北海道のキャンプ場は、ほとんどが10月一杯でクローズしてしまう。
11月上旬頃までオープンしているキャンプ場も少しはあるが、そんな時期にキャンプへ行くのは余程物好きなキャンパーに限られる。
我が家のキャンプも、今まではほとんどが10月中で終わっていた。
それでも天候にさえ恵まれれば、まだまだ快適なキャンプをすることは可能である。
特に今年は、11月に入って直ぐの3連休、キャンプ納めをするには申し分のないカレンダーだ。
今年の我が家の秋のキャンプは道北に始まり、道央、道南と少しずつ南下し、そして最後は11月の3連休で大沼に。秋のキャンプシーズンを前に、私が考え出した完全無欠の紅葉キャンプ計画。
まあ、毎年同じようなことを考えていて、その計画通りに進むことは滅多にないのだが、今年は一応紅葉の具合は別にして、泊まるキャンプ場だけは順調に南下していた。
天気予報もまずまずで、今年のキャンプ納めをするために東大沼野営場に向けて出発した。
大沼に泊まるのは実に14年ぶりになる。
ファミリーキャンプを始めてまだ間もない頃、大沼は我が家にとって南の聖地と言った感じのキャンプ場だった。
しかしその後、我が家の志向も東へ北へと変化してゆき、道南方面にはほとんど足を伸ばさなくなってしまっていた。
大沼であまり快適なキャンプを楽しめなかったと言うこともあるが、一番の大きな理由は道路状況である。
道東、道北方面ならば道路も空いていて、1日300kmの移動も大して苦にならない。それに比べて、道南へ向かうルートは国道5号線1本で何時も混んでいるイメージしかない。
この日もご多分に漏れず、私の前には常に遅い車がノロノロと走り続けていた。そんな車のお尻を見ながら走っていても、ちっとも楽しくないのだ。
我が家を出発したのが8時半、昼食を予定していた八雲町まで180km、そこへ着いたのは12時。
「それなら快調なペースだろう」なんて言われてしまいそうだが、せっかちな私にとっては我慢できないスローペースだ。
それだけの時間があれば、サロマ湖までだって行けるかもしれない。やっぱり道南は、とても遠い場所なのだ。
妻から「安全運転、安全運転」となだめすかされながら、八雲町山崎の喫茶アウルに到着した。
出発前に、インターネットで調べておいた店である。途中の長万部とかにはドライブインなどもあるけれど、そんな店にはなかなか入る気がしない。
喫茶アウルはログハウスの喫茶店。私の経験では、ログハウスの店に入れば失敗することはほとんど無い。
二人ともスパゲティを注文したが、味はまあまあ。ただ妻からは、「器が小さすぎる。小さな皿に山盛りにスパゲティを入れては見た目がよろしくない」との厳しい評価を受けていた。
そこから先も相変わらず道路は混んでいて、思うようにスピードを上げることができない。
それでも、秋の日を受けてキラキラと光を放つ噴火湾の優しい風景が心を和ませてくれる。
やがて、懐かしい駒ヶ岳の姿が見えてきた。
駒ヶ岳のような独立峰は、北海道内では他に羊蹄山、斜里岳があるが、いずれも地域のシンボルのような存在で、旅をしていてその姿を見ると本当に嬉しくなってしまう。
やっと大沼公園の入り口までたどり着いた。
その近くに日暮山展望台の看板を見つけ、脇道に入った。見聞録のBBSでも紹介されていたスポットである。
細い山道を頂上近くの駐車場まで上ってくると、急に視界が開ける。そこからは大沼、小沼の素晴らしい風景が眼下に見渡すことができた。
駐車場からもう少し上ると、そこからは駒ヶ岳の姿が一望できる。
駒ヶ岳を眺めながら、前回来た時はそこの6合目まで車で上って大沼の景色に圧倒されたことが懐かしく思い出された。
現在駒ヶ岳は入山規制されており、そこまで車で行けるかどうかは不明である。
再び元の道に戻り、路肩に積もった落ち葉を巻き上げながらキャンプ場へと向かう。やがて、懐かしい東大沼野営場の姿が見えてきた。
湖畔の木々は既に葉を全て落としてしまい、晩秋の静かな湖畔の風景が広がっている。
湖畔には2張りのテントが張られていた。いずれもソロキャンパーのようである。
さて、何処に我が家の住処を構えようか。駐車場に一番近い場所は林間になっているが、最初からその部分は候補には入っていない。
その駐車場はキャンパー以外の車の出入りが多いし、昔泊まった時はそこに暴走族が集まって来て、やたらに五月蠅かった悪いイメージが残っていたのだ。
駐車場から一番離れた湖畔は既に先客がいる。その奥の松林の部分にも気を引かれたが、ちょっと道路に近すぎる。
結局、湖畔サイトのど真ん中にテントを張ることにした。二人のソロキャンパーに挟まれる形になるが、お互いとの距離はそれぞれ50mくらいは離れているので全く気にならない。
シーズンオフのキャンプは、これくらいゆったりと楽しみたいものだ。
しかしその場所、湖上からの風がまともに吹き付けてきていた。
