我が家の庭のハナミズキやマユミも色付き始め、いよいよ10月、紅葉キャンプのシーズン到来である。
どこのキャンプ場で紅葉を楽しむか、毎年のことだが、何時も悩まされる大問題だ。
かみさんの第一希望は朱鞠内湖、10月の第1週で紅葉が最盛期になっている場所はそれほど多くはない。インターネットの紅葉情報を見ても道内で紅葉が見頃になっている場所は糠平湖畔だけである。
朱鞠内湖も、前の週の情報で色付き始めとなっていたので、今週ならばちょうど良い時期かもしれない。何となく道北へ行きたい、そんな気持ちがあったので、朱鞠内湖へ少し気持ちは傾いていた。
ところがその気持ちは、ある事実を知って消え去ってしまった。
念のために、自分のホームページでこれまでの紅葉キャンプの様子を調べ直してみると、過去2年連続で今時期の朱鞠内湖を訪れ、そして最高のキャンプを楽しんでいたのである。
それならば、今年も当然朱鞠内湖と言うことになりそうだが、そこは天邪鬼な私のこと、3年連続同じ場所でも面白くないし、過去2年のキャンプが素晴らしかっただけに、今年それだけのキャンプができるという保証もない。それならば新しいキャンプ場を開拓した方が面白いかもしれない。
そうして浮上してきたのが遠別町の富士見ヶ丘公園キャンプ場である。
ここは2回ほど下見したことがあり、その時のイメージでは木に囲まれた林間キャンプ場といった雰囲気で、紅葉を楽しむにはおあつらえ向きのキャンプ場という気がした。
それに、北海道のかなり北に位置するので紅葉もちょうど盛りを向かえている頃かもしれない。
場所は何とか決定したが、問題は空模様だった。
今回は月曜日も休みを取って久しぶりの2泊キャンプなのだが、天気予報では、道北方面は冬型の気圧配置のため3日間ともパッとしない天気になっていた。
オホーツク海側や太平洋側の方は良い天気なのだが、一度決めるとなかなかその場所を変更する気にはなれない。
前日になってもまだ最終決断ができずに、キャンプ場ガイドブックを呆然と眺める私の横では、妻が「シュマリナイコ、シュマリナイコ」と念仏を唱えるように呟いていた。
土曜日は雨、日月は曇りという天気予報だが、土曜日はキャンプ場につく頃には雨も上がり、日月も時々青空がのぞくような曇り空だろう、そんな風に都合良く天気予報を解釈して、予定通り道北紅葉キャンプへ出かけることに決断した。
出発当日、夜中に降っていた雨も朝には上がり、さい先の良いスタートだ。
我が家からは日本海側を真っ直ぐ北上するのが最短ルートだが、少しでも早くキャンプ場に着きたいので高速道路を沼田まで利用することにした。
途中の山々を見ても、思っていたほど紅葉は進んでいないようだ。
沼田から留萌に出て、あとはひたすら海沿いの道を北上する。道路は所々濡れていて、つい先ほどまで雨が降っていたような感じだ。それでも車の前には少しずつ青空が広がり始めてきた。
留萌あたりで海上に暗く垂れ込めていた雨雲は、次第に内陸部へと移動していき、海の上には真っ青な空と白い雲が浮かんでいる。
未だに「シュマリナイコ、シュマリナイコ」とつぶやき続けている妻に、東の方の暗い空を指差して「ほらほら、朱鞠内湖は今頃大雨が降ってんだぞー」と、とどめを刺してやる。
途中、羽幌町のおろろん食堂で昼食にした。店の人は、今時期は甘エビ丼がお勧めとのことだったが、二人とも甘エビの他にホタテやタコなどが入ったオロロン丼を注文する。
カレイのから揚げのおまけ付き、結構美味しかったがこれで1500円という値段はちょっと高すぎる感じだ。
食堂を出る頃には空は完全に晴れ上がっていた。向かいのバラ園で一休みする。10月だというのに、一面の花に覆われてとても美しい。
その後は一気に遠別町まで走る。青空の下、快適な海岸ルートのドライブだ。
富士見ヶ丘公園キャンプ場のサイトは2カ所に別れている。
坂道を登ったところにあるサイトは、広々とした芝生も美しく、その中に大きな木が枝を広げてなかなか良い雰囲気の場所である。
ところがその場所では、じいちゃんばあちゃん達がパークゴルフを楽しんでいた。 後で受付の人に確認してみたところ、その場所は夏場以外はパークゴルフ場として利用しているとのことである。
