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極上の秋、朱鞠内湖キャンプ(前編)

朱鞠内湖キャンプ場(10月6日〜8日)

 10月最初の3連休、前回に引き続き2泊キャンプができるので、いやが上にも気分は盛り上がっていた。
 ところが、その1週前の週末に風邪をひいてしまった。
 「キャンプとぶつからなくて良かったなー。あと1週間あれば完全に治ってしまうだろう。」そう気楽に考えていたのだが、なかなかすっきりと風邪が抜けきらない。
 その事実を妻に知られてしまうと、「キャンプなんて冗談じゃないわ。家でおとなしく寝ていなさい。」と一喝されるのがおちだ。
 今年の春から珍しく長続きしていた腕立て・腹筋トレーニングの日課も中止して、ひたすら体を休めることに専念した。
 妻に見つからないようにこっそりと熱を計るが、なかなか平熱まで下がってこない。金曜日の朝になっても、まだ熱は高めだ。
 こうなったら、少しくらい熱があってもキャンプに行くぞ、と覚悟を決めた。
 ところがその日、仕事でちょっと腹の立つことがあった。
 「こんな仕事やってられるか。」
 心は熱くなったが、そのおかげで体の熱は下がったみたいだ。天気も良さそうだし、これでようやく快適なキャンプが楽しめそうである。

 ここ2年ほど、秋の気温が高く、紅葉もパッとしない年が続いていたが、今年の北海道は秋の訪れも早く、久々に美しい紅葉が楽しめそうだ。
 10月のキャンプは、どこのキャンプ場で紅葉を楽しむか、いつも頭を悩ますところだが、札幌付近では木々はまだ色づき始めた程度なので、紅葉最盛期の道北方面、久しぶりの朱鞠内湖キャンプ場へ向かうことにした。

 途中、幌加内町の「ほろほろ亭」という店に寄りソバを食べたが、こんなに美味いソバは初めてだった。
 麺の太さがバラバラなのはちょっと気になったが、味は最高、さすがソバの名産地幌加内でも名の知れた店だけはある。
 幌加内町から朱鞠内湖までは刈り取られた跡が赤く染まったソバ畑と、これまた鮮やかな色に染まった山並みを眺めながら、気持ちよく車を飛ばした。

湖畔の様子 キャンプ場に到着して、なんの迷いもなく、いつもの我が家の定番サイトまで車を乗り付けたが、何故か妻は気に入らない様子である。
 いつも同じ場所では飽きてきたし、それにその場所からは遊覧船乗り場の賑わいが丸見えだ、というのがその理由だ。
 確かにそれは言えてる。と言うことで、早速サイト探しに取りかかった。
 第2サイトから第3サイトに車を回す。
 今回の朱鞠内湖はほとんど満水状態に近く、第3サイトの一番水際の場所は、水面が直ぐ近くまで迫ってきている。目の前全て朱鞠内湖といった感じで、なかなか良い雰囲気だ。
 ところが、一度その場所にテントを張ったとき、朝早くからサイト間際まで車で進入してくる釣り人の騒音に悩まされたことがあった。
 他にも湖の眺めがいい場所をいくつか廻ってみたが、なかなかすっきりと決まらない。

紅葉に囲まれたサイト 我が家のサイト選びでは妻の意見が一番重要になってくる。
 「ここなんか眺めもよろしくて、適当かと思われるのですが、いかがでございましょうか。」と、うやうやしくお伺いをたてるのだが、なかなか首を縦に振ってくれない。
 「まあ、それではちょっと場内を散策する事にでもいたしましょう。」
 そうして、ちょっと場内を歩いてみたが、直ぐに妻が「おやっ、ここは昔テントを張ったことがある場所ですね。でも、静かそうでとても良いところですね。」
 「ははーっ、確かにおっしゃるとおりでございます。直ぐに車をこちらに回しますので、しばらくお待ち下さいませ。」
 湖畔に停めたままの車をとりに戻りながら、「エーッ、ここからじゃせっかくの朱鞠内湖がほとんど見えないべやー」と心の中で呟いた。

コケと枯れ葉 それでもその場所は、色づいたシラカバやナラの木に囲まれ、周囲のコケに覆われた地面には落ち葉が美しく散りばめられ、秋のキャンプには最高の場所だった。
 同じキャンプ場であっても、テントを張る場所によってキャンプのイメージががらりと変わってしまうことは良くある。
 サイト選びは、我が家のキャンプにとってとても重要な部分なのである。

 一息ついてから、鏡のように静まりかえった朱鞠内湖にカヌーを浮かべた。
 湖面には周囲の鮮やかに染まった木々が写り、ゆらゆらと揺れている。すばらしいキャンプになりそうな予感がした。
 少し雲が広がってきたので、カヌーは早々に切り上げた。
 この時期、5時を過ぎるとあっという間に暗くなってしまうので、のんびりと遊んでいるわけにもいかない。
 暗くなる前に準備して、今年のキャンプでは最後になるであろうバーベキューの夕食だ。
 満腹になってたき火の前でくつろいでいると、同じく焼き肉のおこぼれをもらって満足げな愛犬フウマがイスの横に寄り添ってきた。
 幸せな気持ちでフウマの首にそっと手を回すと、何故かその部分が濡れていた。
 「えっ?どうして?」
 嫌な予感がして、その手の臭いをそっと嗅いでみたところ、「ウッ、ウゲーーッ」
 食べたばかりの焼き肉が喉元まで一気に込み上げてきた。
 散歩の途中で、魚の内臓か何かに体を擦り付けたのだろう。
 魚釣りができるようなキャンプ場では絶対に注意しなければならないのだが、紅葉の美しさに気を取られ、うっかりしてしまった。
 洞爺湖キャンプの時のように湖の中で洗えるような状況でもないので、シャンプーをかけて濡れたタオルで拭き取るしかない。
 それで何とか臭いは取れたが、相変わらず人騒がせな奴だ。

赤く染まった月の出 そんなひと騒動も終わり、ふと湖の方に目を向けると、木の梢の向こうにオレンジ色に染まった湖が見えた。月が昇ってきたのだ。
 直ぐに湖畔まで降りていったが、湖面に映った月の明かりが長く足下まで伸びてきていた。
 中秋の名月からは少し過ぎているが、それでもすばらしい光景だ。
 やっぱり湖畔のサイトの方が良かったかなー。ちょっとだけ恨めしく感じた。
 その夜は雲が多く、ちょっとだけだが霧雨も降ってきたので、慌てて天気予報を聞いてみた。
 すると、明日からは絶好の行楽日和とのこと、明日を楽しみにして早めに眠りについた。

後編へ続く


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