ここにテントを張るのならば、やっぱりテントの向きは湖側に向けたいところだ。しかしそれでは、風がまともにテントの中に吹き込むことになる。
風を避けるか、湖の景色を楽しむか、両者を比較した結果、やっぱり湖の景観の方を選ぶことにした。
フライシートを被せる前にグランドテープをしっかりとペグで固定して、いつもよりも慎重に設営する。張り綱もしっかりと張って設営が完了した。
これだけ風が強ければ、いつもならばテントの前室に逃げ込んでしまうところだが、それではわざわざ大沼までやって来た意味がない。
風に立ち向かうように湖を眺めながら、ビールをグイッと飲み込んだ。
一息ついてから周辺を少し歩いてみることにした。
駐車場隣の林間サイトまでやって来ると、そこは湖に岬状に突き出した部分の陰になるため、風がほとんど吹いていない。色とりどりの落ち葉が敷き詰められたサイトも、なかなか良い雰囲気だ。
ふーんと思いながら、そこを通り過ぎる。
水路を渡った場所からキャンプ場の方を眺めると、駒ヶ岳をバックにした素晴らしい景色に息をのんだ。
このキャンプ場では、サイトから直接駒ヶ岳の姿を望めないのがとても残念である。
テントまで戻る途中には、しっかりと焚き火用の枯れ枝を確保する。今回のキャンプでは段ボール箱二つ分の薪を持参してきてはいたが、薪は多いに越したことはない。
この時期になると乾燥した薪を現地で拾うのは難しくなるが、幸いしばらく雨が降っていなかったので、ちょうど良い枯れ枝を沢山拾うことができた。
今日の夕食は、喜茂別町のきのこ王国で仕入れてきたナメコにマイタケを中心としたきのこキムチ汁だ。
かみさんは風を避けるために、炊事棟にツーバーナーを持ち込んで夕食の準備に取りかかる。その間私は、再び近くで枯れ枝を集めて焚き火の準備をし、後はビールを飲みながら大沼の夕日を楽しむ。
きのこキムチ鍋が完成するのを待って焚き火に火を付けた。
風が強いのでテントの中で食べようかとも思ったが、やっぱり今日は外で食べることにする。気温が高いので、風が強い割には寒さはほとんど感じない。
そのうちに上弦の月が昇ってきて、その光が湖の波に反射してきらきらと光の帯を作っていた。これが満月の日だったならば、もっと素晴らしい光景を楽しめたかもしれない。
焚き火が風に煽られ、力強く炎を上げている。
回りを見ると、他のキャンパーも思い思いに焚き火を楽しんでいるようだ。
ムムッ、隣の焚き火の方が炎が大きいぞ、これは負けてられない!
訳の分からない対抗心を燃やして、こちらも火の中に薪を放り込む。
風向きが少し変わってテントの方に火の粉が飛んでいき、危うく穴を開けてしまうところだった。
途中で駐車場に停めてある車まで荷物を取りに行ったら、そこは車中泊の沢山のキャンパーで賑わっていた。アスファルトの上にテントを張っているキャンパーも結構いる。確かに手軽そうだが、私はそんなキャンプはあまりしたくはない。
焚き火が小さなおきになるのを待って、9時には眠りについた。
その時間に眠ると、どうしても夜中の1時か2時には目が覚めてしまう。その後は寝たり起きたりの繰り返しで朝を向かえる。
時々、湖畔を走る車のエンジン音や貨物列車の音に目を覚まさせられる。
特に車の騒音、シフトチェンジを繰り返すたびにエンジン音が高まり、それと同時にパーンというアフターファイアーの音、それにコーナーを曲がる時のタイヤの鳴る音、彼らにとってはそれが快感なのだろうが、寝ている間にそんな音を聞かされる方は堪ったものではない。
そんな騒音が遠ざかっていくと急に静けさが訪れた。
いつの間にか風が止んで、湖岸に寄せる波の音がしなくなっていたのだ。
これは朝が楽しみだぞ、そう考えながら最後の一眠りについた。
そうして目を覚ますと、また波の音が聞こえていた。
がっかりしながら5時半にテントから起き出す。まだあたりは薄暗い。風は昨日ほどは強くなかった。
湖の波もかなり小さい。これならばカヌーで漕ぎ出せそうだ。
今回はキャンプ納めの他に、カヌーの漕ぎ納めも予定していたのである。
朝のコーヒータイムも後回しにして、湖上に漕ぎ出した。そしてカヌーの上から、湖面を赤く染めて昇ってくる朝日の光景を楽しむ。
やや風が強くなってきたので、岩陰にカヌーを進めた。そこの水面には波に寄せられたあおこが浮かんでいた。
前回ここでカヌーに乗った時もあおこがひどく発生していて、その時カヌーに付いたあおこの汚れは、14年経過した今も我が家のアリーにしっかりと残っているのだ。
風はさらに強まり、湖の波も高くなってきた。
テントサイトまで戻るにはもろに横波を受けることになる。波に直角に進むのならば、かなり高い波でも平気なのだが、これが横波になるとカヌーは途端に不安定になってしまう。
ヒヤヒヤしながら何とか我が家のテントまで戻ることができた。
風に吹かれながら朝食を済ませ、恵山までのドライブに出かけることにする。
後編へ続く
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