公園の有効利用としては良い方法だが、キャンパーから見るとちょっと残念な状況である。下見で訪れた時に気に入ったのはこの場所だったのだ。
そこを諦めて、奥の方のもう一カ所のサイトに車を回した。そちらの方は駐車場からの荷物運びを心配していたのだが、中の方まで車で入れる道があったのでホッとする。
駐車場のすぐ隣りに、立派なバーベキューハウスが2棟建っている。
さて、どこにテントを張ろう。
初めて訪れるキャンプ場でテントを張る場所を探す時の楽しみ、良い場所が沢山あってなかなか決められないようなキャンプ場もあれば、一体どこに張れば良いんだと途方に暮れてしまうようなキャンプ場もある。
このキャンプ場の場合は後者であった。
バーベキューハウスの奥、一段低くなった場所に小さな池があり、トドマツ林に囲まれて落ち着いた雰囲気の場所が有ったが、雨の影響で芝生がかなり湿った状態だ。
それ以外の場所となると、テントを張る気にならないようなところばかり、キャンプ場と言うよりも全体が公園といった雰囲気なのである。
紅葉もあまり進んでいなくて、色付いているのは植えたばかりの小さなサクラやナナカマドの木程度といった状態だ。
もう少し北上して、兜沼まで行ってしまおうという気にもなったが、雨の心配もあるし、そんな時はここのバーベキューハウスが役にたってくれそうだ。
覚悟を決めて、そこのすぐ隣りにテントを設営することにした。
設営が終わるとまずはビールタイムと言うところだが、かみさんが近くで何かを見つけて大きな声で私を呼んでいる。行ってみると、そこには見事な形のキノコが地面から顔を出していた。
冷夏の影響で米などはかなりの不作になっているみたいだが、山のキノコだけは今年は豊作という話しだ。
最近の雨が続いた天気の影響で、ここの山でもキノコが一斉に伸び始めているようである。とりあえずビールは後回しにすることにして、周辺の林の中を歩いてみることにする。
テントに戻り私はカメラを準備したが、かみさんは用意が良いというか、しっかりとキノコ図鑑を抱えていた。
ちょっと歩いただけで、落ち葉を押しのけて伸びてきている美味しそうなキノコが見つかる。種類も沢山あって、まるでキノコの見本園の中を歩いているみたいだ。
しかし、残念なことに私が自信を持って見分けられるキノコと言えば、ハナイグチ、スギタケ、ムラサキシメジ、タマゴタケ程度。食べられそうなキノコを一つずつ見本に収穫して、テントに戻ってから図鑑と照らし合わせてみたがやっぱり解らない。
宝の山を目の前にして手を出せないなんて本当に悔しい。テーブルの上に並べられたキノコの標本を眺めてため息をつくだけである。
気が付くとそろそろ夕日が沈む時間なので、海岸まで車で行ってみることにする。
ここの海岸にも遠別川河川公園というキャンプ場があるが、夏の海水浴シーズン以外は利用価値が無さそうな感じの場所だ。
海岸にはサケ釣りの竿が何本も立てられている。今時期の北海道ではどこへ行っても見かける光景である。中にはキャンピングカーでやって来ている釣り人もいた。こんなキャンプも楽しそうだ。
海の向こうにはピンク色に染まった利尻富士の姿も見える。静かな波が砂浜に打ち上げていた。
夏ならば、利尻富士の近くに夕日が沈むのだろうが、今時期ではそれよりもかなり南の方に沈むことになる。
それでも水平線上には雲の列が良い感じで浮かび、全くの快晴の空よりも味わいのある夕日が楽しめそうな雰囲気だ。
やっぱり道北キャンプでは、日本海に沈む夕日は見逃せない。
雲の中に一旦姿を消した太陽が、再びその下から現れた時は、燃えるような赤い色に染まっていた。
その太陽に熱せられたかのように周りの雲も燃え上がった。次第に冷えてきた空気の中で、太陽に手を差し伸ばせばその熱が伝わってきそうな感じである。
久しぶりにこれだけ赤い夕日を見たような気がする。
太陽の火が消えるのを待ってキャンプ場に戻った
今度はバーベキューハウスを利用して、本物の焚き火を楽しむことにする。
今回のキャンプでは、雨の影響で現地で薪を集めることはできないだろうと、二日分の薪を車に積んできていた。段ボール一箱にビニール製バッグにも薪を一包み、座席の下にも薪を押し込んで車の中は薪だらけといった有様だ。
