谷には、鳥崎八景と呼ばれる名所が点在しているらしいが、どこがそれなのか良く解らない。紅葉はほとんど終わりを迎えていたが、それでも渓谷沿いの風景は素晴らしい。これはちょっと、紅葉最盛期の様子を見てみたくなる。
今頃はカラマツの黄葉が美しい時期だが、この黄葉は太陽の光が当たらないと見栄えがしない。残念ながら今日は雲が広がっているので、その美しさもちょっとくすんで見える。
それでも時々雲の切れ間から日が射し込み、カラマツの黄葉を照らし出すと、ドキッとするような美しさに息を呑んだ。
そのうちに、遅い車に追いついた。その車には、おばさんグループが乗っているみたいだ。紅葉狩りにでも来たのだろうか。追い越せるような場所もないので、一緒になって景色を眺めながらのんびりと走る。
そのうちに、その車が脇道に入った。看板を見ると、どうやらそこが「みどりとロックの広場」のようだ。ダムの姿がちょっと気になるが、山に囲まれてなかなか良い雰囲気のキャンプ場だ。
おばさん達は駐車場で車を降りると、何か目的があるようにサッサとキャンプ場の奥に歩いていった。
私たちも橋を渡って、キャンプ場の方に行ってみる。ガイドブックで見ると、駐車場から橋を渡ってキャンプ場に入るようになっているので、荷物運びが大変なところかなというイメージを持っていたが、実際はそれほどでもなさそうだ。
ただ、広々とした芝生広場の一番奥にテントを張ろうとしたらかなり大変そうだ。
炊事場も立派だ。試しに蛇口をひねってみたら、ちゃんと水が出てくる。ガイドブックでは10月でクローズになっていたはずだ。トイレも覗いてみたら、そこもまだ水が出るようになっていた。
これならば、ここに泊まっても楽しかったかもしれない。芝生広場の奥の、岩が剥き出しになった山肌がワイルドな雰囲気をかもし出している。その反対側の山は、黄色く色付いたカラマツに覆われて優しい風景だ。
すっかりここが気に入ってしまった。早速、来年のキャンプ候補地にリストアップすることに決めた。
キャンプ場を出発して、林道をもう少し奥に進んでみることにする。地図で確認すると、この奥に上大滝という滝があるみたいだ。
途中の、ダム湖を渡る橋の上からの眺めもなかなか素晴らしい。
やがて上大滝の看板を見つけた。下に降りる階段があったので、そこを降りてみる。
そこは素晴らしい別世界だった。岩にぶつかりながら曲がり落ちる滝は、最後に滝壺で白い飛沫をあげる。その周辺は、崖に囲まれ一つの空間のようになっている。その空間に身を置いていると、心が洗われるような気持ちになってくる。
規模だけから言うともっと大きな滝が沢山あるが、私がこれまでに見た滝の中では、ここが一番かもしれない。
すっかり気分を良くして、そこを後にした。
途中、キャンプ場まで一緒だったおばさんグループが、山の中でツルウメモドキの蔓を採っていた。川には釣り人の姿も見える。小さなバイクに二人乗りをした若いアベックがすれ違っていった。
「変わった人達がやって来るところね。」
「そう言う俺たちだって、変わった奴らだと思われてるかもしれないぞ。こんな場所で車の屋根にカヌーを積んで走っていて。それに窓からは馬鹿面の犬が顔を出しているし・・・。」
「そうそう、それに助手席にはカーラーを付けたおばさんが乗っているしね 。」
エッ?と思って横を見ると、いつの間にかかみさんは、前髪にカーラーを付けていたのだ。
国道まで戻ってきて、後は何処かで昼飯のホタテ弁当を食べるだけだ。
地図で適当な場所を探してみたが、なかなか良いところが見つからない。別に弁当を食べるだけなのだから、どこでも良さそうなものだが、折角なので静かなところで食べたかった。
そうこうしているうちに長万部までやって来てしまった。長万部と言えば長万部公園キャンプ場がある。久しぶりにここへ行ってみることにする。
前回ここに泊まったのは、8年前のゴールデンウィーク真っ直中の日だった。その時は、到着時には既に場内がテントで埋め尽くされており、かろうじて入り口から入って直ぐの場所にテントを張ったものだ。
それが今日は、がらんとした場内では一組の親子連れが散歩をしているだけ。既にクローズしてしまった後なので、今時期はこんなものなのだろう。
それでも場内はちょうどサクラが紅葉しており、キャンプをするにはちょうど良い時期に思えてしまう。
小川沿いの野外卓に座って、ホタテ弁当を広げる。車の中でひっくり返ってしまい、ちょっと悲惨な状況になっていたが、大きなホタテが五つも入っていて凄いボリュームだ。ホタテを食べるだけで腹一杯になってしまう。ホタテは三つで良いから、もう少し値段を下げて欲しいところだ。
弁当を食べ終わって場内を少し歩いてみたが、既にクローズしてしまったのが本当に勿体ない。水も出るし、トイレも開いているし、その気になればここでもまだまだキャンプが楽しめそうだ。
11月にキャンプをするのならばやっぱり道南にかぎる。
大沼以外にも沢山のキャンプ場を楽しんだ充実したラストキャンプを終えて、一路札幌へと向かった。
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