このバーベキューハウス、横の部分に幕を下ろすこともできて、なかなか立派な施設である。
テントは寝るだけの場所と言った感じで、他の荷物は全てこの中に降ろし、ほとんど生活の場所と言った雰囲気で贅沢に利用させてもらうことにする。
焚き火をしながら、その横でコンロを使って焼き肉を楽しむ。
秋のキャンプと言えば我が家では鍋が定番なのだが、今回だけはバーベキューハウスが有ると言うことをガイドブックで確認したかみさんが、しっかりとその準備をしていたのだ。
普段はそんな施設は利用しないのだけれど、今時期のキャンプでは大体が独占してそこを利用できる。
そこまで知り抜いてバーベキューをメニューに加えているなんてさすがに我が家のかみさんであると、変なところで感心させられた。
気温は6度、やや風があったが、横に降ろした幕で風も遮られ、暖かい時間を過ごすことができた。
「焚き火はやっぱり直火だよなー、こんな場所でやっても楽しくないよなー」なんて言いながら、結構こんなキャンプを楽しんでいたりする。
すっかり良い気分になって、寝るためにテントに戻った。
翌朝、テントから出てみると空にはまだ青空が見えていた。予想以上に天気が良い感じである。
歯を磨きながら空を見上げると大きな虹が架かっていた。もう少し青空が広がれば、虹をバックにした我が家のテント、なんて感じで良い写真が撮れそうだと一人でほくそ笑んだ。
と思ったのも束の間、空からはポツリポツリと雨粒が落ちてきたのである。
すぐに止むだろうと思っていたら、その逆で、すぐに本格的な降りになってきてしまった。
「まるで私たちが起きてくるのを待っていたみたいね」とかみさん。まったくその通りだ。
でも、バーベキューハウスの威力でそんな雨もまったくノープロブレムである。昨夜のように焚き火を楽しみながら、ゆっくりと朝食を食べることができた。
ちょっと翌日の分まで薪を燃やしすぎた感もある。でも、これもノープロブレム、このキャンプ場は薪が無料なのだ。
雨が小降りになったスキを窺って、キャンプ場入り口にある管理棟まで薪を取りに走った。その帰り道、また雨脚が強くなり、結構距離があるのでずぶ濡れになってしまった。
それでもそこで手に入れた薪、私が近所の住宅建設現場のごみ箱から拾ってきたツーバイフォー材の切れ端と違って、燃えっぷりも頼もしい。
結局、その薪も全部燃やさずに今夜の焚き火に回すことになった。薪だけはいくら沢山あっても困らないのである。
しばらくするとようやく雨も止んできたので、テントを片付けることにする。
すると、テントの中がかなり濡れているのに驚いた。屋根から水滴が落ちてきていたのだ。
内部の結露の性かとも思ったが、それだけでは無さそうだ。最近はしばらく、本格的な雨の中でのキャンプをしていなかったのであまり気に留めずにいたけれど、テントの防水性能もかなり落ちてきているみたいだ。
またすぐに雨が降ってくるかもしれないので、雑巾で水気を拭き取っただけで、テントを片付けた。
今日は次のキャンプ場に行く前に、増毛町の秋味祭りに寄って、そこでサケ汁でも食べようと言うことにしていたのである。
最初はそんな予定は無かったのだが、ここへ来る途中の車の中でこの秋味祭りのことを知り、急遽予定に組み込んだのだ。
行き当たりばったりの気ままな旅の感じがして、こんな予定変更もまた楽しい。
キャンプ場を後にして、元来た道をまた南下する。
昨日と同じような天気で、日本海で発生した雨雲は既に内陸まで動いていったようで、海の上には透き通るような青空が広がっていた。
南へ進むにしたがって、その雨雲がまだ海岸線に残っているような光景が見えてきた。このまま進むと雨雲に追いついてしまいそうだなーと、ちょっと心配になってくる。
冬型の気圧配置の時の雲の動きはだいたい決まっているので、こうして海岸線を走っているとその様子が手に取るように解ってなかなか面白い。
しかし、状況はそう楽しんでばかりもいられないものに変わってきていた。
さらに南下していくと、その雨雲は海の遥か沖の方まで真っ黒に埋め尽くしていたのである。
一体どうなることやら、私の心の中にも雲がかかりはじめた。
つづく
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